32話 Incantation
「どうしてこんな……」
背中の傷に違和感を覚えていた次の瞬間、今度は先程助けてくれた騎士に射抜かれていた筈の肩の傷も治り出し『罪を喰らう者』の身体から生々しい傷が跡形もなく消えようとしていた。
そしてその違和感の正体に気付いたのは『罪を喰らう者』本人であった。
「この魔力。先程貴様を殺そうとした男の魔力と類似しているな」
『罪を喰らう者』は心底不快な顔をしながら自身の体の芯に送られる魔力を睨んでいた。
二人は先程の部屋で魔力の大幅な放出がされた事など知るはずもなくなぜ回復しているのか、なぜあの男の魔力を送られているのかは知る由も無かった。
しかしこの回復はこの窮地から抜け出すには最高のタイミングであったのは間違いない。
『罪を喰らう者』は女神を抱えながらも身軽になった身体を着地する体制に整え、その足を地面への衝撃に備える。
しかし地面に待っているものは────
地面と残り二メートルという所で、突如視界の隅に獣が現れた。
「よお、出会い頭そうそうに悪いとは思うが────」
獣はあろう事か二足歩行で『罪を喰らう者』と女神に近寄り、腕に持つ剣を振り翳す。
「死んでくれ」
しかし獣の届く事はなく、突如その合間に現れた槍によって剣は塞がれた。
────!?
突如現れた槍に狼の容姿をしているフリークは驚きを露わにしながらもすぐさま思考を切り替える。
何故ならその隙に『罪を喰らう者』は着地を果たし、すぐさま右手で槍を構えて追撃体勢に入っていたからである。
『罪を喰らう者』は着地した衝撃をスクワットのような形で全身に平等に行き渡らせ、そして身体を持ち上げる際の勢いをそのまま槍に乗せ、辺りを一周する形でその槍を振り回した。
フリークは思わず手に持っていた剣で防御の体勢を整えたが『罪を喰らう者』の力に押し負け、その状態のまま吹き飛ばされた。
そして尚も槍は勢いを殺すことなくそのまま一周を果たし、その勢いによって生み出された風は周囲の木々をざわつかせる。
そしてその衝撃は結果的に木々の周囲に控えていた和馬、ラーゼにも衝撃を与え、フリークに続く追撃は出来ることなく終わってしまった。
そしてそれと同時に三人は一つの思考を巡らせた。
────コイツは……
────コイツ……
────ぬぅ……
「「「手強い」」」
そんな三人を他所に「罪を喰らう者』は女神との会話を進める。
「貴様の羽があればもう少し安全に落下できた筈では無いのか?」
「お恥ずかしいことに私は飛ぶの苦手なんです……」
「そうか、それ以上は聞くまい。まずはこの状況をどう打開するかを考えよう」
『罪を喰らう者』は自身の魔力によって作り出した槍を右手に携えながら周囲を見渡し、今後の方針を定める。
「スナイパーが居る以上この森から抜け出す事はオススメできないな。わざわざ遮蔽物が無い場所へ赴くメリットがない」
「ええそうですね────って危ない!」
突如『罪を喰らう者』と女神の視界の横を黒色の閃光が走る。
間一髪の所で女神が「罪を喰らう者』ごと躱す事でその攻撃のダメージを喰らう事なく済んだが確かな違和感が二人には残った。
「おいおいおい、敵を前にして堂々と作戦会議とか舐めてるの?舐めてるでしょ?」
攻撃を放ったのはラーゼであり、文句を垂れながら二人の前にその姿を現す。
そしてその横から先程『罪を喰らう者』に刃を向けた獣人、フリークも姿を出しラーゼの援護の体勢に入っていた。
「あやつの攻撃は魔力か?」
「いいえ……少し違います。魔力なら貴方がすぐさま気付いていた筈です。かと言って神の力と言われると少し歪ですね……近くに来るまで存在にすら気付きませんでした」
二人が能力について考察をしているとそれを遮るかのようにラーゼが言葉を開いた。
「そんなに怯えなくていいよ。複雑な力じゃ無いから」
そんな事を言いながらラーゼは右腕を二人にかざす。
二人はすぐさま先程の攻撃のように何かが飛んでくるかと身構えるがラーゼに何かを飛ばすという考えはない。
何故なら、二人が強張ることを目的として翳したのだから。
「複雑じゃない……その代わり歪なんだけどね」
────ッ……!
二人が違和感に気づくのは遅くはなかった。寧ろ早かった。しかし、気付いた所で何かが変わる訳では無い。
────身体が動かない……!
女神と『罪を喰らう者』の身体はまるで金縛りにあったかのように動く事を良しとせず、指の先すら動かない有様だった。
「種明かしなんてしないよ。種明かしをする悪役が心底嫌いだからね。そのまんま男の方は死んでくれ」
ラーゼの声と同時に太陽に被さる形で一つの影が女神と『罪を喰らう者』の上空に舞った。
「神藏機、顕現せよ────」
影はその両腕に突如巨大な斧を顕現させ、同時に『罪を喰らう者』側に向けてその斧を振り下ろす。
「────ハルバード・インパクト!!!」




