13話 Past - Mutation
決心がついてからの行動は実に早かった。
リクは家を飛び出し午後四時近くに丁度着く様な歩幅である場所へ向かっていた。
その場所へ向かう際のリクの表情は怒り、嫌悪、憎悪、憤慨……様々な感情が歪に混じり合い、狂気をこれでもかというほど体現したかの様な化粧に染められていた。
そしてその向かった場所とは────
「よお」
リクが投げかけたその言葉に通りかかった男は驚きの表情を露わにした。
「何でお前こんな所いるんだよ!?」
それは紛れもない、リクと殴り合った同級生であった。
彼はリクとは違い周りの協力もあり結局何不自由なく学校生活を送れていた。
その結果下校時間を予測されリクに待ち伏せられた事になったのだが。
そして元々二人は同じグループだった為過去にどちらかの家で遊んだ事はあったのだ。そうしてその記憶を辿り、リクは同級生の帰路に待ち伏せを図ったのであった。
「別にいてもいいだろ?たまたまだよたまたま。そう、たまたま!」
リクが言葉を発しながら勢いよく自身の拳を同級生の体を叩きつける為駆け出した。
同級生の咄嗟の反応により拳は交わされたがすぐさまリクは振り向き、再度拳を強く握る。
二人の今いる道は人通りがあまり多いとか言えない道だったのでリクは思う存分相手に殴りかかることができた。
最もそれもリクが敢えてこの道を通る時間帯を予測して待ち伏せしていたのだが。
そんな事は知る由もなく同級生は慌てふためきながらリクを諫める言葉を吐く。
「おいおい!少し待てよ!この野郎!」
同級生は逃げながらも背中に背負っていたバッグをコンクリートの地面に投げ捨て徐々に体に身軽さを取り戻し喧嘩の体勢に移行する。
「待たねえよこの野郎!」
そしてリクの綺麗な右ストレートが同級生の鳩尾に入った。
「ガハッ!クソが!」
同級生は苦しみを露わにしながらも必死の力を振り絞りリクに抵抗をするがその動きは明らかに鈍くなっており、なんとか振り上げた拳も半ば強制的にリクの力で押さえつけられ、挙げ句の果てに返り討ち変わりのヘッドロックを顔面に喰らうハメになってしまっていた。
その衝撃で昨日止まったはずの鼻血が再度噴き出し、地面にポタポタと水彩インクの奴に溢れてはアスファルトに赤黒い色を加えている。
「俺!学校辞めるよ!あんな環境じゃ集中出来なくてダメだ!通信制のところに行く予定なんだけどさ!」
鼻血を垂らしている同級生に追い討ちの如く拳を叩き込みながらリクは言葉を続けていく。
「やっぱり俺はさ!」
衝撃が走る────
「最後にちゃんと喧嘩したくてさ!」
衝撃が疾る────
「納得いかなかったんだよ!」
衝撃が奔る────
「だからさ!」
衝撃が趨る────
「最後にちゃんとぶん殴っておきたかったんだよ!」
衝撃が跄る────
「ね!」
そして最後に特段強い衝撃が腑の上を走り、一旦その拳は躍動する事を止めた。
「おぅぇあ……」
同級生は嗚咽を吐きながら痛みと格闘を繰り広げていた。
「俺は謝らねえ。お相子だ。お前の言葉みてえに返すとこれは俺のイライラをぶつけただけだ。これで最後だ。もう二度と関わる事ねえだろ」
リクは握りしめていた拳を一旦振り解き、中指を立てながら地面に這いつくばる同級生に別れの言葉を口にした。
「じゃあな!」
リクはヒリヒリとする指をポケットに入れながら自身の帰路に向かった。
今の行為が自身の人生を大きく変える事になるとは知らずに。
否、変えられるとは知らずに。
「いやあ、これはいい絵になるね!炎上だっけ?いやぁ楽しみ!これを動画サイトにあげたら彼は一躍悪者扱いさ!だって見方によっては一方的に殴り倒してるもん!」
リクが同級生を殴っていた光景を上から見ていた人物が実に楽しそうに言葉を紡いでいた。
その右手にはスマートフォンが握られており挙げ句の果てには動画まで回されている。
そしてその顔面には凶悪な笑みを浮かべながら画面に映し出される光景を見てニコニコとしている。
「彼は僕の作品のいい肥料になるね!」
神様がいるとしたら最低であろう。
自身の愉悦の為に守るべき民を二度も殺させようとしているのだから。
神様なんてろくなもんじゃない