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Re:Alternative  作者: 冬野立冬
一章 断罪の始まり
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11話 Past - Change



 その日からリクの生活は少しずつ変化していった。


 いつものグループと関わる事が消えた為必然と一人の時間が増えた。

 購買に飲み物を買いに行く時も帰りのバスの待ち時間も全て一人になってしまった。


 リクは一人の時は常にイヤホンを耳に()めて退屈な時間をやり過ごしていたが一ヶ月半も経てば徐々にその心は限りなく黒い悪性の腫瘍(しゅよう)に蝕まれ始めていた。


 そんなある日クラスの男子からいじられる事があった。


「一人飯とか悲しくないの?」


 明らかに事の発端を知る同級生から発せられた揶揄(からか)う為だけに吐き捨てられたその言葉がリクの鼓膜を小さく振動させる。


「一人の時間も悪くねえぞ?音楽に浸れるからな」


 大した音楽なんて聴いてもいないがリクは適当にその場凌ぎの言葉を紡ぎ上げて質問に答えた。


「ふーん」


 同級生はリクを()める様に見つめた後に何も言わずにその場から去っていってしまった。

 何だったのだろう、気分が悪くなるなとリクは思いながら白いイヤホンを耳に嵌め込み、再び一人の世界に入り込んだ。


 その日から腫瘍は急変を遂げる────


「あれ?筆箱の中のシャー芯全部出てんじゃん……」


 授業終わりの十分休みの間、リクがトイレで教室を出た隙にリクの筆箱の中身が元関わっていたグループの人達によって荒らされていたのだった。

 勿論、リクはそのことを知る由も無く、シャー芯ケースを閉め忘れたのだろうと考えその日は特に何かをされたなどと思う訳もなく一日を終えた。


 しかし、その考えが徐々に故意的なものじゃないのか?とすり替えられる────


「あれ?消しゴムがねえ?」


「また、シャー芯が散乱してる……」


「後ろのハンガーにかけてたジャンバーが地面に落ちてる……」


「ノートがねえ……」


「は!?バックの中で水筒の水漏れてんじゃん!?」


 ────最近不幸な事多過ぎないか?


 そんな事を思い始めていたリクの頭の中に『悪い考え』が過った。


 ────故意的なのか……?


 リクの頭の中にその言葉が浮かぶのはあまりにも遅過ぎた。

 周りから彼は虐められているというのは周知の事実であったし何よりそれを咎める者すらこのクラスからは消えていたのだ。

 彼がもう少し早く気付き何かしら行動を取っていればと言ってもそれは空想論に過ぎないのだが……兎も角彼の味方はこのクラスにおいて消え失せていた。


 共感性による一つのグループから伝染した『嫌い』『憎い』『避けたい』という感情はこのクラスには充分という程広まってしまっていた。


 面倒事には関わりたくない人間達が大半の為悪事を(いさ)める者など存在するはずも無かった。



 それが彼を壊した。


 ここから先はリクの心にデカい穴を開けるほどに蝕まれる日々の連続だった。


 徐々に行為はエスカレートして行き最早(もはや)嫌がらせを働いていたグループの人達には隠す気もない程にあからさまに嫌がらせを働き始めていた。


 リクの目の前で堂々と、実にわざとらしくグループの一人が飲み物を溢し、リクの机を汚した。

 溢した本人曰くわざとではなく、飲み物自体は新品だから吹けば綺麗との事だがリクにとっては新品などという情報は実にどうでも良く、汚した事を謝れといった所なのだがそんな苦虫をグッと噛み潰し、リクは無理矢理に笑顔を作って言葉を返した。


「いいよ、別に。お金勿体無いから気を付けろよ」


 そんな日々が続き、気付けば半年が経とうとしていた。

 不可解……否、徐々に隠す気も無くなったのかあからさまにリクに嫌がらせを働く様になった元居たグループの人達の一人がそんなある日リクに近づいて来た。


「一人で飯悲しくない?」

 前に一度同じような話題を振って来た奴だった。

 リク自身もこの流れには正直心に穴は開けど慣れつつあり、今回も適当に流す事にした。


「別に何とも思わねえよ……」


「マジ?お前()()()()()()


「は?」


 その言葉に思わずリクは反感を飛ばしてしまった。


 ────つまらないって何だよ。誰がこんな事好きでやらせてると思ってるんだ?


 初めて、リクの心の中に本当の憎悪という感情が湧き出した。


「何だよつまんないって、お前何様だよ」


 リクは相手の襟を掴み上げて一気に顔を近付け、声を高らかに上げる。


 何事だと周りの生徒達も昼飯の箸を止めて二人の抗争を時間が止まったかのように静まり返りながら見つめている。


 リクの憎悪は止まる事を知らずに際限なく溢れ出す。

 腫瘍は既に手遅れだったのだ。

 (うじ)虫の様に溢れ出る憎悪はリクの正気を貪り、脳の働きを著しく低下させる。


「何だよ、落ち着けよ陰キャ君」


 そんなリクに同じていないのか同級生は襟を掴んでいる腕を右腕で強く掴み離すように促す。


「俺はお前達に関わる事をやめた。だからお前達も俺に関わるな。これでお仕舞いだろ」


「お仕舞い?まさか!お前をうざいと感じていた分、これからは存分にそのしっぺ返しをしていくに決まってるだろ?」


「ねちっこい奴だな!」


「俺達に金魚の糞みたいに付き纏ってたお前に言われたくねえよ!」


 その時、リクの右頬に痛みが走った。


 その痛みにリクは襟を掴んでいた腕を離し身を捩らせ、思わず机に保たれかかる。


 数秒経ってからリクは自分が何をされたのかを理解した。


 ────あぁ、俺殴られたんだ。


 右頬がその後もジンジンと脳へ痛みが訴えかけてくる。


 周りの女子達は先生に言ったほうがいいかな?などと身内同士で事の顛末を考えている。

 その少し横では殴って来た奴のいる元居たグループの人達がそれはやばいだろと言わんばかりの表情を顔に貼り付けていた。


 ────どいつもこいつも……


 リクは痛みを堪えながらその怒りを拳にそっと乗せて右手を振り上げた。


 その右手は勢いよく殴って来た同級生の鼻に直撃し、相手の体勢を崩した。


 つかさずリクは第二波となる拳を叩き込み、その怒りをぶつけるが相手の同級生も負けじと拳を振り上げていよいよ殴り合いに発展していた。


「おいおい何してるんだ!」


 その騒ぎを聞きたてた先生が間に無理矢理入り込み喧嘩を一時中断させた。


 先生が入るまではお互い夢中で殴り合っており気付けばお互い鼻血が出たり、手のひらが擦れて皮が剥けていたりと割と悲惨な状態だった。


「先生、リク君が急に暴れ始めました〜」



「は?」



 突如クラスに響いた男子生徒の声。

 それはあまりにも飄々としていて、その癖最もタチの悪い言葉でありリクの神経をこれでもかと言うほど逆撫でした。


「お前は所詮、数には負けるだろ」

 目の前の男子生徒が小声で、教師に聞かれない様に呟いた────

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