Amatu Ao
この物語の主人公は、この物語を読む者を含む、凡ゆる世界において完結せず、誰も想像できない、真の自由意志の持ち主となろう。
……
寒い。私は真夜中の誰も居ない車道の真ん中に独り立っている。
私は自分の名が天津 蒼だと知っている。そして、私はどこにも行きたくない。
どこにも行きたくない、というのは不意に湧き上がってくる感覚だ。この感覚が湧き上がってくると、今まで自分を取り巻いてきた環境、過去の自分、そして私は何をしたいのかといったものが朧げになってくる。そして、もう思い出せない。
私は歩き出す。信号機の色が音もなく変わる。風はない。先程あった寒いという感覚はいつの間に無くなっている。形容するならば常温、といったような穏やかな空気。辺りは街灯に照らされて充分な見通しがあるが、動くものは全く見当たらない。
目に付いたのは、中の照明が静かに光るコンビニ。眩しい照明ではなく、少し薄暗くも充分な明かり。入口は自動ドアになっていて、中に入ると商品が隙間なく陳列されているが人は見当たらず、冷蔵庫か何かの、ブーンという音だけが静かに聞こえてくる。
「蒼〜、ここにいたんだ」
そう言いながら、後ろから小さな子供が右脚に抱きついてくる。
「うん、ユラは何してるの?」
「ナキ君と2人でおにごっこしてた」
「ふーん、お友達?」
「うん。蒼、アイス買って〜」
「いいよ」
「やったー!」
そう言ってユラは奥へ駆けていく。店内は意外と広いようだ。私は適当に商品を眺めながら歩いていたが、特に欲しいものはなかったのでユラが持ってきたアイスのみを買って店を出た。
「お友達はどこにいるの?」
「家の方だと思う、こっち。」
そう言ってユラは歩き出し、私はそれについて行く。
少し歩くと開けた場所に出た。少し先にポツンと小さな倉庫のような小屋がある以外に周りには何も見えない。地面がコンクリート張りになっている、とても広い広場のようだった。ユラは小屋の方に駆けていくと、中に入ってしまったので私も小屋に近づき、ドアを開けてみる。するとユラの声が聞こえた。
「ナキ、ゲームやってたのー!?」
「んー。」
小屋の中は薄暗い。見ると、ユラと同じくらいの小さな男の子がパソコンに向かってゲームをしているようだった。
私は靴を脱いで中に入る。中は、“秘密基地”といった感じで、洗濯物やら家具やらがあって狭い。しかし妙に落ち着く。私はその心地良さの中、床の上で眠りについた。