夢の中の景色
【遥彼方様画】
ああ……まただ。
目を醒ました僕は布団の中で今見ていた夢を思い起こす。
物心がついた頃から幾度となく見ている夢。
もしかしたら覚えていないだけで赤ん坊の時から見ているかも知れない。
細かいところまで鮮明に覚えているんだけど、僕は夢の中で幾度も見る景色がある場所に行った事なんて無い。
一人で僕を育ててくれているお母さんに旅行に行く余裕なんて無いから、物心がつく前に見た景色でも無いはずなんだ。
それなのに何で繰り返し見るんだろう?
一人で考えても分からないから学校の先生に聞いてみることにした。
放課後職員室で担任の女の先生に夢の事を相談する。
「繰り返し見る夢ねえ。
写真とかで見たのじゃないの?」
「写真やテレビでも見たこと無いし、凄く細かいところまで繰り返し見るんです」
「ウーン…………」
首を傾げ腕組みをして考え込む女の先生に隣のクラスの男の先生が声を掛けて来た。
「何を悩んでいるのですか?」
「この子が実際に見た事は無い景色を夢の中で繰り返し見るらしいのですが、そんな事ってあるのかなって思いまして」
「へー、繰り返し見る夢ってどんな夢?」
隣のクラスの男の先生は僕に聞いて来る。
「彼岸花が沢山咲いていて、その上を大きな蝶々が飛んでいる夢です」
「彼岸花かぁ………………。
彼岸花が沢山咲いているところを見たら何か思い出すかも知れないな。
でも、ここら辺に彼岸花の群生地なんて無いからなぁ。
あ! そうだ。
来週の創立記念日、出掛ける予定とかあるかい?」
「無いです」
担任の女の先生が男の先生に聞く。
「何か関係があるのですか?」
「実は来週の創立記念日に墓参りに行く予定なんですが、
墓がある寺の直ぐ側に彼岸花の群生地があるんですよ、だから予定が入って無いのなら連れて行っても良いかなと思いまして」
そして僕は今日、日帰りとはいえ生まれて初めて遠足以外の旅行に来ている。
先生と一緒に先生のご先祖様が眠る墓参りをして彼岸花の群生地に向かう。
咲き誇る彼岸花を目にした後の記憶が無い。
先生に羽交い締めにされて僕は我に返った。
ズキズキとした痛みを感じる両手を見ると、両手は土で真っ黒に汚れ数本の指の爪が割れ血が滲んでいる。
目の前では作業服を着た数人の小父さんが穴を掘っていた。
先生に聞いた話だけど、僕は彼岸花を見た途端「此処だー!」って叫び、先生が止めるのも聞かずに素手で咲き誇っている彼岸花の脇に穴を掘り始めたとの事。
目の前で小父さん達が掘っているのがその場所。
小父さん達はお寺や群生地の前の道で道路工事に携わっていた人達。
僕を制止しようとした先生の叫び声に気がついて集まって来て、僕の代わりに穴を掘ってくれている。
1メートルくらい掘ったところで白骨化した人の遺体が出た。
それから大騒ぎになったんだけど、僕は掘り出された人を知っている。
僕だから、前世の僕、此処で殺され埋められた僕、夢の中で繰り返し見た景色は前世の僕が最後に見た景色だったんだ。