ポンコツ作家の作品
このお話はショートショートです。オチが予測できたらご感想をください!
「ズンドコドン。スットンピー、ビビットピャン」
図書館のテーブルに座る女生徒の口元から聞こえる小さな声。
僕は空耳かと思いながら顔を上げた。黒髪に丸メガネ、真面目そうな女の子が、辞書をめくりながらノートにペンを走らせている。
長い髪に隠れているが、よくよく眺めると鼻筋の通った美人さんだ。ペン先を真剣に見つめる瞳の上で長い睫毛が揺れている。
気になって、読書中だと言うのにストーリーがまるで頭に入ってこない。内気な僕は、いつもなら絶対にしない行為をしてしまう。
「あのー、何をしているのですか」
知らない女性に声を掛けたと言う行為だけで心臓が高鳴る。顔を上げた彼女と目が合って更にドクンと音を立て跳ねた。
うっわっ。メチャかわいい!
「ネット小説の原稿を書いてます」
気さくな返事が返ってくる。
「作家さんなのですか?」
「読者はほとんどいませんが、一応、そうなります」
メガネを外してアイドルみたいな魅力的な笑みをこぼす彼女に目が釘付けになる。
やばいは。ハートを持っていかれるだろ!
「あのー、私の読者になっていただけませんか」
マジかよ。誘われたぞ!
「よっ、喜んで」
「これっ、私の作品のアドレス」
破られたメモ用紙に丁寧な文字とハートのマーク。美少女のアドレスゲットで浮かれ気分。
「絶対に読むから。うん、毎日読むから」
「ありがとう。私の素敵な読者さん!」
家に帰って夜中に独り、ベッドの上でニヤニヤしながらスマホをいじる。彼女の作品にたどり着く。
『ズンドコドン。スットンピー、ビビットピャン。
ドンガ、ドンガ、バンビー、ピョン。
グンガー、ピコピン。ブジュ、ブジュー』
???何語なんだよ?意味わからん。どこが小説なの。
永遠と続くカタカナに打ちのめされる。
そりゃー、読者がいないのも納得だわ。顔はかわいいけどポンコツ作家だったとは・・・。
ため息を漏らしてページを閉じようとする。
んっ、あれ!日本語・・・。
『絶対に読むから。うん、毎日読むから』
そんな約束を口にしたような・・・。図書館でまた会えるかもしれないし・・・。
しかたなく、彼女の作品を声に出して読む。
「ズンドコドン。スットンピー、ビビットピャン。
ドンガ、ドンガ、バンビー、ピョン。
グンガー、ピコピン。ブジュ、ブジュー」
このリズム、癖になる。何か楽しくなってきた。いや、もはや中毒かもしれない。もう何も考えられない。やめられない止まらない。
「ズンドコドン。スットンピー、ビビットピャン。・・・」
その頃、とある宇宙船の中。8本足のタコ星人がモニター画面に向かって本星に連絡を取っている。
「本部、聞こえまちゅか?地球人を一匹、脳のプログラムを書き換えて洗脳したでちゅー!」
「よくやったぞ。我々の言語が理解できるでちゅか?」
「完璧なのでちゅよ」
ニカッと笑う宇宙人。美少女の面影は欠片もない。
おしまい。




