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本日は2話更新しております! 未読の方は一話戻ってお読みいただければと思います。




 シェリアは自室に戻り使用人たちを下がらせた後、今日の茶会について考えていた。


「……何なのよ」


 誰もいないところでは思わず昔の口調に戻る。

 そんなことにも気づかないまま思い起こすのは、突然抱き上げられ、フィリップの膝に乗せられた記憶。至近距離からエメラルドのように澄んで煌めく形の良いアーモンド形の瞳に覗き込まれ、耳元で低い声に囁かれて———


「いきなり何なのよ……ッ!」


 カッと頬が熱を持つのを感じる。それを早く冷ましたくて両手で頬をごしごしこすった。


 恥ずかしさのあまりよそ行きの表情になってしまったが、あの時シェリアの心臓は全身に響くほどバクバクと鼓動を鳴らし、シェリアは何とか平静ぶるので精一杯だった。


 しかし内緒話をするにはああするのが確かに最適であるし、幼い頃はフィリップの言った通り我儘を言ってフィリップの膝に乗せてもらい、「しぇりぃね、おおきくなったらふぃるのおよめさんになるのー」とか言いながら抱き着いたりも———


「わあわあわあ……!!」


 恥ずかしい記憶第2弾が脳裏に蘇り、ぶんぶんと顔を横に振ってそれを追い出そうとするも、その他の『恥ずかしい記憶』がさらに思い出され、ぷしゅうぅぅと湯気が立ちそうなくらいに顔を沸騰させてシェリアはお行儀悪くズルズルと椅子に座りこんだ。


「お嬢様!? 如何なされましたか!!?」


 扉の外まで叫び声が聞こえていたのだろう、使用人が慌てて駆け込んで来ようとする気配がしたので、「何でもないわ! 大丈夫だから下がっていて」と強いて穏やかな口調で止めた。


「ふぅ……」


 使用人には悪いが、今ので逆に少し落ち着いたシェリアは深呼吸して椅子に座りなおした。


 今日は、というより三日ほど前の定期のお茶会からフィリップの様子はおかしい。


 いきなりうろたえたり冷や汗をかき始めたり、更にはいつも一週間ごとの面会なのに急に『三日後に庭園を散策しないか』という誘いの手紙をよこしてきたのだ。その手紙に従って今日宮殿に赴いたが、やっぱりどこか様子がおかしく、男爵令嬢の件を謝罪———正確には『反省を示した』だが、実質は謝罪だ———してきたかと思えば、必要とはいえ膝抱っこをしてきたりしたのだ。


 一体何があったのだろうか。真相は闇の中だ。


(それよりも……)


 思わず苦笑が自分の顔に浮かぶのを感じる。


(今日のお茶はランバート侯爵領産の茶葉で淹れたミルクティー。しかも蜂蜜とシナモンが効いたもの。お菓子はフランボワーズをふんだんに使ったミニタルトと色とりどりのジャムが載ったクッキー。……本当は甘いものもシナモンも苦手でいらっしゃるのに)


 ここ数年、会話がめっきり減っていたお茶会だが、昔から、用意されるものは全てシェリアの好みに合わせたものだった。

 ひたすらに甘いものが好きなシェリアと違い、フィリップは紅茶はストレートで飲むのが好きだし、普段の食事でもデザートは甘さ控えめのものを選ぶか、食べない時もあるくらい……なのだそうだ。


 シェリアがそのことを知ったのはここ何年かのことだ(王妃がぽろっと漏らした)。


 シェリアと会う時フィリップは甘いものばかり出してくれて、甘く仕立てた紅茶やホットチョコレートも嫌な顔一つ見せずに飲んでくれていた。使用人たちから聞いて『食べてみたいな』と思った城下で人気のお菓子もさりげなく用意されていた。


 侯爵家では食事制限もあってお菓子などを食べることを中々許されないシェリアへの不器用な気遣いだったのだろう。


 そう気づいてよくよく観察していると、夜会でも必ず数品はシェリアの好みのものが出されているし、男性から声を掛けられたと思うといつの間にかフィリップが手を取って避難させてくれていたため、友人たちから聞くように絡まれて嫌な思いをしたこともない。お酒も、悪酔いしにくく口当たりもよい酒精の弱いものを選んで持ってきてくれる。


 他にもそこかしこにフィリップの気遣いが見えるのだ。シェリアが気づいていないだけでそれだけではないのだろう。


(これだから完全には愛想がつかせないのよね……)


 女性からの手練手管に対してはポンコツとしか言いようがないが、それ以外はパートナーとしての気遣いを至極当然のものとして行っているのだ。


「ずるいひと」


 そうぽつりとつぶやいたシェリアは眉を寄せ、口をへの字に曲げてはいたが、うっすらと瞳を潤ませ、その顔は淡く桜色に染まっていた。





書きながら「シェリアちゃんちょっとチョロインの素質があるかも……?」と思ったのは秘密。


塩樹はチョロインが大好きです!

塩樹はチョロインが大好きです!



……大事なことなので二回言いました。

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