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短編ではあとがき部分につけていた侍従くん視点を微妙に修正して加筆しています。やや短いです。




 何とかかんとか、フィリップから解放されて彼の自室から退出すると、侍従———ラウールは思わずはぁー、と溜息を吐いた。


「これでいい加減くっついてくれるといいんだが」


 昔は二人とも素直に愛情表現していたのだが、王族としての教育が施されるうち、段々とすれ違うようになっていってしまった。


 フィリップはフィリップで婚約者という立場に胡坐をかいて、ランバート侯爵令嬢が昔のように好意を伝えてくるのが当然だと思ってしまっているし、ランバート侯爵令嬢もフィリップに釣り合おうとするあまり、フィリップの前ですら貴族としての仮面を被ったまま、本音を晒そうとはしない。


 挙句、空回りして今回のような事態になった。


 しかし周りから見れば、二人ともかなり分かりやすく好意を示しているように思う。


 フィリップは夜会などの度に令息たちを牽制したり、本人も気づかないうちに耳をふさぎたくなるほどの惚気を垂れ流している。それに、政治力に長け『完璧』と名高い第一王子がわずかでも感情を晒すのは、ラウールを含めごくわずかな側近を除けば侯爵令嬢の前だけである。侯爵令嬢以外の女性に鉄壁の『王子様』の表情を崩したところなど、ラウールは見たことがない。


 ランバート侯爵令嬢は心の中でもフィリップを罵倒するほど自分の感情に鈍いようだが、そもそも噂に対処するならば、まず事の次第を確かめようとするはずなのに、優秀な侯爵令嬢らしからぬことに噂の出所すら詳しく調査することもなく(調べようともしていなかったのは『影』の調査で明らかだった)、フィリップにあれこれお小言を言っていたのは、恐らくはきちんとした調査によってフィリップと男爵令嬢が恋愛関係にあると確定してしまうのを無意識に恐れたからだろう。


 要するに、『周囲に誤解を招くような行動をしないでほしい。ああでも噂通り恋人同士だったらどうしよう。信じたくない……』と悶々と悩んで、その苛立ちがややしつこいお小言となって表れていたのだと思われる。




 ところで侯爵令嬢は今回の噂が『出始め』だと認識していたようだが、実際はもう少し前から噂自体は流れていた。


 しかし、フィリップと侯爵令嬢が憎からず思い合っているのはもはや社交界の常識だったため、馬鹿馬鹿しいと一笑され、大して広がらなかったのである。


 因みに噂の出所は男爵令嬢本人とその両親だった。娘がもしかすると王子のお眼鏡に適うかもしれないと思ったようだが、とんだお笑い種だ。



「……まぁ何にせよ、二人が向き合うきっかけにはなるみたいだし、差し引きゼロかなー」



 さしあたっては。


 ラウールがゆっくり振り向くと、先程の奇声を聞いていたらしい侍女たちから遠巻きにされている。彼女たちの目は完全に不審人物を見る目になっている。


(これを何とかしないとだなー……)


 ラウールはまた深く溜息を吐いた。




*   *   *




 ラウールを退出させると、フィリップは王子様スマイルをスッと消し、天井を見上げて問いかけた。


「———『影』、そこにいるな?」


「はい、殿下」


 どこからともなく、男性かも女性かも分からないような声で返答があった。


「私が男爵令嬢と恋仲だとかいう噂の出所について調べろ。ああそれから男爵家についても血縁関係も含めてより詳しく再調査しろ。大きな犯罪に関わっていないことは前回の調査で明らかだが、念のためな」


「承知しました。しかし、噂の出所については既に判明しております」


「何? 独自に調査を行っていたのか」


 フィリップは眉をひそめた。


「はい。ラウール様が『噂のせいで婚約者に愛想尽かされかけて右往左往するフィリップとか見てみたいじゃん? でも時期が時期だし、第一王子の名に傷がつくのは避けたいから、念のため調査して()()()()()()フォローもしとくべきだと思わない?』と仰いまして」


「あいつやっぱいつか絶対〆る」


 フォローしてくれていたのは有り難いが動機が腹立つ。


「それに私共も主の恋愛ごとには関心がありますから。あとぶっちゃけ先程の茶会でいつも完璧な殿下が珍しくうろたえていらっしゃったのにはちょっとウケました」


 ああ『影』よお前らもか。

 フィリップはもはや怒る気力を無くして遠い目をするほかなかった。


(私の(もと)には何故こんなふざけた部下ばかりなのだろうか……)


 がっくりと項垂れるフィリップに、『影』は「それではご命令通り調査を行います。私が不在の間、殿下には部下を代わりにお付けしますので」と声を掛けてどこかに姿を消したようだった。


 ……逃げた、ともいう。





 短編時には『侍従』とだけしか書いていなかったこともあり、侍従くんの名前は中々決まらず苦労しました。散々悩んだ結果、さほど捻りのない『ラウール』に決定しました。


 どなたかネーミングセンスを恵んでくださいませんか。



 そんなラウール君、恐らく読者の皆様の中には、『噂の出所が分かっていたならさっさと対処しろよ!』とラウール君にムカついていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、暫しのご辛抱を。

 彼なりの思惑があって噂を放置していた(実は元々大した噂にはなっていなかったのですが)のです。ええ決してうろたえるフィリップ王子を見たいがためにそうしたわけではない……はずです。多分。恐らく。


次回から、本格的にフィリップが動き始めます。

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