表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

20

前回は大遅刻してしまい、大変申し訳ありませんでした。


埋め合わせとして、次回は番外的なお話をお付けして投稿したいと思います。(本編21話目+番外)




 どこか荘厳な佇まいの執政宮の一角では、グラネージュ・ルストゥンブルグ両国の代表による会議が行われていた。


「———では次に、両国国境付近の海域に出没する海賊への対応ですが、———、周辺国とも協議の上———、であるので———」


「それについては———、これまで通り———、の問題が生じると思われますが———」


(……決議そのものは、根回ししていたこともあって大体予定通りに持っていけたと言える。が、)


 ちらり、とフィリップはエーリヒに目を向けた。


(向こうの第一皇子達から聞いてはいたが……。これは酷い)


 この会議が始まってからというもの、ルストゥンブルグ側から有効な発案などを提言してくるのは使節団副使で、肝心の正使であるエーリヒはと言えば、要領を得ない発言をしたかと思えば副使の発言に便乗して『そうだ、私もそれが言いたかったのだ!』と言うばかりで会議を無駄にかき回しているのだ。


 しかも今回の会議における役職もルストゥンブルグ本国での身分も高いだけに誰も『もうお前すっこんでろよ!!(意訳)』とは下手に言い出せない状況だった。


 それに嫌な話だがフィリップ達としてはエーリヒがこうしてボロを出してくれればくれるだけルストゥンブルグ側に隙ができて会議を有利に運べるので、エーリヒを窘める気はさらさらない。


(とはいうものの……彼以外のこの場の全員にとって鬱陶しいことには変わりないな。本来ならもっと段取りよく進むだろうに。これならまだうちの大臣(タヌキ)どもとの腹の探り合いの方がいい)


 フィリップの口から思わず深いため息が漏れた。


(早く終わらせて、少しだけでもいいからシェリィとゆっくりしたい……)


 ……この状況を見る限り、残念ながらフィリップのその願いは暫く叶いそうになかった。




*     *     *




「……ふー」


 ララは緊張から詰めていた息を細く吐き出した。


 ララがいるのは、使節団正使であるエーリヒの滞在している部屋の寝室だ。現在部屋の主であるエーリヒは会議に出席しており不在であるので、ララはその隙に寝室にもぐりこんだのだった。


 初日以降、ララはエーリヒに気に入られたようで、頻繁に用事を言いつけられたり呼ばれたりすることが多い。使節団を歓迎する夜会では、パートナーとして出席するように仰せつかった。おかげで、このようにララがエーリヒの寝室や衣裳部屋などに勝手に出入りしていてもある程度は大目に見られるようになった。


(とはいえ、これがエーリヒ殿下にバレたら只じゃいられないわ……。慎重にいかないと)


 『仕事』を再開したララは懐から取り出したものをエーリヒの寝室のあちこちに忍ばせていった。


 ()()()()の『仕事』をひとまず終え、ララがエーリヒの寝室から出ようとした時のことだった。


「そこで何をしている」


「っ!?」


 背後からの声にララは息を呑んで硬直した。


「何をしていると聞いているんだ」


「……」


 ララは振り返ってニコッと微笑んだが、内心は恐怖で埋め尽くされていた。


(怖い怖い怖い! でも動揺してるところを見せちゃ駄目だわ!)


 恐怖を紙一重で抑え込みながら背後の人物と対峙する。


「お掃除を、していたんです。エーリヒ殿下が会議からお帰りになったら、気持ちよくお過ごしになれるように」


 ララに声を掛けたのは、ルストゥンブルグ使節団でエーリヒの護衛も務めているという魔術師の男だった。


 男はララの手元にちらりと目を落とした。ララの手には布巾やハタキが握られていた。


「フン……そうか。それは殊勝な心掛けだ。だが———」


 男はずい、と顔を寄せてきた。


「———勝手に入るのは感心せんな。今回は見逃してやるが……次はその細い首に何も起こらないことを祈れ」


「ッ」


 男の殺気に中てられ、ララは足の力が抜けてへたり込んだ。ぬるりとした冷たい汗が背中を伝ったのを感じた。ぐわんぐわんと耳鳴りがするような気がした。呼吸もハッ、ハッと浅いものになり、視界が陰る。






 ———意識は保ちつつも暫く茫然としていたララだったが、我に返ると男の姿は無く、薄暗い寝室には自分一人だった。


「はぁ~」


 安堵の溜息を洩らし、ララはよろよろと立ち上がった。


(……何とか切り抜けられたわ……。演技指導をしてくれた彼には感謝しなくちゃ。でもいつまでもここにはいられないわ。あの男が戻ってこないうちに早く出ないと)


 ララは侍女服についた埃をパッパッと払うと、顔は青ざめてはいるものの表情だけはいつも通りにして(()のスパルタ指導の賜物だ)掃除用具を抱えた。


(……でも()()()()()()()()()()()()()のが嫌すぎるわー!!)


 思わず涙目になった彼女はそのままそそくさと足早にその場を立ち去っていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ