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とりあえず『ざまぁ』タグに関しましてはこのままつけずに現状維持させていただきたいと思います。

他に『このタグが必要では?』と思われた方は感想欄にてご指摘下されば有難いです。


今回は前半ちょいシリアス、後半はコメディで落差が激しいです。久々のコメディはノリノリで書かせていただきましたが、そのせいで少々長くなってしまいましたすみません。


だが後悔はしていない!




「———それで、ペリン男爵家への『訪問』及び罪状についての情報規制はどの程度成功している?」


「はい、殿下の仰った通りラウール様方と共に十分な規制を行いましたので、この件を知るのは極々一部の者となっております。殿下が男爵家に向かわれる際我々は包囲網を敷いておりましたが、他国の隠密の気配はありませんでした。現在男爵邸周辺には一家のために護衛を配置しております」


「そうか、なら良い。ご苦労だった」


 人払いした執務室で『影』から任務の進捗状況を聞いたフィリップは長々と溜息を吐きながら椅子の背にもたれた。


「お疲れさん」


 そう言ってラウールが机上にカップを置く。ふわりと爽やかなレモンの香りが漂った。


「ああ、ありがとう」


 出されたハーブティーを一口含むと、澱んだものが洗い流されるような心地がしてフィリップはホッと一息ついた。




 フィリップの直感から行った再調査で判明したペリン男爵家が起こした不祥事は、フィリップにとって非常に頭の痛い話だった。

 というのも、フィリップは王太子となった時に取り組む政策の1つとして、女性や平民の官吏登用の推進を考えており、ペリン男爵令嬢を含め何人か目ぼしい人材に声を掛けて推薦しようとしていたからだった。


 女性や平民の官吏登用はもうかなり前から認められてはいたが、まだまだ珍しいのが実情だ。特に女性は適齢期のうちに結婚し子育てするのを理想とする風潮がまだ根強く、家門のための結婚が求められる上流階級の女性なら尚のことだった。現に隣国であるルストゥンブルグではこの傾向が更に強いため、女性官吏は片手の指の数ほどしかいない。


 そんな中で貴族になってまだ半年にも関わらずマナーや知識を貪欲に身に着けようとしており、元平民ならではの視点で鋭い意見を出してくるペリン男爵令嬢には、今後の成長が楽しみな人材として期待していた。だからこそ、彼女がシェリアに真っ向から喧嘩を売るという軽率な行動をし、父親である男爵が犯罪行為をはたらいてしまったことがフィリップは残念でならなかった。


 そもそもの話、王や王太子が側室を設けるにあたっては事実上の制限があり、側妃を迎えるのは正妃を他国から迎えた時と正妃に子を望めないと判断されたときだけだ。フィリップの場合、前者は当てはまらず、後者はそもそも結婚すらしていないので判断のしようがない。

 加えて、伯爵より低位の家の者は、目に見える実績を出して高位貴族の養女にでもならない限り側妃としては認められず、愛妾扱いとなる。

 このことは貴族家の当主ならたとえ低位の者であっても常識だ。しかし驚くべきことにペリン男爵は知らなかったようで、フィリップ達から聞かされて呆然としていた。


 また、同様にそのことを知らなかった男爵令嬢が側妃になることを狙って露出の多い服装をしたりして色仕掛けでフィリップに迫ろうとしていたことに対し、彼女を友人の一人としか見ていなかった上、シェリアを最愛にして唯一とする身としては少し複雑な思いもあるが、そこに関してはフィリップ自身の鈍感さにも原因があることなのだとフィリップは改めて自分の鈍さを痛烈なまでに反省した。


『ペリン男爵令嬢は……彼女の行動は()()()()アリだったんだろうな。少々夢見がちだがある意味真っ当にお前を手に入れようとしてたわけだし。まぁ父親の方は元々貴族だし犯罪行為をした張本人だから同情の余地は全くないけどな。あの爵位に対してかなり多いメイド達も、横領した金で雇ってたそうだ』


 ラウールも『訪問』後にそんなことを言っていた。さすがに後味悪いなぁ、と苦い顔で小さく呟いていたのは聞き間違いではなかったはずだ。


(……だが今回男爵家に、もといペリン男爵令嬢に任せる『仕事』が成功すれば間違いなく彼らの命は助かるし、運が良ければ令嬢が官吏になることも可能だろうな)


 短い間だが友人として関わった相手だ。どうか成功してほしい、とフィリップはハーブティーの最後の一口を飲み干しながら思った。






 お茶を飲んで一呼吸入れた後、暫くいつもの如く大量の書類をさばいていると、それを手伝っていたラウールが思い出したように言った。


「そういえば、『白魔女』から連絡なんだが、例の指輪が完成したらしい。お前さえよければ今日の午後にでも俺が取りに行ってくるぞ」


「! そうか、助かる」


 『白魔女』は代々の王妃に仕える専属魔法使いで、魔道具のエキスパートだ。王ではなく敢えて王妃のみに仕えているのは、政治に直接関わることはない、という意志の表れらしく、国王やフィリップでさえ当代の『白魔女』が誰なのか知ることを許されていない。……誰なのか推測してはいるが。

 今回はシェリアに贈るものとして護身用の魔道具を王妃経由で『白魔女』に依頼したのだ。デザインはフィリップ自ら行った。


(心臓に近いから本当はネックレスにしたかったが、それだとドレスによって合う合わないが激しいようだからな。指輪ならシンプルにすればどんな服にも比較的合わせやすいはずだ)


 そういった考えからシンプルに、しかしシェリアが好む華奢なデザインを心掛けながら描いたデザイン画を脳裏に呼び起こしたフィリップは、シェリアに渡したときに彼女がどんな反応をしてくれるのか想像を巡らせ始めた。


(シェリィが喜んでくれるといいな……。できれば昔花束を渡した時のように頬を染めてキラキラした目で『フィル、ありがとう!!』なんていってくれるともっといい。あれは可愛かったよなぁ……いやシェリィはいつも魅力的なんだが。そうだ、指輪を渡すときに一緒に花束を渡そう! シェリィの瞳と同じ青い花がいいな。……いっそのこと私の瞳の色のリボンも使うか?)


 フィリップがあれこれと脳内でひたすら甘い想像を垂れ流していると、ラウールがぎょっとしたように叫んだ。


「おいフィリップ! しっかりしろ!! にやけすぎて他の奴らにお見せできねー顔面になってんぞ!? 自主規制しろ!!」


「何っ!?」


 とっさにフィリップは自分の両頬に手を当てた。ぐにぐにと数回揉み、普段通りの顔に戻っていることを確認してから手を放してラウールに問いかけた。


「……そんなにひどい顔だったか?」


「ああ、そこらの奴が見たら『完璧王子』のイメージが総崩れするような顔だった」


「そ、そうか……」


 気恥ずかしさにフィリップは目を逸らしたが、ラウールの次の言葉に思わずぎゅるんと音がしそうな勢いで振り向いた。


「まぁどうせランバート侯爵令嬢のことを考えてたんだろうけど」


「何故分かった!?」


「……。お前がそんなだらしない顔をする原因なんてそれしかないだろ」


 驚きに目を見開くフィリップに、今更何を言っているんだと言いたげに、もはやドン引きといった面持ちのラウールは答えた。


「……」


「いやそこで照れんなよ反応に困るだろーが」


 ラウールの指摘にフィリップが恋する乙女のようにぽっと頬を染めて頬を掻いたのを見てラウールは顔をひきつらせた。


 すると、不意にどこからともなく気配が現れた。


「そうですね、一瞬まるでお互い分かりあっちゃってる感じの幼馴染カップルのように見えました」


「お前恐ろしいこと言うなよ!!」


 突然会話に割り込んできて特大の爆弾を投下してのけた『影』にラウールは噛みついた。その顔には気持ちの悪いものを見た後のような表情が張り付いている。


「何だよその『幼馴染カップル』って! どこを見たらそんなことが言えるんだ!?」


「そうだぞ、私が愛するのはシェリィだけだ!!」


「お前それランバート侯爵令嬢の目の前で言って来い」


 フィリップの惚気120%の主張を聞いて逆に冷静になったラウールはジト目で突っ込んだ。普段フィリップと最も一緒にいる者として惚気を延々と聞かされている恨みが多少混じったのはご愛嬌だ。


 一旦落ち着いたかに見えたその場の空気だったが、『影』は再度爆弾を投下した。


「ですがアニエス殿下の侍女達がラウール様に一向に婚約者ができないのを不思議がって『ひょっとしてブラン伯爵令息はフィリップ殿下に道ならぬ恋をしていらっしゃるのでは?』とかいう噂を」


「嘘だろおい!?」


 ラウールは驚愕に目を見開いた。


「残念ながらこの耳と目でしかと確認いたしました」


 その言葉にラウールはくらりと身体をよろめかせ、フィリップは凍りついた。


 ラウールはもはや半泣きとなって『影』に食って掛かった。


「同性同士の恋愛は否定しないし正式な婚約者は確かにいねえけど俺にだって恋人はいるんだが!? というか王女付きなんだが!? 彼女に浮気してるって勘違いされたらどうする!? そもそも誰が噂の発端だ!?」


「因みに噂の大元はアニエス殿下でした。何でもお二人の仲を匂わせることを仰ったとか」


 ようやく凍結が解けたフィリップが生気を失った瞳をして無表情でぼそりと言った。


「これは、あれだな。アニエスはシェリィが大好きだから、シェリィに不快な思いをさせた私達へのささやかな嫌がらせというやつだな。多分私達が勘違いされまいとそれぞれのパートナーに必死に弁解するところまでがセットだ。流石私の妹、手が込んでいる」


「殿下、ラウール様が真っ白な灰になってます」


 混沌(カオス)と化した執務室で『影』の言葉に応える者はいなかった。





「アニエス殿下、あのような噂、本当によろしかったのですか?」


「ええ。お兄様達にはちょっとくらい痛い目にあっていただきたいもの。安心なさい、貴女も含めた王女付きの者達以外には流れないようにしてあるから」


「え? それはどうやって……?」


「(ニコッ)ちょっと『お願い』しただけよ?」


「あ、はい(察し)」



アニエス殿下は絶好調のようです。


*     *     *


曲解なさる方はいらっしゃらないと思われるので必要ないかとも思いましたが、念のため。

フィリップ達の会話に関しまして、同性同士の恋愛を否定したりするようなマイナスの意図は決してありません。



また、作中のハーブティーですがレモンバームのつもりで書いています。やつらはミント並みに繁殖力が強くて、実家にもさもさ繁茂してたので昔よく飲んでました。興味がおありの方は是非調べてみてください。(ただ、妊婦さんには効能が逆に悪影響となったりしますので、おすすめできません)




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