beyond the final 2
5Fといえども、周りはビルばかりだ。下は道路。車のエンジン音、クラクションも聞こえてくる。
ここは、ショッピングモールのフードコート。お昼はとっくに過ぎているのだが、混んでいた。ほとんどが学生である。
外のテラスにも、テーブルをくっつけている。ドリンクなどと一緒に、教科書やノートを広げていた。
同じ制服に同じカバンの男子が、7、8人。テストも近いので、学校帰りに勉強会をしようとしているのだが…、
「暑っちー」
春のうららかな季節は、すぐに過ぎ去ってしまった。お陰でくしゃみは止まったが、今度は寝ても覚めても暑い日が続いている。
「この時期こんな暑いの、おかしいよー」
とだらけている。一方では、スマホに釘付け。それを見ている者。
その中で、比較的真面目に書いているものがいた。ミノルだ。
お知らせ音に気づき、スマホを手に取る。
「どうしたんだよ? カニ」
彼はみんなから、"カニ"と呼ばれていた。
声をかけたのは、あの"コマさん"である。この2人は高校1年から、同じクラス。部活も同じ、天文部だ。
「豪雨警報、出てる」
辺りを見回す。ビルとビルの僅かに見える空。黒い雲に覆われつつあった。風もきつくなってきたようだ。
「またかよー」
「マジかよー」
「かさ、持ってねーよー」
と言いながらも、特に慌ててはいない。相変わらず、のんびりダラけている。
「ゲリラ豪雨ばっかだと、夏休みの天文観測も怪しいな」
「そうなると、こと先輩。ガッカリするよ」
天文観測は、天文部で、初めてのイベントである。ミノルも今から楽しみにしていた。
「ところで、カニ。今やってるゲームって、なんだっけ?」
コマさんがスマホを覗き込みながら訊く。ミノルは、スマホのアイコンを指差した。
「ビヨンド ジ エンド…?」
「うん、RPGだよ。未来の荒廃した世界で、いろんな冒険をするんだ。この前、ダンジョンで、重要アイテムをゲットしたんだ」
と楽しそうに説明する。
今までいろんなゲームをしたが、これが一番面白い。
「カニのオススメだからさー。入れようと思ってんのに、見つかんねーんだよ」
コマさんの声を聞き、反対側で寝ていた男子が、ガバッと体を起こした。
「俺も。そのゲーム、やりたいんだけど、ないんだよなー」
「え、そんなはずないと思うけど…」
そう言いながら、ミノルがストアーを開けようとした時、
ゴロゴロゴロ
一同、顔を上げる。まだ、ひが高いはずなのに、真っ暗だ。周りには、誰もいなくなっていた。
風が強く吹き、ピカッと光る。大粒の雨が、ポツン、ポツンとテラスの手摺りや、テーブルの近くまで落ちてきた。
「お〜、キター」
慌てて、広げていたものをカバンに入れ、中へと駆け込む。その途端、
ザーーーッ
バケツをひっくり返したように降ってきた。
「やっベー」
「あぶなかったー」
「ハゲるぞ。ハゲ」
と口々に言う。
雨には有害物質が入っている、という噂が流れていた。SNSなどで、雨にあたり、
「皮膚がただれた」だの
「髪の毛が溶けて無くなった」といったような投稿が流行っている。
写真を載せたりしているが、「合成だ」とみんな気づいていた。
この手の話題は、盛り上がりを見せている。嘘だと思いながらも、雨は大気汚染の象徴となっていた。
「なあ、雨でしばらく帰れねーし。ゲーセンやろうぜ」
「いいねぇ」
とはしゃぐ。
結局、勉強会といってもこうなるんだ。ミノルは溜息をつきながらも、微笑んだ。
みんなについて、エスカレーターで下に降りる。横は吹き抜けになっていて、金の棒のようなものがたくさんぶら下がっていた。螺旋になっていて、下まで続いている。"ハープをイメージした"とどこかにポスターが貼っていたな。
ゲーセンでは、思い思いに楽しんでいた。ミノルも見ていたが、明るくチカチカした照明、流れてくる機械音が苦手だ。すぐに、その場を離れる。
隣りには、携帯のアンテナショップが並んでいた。一番前の棚に目立つポップ。最新のタブレットが置いてあった。ミノルは近づいて、手に取った。
みんなとワイワイやっているのも楽しいが、こうやって1人で静かにしている方が、性に合っていた。
勉強が嫌だったり、将来が不安だったり、悩むこともあるけど。仲間もいるし、バカも出来たりして…。いまが一番いい時なのかなぁ、と漠然と思っていた。
「カニ、何やってんだ?」
振り向くと、コマさんがカバンを肩の後ろに回し立っていた。
「これ、最新なんだ」
とタブレットを指差す。
「いろいろ便利な機能もあるんだけど、特にいいのは、自分を主人公にしてゲームも創れるんだ」
そう言って、ミノルが今まで触っていたアプリを開く。
「へぇー。どんなゲームだ?」
「カレンダーとかマップに連動して、学校行ったり、どっか遊びに行ったり。自分で好きな場所もつくれるし、友達登録なんかも出来るんだ」
「けっ。普段、やってることと変わんねーじゃん」
とコマさんは笑った。
最大の魅力は、自分でゲームが好きなように創れる。実際、その場所に行こうとして思えば、お金も時間もかかる。それが、タブレット1つで、手軽に出来る。
だが、ミノルは何も言わなかった。確かに、このゲームには立ちはだかる敵も、ワクワクする冒険もない。
ミノルはタブレットを置いて、コマさんと歩き出した。
「みんなは?」
「もう、帰ったよ」
「じゃあ、雨止んだんだ」
話しながら、エスカレーターで下に降りて行く。
2人が去った後、スマホを片手に男性が最新タブレットの前で立ち止まった。携帯ショップのジャンバーを着ている。
「ハイ…ハイ、あ〜そうですね…」
スマホで話しながら、先程までミノルが触っていたタブレットを手に取る。
「ハイ、わかりました」
と言って、電話を切った。
「ああ〜、アラちゃん」
男性がそばに通りかかった女性を呼び止める。同じジャンバーを着ていた。
「はい」
女性は立ち止まり、そばにやって来る。
「これ、なんか不具合があったらしくて…。しまっといてくれる? あとで送り返すから、棚の下に入れといて」
「わかりました」
女性はタブレットを受け取ると、付いているコードを抜き始めた。




