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THE Final  作者: 書事丈
2/17

beyond the final 1

  薄暗い部屋に、小さな窓。その窓から弱い黄色の光がさしている。部屋というには殺風景だ。隅には、箱やなんやが無造作におかれていた。窓の反対にベッドのようなもの。

 その前には少女。かばんに詰めたり、身仕度をしていた。手袋もちゃんとして、ズボンの裾はブーツの中へ。手を伸ばし、何やら取ろうとするが、やめる。

 少女はくるりと向きを変え、小さな窓に駆け寄る。窓にペターっと顔を近づけ、外の様子を伺う。

 黄色のモヤが辺りを漂っている。輪郭がわかるくらいで、よく見えない。空も黄色。太陽がかろうじで、光っている。

「こりゃ、ダメだ」

少女は、先程のものを素早く掴む。顔をすっぽりと覆うガスマスクだ。かばんを肩にかけると、軽やかに部屋を出た。

 鉄の扉を開けると、天井が近くに見える。鉄組が外れている所もあるが、屋根自体はしっかりとしている。雨漏りもしていない。両側には大きな窓。黄色い光が広い空間を照らし出している。

 レオによると、昔、ここは工場だったらしい。工場では何でも作れた。それを誰でも、いつでも、好きな時に手に入れることが出来た。

「今じゃ、夢のような話だがな」

レオは遠くを見るように、呟いた。

 少女は、、ただポカンとするだけ。レオの話を聞いても、ピンと来ない。

 必要なものは、自分で取ってくる。取ってこれないものは、持っている人と交換してもらう。でなければ、あきらめるか。

 今は、この方法しかないのだ。

 工場だった所は、何も残ってない。そこで、みんなで暮らしている。初めは、知らない者同士。

 突然、いなくなることもなれば、ふらりとやって来る者。そのまま、住み着いたり、また、いなくなったり。

 少女は、2階の一室で1人でいる。下の広い場所には、レオとリュラ。それぞれ好きな所で生活している。

 少し前まで、母と娘が隅っこにいた。この工場に来た時から、元気がなかった。身につけているのも、薄い生地。外で過ごしていたのだから当たり前だ。

 そのうち、2人とも動かなくなってしまった。時々、食べ物を分けたりもしたが、そのままになっていることが続いた。

 とうとう、レオが、

「もうダメだな。燃やすしかない」

感染を防ぐために、死んだ人たちは灰にしてしまう。煙になって、天に昇っていくのだ。

 この工場で、一番長く住んでいるのはレオ。リュラは出たり入ったり。活動的な女性だ。髪の毛を伸ばして、いっぱい三つ編を作っている。

 いろいろな場所に行って、いろいろな人を見てきた。病気の人も多く、世話をしたり、治したこともあると言う。

 今回も、汚染のひどい地域を通ってきた。そのせいか、しばらく辛そうにして、少女も心配していた。

 自分で薬草などを使い、今はすっかり元気なリュラだ。

「アクア、出かけるのかい?」

と声をかけてきた。

 行動力があって、人を助けることが出来る。少女に"アクア"という名前をつけてくれたのも、彼女だ。リュラは憧れだ。

「うん、ずっと行きたかった大きな建物があるの」

アクアはリュラに近づく。

「あ〜。ショッピングモールだった所だね」

あそこには、いろいろな物が沢山ある。みんなも知っていて、噂になっていた。アクアもそれを聞いて、行きたくなったのだ。

「もう、大した物は残ってないんじゃない?」

 リュラは布を広げて、引っ張る。それを上に渡してある紐に干した。次は服のようなものを広げ、また干す。

「うーん…」

そうかもしれないけど…。噂になっているのがどんな所なのか。一度でいいから、確かめたいのだ。

 リュラはニッと笑うと、

「は、は、は。どうしても行きたいんだね」

と洗濯物を放り出す。そして、かばんを出してきた。リュラのものが詰まった、大きなかばん。思い立った時、いつでも旅立てるようにだ。

 その中をゴソゴソと探ぐる。黄色い半円のものを取り出した。何かを入れるものだろうか。表には、文字が書かれていた。

「ん? あん…ぜん………いち?」

アクアは文字を読むのが、苦手だ。気が向いた時に、周りの人に教えてもらうだけ。

 文字が読めない人も少なくないから「読めなくてもいいじゃん」と思っている。

 レオは「文字は大事だ」と言うけど、種類が多くて覚えられない。特に漢字は、アクアにとって難しい過ぎる。

 リュラは黄色モノを取り上げると、

「安全第一!」

と、アクアの頭に被せた。

「ヘルメットだよ。頑丈だろ。これで頭を守るんだ」

そう言って、指でコンコンと叩く。中で、音が広がっていった。

 リュラは、かばんからもう一つ。透明の袋を出してくる。白い四角いものが、いっぱい入っていた。

「角砂糖。甘いんだよ〜。ほら、手ぇ出しな」

アクアが両手を差し出す。袋から、ザラザラと角砂糖を出してくれた。

「ええー、こんなにたくさん。…でも、あたし…」

何も持っていない。

 物を貰ったら、何かを返す。昔は"お金"と言うものがあったらしい。今はない。物々交換が、常識になっていた。

「いいんだよ。アクアは妹みたいで、可愛いし」

リュラは目を細めて笑う。ちょっと、寂しそうにも見えた。

 妹ーパパとママが一緒ということだ。兄弟はほとんど見かけない。親子も珍しい。

 汚染が酷いせいだ。特に、赤ちゃん、小さい子供は油断していると、あっと言う間に亡くなってしまう。さもなくば、病気になって弱っていく。

 アクアのように、16、7の年齢で、しかもどこも悪いところはない。滅多にいないが、注意していないと、どうなるか。

 アクアのパパとママも5年前に、灰になって、天に昇っていった。前から、具合が悪かったし、仕方がないと思っている。

 1人でも、ある程度の事は出来たし、レオが世話を焼いてくれる。

「アクア、今日はやめたほうがいい」

こうして、忠告もしてくれる。

 レオは半世紀以上生きてきた、というだけあって何でも知っていた。外にはあまり出ず、機械ばかりいじっている。昔は、そんなことばかりしていたらしい。"仕事"とか言っていた。

 髪の毛が邪魔で、頭にタオルを巻いている。目には拡大鏡。色んな種類を持っていた。

 レオのお陰で、この工場は夜でも明かりがある。"バッテリー"というものを使うらしい。これに"線"などをつなげて、電気というものを通す。すると、電球が明るく光るのだ。

 代わりに、アクアは食料を育てている。この広い工場内で、土を耕す。野菜の種を蒔いて、大きくする。

 こうすれば、汚染されている外の草を食べずに済むからだ。

 その他の食べ物は、昔あったものーお菓子や、リュラがくれたお砂糖など。どれもこれも美味なものばかりだ。だが、最近は見かけなくなった。

 アクアはショッピングモールだった建物に、"それ"を期待している。

「何日も閉じ込められて、退屈なのはわかるがな。もう少し、辛抱しろ」

レオが手を止めずに口を開いた。また、何かを作っているようだ。

「出掛けるのは、どうかと思う」

もう一度、声をかける。が、厳しい口調ではない。機械を見たままだ。こういう時は、本気で止めてはいない。強行突破できる。

「大丈夫」

アクアはガスマスクを着けた。リュラから貰ったヘルメットも忘れない。

「すぐ、帰ってくるね」

と元気に飛び出していった。

 外は朝よりも視界が良くなっていた。足元のガレキもよくわかる。転けずにすみそうだ。こんな汚染された中で、転んで怪我でもしたら、大変だ。致命傷にもなりかねない。アクアは慎重に進んでいった。

 ほとんどの所は、ガレキだらけだ。少ない所、全くなくヒビ割れのアスファルトが続いている所もたまにある。

 昔は高い建物ばかりだというが、今では見かけない。ガレキになってしまったのだ。ただ、頑丈だった物は残っている。

 アクアは遠くの方に、シルエットを見つけた。あれが、ショッピングモールだった処。方向は合っている。ここからが、長い。

「フーッ」

ショッピングモールの前に着いた時は、自然とため息が漏れた。

 気温が上がってきたせいか、結構汗をかいた。ガスマスクが、うっとーしくて仕方なかった。

 建物の外には、店だと思われる看板が並んでいる。外れたり、壊れたりしているものがほとんどだ。

 店の入り口のドアは、枠組みだけになっていた。シャッターが歪んでいるところもある。

 色々なものが、点々と落ちている。その中きら、役に立ちそうなものを手に取ってみる。そのままかばんに入れたり、捨てたりしながら、進んでいった。

「あ、階段!」

アクアは階段が好きだ。工場のものとは違い、大きい建物のものは広い。そして高い。

 階段を上ると、これまた広いスペースとお店。所々、壊れている。建物の壁には、やたらとクルクルと巻いたツタ。お化け草が生えている。

 この草はどこにでも這い出て、たちまち増えてしまう。しかも、やたらとでかい。

「汚染された空気を吸っている」

レオが言っていた。それで、何でもないかのように、成長し、大きくなる。やっぱり、おばけ草だ。

 アクアは、奥へと進む。ようやく中へ入るドア。これも枠だけが残っている。周りにはガラスが散乱していた。

 そこを潜り抜け、入る。手で服をはたき、汚染物を払う。ガスマスクを首までずらした。

 中は薄暗く、冷んやりとしていた。外同様、あっちこっちに物が散乱している。棚や大きな鉄の箱が転がっていた。歩く度に、アクアの足音が響いていた。

「何にも、残ってないか…」

持ち運べそうなものや、役に立ちそうなものは、なさそうだ。余り人も来ないようで、薄っすらとホコリが積もっている所もある。

 エスカレーターが目に付いた。赤いゴムの手摺が両側についた階段。昔は動いていた、と言うのだから驚きだ。試しに押したり、蹴ったりしてみたが、ピクリともしなかった。階段が動くわけない。

 アクアは、一気に駆け上がる。上の階にもお店が並んでいる。中央には広いフロアー。イスやテーブルが転がっていた。そして、大きな窓が、いくつも並んでいる。

 窓の外にも床があり、イスや柵のようなものが倒れている。その向こうには、

「わあー、すごい…」

高い所からの景色は、滅多に見ることが出来ない。といっても、何もなくガレキばかり。ぽつん、ぽつんと建物の形が見える。

 ずーっと続いている地平線。その向こうも、同じ景色なのだろうか。

 黄色のモヤはだいぶ晴れ、雲が流れていた。日は傾き、オレンジ色に変わろうとしている。

「あ、いけない」

日が沈むと、厄介だ。アクアは店の中へと走り出す。あまりに急いだため、目が慣れない。衝立に当たってしまった。

「ギヤー」

運悪く、吹き抜けになっていて、下に落ちそうになる。

「う、う、」

アクアは必死で手を伸ばし、天井から数本、下がっている棒の一つを掴む。そのまま、体を揺らし、下の階へと飛んだ。

「イッター」

ヘルメットの中で、頭が揺れる。肩を打ったが、血は出ていない。下まで落ちていたら、命はなかったかもしれない。

「やばかったー」

アクアは、よろよろと立ち上がった。

 目の前には、カラフルな機械がたくさんある。アクアの背より、少し高い。机のように飛び出した所には、ちょうど手の平サイズのボタンやレバー。かわいい絵や強そうな人が闘っている絵が描かれていた。

「なんだろう?」

アクアはボタンを押してみたー何も起こらない。けど、ボタンを押すのは、なんとなく楽しかった。

 機械の近くには、胸くらいなら高さの棚が並んである。天井からは、薄っぺらい紙のようなものが吊るされていた。片方が外れたり、途中で破れているものもある。何か、書いてある。ローマ字かな…

「エス、オー、エフ…? こっちは、エー…

文字なんか、どうでもいいや」

 先程打った肩も痛かったし、何よりも薄暗い。読む気にはなれなかった。

 棚の上には、小さな紙や四角いプラッスチックのようなもの。使えそうなものは、何もない。念のため、棚の下も見てみる。

「ほ〜ら」

アクアは勝ち誇ったように笑った。

 こういった棚の下には、大概扉があり、その中に何かを入れられるようになっている。

 ガラガラと横にスライドさせると、中には…空箱ばかり。空振りかな、と思った時、

「…うん…?」

この箱、重い。手の平両手分の長方形の平らな箱。中から、同じくらいの大きさのものが出てきた。

 金属で出来ているのか、銀色で冷たい感触。丸い形がかけた絵がついていた。裏を向けると、黒に白い枠。丸いボタンがついていた。

 アクアは、これに似たものを見たことがあるような気がした。もっと、小さかったような……。

「レオだ!」

ずっと前に持っていた。確か、…野菜の種と交換したんだ。あれが何の役に立つのかわからないけど、交換した人はやたら懐かしがっていた。

 もしかしたら、何か手に入るかもしれない。アクアは、かばんの中にしまい込んだ。


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