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THE Final  作者: 書事丈
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beyond the final 4

 機内は薄暗く、静かだ。ゴーというエンジン音だけが響いていた。座席には人がいるが、話しているものはいない。皆一様に毛布を被り、ジッとしている。

 時折、揺れを感じるが、快適なフライトだ。これがなんて事ない、ただの旅行なら…。

 怜はノートパソコンを座席のテーブルに置き、画面を見つめた。

 あれから、"宇宙移住計画"について考えている。この計画は中断出来るか。いや、もう始まっている。そして、人々の意思に関係なく、一人歩きしているようだ。では、本当の事を言うか。みんなに知らせれば、パニックになるのは目に見えている。

 怜は今までのことを、まとめてみた。

 すでに、脱出出来るメンバーは決まっている。だが、所長が言っていた"あと飛べる脱出機"では、予定人数には足りない。

 造船する材料、燃料が不足しているということか…。その問題をクリアすれば、なんとかなるか。

 火星での受け皿はどうだろう。

 期間は長くなる。途方もない計画になるかもしれない。

 しかし、火星の生活環境を拡大させるのが、最良だろう。そうすれば、向こうでもロケットが作れる。再利用して、行き来できるようにならないだろうか。

 そのためには、1から見直さなければならない。

「せめて次の機は待ってほしい」とあらゆる所に掛け合ってみたが、取り合ってくれなかった。それどころか、異を唱える危険人物と見なされた。それから、身の危険を感じることが多々ある。

 怜は祖国に帰ることにした。

 もう、ここには帰らない。怜は意を決して空港に向かった。

 空港は大混乱だ。

 ネットでは「飛行機はもう飛ばない」「どこそこの国は脱出機を確保している」などの噂が流れていた。

 人々は地球脱出を求め、国外に出るもの、反対に入って来るもの。ごちゃごちゃになっていた。

 中には、「飛行機を宇宙に飛ばせ!」と無茶なことを喚いている者もいる。小競り合いは、そこかしこで起こっている。離発着の案内も何も映し出していなかった。

 空港職員や警備員を増員するが、彼らもまた疑問に襲われている。

 不安、不満が一気に爆発し、いつパニックを起こすか・・・。

 ぐずぐずしてはいられない。怜は自分の身分を利用することにした。

 今まで、計画に疑問を唱えてきた。もう、使えないかもしれない。拘束される可能性もある。そうなると、戻れない。

 どうする? 逃げ切れるか。

 心臓を押さえ、なるべく平静を装う。怜の心配をよそに、航空会社はあっさり通してくれた。

 乗務員の話を盗み聞き…と言っても、耳に入ってきたのだが、この飛行機は機長が独断で飛ばしているらしい。渡航費は全て彼らのもの、ということか。

 管理されてない、つまりお偉いさんは逃げたか。状況はかなり悪い。何かのきっかけで暴動が起これば、収拾がつかなくなる。

 が、最悪ではない。まだ、出来ることがあるはずだ。出来ることが…。

 向こうには、もう、身内はいない。両親を早くになくし、唯一の血縁である祖母に育ててもらった。その祖母も、3年前に他界。知り合いも僅かだ。ほとんどは連絡が取れていない状態だが、高校の部活仲間は心強い。必ずわかってもらえる。そんな気がしていた。

 窓から、懐かしい風景が見えてきた。

 地震があったとかで、何度か旋回したが、飛行機は無事降り立つことができた。

 時差もあり、あまり休んでいないが、怜の頭は冴えていた。

 こちらの空港は、さらに人でごった返していた。税関が入国を禁止しているのだ。怒号が飛び交い、つまらないことで喧嘩や怒鳴り合いが始まる。

 ここまで来て、空港で足止めなんて。なんとか通過する方法はないかと探っていると、向こうから声を掛けてきた。

「獅子尾怜さんですね」

スーツに地味なネクタイ。衿には、モールに菊花模様の記章。中肉中背。あまりこれといって特徴のない男に、パスポートを見せる。男は頷き、別室へと案内した。

 部屋は会議室のようだ。長机にパイプイス。男3人が腰をかけ、その横に数人の男が立っていた。怜は向かいのイスを勧められた。後ろには窓。ブラインドが下ろされていたが、光が漏れていた。

「私は南之魚(みなみのうお)だ」

真ん中に座った大柄の中年男性が、名刺を差し出した。

「今、国会は混乱し、機能不全に陥っている。首相は行方不明」

議員の中には仕事を放棄し、自分のことしか見えていない。

「私はこの状態をなんとかしたい。君は、宇宙移住計画の一員だね」

「ええ」

一同、安堵したように表情を緩めた。が、怜は期待を裏切ることを伝えなければならない。

「だったと言うべきです。設備の整った48機は全て脱出しました。あとは、使えないハリボテです。計画を進めているように見えますが、実は終わっています。気付かれないように、尻拭いをしているだけです」

男たちは狼狽え、騒ぎ始める。

「やっぱり、噂は本当だったんだ!」

「もう、手遅れだ!」

それを抑えつけるように、南之魚は咳払いをした」

「脱出方法はもうないのか? 君なら、ロケットくらいチョイチョイっと作れるだろう」

そんな大事であってほしくない。そんな気持ちがありありと出ていた。

 怜は天井を仰ぎ、考え込む。そうしている間にも、呻き声や落胆の溜息。落ち着かなく、ウロウロする者も出始めた。

「まず、資金と燃料。そして、1番の問題は、設計図がどこにも存在しないということです。今の火星のキャパシティには限界がある。おそらく、造らせないため、処分したと思われます」

「わーーー!!」

1人が頭をかかえ、叫んだ。

「ほら見ろ! 俺たちは見捨てられたんだ!」

と机に拳を、ガンガンと打ちつける。

「おい、落ち着け」

数人がおさえにかかっていた。

 悲壮感が漂っている。南之魚も大きく息を吐き、頭を振った。

「まだ、決まったわけではありません」

怜の力強い声に、一同ハッとする。

「残る=絶望じゃない。まだ、助からないと決まったわけじゃない」

「君には、何か策があるのか?」

「策というか…」

怜は今まで考えていたことを、話し出す。

「まず、この混乱した世の中を鎮圧しなければなりません。そうすれば、計画を一から立て直すことが出来ます」

南之魚は頷いた。

「つまり、もう少し待て、ということだな。しかし、一度騒ぎ出した国民が、簡単に大人しくなるかな? 地震も洪水もある。…どうだい、」

身を乗り出して、囁く。

「我々だけで計画を進める、というのは」

口元をニヤリとさせる。悪い笑み。こんな世の中だ。気持ちは分からなくもないが…。

 全人類を助けるのはムリだ。

 所長の言葉が蘇る。…仕方ない事なのか。

 怜はこの食えない議員の後ろにある、ブラインドのスラットを数え始めた。大きく息を吸うと、口を開く。

「何が問題か、覚えていますか?」

不意の問いかけに、南之魚は「あー」と言ったきり、固まってしまった。

「まず、資金が必要です。あとは、設計図。脱出機を作るにしても、人手が必要です。そのためには、広く知らせて協力してもらわなくてはなりません。それに、その方が計画が早く進みます」

「……そうか…」

南之魚はどっとイスに凭れかかった。

「そうだな」

どの道、こちらには知識も何もないのだ。この目の前の若造に任せるしかないか…。沈着冷静な彼なら、上手くいくかもしれない。

「何をすればいいかな?」

怜は瞳を輝かせ、笑みを浮かべる。

「ハリボテは何機ありますか? それを押さえて下さい。そんなにいい加減に作ってはいないはずだ。見せてもらえれば、何か参考になるかもしれません」

 南之魚の合図で、何人かが電話をかける。他の者も落ち着いてきたようで、静かに待機していた。

「あと、皆に"大丈夫だ"と繰り返し伝えて下さい。人も集まらせてはダメです。暴動が起きかねない。暴動が起こると収拾がつかなくなる。避けなければなりません」

「うむ」

南之魚も、それは重々わかっているようだ。

「近いうちに、皆が納得のいく計画を発表出来るようにします」

「よし、わかった」

2人で話し合っていると、電話をかけていた1人の顔色がみるみると青ざめていく。

「大変です! 先生‼︎」

緊迫した声が、部屋に響き渡った。

「1機、脱出に向けて、離陸準備に入ったそうです」

「なんだって⁉︎」

怜は立ち上がった。南之魚も慌てた様子だ。

「誰が支持を出したんだ!」

「それが、幹部の暴走のようで…」

まるで自分が怒られたように、しどろもどろになる。

「無理だ! ハリボテだぞ。飛び立てたにせよ、墜落する可能性が高い。すぐに戻るように言ってください」

言われた男は電話をかけ直す。が、繋がらないようだ。

「それはどこです?」

「近くの空港です」

スマホを耳に押し当てたまま、男が答える。

「南之魚さん、連れて行ってもらっていいですか?」

「あ、ああ。もちろんだ」

そう言うと、一同、足早に部屋を後にした。

 間に合うだろうか。なんとしても阻止しなければ。せっかくここまできたのに。

 怜は焦りを感じていた。

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