before the final 0
朝の地下鉄。座席には、ずらりと人が座っている。立っている人も多いが、ぎゅうぎゅうで身動きがとれない、という訳でもない。場所によっては余裕がある。
みな、目は伏せがち。もちろん、話しているものはいない。車内に流れているのはCMだ。扉の上には画面が備え付けてある。つり広告の中にも画面があり、裏表、同じ画像が映っている。
若い女性タレントとポップな文字。BGMと共に「猫カフェ行くなら、次の駅で降りてニャン」とにっこりと笑う。
瞬間、画面は電源が切れたように、ブチっと暗くなる。赤文字で"次の駅は…"と流れてくる。そして、"扉はこちらが開きます"と矢印。それがいろいろな国の言葉に変わっていく。地下鉄が止まり、扉が開く。
降りる人、乗る人。音楽と急かすようなアナウンス。
扉が閉まると、再び動き出す。と同時に、今度はクラッシックのBGM。画面には映像のみのCM。
そんなもの、誰も見ていない。手元のスマートフォンに釘付けだ。
これがあれば、何でも出来る。電話、メールは当たり前。世界中の人とも連絡が取れる。写真。ゲーム。知りたい事がすぐわかる。注文もあっと言う間。手の平に収まる長方形に、欲しいものが全て入っている。その大きさや色は様々。だが、マークは同じ。
人は食べてはいけないリンゴを齧ってしまったのか。