beyond the final 10
ミノルは木陰になっている公園のブロック塀に、腰をおろしていた。太陽の光を避けるためだ。
朝は曇っていた。今日はマシだろうと思ったのだが、そうはいかなかった。こう毎日暑くては、頭も回らない。
夏休みも残すところ、10日余り。みんなで集まって、宿題の答え合わせをするのだ。と言っても、必死で写しあって、なんとか終わらせる。
ミノルはスマホゲームをしながら、汗を拭った。公園は雑草だらけ。遊具にも覆い茂っている。赤いテープが張り巡らされていた。これば、「害虫害獣などで危険ー入るな」という意味だ。
こういう場所が増えているので、人手も不足している。駆除の消毒や薬を撒いて、また使えるようにしなければならない。だが、近隣の同意を得るだけでも、骨の折れる仕事だ。と、ニュースでやっていた。
赤いテープが増えていくだけで、何の解決にもなっていないのが現状だ。みんなも慣れっこになっていて、危機感はない。立ち入り禁止の公園でも、外側なら大丈夫だろ。こうして、ミノルも座っているのだ。
時折、セミが思い出したように鳴き出し、暑さが増す。そして、スマホのお知らせ音。"熱中警報"と"光化学注意報"。輪をかけて、ボーっとしてきた。
「わりぃー。遅れた」
コマさんが駆け寄ってきた。
暑さにかまけてか、全く気付かなかった。来てくれて、ミノルはホッと息を吐く。
「大丈夫だよ。時間まだ早いし…その…」
スマホを、横に置いてあるリュックに入れた。ことから貰ったフェルトのマスコットが揺れている。
「ゲーム、もう終わんのか?」
「うん。お守り2つ見つけたから、一区切りかな。それに、コマさん来たから。その…」
ミノルは相談したいことがあった。だから、みんなと同じ所で待ち合わせず、わざわざ暑い中、待っていた。
話は、ことの事である。あの時、バス停での話は社交辞令みたいなもんだろう。と、1人で結論付けたのだが…。
SNSで「どうする?」「いつがいい?」などと送ってくる。これはちゃんと向き合わないとな。すぐに返事をしたいのは、やまやまだが、1人で行く勇気が出なかった。
こうなったら、コマさんを巻き込むしかない。何だかんだ言っても、1番信頼出来る。が、これまた問題だ。言い方を選ばないと、また、からかわれたり、言いふらされるかもしれない。
「な、あれ」
コマさんが何かを見つけたようで、指差す。
向こうのほうに、大きい家が建っている。その庭に、屋根まで届きそうな木。夏みかんだろうか。黄色い実がたくさん生っていた。
「1つ2つ、取ってもわかんねーよな」
ミノルは苦笑いをした。
人の気も知らないで。って、知らないか。その呑気さがコマさんのいいところだ。
「わからないと思うけど、…やめた方がいいよ。公園で、駆除剤を撒いてるかもしれないし。多分、美味しくないよ」
「そらそーだ。コンビニのアイスの方がいーなー」
とコマさんも笑う。
「よし、買いに行こ!」
「うん。そろそろみんなも来る頃だよ」
これは道すがら話すしかないか。
ミノルはリュックを引き寄せようとして、手を止める。リュックの陰で、何やら動いている。野良猫がマスコットを前足で叩いて、遊んでいた。
「あっ!」
ミノルの声に、猫はチラッと顔を上げる。
「にー」
と鳴くと、マスコットをくわえ、そのまま走り出した。
「あ、ちょっ…」
ミノルは慌てて、後を追いかけた。
歩道の柵を飛び越える。道路の真ん中に座り込んだ猫を抱きかかえた。
また失くすことにならなくて、良かった。
「遊びたかったのか? いたずらしちゃ、ダメだぞ」
猫に気をとられていたが、ふと耳に、ゴーと地響きのような音が近づいてくる。
猫がミノルの手から、ピョンと 飛び降りた。コマさんが叫んでいるが、その音にかき消されて、何を言っているのか届かない。
ミノルは振り返った。
地響きの音から、耳をつんざく急ブレーキ。トラックが、もう目の前に迫っていた。
「あっ」
アクアは短く叫んだ。
壁にもたれて、タブレットを膝に乗せている。横にはレスプが座っていた。
「どうしたの? 今まで聞いたことない音がしたよ。キーーって」
レスプが尋ねる。
「車に当たっちゃった」
アクアはペロッと舌を出し、バツが悪そうに笑った。
「beyond the final」はこれでおしまい。いかがでしたか?
どちらが現実で、どちらがゲームか。
主人公が死んじゃったら、リセットされるけど・・・。その、リセットされた後の世界はどうなるのかな⁇?
次は「before the final」です。
よければ、暇つぶしに(礼)