beyond the final 9
今日の太陽はギラギラ。空も真っ青で、雲一つない。こんなクリアな晴れの日はウキウキする。
ガスマスクはしていないが、顔には布を巻いていた。もちろん、手袋もブーツも欠かせない。いつ風向きが変わるか、わからないからだ。
暑いが、仕方がない。歩いていると、息が切れてくる。それでも、アクアのお喋りは止まらなかった。
「あ、待って。のど、乾いちゃった」
立ち止まり、かばんから水筒を取り出す。フェルトのマスコットが揺れている。気に入って、ずっと見ていたら、男の子ーレスプが譲ってくれたのだ。
結局、名前は思い出せないまま。で、リュラがつけてくれた。リュラは、名前つけの天才だ。
「はい、お水」
水筒をレスプに渡す。布を深く巻き、極力、日光が当たらないようにしている。サングラスもしているので、顔はほとんど見えない。
「あ、…ありがとう」
大きく息をしながら、受け取った。
「でね、学校には、いーっぱい人がいるの。ミノルとことは仲良しなのよ」
アクアは"Daily Game"の話をしていた。ゲームも楽しいが、こうして話し相手がいる。新鮮だった。
「今度、学校のない日に、いろんな所に行ってみようと思うの。例えば…公園とかがいいかなぁ」
レスプは水を飲みながら、「うん、うん」と頷く。ゲームをするのは、もっぱらアクアだ。彼はタブレットの光が、目に痛いらしく、横で音を聞いていることが多い。
この暑さと直射日光は、アクアもバテてしまいそうだ。慣れないレスプにとっては、なおさらだろう。かなり疲れている。
レスプが「ついていく」と言った時、レオは反対した。出掛ける前は、こんなに暑くもなく、曇っていた。2人でお願いして、「この天気ならいいだろう」と許してもらったのだが……。
「ちょっと、休もうか」
崩れかけた建物の影を見つけ、腰をかける。
「あのね」
アクアが声をかける。レスプは眩しそうに顔を上げた。
「ガレキの向こうにお化け草があるでしょ」
「お化け草?」
遠くを見ながら、探す。
「ああ、あそこだね。いっぱい、もしゃもしゃしたものがある所」
と指をさした。
「あ、地下にはないもんね。暗いし」
レスプは、小さく頷く。
「そう、あの緑の近くに、黄色い実がなっている木があるの」
黄色い実が体にいいというので、早速取りに来た。アクアは、前の暑い夏に行ったことを思い出したのだ。
普段、外に生えているものは、食べ物でも手を出さない。が、果物は皮があるので、中は大丈夫だ。これなら、レスプも元気になるだろう。
「あたし、1人で行けるから、レスプはここで待ってて」
水筒を受け取り、カバンにしまう。
「大丈夫だよ。僕も行く。せっかくここまで来たんだ。一緒に行こ」
レスプは立ち上がり、手を差し出す。こんな風に言われるのは、初めてだ。アクアはなんだか嬉しくなった。手を握り、立ち上がる。
お化け草の角を曲がると、黄色い実をつけた木が見えてきた。
「あった! 実がなってる」
前の時ほど、たくさんではない。おそらく、誰かがとっていったのだろう。アクアは、その人が残してくれたことを、感謝した。
木に登って、実を捥いでいく。レスプは心配そうに見ていたが、アクアはお手の物だ。
「ねえ、受け取って」
と実を投げる。レスプは危ういながらも、手を差し出し、体で受け止める。
「取ったよ」
笑いながら、声を張り上げる。
「もう一回、投げて」
アクアも笑い、そうしているうちに、結構いっぱいになった。かばんもずっしりと重い。
採り終わった後に、水を飲みながら、また少し休憩。
「前にもここに来たことあるんだけど、今日の方が、うーんと、楽しかった」
1人じゃないもの。
「ねえ」
アクアはレスプの顔を覗き込む。サングラスに顔が映っていた。汗だくで、汚れているけど、嬉しそうだ。
「あたしたちって、仲良しだよね。こういうの、お友達って言うんだよね」
レオやリュラとも仲良しだし、お互い協力して過ごしている。アクアより年上で、大人だ。どちらかと言うと、色々教えてくれる親のようだ。怒られたり、注意されたり。最近のレオは、特に厳しいような気がする。
レスプは同じくらいの年ーどちらも、正確な年齢は知らないのだが。
2人でやりたいことやって、バカなことを言い合ったり。大人たちが「やめろ」ということも、内緒でしちゃう。
なにより、一緒にいるととても楽しかった。
「うん、そうだね」
レスプもそう思ってくれてる。さらに、心が弾んだ。
日もだいぶ高くなり、これから、ますます暑くなるだろう。その前に帰ることにした。
「⁉︎」
レスプは立ち上がったが、また屈む。そして、ガレキの下に手を伸ばした。
「どうしたの?」
アクアも横に座り、覗き込んだ。
「これ」
取り出したのは、手の平に収まるつぼの形のもの。黒く汚れているが、なんとなく青色だとわかる。
「あーー‼︎」
アクアは、かばんにつけていたマスコットを見た。2つを見比べてみる。色も形もそっくりだ。
「おんなじだね。なんかのお守りかな…?」
「ほんとだ。一緒」
レスプも表や裏にしたり、くるくる回して、見ている。
「アクア、1つずつ持っていよ。仲良しだから」
布で顔を覆い、サングラスで目が見えなくても、笑っているのがわかる。
「えーっと…。こういうの、お揃いって言うんだよね」
「うん! お揃いのお守りだね」
アクアも笑顔で答えた。