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prologue-2


 ガルフィンガング魔法青少年学院、女子寄宿舎。


 ここの住人は現在、私と2学年下のガーヒルド・アロディアさんの2人だけ。


「……にしても、共同のお風呂にしても洗濯室にしても2人で使うには過剰設備なのよね」


「そうですね、ヴェレナ先輩。

 大浴場を2人で占有していると、贅沢というより魔石装置の無駄遣い感のが強くて申し訳なさがありますし……」


 まあ、そうなんだよね。

 基本的に水回りの設備は、実際の水ではない魔法で生成した魔力感応水なので、私達がお風呂に入るたびに魔石でお湯を出しているわけなのだけれども、温泉地の大浴場くらいのサイズ感はあるので、お湯に浸かるためには必要な水量は中々のものだ。


 そして私達2人の利用に対して、清掃は毎日入るのは良いことなんだけど、もう少し清掃だったり守衛だったりに人を割くくらいなら、他に力を入れるべきところはあったのではないのかな、とは思う。


「やっぱり、女子の数が少なすぎるのよね。もしかして意外と魔法使いって女子人気が無かったり?」


「あや、人気が無いと言うよりは敷居が高いという印象はあるとは思いますよ。

 アプランツァイト学園に通っていた身だと実感が湧かないですが、そもそも女性にちゃんとした教育を受けさせる家の方が少ないでしょう?

 そういう意味では、選別はされているかと」



 そういえば性差で教育格差があったんだ。そもそも義務教育は小学校だけなので、中学校課程の魔法青少年学院も、高校課程に相当する魔法爵育成学院と同じで、通う義務はないのである。

 まあ、私の周りの女子って基本高スペックだからそうした社会通説と実体験が直接結びつかない部分でもある。


 それに私と同世代にはアマルリック王子が居る訳で。学内で関わる女子の数を減らしたいという意図はあるはず。

 となると、本当に魔法使いの上層部にとっては女性への魔法教育門戸開放は都合の悪いタイミングだったよなあ、としか。

 それで、私だけ入学できたのもある種作為的なモノ――例えば上層部が感じているお父さんに対する贖罪とか罪悪感みたいなものの影響も無視出来ない。

 とは言っても、肝心の魔法大臣は辞任して予備役に編入されてしまった。

 直接顔を合わせたのは一度だけ。あの卒業論文の石油の一件のみなのだが、思えばあの前魔法大臣のクロドルフ氏とは色々と繋がりはあった。


 例えば、私の監視役である魔法省整備局保安調査部所属のオートバガール魔法準男爵はクロドルフ氏の手によって派遣された人員だ。

 それに私のお父さんも今でも食事に行く仲だとも言っていた。その辺りを踏まえると見えてくることが1つ――



「……というか、ヴェレナ先輩が魔法使いになろうと思った理由を伺っていませんでしたね、私は勉強会の皆々様の前で触れましたけれども。

 やはり、ヴェレナさんの御父上関連なのですか?」


 おっと、考えが逸れていたか。

 私が魔法使いになる理由。これを面と向かって聞かれたのは二度目だ。


 そう、1度目は四年前。オーディリア先輩がアプランツァイト学園初等科を卒業する前に私の家に訪れたときだ。

 その時私が話した理由は2つ。

 1つは今アロディアさんが話した通り、フリサスフィス家という元・従士階級の肩書きを有する私の家系の親戚らが、本家の人間には『魔法爵位』に代表されるような軍事指揮資格を求めている、という点。


 そして、もう1つが――情勢への関与。

 こちらはゲームシナリオを考えた場合、起こり得る未来の1つとして森の民の『敗戦』があるため、その回避に動ける立場を得たいという目論みに起因している。


 ちなみに、オーディリア先輩には前者は『他人の都合』と断じられ、後者は『傲慢』だと言われている。それで、結局私はその時『魔法使いになる理由を探すために魔法使いとなる』というある種逆説的なことを伝えたのであった。


 ここまで、考えてみると。

 ガルフィンガング魔法青少年学院に入学して今年で3年目。最高学年になった私だけれども、魔法使いになる理由というのは未だに確固たるものを捉え切れていない。


 思えば、色々なことはあった。

 先輩方と旅行に行けば、商業都市国家群へ駐在する予定であった公使の不審死事件にあわや巻き込まれかけた。

 

 その後ラウラの実家を訪ねてみれば、私の見ていた世界がまだまだごく一部に過ぎなかったことを知らしめられ。

 過激派組織のトップと思われていた吟遊詩人にアマルリック王子の依頼で面会すれば、過激派の描く理想の社会と、現代知識が近似していて。


 そして、卒業論文を書くために調べた『空』の話は、不意にガソリンという単語を漏らしたために、大事になるところであった。


 そのどれもが、私が魔法青少年学院に進学したからこそ、ひいては魔法使いを志すことによって生じた出来事ではあったのだけれども、魔法使いになる動機を見つけるまでには至らなかった。つまり、この学院での3年の生活を経ても未だにその理由は探し続けている最中ということになる。



 その結論自体は今の私の現状だから別に構わないけれども、問題はこれをそのままアロディアさんに伝えるのか、ということ。

 私とオーディリア先輩との間でそのようなやり取りがあったことは、当然ながら彼女は知らないだろう。となると、『魔法使いになる理由を探すために魔法使いになる』という言葉を伝えても、アロディアさん目線で考えれば意味の分からないことを突然言い出したと思われかねない。


 後は、一応私は先輩だし、ちょっと格好いいこと言いたいという身も蓋もない本音もある。

 というわけで。


「……お父さんが魔法使いだったから、という理由も勿論あるけれども。

 人は任せられた役割を全力でこなす必要がある」


「あや、聖書の一節でしたか。すみません、女神教は不勉強なもので。

 ……それで、ヴェレナ先輩に課せられた役割とは一体」


 流石に敗戦回避だったり情勢関与と言うことは話せない。


「まあ、自分の手が届く範囲の人の生活を守れればってくらいだね。

 それに私1人だけで出来ることとは今は(・・)思ってないし。先輩方だったり『勉強会』の友人だったり、あるいは……アロディアさん、あなたとも協力すれば必ずや成し遂げられるはず」


 敗戦回避の根本理念として、自分の家族や友人の生活を守るってのはずっと私の中にあるので問題を矮小化させて話す。後は、オーディリア先輩に前に言われた1人で何でも成し遂げなければならないという義務感を見直すことも踏まえて、多少のリップサービスも乗せた結果、こんな物言いになった。


「――手の届く(・・・・)人たちの生活を守る。

 ……いえ、すみません。これからはアプランツァイト学園時代の価値観ではなく、他の考え方も取り入れないといけないわけですね」


 ……まあ、人脈形成なり派閥的な考えで基本動くアプランツァイト学園の教育方針は、実際に魔法使いのキャリアがスタートした後でなら大いに有用ではあるとは思うけれども。あの学園の考え方は、何歩も先を行き過ぎている。




 *


「……あや、そうでした。

 ヴェレナ先輩。そういえば、守衛さんから先輩宛てに手紙が届いているとおっしゃっていましたけど、伺っております?」


 話がひと段落したところで、不意に切り出すアロディアさん。

 心当たりはないけれども。


「いえ、聞いていないね。

 手紙の内容って聞いていたりする?」


「預かろうかと思いましたが、封が開いていなかったのを見てやめました。

 なのですみません、内容は全く知らないです」



 封? どうしてそんな些細なことを気にして受け取るのをやめたのだろうか。

 アロディアさんにとってそれは重大なことであったように語るけれども、それは何故だ……。


 あっ、もしかして。

 その手紙は検閲がなされていない(・・・・・・・)ってこと?

 社会情勢と治安の不安定化を受けて、学院に届く郵便物は基本的に全て検閲を受けてから生徒の元へと届けられる。そういえば、景気は改善傾向なはずなのに、この一時的措置の検閲は一向に解除されてないな。


 普通検閲される状況で、封の開いていない手紙が届く、と考えると成程確かにアロディアさんが怪しむ気持ちも分からなくはない。

 なんという危機管理能力。


 そんなアロディアさんの居る場から離れて、女子寄宿舎の玄関へと向かう。

 すると、守衛さんが私の顔を見るなり、手紙を渡してくる。もしかして結構待たせていたのかな?


 そして確かに封が開いていない。

 これは、何だか嫌な予感しかしないんだけど。守衛さんも手紙を渡すだけで中身については一切言及しないし、一旦部屋に戻ってから開けますか。




 *


「まあ、正直この顛末を予想していなかったと言えば嘘にはなりますが……。

 やはり、繋がっていますよね。


 オードバガール魔法準男爵と。そして――学院長」


 守衛さんから貰った手紙には指定された期日に学院長室に来るように通達が為されていた。

 その瞬間から薄々察しはしていたが、実際に当日学院長室の扉を開くと、そこには学院長であるベルトラム・バーチャード氏とオートバガール魔法準男爵が居たのでラインが確定。そしておそらく女子寄宿舎の守衛さんも黒。


「一応言っておくがバーチャード魔法子爵殿は、上層部の命に伏して我々に情報提供を行っていただけで、保安調査部などとは何も関わりは無いがね」


 その魔法準男爵の言によって、学院長の魔法爵位も判明。まあ、流石に魔法使い以外が魔法教育を司る機関の長をするわけはないとは思っていたけれど。


 それで、彼の言葉を信じれば学院長は保安調査部――つまり、諜報・内偵に類する人物ではなく、オートバガール魔法準男爵が私の監視役として色々と嗅ぎまわるための情報提供者という立場であったらしい。


「それで、何故今更私に手の内を晒すような真似を……?」


 学院の上の立場の人間とオートバガール魔法準男爵が連携していることは割と前段階から気が付いてはいたし、公然の秘密のようなものだと私は考えていたが、理解できないのは、このタイミングでそれを明かしてきたのか。


 すると魔法準男爵は渋い顔をして、私にこう告げるのである。


「……本来であれば、この期が来ても簡単に伝えられるはずであった。いや、根本的にはヴェレナさんに伝える義務も無いのだがね。

 全ては、貴方が吟遊詩人との面会の結果、近衛に目を付けられたからだ」


「この部屋は、私の権限で盗聴防止並びに魔道具を運用した哨戒網が作動しております。如何に近衛といえども、魔法の扱いの専門は魔法使いなのです。

 周囲を保安調査部の面々が目を光らせているのであれば、早々中での密談は露見しませんよ。それではごゆっくりどうぞ」


 そう話すとバーチャード学院長は早々と学院長室を後にする。

 えっ、ここ貴方の部屋ですよね。そう簡単に貸し出していいものなのだろうか、と思ったが、そうか。厄介ごとから離れたということね。リスク管理の高さよ。


 そして、私の過激派と警戒して、その思想が王子に伝播しないようにと監視をしている近衛の目と耳を避けるためにわざわざ魔法使いサイドの力を駆使して、近衛が聞き取れない状況を作り出して、私との話し合いの場を設けた意味は考えねばならない。


 また、一方で同時に、この瞬間、私自身が近衛の監視下から逃れているということは逆に言えば向こう側にも『監視を逃れた事実』を知られているわけで、王子が如何にそうした私の監視者と同調していないとしても、私がその気になれば近衛による情報分析から逃れる手段があるという手を、あのアマルリック王子に晒していることとなる。こちらにも後日対応は必要となる。


「……ご用件を伺いましょう。

 ウィトルド・オードバガール魔法準男爵」


「私を直接指揮していた上官であるクロドルフ魔法大臣が予備役編入に伴い、大臣職を辞任したことは聞き及んでいるか?」


 卒業研究でガソリンについて知るために私の下を訪れた当時は魔法大臣であったが、その後退職したというニュースは新聞で見た覚えがある。

 ……えっ、それと私が関連するってこと?


 いや、もしかして。先に私に伝える意味は本来は無かったという言葉も踏まえれば。


「……ひょっとして、私に対する監視が解かれるということでしょうか?」


「その通り。

 後任の魔法大臣であるワルドマ伯は、人事再編を行う予定だ。

 その中で、貴方への監視と護衛というクロドルフ魔法大臣個人の要望が強かった要請は白紙へと戻された。

 その意味が分かりますか?」



 オートバガール魔法準男爵が私の監視役ではなくなる。

 それが意味すること。


 確か、ラルゴフィーラ旅行時のオーディリア先輩の分析では、『学閥』が一枚岩ではないから、私のお父さんの潜在的な影響力を恐れ同時に私に対しても神経質になっていたから、私に監視役が付けられたという話であった。

 であれば、魔法使い内の派閥争いが収まり私のことなどを気にする必要がなくなった? 逆に、私などを相手する余裕も無くなるほど派閥抗争が激化した?


 いや。

 魔法準男爵の言を借りるのであれば、私への監視はクロドルフ元魔法大臣の意向が強かったらしい。であれば、大臣交代により無駄なコストカットとして監視が外されることに?

 でも、そうすると逆に先任の魔法大臣は、私の何を恐れ監視を付けていたのだろうか。


 ん……? いや、クロドルフ氏はお父さんと親交があるのだよな。

 であれば、父の性格も熟知していて、今更復権などを考えているわけではないことは知っているはずだ。つまりオーディリア先輩の分析が、このクロドルフ氏には当てはまらない。


 ……そうすると。私への監視って。


「もしかして、オートバガール魔法準男爵。

 ――私への監視と言うのは、本当に私のことを守るための……影の護衛役であったということですか?」

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