表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/174

4-18


 ――午前8時。


 寝台特急内にて一夜明かしてガルフィンガング中央駅に降り立つ。そして、私達を今まで乗せてきてくれた紫色と白色のラインカラーを持つ車両が全員の降車を確認するとゆっくりと発車し駅を後にした。


 いつもは駅のホームで乗車証明書の確認と手荷物の簡単な荷物検査しかしないのに、今日はその後乗車時に行ったような魔法装置を使用した大がかりな検査も行った。……やっぱり不審死事件の影響なのかな。


 まあ考えてみれば事件現場であるラルゴフィーラと王都を結ぶ数少ない直通列車でかつ、事件後初の寝台車両だもんね。警戒はするか。


 チケットが当日購入な点を若干怪しまれたものの、魔法青少年学校に通う生徒で旅行の途中に、何故か(・・・)魔法使いの方が来て強制的に帰宅させられた、と若干不満そうな演技を込めてビルギット先輩が話したら、駅の係員の方が気の毒そうな顔になってそのまま通してくれた。演技派である。


 全てを誤魔化すとかえって怪しまれるし、かといって向こうであったことをそのまま話すのは、もう一般にバレているとはいえ魔法使い内では箝口令かんこうれいが出されていると聞いたので良くない。……もう解除されているかもしれないけどね。


 全てのチェックが終了し、一般のお客さんもいる改札内部へと出る。


「……とりあえず、ここで解散に致しましょうか。

 私は既に魔法省から連絡は行っていて不要だとは思いますが、ひとまず魔法青少年学校の方に今回の事情説明をしてきますね。寄宿舎は空いていなくても職員室に誰かしらいるとは思いますので。

 その後調べ物ですね。ビルギットはこのまま実家にお帰りですか?」


「そうね。私も本家の方にある程度伝える必要はありますから。ここからは鉄道ではなくバスでの移動になりますしね。

 ……ラウラはヴェレナさんとともに生まれ故郷へ行くのですよね?」


「ああ、まあなー。ちょっとここからだと遠いから今すぐ列車に乗るけどな」


 オーディリア先輩がまず一度学校に戻るということは、行くときに乗ってきた路面列車に乗ることになる。……というわけでオーディリア先輩の言う通りここで解散だ。


「それでは、ラウラ。ヴェレナさんのこと、よろしくお願いしますね?」


 オーディリア先輩が念を押すようにラウラ先輩に詰め寄る。


 ……保護者みたいだな、オーディリア先輩。




 *


「それで、先輩の家ってどの辺りなんですか?」


 解散してラウラ先輩と2人になり、とりあえず普通列車の駅のホームで次発を待ちながら質問をしてみる。


「おー……、えっとそうだな。

 とりあえず今から乗る列車でロッシュヴェルまで行って、そこからは路面列車を乗り継いでオーティローンという郊外の駅に向かう。

 そこから私の家までは更に20分、30分ってとこだな」


 ロッシュヴェル……。何度か利用している駅だからそこは知っている。昔ソーディスさんと映画を観に行ったのも確かあそこだった。しかも、私の住むヘルバウィリダーからも列車で数駅といった近さなのだ。


 ただし、その先に出てきた『オーティローン』という地名は分からない。


「ロッシュヴェルからその……オーティローンまでは、どのくらい路面列車で時間がかかるのですか?」


「まあざっと1時間ってところか。王都から少し外れるから時間がかかるといえばかかるけど遠くはないと思うぜ、路面列車様様ってわけさ」


 それなら私は大体2時間くらいで家に帰れるね。それと王都から少し外れるという言い回しをするってことは王都ではないってことなのかも。

 でもこの国ってロールプレイングゲームみたいに王都が壁で囲われているわけでもないし、王都そのものが人口密集地域……都会だから周辺の州との境界も分からないくらいなんだよね。


 そうこうしているうちに、青色と水色のラインの列車が到着した。列車の色は等級と路線を示すものだったっけ。それで青色が2等車だったはず……。


 ……となると、先ほどまでみんなで乗っていた寝台特急は紫色と白色。そして行きのときは青と白だったはずだから、1等車は紫色なのか。


「何、列車の車体ばかり見ているんだ? 早く乗らないと置いていくぞヴェレナ」


「あっ、すみません、乗ります乗ります! 置いて行かないでください!」




 *


 ガルフィンガング中央駅を後にしてロッシュヴェルまで列車、そこから先は路面列車を何度か乗り継いで、まずはオーティローンを目指す。


 ロッシュヴェル周辺では住宅街や時折繁華街もあり人の活気を大いに感じられたが、段々と下町風情溢れる街並みが路面列車の外には広がるようになってきた。

 ……やっぱり王都を外れるほどにこの国の木造建物の割合は高くなる。まあ、国名がそのものずばり『森の民』だから森林資源には余裕があるんだな、など若干既視感を覚えつつも考える。


 しかし流石に路面列車を1時間弱乗っていると同じ住宅街といってもロッシュヴェル周辺と今私が見ている風景には差異が生じてきていた。


 王都中心近郊は住宅街も建物密集地域が多い。場所によってはソーディスさんの家のように集合住宅というパターンすらもある。

 そのため街には建物が所狭しという雑多な印象を受ける。まあ、私の実家があるような高級住宅地では1軒1軒が整えられていることと、庭があることで建物密集による圧迫感はなく整然とした印象が見受けられるが、それでも建物だらけであることには変わりない。


 しかし、この辺りは家や個人商店以外にも小麦や野菜の畑がモザイク状に広がっている。鶏や豚などの動物の厩舎もあるくらいだ。


 それは農村や田舎を想起させるような風景ではないけれども、だが王都中央の住宅地とも異なるいわば『郊外都市』のような趣を醸し出している。



 ――そういえば。

 ふと、思い出したが似たような景色に若干の既視感があったのだが、私がこの世界に降り立った次の日に『公用車』で行った魔法病院までの道中もこんな感じだった気がしないでもない。でもまあ、あのときは気が動転していてほとんど風景なんて頭に残っていないけれどもね。


 となると、ラウラ先輩は下町に住んでいたって話だったしきっとこんな感じの風景で育ったのかな。今から気になる。


 ふと路面列車の長椅子に旅行用のバッグを挟んで座るラウラ先輩に目を向けると、私のこと……より正確に言うのであれば、私の全身を凝視していた。


「え、えと、ラウラ先輩? 私の身なりに何か問題でも……?」


 今の私の服装は、Vネックの無地の半袖白シャツにインディゴのデニムサロペット。これに頭にはアイボリーのカプリーヌハットを被せ、足元はワインレッドのバルカナイズドスニーカーで整えている。


 うーん、確かにはじめてお伺いする先輩の家に着ていく服としてはちょっとカジュアルすぎたかもしれない。だけど、旅行帰りだから着替えろと言われれば一応明日着る予定だった服が無い訳ではないが、それも同じくらいフォーマル感はないからなあ。


「……いや、ヴェレナの今の恰好はどっからどう見ても良家の娘って感じだからなー……。今着ているそのサロペットの素材だって、触り心地から違うじゃない」


 ……まさか、素材まで見ているとは。

 私が服を買う時は、基本的に触り心地とかフィット感あたりしか気にしない。あるいは親と買い物に行くこともあるけれども、そのときはお母さんだったり、お店の販売員の方だったりに割と丸投げだ。もしかしたら素材も気を遣われているのかもしれないが、自分で考えたことは無かった。


 ちらりと自分の着ているデニムサロペットのタグを見る。


「ええと……、素材はレーヨンのようですね」


「――道理で。

 まさか人造繊維とはねえ。やっぱりそういうところはお嬢様だよなあヴェレナ」


 その発言に対して一瞬、そんなにお嬢様呼ばわりされるような服は着ていないと思ったけど考えてみればそうか。オーダーメイドではないにしろファッションショップで服を選ぶという行為そのものが普通はしないんだ。確か布を縫製して自分で服を作るのが一般的な価値観だったね。

 元の世界では当たり前だった服の購入1つでお嬢様と言われるところは、さすが異世界カルチャーギャップ。


 そして、人造繊維。ルシアの製紙業周りのときにリベオール総合商会が繊維業を行っていたことから少し触れたが、確か6年前の段階では人造繊維は高級服や既製服といった中流階級向けの服飾産業にしか広まっていなかったわけで。

 森の民金融恐慌以後に、国策として繊維産業へのテコ入れが行われたが、そこで拡大されたのも紡績・製糸・織布といった産業。これも綿や絹などの天然繊維を加工する産業なわけで、技術革新やら価格低下やらが起きている可能性はあるものの人造繊維側は依然として高級路線を歩んでいるっぽいね。



「でも、まあ平気か……。

 あー、ヴェレナ? オーティローンまでは大丈夫だが、そこから先は絶対私から離れるなよ?

 ……良くて窃盗、最悪誘拐されるぞ、お前」


 ひえっ。治安悪すぎじゃない? と思ったけれども、そもそも治安悪化してたわこの国。


「でも、それならラウラ先輩も危なくないですか? 所詮中学生女子2人ですし、私とラウラ先輩であまり変わらないのでは?」


「でも、地元ならウチのことを知っている人ばかりだからなあ。

 仮にウチを誘拐する輩が居るとすれば、外から来た何も知らない阿呆か、ウチの後釜狙いの逆賊とかくらいじゃねーのか」


 一体何者なのか段々分からなくなってきた、この人……。




 *


 オーティローンに到着し路面列車を降りる。路面列車は先払いで50ゼニー支払っているため何もせずそのまま下車して大丈夫だ。


 どうやらこのオーティローンの停留所は、この地域の路面列車のターミナルな様相を示しており、様々な方面の路面列車が出ているとのこと。

 そうした地域の交通の中心地なので、鉄道路線こそ走っていないものの路面列車停留所以外にもバス停なども多く集まっている。

 その周辺には市場や魔石の集積所などがあり、屋台や出店が出揃っていて、王都の中心街から1時間離れたエリアとは思えないほどの活気に満ち溢れている。


「おいおい、ヴェレナ。はじめて来たから真新しいのは分かるが、頼むからはぐれないでくれよ……。ほら、こっちだぞ」


 まあこれだけバス停やら路面列車停留所があると、どこに行けばいいのか私には皆目見当がつかない。


「ここから、先輩の家に向かうのですよね? どちら行きのバスや路面列車に乗るのでしょうか」


「ああ、ウチの生まれ育った街――『ハウトクヴェレ』に向かう。

 ……ただ、まあウチの街にはバス路線は走っていないから……『改バス(・・・)』を使うけどな」



 ――『改バス』……?

 ええと、全く聞き覚えが無い。この世界に飛ばされてからは勿論のこと、多分前の世界でもそんなものは無かった気がするが。


「えっと、その……改バス、というのはどういったものなのですか?」


「あー……、そうか。ヴェレナが知らないのも仕方ないか。

 ほれ、今あそこに止まっているやつが改バスだな」


 そこにあったのは、塗装こそ違えどどこかで見たことのあるようなフォルムの箱型に、車輪が見えない程の低い車体。


「あの、これって路面列車の車両じゃ……?」


「おお、そうだぜ。

 老朽化した路面列車の車両を改造して軌道上以外も走れるようにしたのが、路面列車改造バス……一般には改バスと呼ばれている。

 まああそこに見える旅客用の車両だけでなく貨物用の車両でも無理やり座席を取り付けて走らせているものもあるな」


「となると、貨物改造版の改バスは、ラルゴフィーラで急遽乗った兵員輸送車みたいな感じですかね?」


「……確かに乗り心地の面では近いかもしれないなー、まああっちで乗った車より車内は広いから乗客無理やり詰め込んだりもするけど。……そうだった、ヴェレナ? 10ゼニー硬貨は持っているか?」


「えっ? ……あっ、はい。持っていますけれど……何に使うのですか?」


 そして私が財布から10ゼニー硬貨を取り出したのを確かめると、ラウラ先輩はおもむろに車道に目を向ける。

 確かに、言われてみるとこの街。路面列車だと思っていた車両のうち半分くらいはレールの上を走っていない。みんなロード仕様に改造されたバスだったのかこれ。

 車体を良く見れば地名らしきものが書いてある改バスもあるが、如何せん文字が小さい。


 すると何かに目星をつけたのかラウラ先輩が、私に声をかけながら動き出したので慌てて先輩の後を追う。

 そして車道の脇まで躍り出て走っている車両に手を振り合図を取る。


 ……先輩が合図を取った車両もパッと見は路面列車だけれども、道路上を走っている――つまりは、改バスであった。


 その合図をされた改バスは徐々に速度を落とし、私達の目の前に停車した。

 ああ、これタクシーと同じようなシステムなのね。


 すると、ラウラ先輩は突然その運転手に話しかけだした。


「おーい、おっさん! この改バス、ハウトクヴェレを通るよな?」


「……ああ、見れば分かるだろ」


「まあ、確認だよ確認。

 それで、ちょっとばかしウチと連れの荷物が大きいんだ。これ(・・)でそこの助手席に置いて貰えねーかな?」


 そう言って私が先ほど渡した10ゼニー硬貨を取り出す。……あれ? 期せずして先輩にパクられたのか、これ?

 すると、運転手のおじさんははじめて興味を持ったかのように、面倒そうに私の方を向き、そして私と先輩の荷物を大きさを目線で確認する。


「いや、嬢ちゃん達が荷物に何入れているのか知らねえが、もっと出してくれねえと……待て、嬢ちゃんハウトクヴェレ(・・・・・・・)って言ったよな?

 失礼だが、名前を教えてくれねえか?」


「ウチか? ウチの名前はラウラ。ラウラ・ワルデブルグだよ」


「……ってことは、やっぱり『ハウトクヴェレのお嬢』じゃねえか! 申し訳ねえ、俺らとシマが違うから気が付きませんでした。

 ハウトクヴェレのお嬢から代金なんてとてもとても、受け取れねえ! どうか荷物でも何でも乗せて下せえ」


「……いや、金は受け取って貰わねえとウチが困るっての。

 でもまあ確かに、こいつの身なり見たら荷物預けるには10ゼニーじゃ安すぎるか。

 ……ほれ、100ゼニー出しておく。これで乗せてくれ。勿論ウチらの料金は後で払う」


 恐縮そうにお金を受け取る少々ガラの悪そうだった運転手と、割と慣れた対応をするラウラ先輩。



 ……ってか、先輩地元で『お嬢』って呼ばれているのか。

 マジで何者なんだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ