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4-15


 旅行日程3日目。我が国西部の大都市・ラルゴフィーラに到着してからで数えれば2日。


 宿泊施設をレンタルする条件でかつオーディリア先輩の策略で簡単なボランティア体験を行った私達であるが、この3日目からようやく観光に出歩くことができる。

 私達は朝早くから出発するために、昨日家に帰ってきてから準備をせっせと行って、そのまま疲れで全員早い時間に寝静まっていた。今朝なんて私爆睡しすぎていてビルギット先輩に起こしてもらった……。いや、恥ずかしい。


「ああ、中心街までは教会の方が車で送迎してくれるそうですよ。帰りも夕ご飯を頂いた後に向かいに来て下さるそうです」


 オーディリア先輩が語るのは何という至れり尽くせり状態。この教会が少々ラルゴフィーラの主要地域から外れたエリアにあるから本当に有難いのだけれども同時にそこまでしてくれることに末恐ろしさも感じる。まあ好意にはただ乗りするのだけれども。


 そして軽く朝食を頂いて、陽射しが昇り始めて照りつける太陽の暑さをじわりと感じ始める朝日の暑さを感じつつ、教会の車へと乗り込み、中心駅たるラルゴフィーラ駅へと向かうのであった。




 *


「えっ、なんですかこれ? 見た目は揚げパンみたいですけど……」


 テイクアウト専門の店舗の壁には所狭しにメニューが細かく書かれている。でも、そのほとんどが、陳列棚で保温してある『揚げペイストリー』のメニューだ。

 一番定番と書かれた『トマトとフレッシュチーズの揚げペイストリー』。その横には『ブロッコリーとリコッタ』、『サラミとシチュー』、『焼き野菜のオイル漬け』、『白身魚とオリーブ』などなど無数に続く。

 ただ、その『揚げペイストリー』とおそらく想定されるディスプレイ棚内のものは一見して判別できず、見た目は変わらない。……中身というか具材が入っているのだろう。


 店舗の売り文句には、商業都市国家名物の一言。その文字列を指差しながら無言でオーディリア先輩に目を合わせると、無言のまま目で頷いた。……あっ、本当に商業都市国家群である料理なのね。


 そういうことなら、と私が定番メニューらしき『トマトとフレッシュチーズ』の一番小さいサイズを注文したら、便乗するかのように先輩3人も各々別の揚げペイストリーを頼んでいた。


 一番人気なのだろう、陳列棚からすぐに出てきたが包装紙に包まれた揚げペイストリーは熱気でほかほかとしている。まさかこの陳列棚って保温のために魔法的技巧が施されているのか。



 外から一見するとただの粉のかかっていない揚げパンだ。ただし私の片手で余裕のある手のひら大のサイズである一方で、大きさの割には重量感がある。

 まあ、とりあえず一口と言うことで口にそのまま運び入れる。生地はかりっととしていて食べやすい。そして中に入っているチーズがトロトロとしていてかつ濃厚だ。そのチーズに絡むトマトソースの酸味が絶妙にマッチングしており、さくさくいける生地に変化を与えながら口当たりを楽しむことができる。


 そして食べて気が付いたが、このトマトソースとチーズの組み合わせはピザのマルゲリータに近い。つまり、イメージとしてはマルゲリータピザをそのまま生地で包み込んで揚げたような感覚だ。勿論、ピザ生地を揚げたということではないだろうけど。


 そして改めて店舗のメニューに何となしに目を向けると、ピザとして食しても合いそうなものばかりが書かれていることに気が付き、自身の中で合点がいく。


「さて、行きますか。『揚げペイストリー』であれば食べ歩きもできそうですし。

 もうまもなく人通りが多くなりますから早い所回ってしまいましょう」


 ああ、そうだった。

 ここはラルゴフィーラ最大の観光商店街である、商業都市国家街。その入口。


 ラルゴフィーラで最も有名な観光地であると同時に、商業都市国家や街道の民出身の方が多く住む街区である。




 *


 商店街はかなりの長く見る人を楽しませるため、人気が高く活気がある。

 そこに出店しているお店も我が国ではあまり見かけなかったりする独自のものも多い。


 ふらりと入った伝統工芸品感の強い雑貨屋さんでは、エスニック感漂うアイテムが多く販売されている。

 あっ、なんだこれ? ふわふわとした傘? のようなものから無数の触手が生えている透明感のある、まるで『クラゲ』のような物体をモチーフとした装飾の施されたヘアピンがある。


 『クラゲ』の髪留め……。うん、レベルが高いなこれ。一応リアリティのある感じではなくデフォルメはされているので、キャラクターグッズみたいな雰囲気はある。だから全く似合わない、ってこともないけど。


 何となく目の前に置かれている鏡の前でヘアピンを付けて確認してみようとした瞬間、ラウラ先輩が思いっきり顔を顰めて私の行動を批難するような口調で言い放った。


「うわっ! ヴェレナ、流石にそれはやべえぞ……。『脳霧のうむ』の髪飾りとか趣味悪すぎないか……」


 まさかのドン引きである。

 というか、ラウラ先輩は『脳霧・・』と言ったな。クラゲではないのか、これ。


 ……ああ、そうか。そもそもこの世界に海が無い。淡水でも生きることのできるクラゲがこの世界に存在するのかは知らないけれども、海のクラゲと比べてしまえば個体数や種類数は雲泥の差であろう。だからこそ仮にこの世界にクラゲが存在していても知名度は低い。


 その代わりに『脳霧』と呼ばれているというわけだけど、一体何者だ? と、そんな考えを巡らせている間に硬直している私のラウラ先輩の下に2人がやってきて、オーディリア先輩が口を挟む。


「ああ……。我が国では馴染みはないかと思いますが、商業都市国家では魔物・・の姿を模倣して作ったものが魔除けになるという伝承があるのですよ」


 ――ということは、このクラゲのような何かは魔物がデザイン元であることが確定するわけで。


「それでですね、『脳霧』は人の集中力や判断力を下げる魔物ですね。精神疾患によく似た症状を示すことから医学的に判別することができなく、実体が存在しないとも言われており効果的な対処方法は事実上存在しません。

 ……ただ末期状態の方に自身の状態を絵で描かせたりすると、ヴェレナさんの持っている髪飾りと同じような造形、つまり傘のような部分からいくつもの触手が伸びている絵を描くことから、それがこの『脳霧』の姿と捉える考え方もあります。


 ――この魔物は寄生タイプで、寄生された者は末期には口を揃えて……その、頭皮に……」


「ああ……もう、やめてください……オーディリア先輩。すみません、私が悪かったです……」


 一応品物ではあるので、手に持っていた髪飾りをそっと元に戻す。


 幼少期のときに聞いた『取り替え子』のときも思ったけれども、何でこの世界の魔物は寄生だとか捕食だとかそうしたえげつのないものばかりなのか……。脳に寄生とかマジで勘弁してくれ。そりゃ、ラウラ先輩も引くわ。


「彼の国の独自の文化ではありますが、そうした装飾品を身に付けたり、後は家に飾ったりすることで『仲間である』ことをアピールして、魔除けにするという考え方なようですよ。

 だからこそ『脳霧』をモチーフにした髪飾りなのでしょうね。その頭に装飾できますので……」


 ……うーん、理屈は分かったけれども、文化圏の違いを感じるね。

 今まで前世と異世界のギャップに悩まされることは多かったけれども、ここに来てはじめて異世界でも国家間のカルチャーギャップが存在することが分かった。

 そしてビルギット先輩が、オーディリア先輩の文化談義に口を挟む。


「……あら? 確か『脳霧』は既に寄生されている方にも二重寄生が起こり、寄生回数によっても脳霧の力は増幅されるはずでは……?」


 ……何でそういうえげつない情報を捕捉するのですか! これ以上話され続けたら泣くぞ、私。




 *


 その後、商業都市国家街を離れて、次なる目的地に歩いて向かう。


「今日中に回れるところは一気に回ってしまいますわよ」


 と、そんなオーディリア先輩の一言で、私達のモチベーションが変化する。



「ああ、これは……今から250年前に活躍した『ヴァンジェールの天才魔術師』と呼ばれた魔法使いが使っていた当時としては最先端の魔力回路を組み込んだ防具ではないですか!

 こちらは、我が国の統一時代に王家すらも唸らされて統一会議騎士団は制式採用されたエッヒカトン式の馬上戦闘に優れる金属製のあぶみもあるとは……」


 ラルゴフィーラ魔法博物館。ここで最もテンションが上がっていたのはビルギット先輩であった。

 この博物館は魔道具や魔法使いが使用していた武具・防具の展示がなされており、我が国の統一までの歩みを展示物で示している施設である。そんな博物館の物品に大きく感銘を受けているビルギット先輩だが、考えてみればこの人の家では馬飼っているんだったね。武具とかに関心を抱くのもそういった繋がりからなのだろうか。


「えっ……? 『飛行魔法の特別展』、ですか!? 

 オーディリア、ラウラ、ヴェレナ、これは行きますよ!!」


 その豹変ぶりに全員苦笑いしながらビルギット先輩の申し出を快諾し、特別展示のブースへ移動する。でも……、


「飛行魔法って……、飛竜や飛行機の操縦に関する技術ってことですか?」


 この質問に反応したのはオーディリア先輩だった。


「いえ、そちらではなく。狩猟採集時代に行われていた古魔法の方ですわね」


 古魔法。まだ農耕文明が発達する前段階で使用されていた属性魔法。

 そちらでの飛行魔法ということは……、えっじゃあガチで人間が空を飛ぶやつってことじゃん! すごい、そりゃあ見に行かなくては!




 *


 ラルゴフィーラ魔法博物館を一通り回った後に、そこから徒歩数分程度でたどり着ける総合魔錬学館を訪ねる。

 こちらは魔法と錬金術の共通分野たる魔錬学に特化した展示がなされている。……この辺りは博物館とかが密集しているのか、と思うくらいの充実具合である。


 魔法 VS 錬金術と称して魔導工学と応用錬金術、双方それぞれの技術を結集させて作ったロボットアームの性能を競わせるという展示や、天体魔錬学の権威と魔法幕僚本部の外局として設置されている気象研究センターが合同で開発を行ったという我が国の気象予測モデル、更には魔石装置と自分の身体の中にある魔力を用いて動かす魔道具の特性評価なども行われていた。


 ……うん。何となく分かった。

 この施設は、科学館に近い。魔法や錬金術という言葉が全面に出てくるため分かりにくいが、前世世界の科学に相当する技術展示がなされている。


 そういえば初等科時代の勉強会にて、この世界が中世ではない(・・・・・・)ことを学んだ。人には労働力という価値だけではなく『魔力資源』という観点から、身分問わず保護政策が取られ、逃亡されないように住みよい国家づくりをしていく途上で国民国家が成立し、近代国家として歩み始めた、と。


 この流れを魔法と錬金術としてみたときに、科学技術というものがどういう立ち位置かと言えば、魔法・錬金術の『手法』として取り込まれ受容された結果『科学技術』という分野で独立することがなくなったという推察が可能である。

 この世界においては、科学技術が古典的な技術ややり方に勝利したわけではないのは当然だがさりとてそれらが敗北し排斥されている、というわけでもない。


 だからこそ、私の見知った科学技術の話が、この世界の魔法・錬金術には登場する。そして科学というのは魔法側と錬金術側で異なる結果が出るものでもないので、両者の共通領域たる魔錬学が科学技術を内包しているのもある種必然と言えるだろう。


 ……ということは。多分あれ(・・)があるはずなんだ。この世界の技術水準が仮に前世世界の科学技術とリンクしているのであれば。


「……あった」


 ――『魔力と蒸気力・電力の比較展示! 他のエネルギーと比較した際の魔力の優位性』。



 そうだよね。機械があり。鉄道車両があり。飛行機すらも飛んでいる世界なのだから。

 ――電気の発明が行われていないわけがない。


 電気が普及しなかっただけなんだ。

 その理由も、この展示で見て明らかとなる。

 エネルギー変換効率などの数値データでも魔力が優位と書かれていたが、それよりも分かりやすかったのが貯蔵と伝送手段。


 実に簡単な話で、電気は蓄電する方法も限られその容量も手間とコストの割に大したことが無い。一方で魔力は魔石に充填可能で、しかも魔石そのものは魔力の再充填も可能だ。


 そして、電気は送電線網などを新たに構築して電力専用の輸送インフラを整備・保守するという膨大なコストがかかるが、魔力ならば魔石の状態でどこにでも運ぶことができ、貯蔵もできるので即座に運ぶことや常時魔石を送り続ける必要もない。

 ……魔石のために鉄道路線が出来たという話もあったが、その鉄道路線も別に魔石だけでなく様々な物資を運ぶことができ、旅客車両では人も輸送できるのだ。送電線には存在しない汎用性の高さである。


 必要な場所に必要量だけ輸送というのができて、余剰分は保管すら可能となれば、電気のが非効率という結論に至るのはある種当然であり、この世界では魔力こそが主要エネルギーとして君臨するのも納得がいった。


 ……でも、だからこそね。魔力優勢の世界への逆張りというわけではないんだけど。あれだけ電気に囲まれた世界で生きてきた私だからこそ、その残滓くらいは残したいなとも思ったり。




 *


「おっ、ヴェレナ、『ジャガイモのフリット』、1つ食うか? ……って、何見てるんだ?」


 ラウラ先輩は総合魔錬学館の外の売店で買ってきた『ジャガイモのフリット』を差し出し聞いてくる。ジャガイモのフリットは、名前こそ違うが私にとって馴染み深い名前で言えばそのままフライドポテトである。ただし、そのポテトを入れる容器が少々趣向が凝らされていて、ワッフルのコーンが使われている。食べられる容器ってやつだ。


「あっラウラ先輩。おひとつ貰いますね。電力展示のところ見ていましたら、このパンフレットを貰いまして……」


 貰ったパンフレットには、『サッカープレーオフ交流戦! ラルゴフィーラ・モナル VS フェッロシーエFC 毎年1度限りの森の民・街道の民の直接対決に来たれ!』との煽り文が。まあ、総合魔錬学館を訪れたお客さん相手に無差別に配っているのだろう。でなければ私に渡す理由がない。


「……ん? ヴェレナってサッカーに興味があったのか?」


「いえ、そういうわけではないのですけれども。年に1度限りというのが少々気になりまして。強いチーム同士の試合ならいい機会ですし見るのもありなのかな、と」


 まあ、正直前世でもサッカーの試合にはあまりご縁は無かった。

 ……でもルールなどは何とか知っている。何故か? ……そりゃあサッカーやれば最低11人は男の子が出てくるわけで、その手の恋愛ゲームの舞台としては最適だもの。サッカー部マネージャー物の作品が巷にどれ程転がっていると思っている。


「あー……、そういうことなら行くか? 別にビルギットもオーディリアも反対はしないだろ」


 そんなことを話し合っていたら、期せずしてその話題に挙げた2人も戻ってくる。簡単に経緯を説明したら「そういうことなら行ってみましょうか?」と案外乗り気と言うか肯定的な意見がかえってきたので、お言葉に甘えてサッカーのスタジアムに向かうこととする。


 頂いたパンフレットを再度見直すと、一度ラルゴフィーラ駅まで戻ればスタジアムまで直通の送迎バスが出ているとのこと。


 幸い、今いる場所から駅までは歩いても10分程度といったところか。それならのんびり徒歩で向かっても構わないかという結論に至り、4人プラスお付きの人2名で大通りの歩道を歩き続ける。

 何というかビルギット先輩のお付きの方らは擬態能力が高いというか、雑踏に溶け込みやすいというか、こうして大通りを歩くみたいな状況でないとその存在を忘れるほどに私達の邪魔にならないようにという配慮が上手である。……まさか、本職だったり? いや、どうなんだろう。従士階級の家の傍系という概念はいまいち掴みかねる。


 正直暑くて考えが突拍子もないところに飛んでいる気がする。夏場だから無舗装でアスファルトの照り返しが無いとは言え道路を歩くのは少々堪えるのである。街の様子でも見て落ち着くか。


 大通りには木造の建物からコンクリート製の建物まで様々だ。ただ共通しているのはいずれも最高でも3階、4階建てが限度であること。まあ、こうした風景は王都でも良くあった。それと中心駅に近いことから地価も高いのだろう。高級店やら銀行などが立ち並び、住居の類はみられない。とはいえ、一本側道に入ればそこから先は無限に続くかのような街並みが広がっているが。


 そうしてぼんやりと数分は歩いただろうか。先ほど話した側道を何となしに見てみると、何やら不自然に人だかりができている。

 私が無意識的に目を向けて何かを発見したことは、先輩もお付きの人も分かったようで、全員が同じ人の密集地帯を見つめる。

 まあ一番最初に見つけ出したのは私なので、代表して声を発する。


「……何かイベントでもやっているのですかね?」


「行ってみますか? 送迎バスの時間も余裕がありそうですし、多少の寄り道くらいなら旅の付き物ですしね」


 ビルギット先輩がそう言うと、オーディリア先輩もラウラ先輩も異論は無いのか、全員でその人が集まる大通りを1本外れた道へと入る。



 否、入ろうとした。


 ――突如、ビルギット先輩のお付きの方2人が私達を庇うように回り込む。


 その直後、後方から声をかけられる。


「フリサスフィス嬢と魔法青少年学院のお三方! 突然お声をお掛けして申し訳ない! 私は魔法省の者だ。魔法使いとしての上位者として、君達にお願いがある。


 ――直ちにこの場を離れ、旅行を終え帰路に着いてほしい。無論、王都までの帰宅手段についてはこちらで全て負担する」



 ……その発言を聞いた瞬間、オーディリア先輩が私を庇うように前に出て、相対する男に即座にこう言い放った。


「申し訳ございません。魔法省の方と名乗られましたが、私達は面識がございませんので判断がつきません。所属と階級とお名前、そして身分証のご提示をお願いできますでしょうか?」


 突然の相手にこの対応力。そしてオーディリア先輩、明らかに警戒している。

 先輩に相手の意識が向いているうちに、ちらりと声をかけてきた男性の姿を確認する。一応魔法使いの正装は身に着けており、偽造したら犯罪となる魔法使い紋章も制服についていることからどうやら相手の身分は本当の可能性が高い。そして階級を示すネクタイの色は白。学生を示す『緑』ではないことから、本物であれば『魔法爵位』持ちだ。右の胸ポケットの上には2つほど受賞歴を示す略綬(りゃくじゅ)が着いている。


「……失礼した。魔法省整備局保安調査部所属、ウィトルド・オードバガールだ。魔法準男爵で、その証明はこちらだ」


 1枚の書類をビルギット先輩のお付きの人に渡す。ただし、お付きの人は魔法使いに関して詳しくないため判断はできないことから、オーディリア先輩へと回る。

 書類を一読して、私達にも見せた上で一言。


「……書類も本物、のようですね。大変失礼いたしました、オードバガール魔法準男爵。

 この場所からの退去の件については承りました。直ちに駅へと向かいます。ですが、旅行を終える……すなわちラルゴフィーラから離れる件は学園の方にも申請を出しての旅行なので、事前計画に反する行動は正直決めかねます。

 ……何か命令でも出ているのでしょうか? でなければ事情を伺いたいのですが」


 そのオーディリア先輩の言葉に逡巡迷ったような表情を見せた準男爵だが、意を決したのか一拍置いてこう述べた。



「……数十分前に、そこの人だかりの中にあるホテルの一室でサンカラット・ラムセスという男が頭部を撃ち抜かれ死亡しているのを従業員が発見した。

 現在分かっているのは、死因は被害者の左手に握られた魔法銃・・・であること。そしてラムセスなる男は、外務省の職員で『商業都市国家群への駐在公使』として赴任する予定であった外交官であることが分かっている。

 現時点では自殺かそれに偽装した他殺かの判断が付いていない。


 ……他殺であった場合、彼の者の役職を踏まえるとガルフィンガング解放戦線のような過激派組織によるテロ行為、あるいは商業都市国家群出身で我が国に反感を抱く者による敵対行動の可能性も考えられる」

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