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4-12


 ――不意に、目が覚める。


 目が覚めて感じたのは、揺れ。一瞬地震か!? と思い身構えてしまったが、少し考えてみれば今居る場所が寝台特急のベッドの中であることを思い至り、揺れていて当然か、と思い直す。


 そんな揺りかごのような揺れを感じながらベッドから身体を起こす。今何時なのだろうか。

 窓の外を見ると、外は真っ暗で、鉄道周辺こそ寝台列車のライトによって照らされているものの街灯1つすらなく、今どこを走っているのかも皆目見当がつかない。まあ、景色が見えた所でどこなのかは私には分からないが。


 そして思い出す。あの、『恋歌帖れんかちょう』と呼ばれるカードゲームを先輩らと一緒に4人でやった後のことを。カードゲームは存外盛り上がり一通り楽しんだ後は、隣の車両である11号車で見つけた水発生装置のシャワーを交代で浴びた。一応出発する前に魔法青少年学院の寄宿舎でお風呂には入ってきていたが、列車内のシャワーというものが気になって使ってみた。


 正直揺れがあるので必ずしも使いやすいというわけではないのだが、手すりが所狭しとシャワールーム内に設置されていて、着替えやタオル置き場は多少揺れても荷物が落ちてこないように工夫されている。これなら水がかかって台無しになる心配はない。


 お金を入れると、一定水量が使える仕組みになっていて、それはさながら海水浴場の仮設のシャワー室や、市民プールなどを若干想起させる造りになっていたが、賢いのはお金を入れたらお湯が出っ放しになるわけではなく、水量の調節が可能になっていた。そのおかげで余裕を持ってシャワーを浴びることができるわけだが、これってシステム的には利用者の回転効率は良くないよね、と思いつつ4人全員利用して何だかんだ1時間近く1つしか無いシャワー室を占有していたような気がする。

 その間、他のお客さんとかが来た形跡すら無かったので、あんまり使わないのかもね。


 そうやってのんびりとシャワーを浴びて取り留めのない話をしていたら、何となしにお開きの流れとなり、そのまま眠ることになって2段ベッドの上を使わせてもらい横になった直後から記憶が無い。

 まあ、爆睡したってことだね。初日でそんなに疲れなどは無いはずなのだが、環境の変化で気疲れでもしたのかな。



 ……と、そんな寝る前のことについて思いを巡らせていたら、ふと『恋歌帖』を行っていたりした室内の4人掛けのボックス席の読書灯というか手元だけを光らせる集光性のルームランプが付いているのが目に入った。


 ――誰か起きてるね、これ。


 今の時間が何時かは懐中時計を荷物の中に入れておりベッド周りに置いていなかったため分からないけれども、寝たタイミングとまだ外が明るくないことを鑑みればまず間違いなく深夜帯だろう。

 そう考えていたら目が冴えてしまった。今更灯りのことを無かったことにして眠る気分にもならないので、好奇心に身を任せベッドを降りることにする。



「あら……? 申し訳ありません、起こしてしまったようですね……ヴェレナさん」



 そこにはオーディリア先輩が居た。何しているんだ、この人。




 *


 2段ベッドの梯子はしごから降りて、声のしたボックス席へと向かう。地味に学院での特別教育の『梯子登攀(とはん)』のおかげでこのくらいの梯子は一瞬で降りられるようになったのだが、それよりも先に気配とか物音で気付かれてしまったようだ。

 そしてオーディリア先輩の対面に着席して、照明装置からの淡い光を頼りにして机の上を見てみると、オーディリア先輩が何をしていたのか把握することができた。


「これは……手紙、ですか?」


「ええ、実は先ほど(・・・)届いた手紙なのですけれども……」



 ……『先ほど(・・・)』?

 私達ずっとこの寝台列車に乗っていましたよね? どこから手紙なんて届くんだ。


「……先ほど、というのはいつのお話で?」


「ほんの15分ほど前ですわね。……ああ、そうですね、あまり例のないことですもんね。一応列車の乗客に郵便物を送ることはどうやら可能らしいのですよ。

 ……いえ、私も今こうして送られてそんな方法があったのか、と初めて知ったのですが」


 そこからオーディリア先輩がかいつまんで説明する。

 そもそも郵便とは荷物を他の場所に送ること。この世界にも前の世界同様郵便局が存在することは幼少期の頃から知っている。……まあその前身組織がギルドだったりするなど些細な差異は存在するが。


 そして、もう1つ分かっていること。この世界は車も舗装道路もあまり発達していない。そしてライフラインとして最早必要不可欠になりつつある『魔石』の輸送に『鉄道網』が利用されていた。

 ……すなわち、この世界……というかこの国における物流のメインは『鉄道』なのである。


 となれば両者を結び付ければ、この結論に辿り着く。『郵便物』も鉄道で輸送しているのでは? と。

 言われてみれば確かにそうだろうな、と思うけれども中々結びつかない部分である。


「――そして、郵便物は一度鉄道路線を経由している以上、いくらか割増料金を払えば、こうして特定の特急列車の指定席に荷物を届けることも可能と言えば可能とのことですよ。

 勿論送り先の住所の代わりに、列車名と出発日時と座席をお伝えする必要があり、お金も手間もかかるという代物なのですが」


「別にそんなことしなくても、私達の学園の寄宿舎に手紙を届ければいいじゃないですか」


「ええ、そうですわね。

 ……ですので、この手紙をこんな手法で届けているのには明らかな意図が働いているのですよ。


 ――魔法青少年学院による『検閲』を避けるという意味、ですね。


 ほら? ヴェレナさんも読んでみますか? ソーディスさんからのお手紙で、あなたにもお見せして良いと書かれてありましたよ」



 えっ、ソーディスからの手紙だったの!? そして検閲を避ける意図?


 私はおずおずと手を出して、オーディリア先輩宛てに届いたソーディスさんの手紙を読み進めるのであった。




 ・

 ・

 ・


 *


 オーディリア・クレメンティー様


 お久しぶりです。アプランツァイト学園中等科1年ソーディス・ワーガヴァントです。まずは、この手紙の仕掛けを簡潔にお伝えします。宛先にはおそらくグローアーバン州の住所が書かれていることかと思いますが、クレティさんの家であるロイトハルト家とその従姉妹のワルデルディス家の2家のご助力を賜ってお送りしています。


 鉄道座席指定郵送、という少々特殊な手段を取らせて頂いたので、郵送に少々時間がかかっておりオーディリア先輩がこの手紙をお読みになる頃と情報には3週間程度のずれがあることをご了承ください。列車の日時と座席についてはルシアさん経由でヴェレナさんより伺いました。


 それで、本題なのですが何点かオーディリア先輩にご報告したいことがございます。ヴェレナさんにも必要に応じて伝達して頂けると幸いです。

 森の民金融恐慌以後、学園の警備員が増員されたことは先輩も在学中の出来事であったのでご存知かと思いますが、私達が中等科に進学以後、数名現役の魔法使いが警備員として雇用されていたことが分かりました。現時点では既に退職なされています。

 そしてその直後から私達……いわゆる『勉強会』の成員に関して聞き込みを行う警備員の姿が学園生から私達の下に報告が入ってきております。ただし、この聞き込みを行っていた警備員の個人の特定はできておりません。


 もう1つ、こちらはルシアさんからの伝達事項なのですが、ルシアさんのお父さん周りで何者かが情報収集を行っていることが分かっております。そして、その関係でヴェレナさんとルシアさんの魔石通信のやり取りが傍聴されている恐れがある、とのことです。


 これらの出来事が全て関連していると断言することは出来ませんが、ルシアさんの周囲で情報収集者が現れたタイミングと魔法使いの警備員が退職された時期はほぼ同時であり、何らかの命令変更が下された可能性が示唆されます。


 少なくとも私達の誰かが標的になっているのは確実です。そして、状況証拠の推論となりますが、相手が『魔法使い』が想定されること、ならびに一連の出来事が全て『ヴェレナさんの卒業後』であること、そしてルシアさんはヴェレナさんの情報源でもあることを考慮した場合、ヴェレナさんの外堀が調査されている、と結論付けるのが妥当かと思われます。


 現段階では情報収集のみで危険性はあまり高くないと判断しておりますが、オーディリア先輩もくれぐれもご注意を。そして、私の友人であるヴェレナさんの助けにどうかなってあげてください。



 追伸:『沈黙の魔術師』って二つ名を本人の許可なく勝手に『再興の先』の演劇中で付けた友人と、それに悪乗りして便乗した先輩にはちょっぴり怒ってます……なんて、ね?


  ソーディス・ワーガヴァント




 ・

 ・

 ・


 *


「ちょ、ちょっと、どうするんですか……。先輩、ソーディスさん、めちゃくちゃ根に持ってるじゃない……。何で2年も前の演劇のことを今更手紙という形で蒸し返してきているんですか」


「ああ、ヴェレナさんの手紙を読んでの感想はそこになるのね……。

 大方今の学園で『沈黙の魔術師』って呼び名が広がっているのではないかしら? それで本人はそれに結構不服、と……。まあ、それについてはどうしようもないわね。放置しなさい、会ったときにでも謝るくらいしかできないわよ」


 うおお、オーディリア先輩の豪快な割り切りっぷり……。私には真似できない。


 手紙の中身で色々と私の知らないことが明かされていたり、私に対しての心配を見せて先輩に託していたりしていたが、追伸で全部持ってかれた。


 気持ちを落ち着かせて改めて手紙を一瞥する。


「というか、ソーディスさんって手紙では大分饒舌ですね。まあ話し方と文字の書き方は異なるのは当たり前ですけど」


「……それについては私も正直思いましたが、ですが彼女は別に意思伝達が苦手、とかそういう節もあまり見られませんでしたし、交渉事に関しては多分私の知っているアプランツァイト学園生の中では随一だとは思いますからこの程度の文章は造作もないでしょうよ」


 やっぱりオーディリア先輩的にもソーディスさんの評価って結構高いよね。というか、先輩は町医者でソーディスさんはアパート暮らしだった。ってことであの学園での基盤がない状態で有力者と呼ばれるまでのし上がった面では意外と似ている要素もあるのか、表面的な部分は全然似ていないけど。



「……まあ、本題に入りますけど、ソーディスさんの推論はオーディリア先輩的にはどれくらい共感できるものなのですか」


「ほとんど彼女の考えの通りだと私も思いますわ。狙われているのは十中八九ヴェレナさん、あなたですね。

 一番あり得るのは魔法使いの有力派閥である『学閥』の上層部でしょうか。一応派閥として扱われている『学閥』ですが内部抗争は激烈なようですし、そんな中で名目的にはその全ての『学閥』の上に立つことが出来得るほどの逸材でありながら追放された元・魔法使いの一人娘が魔法青少年学院に入ったともなれば、その人となりや背景などは調べるものでしょう」



 ――それはつまり、悪役令嬢として、あるいはゲームシナリオとしての何かが動き出したのか。


 ……いや、違う。まだ私はこの世界で何も成し遂げていないし、何者にもなっていない。現時点で私のことを知らない人物が私に向ける目は、父の虚像。ただそれだけだ。


「まあ普通に考えれば追放された者に育てられた娘が、魔法使いを志すなんて言い出したら復讐を勘ぐりますか。一応上層部的には負い目があるんですね」


「負い目というよりかは、情勢ですね。ヴェレナさんのお父様が本気で権力を掌握しようとすれば、できなくもないほどに『学閥』が一枚岩ではないですから。それでも表向きはまとまっているように見えるので、その辺りの手腕には感嘆の一言ですが。

 まあ、そんな状態では、あなた1人に神経質になるのも分からなくはないですし」


 なんか思ったよりもゲームシナリオのヴェレナの台頭って既定路線っぽいね。いや、私自身という意味よりかは、既存の派閥が潰れて過激派が出てくるって土壌がもうこの時点で熟成されていると見るべきかな。



 話にひと段落つき私が手紙を読み直して机の上に戻したのを見てか、不意に手元の照らす灯りの魔石装置をオフにする。


 なのに。照明を落としたのにも関わらず、手紙の文字を読むことが出来る。あれ? おかしいな。ルームライトは確かに切れている。


 ということは……窓の外。


「夜、明けてしまいましたね……」



 うわ、もう日の出の時間だったの!? 陽が上がってしまったら寝なおす時間ないじゃん! まだもう少し寝たかったのに、これから旅行が本格スタートとか、私の体力大丈夫かな……不安だ。



 

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