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4-11


 一通り寝台特急2等車の中にある設備を確認してから私達の宿泊部屋たる12-6室へ戻る。


 いやはや、まさか列車にシャワーまで付いているとは思わなかった。そこまで来たらもう普通にちょっとしたホテルじゃないか。

 そんなことを考えていたら、列車が動き出すというアナウンスが入ったので、私達4人はとりあえず、部屋の中央にあるテーブル付きの対面になっているボックス席に座る。


 そして列車が揺れ、徐々に動きだし加速する。窓の外を見てみれば、『ガルフィンガング中央駅』の長いホームを抜け、王都の建物にまみれた雑踏で隆々とした印象を見る人に与える風景から地下に潜りこみ、何も見えなくなる。

 そういえば、王都中央付近の列車は半地下構造の場所が多いのだった。忘れてた。そして景色が見栄えしなくなったとほぼ同時に、オーディリア先輩が口を開く。


「……というわけで、ここから半日ほど、この列車に乗りっぱなしになるわけですが……。どういたしましょうか」


「あー……、乗ったばかりであれだが、早速ご飯にするか? あんまりのんびり行くと混むんじゃねーのか、食堂車って。ほら、そこのとこどうなのよ、ビルギット」


「そうですね。座れない程混雑することは無いとは思いますが。ただ早めに行った方がいいとは思いますよ。その……あまり遅い時間に行きますと、中学生である私達は間違いなく浮いてしまうと思いますので……」



 確かにカップルとかが居るところに突っ込むのは気まずい。一応ビルギット先輩のお付きの人が居るから、今の時間であればファミリー層やら主婦旅行層に上手いこと紛れることはできないだろうか。

 それと単純に時間帯的に、午後6時でいつもならもう夕食を取ろうとしている時間であり実は結構お腹が空いている。


「じゃあ、まずは食堂車で夕ご飯食べましょうか」


 その私の言葉を皮切りに、ビルギット先輩はお付きの人らを呼びに、私達もそれに続いて移動を開始するのであった。




 *


 食堂車の存在する16号車の扉を開く。白い天井、赤いカーペット、凝った装飾の施された壁に採光と景色を眺められるように広く大きな窓が取り付けられている。


 そして、ひときわ目立つのはシルクのテーブルクロスがかけられた、大きなダイニングテーブル。列車のボックス席とは全く異なる、それこそ普通のレストランと遜色のない……いや、それ以上と言ってもいいだろう、その内装は列車の中だとは全く思わせない造りである。


 ただ、勿論走行中なので、何も掴まらずに立っていると結構揺れる。そのため、私達プラスお付きの人の6人で一番広い席に案内され、座るように促される。


 6人席は、どうやら食堂車の中に1つしか無いらしく、他は2人掛けか4人掛けのテーブルだ。期せずして早いタイミングで食堂車へ訪れたことが功を奏したようだ。

 他の席にもまだ2,3組しか来ていないようで。


 そして座って落ち着いたところでふと、窓の外を見てみれば地下を走っており真っ暗だけれども、たまに通過駅などが見え、このシックなレストランが間違いなく列車の中なんだ、と知覚できる。


「あら? ヴェレナさんは何を頼むか決まっているので?」


 ビルギット先輩がそう言いながら窓の外を見ていた私にメニューを差し出してきたので、お礼の言葉を短く述べて少し慌てるようにしてメニューを覗きこむ。


 ……『キッシェのコートレット』、『フォア・ブーレットスープ』、『マッシュポテトの牧童パイ』。


 うん、そうだよね。ちゃんとしたお店に入るといつもそうだ。……メニュー名で料理が全くピンと来ない! アプランツァイト学園初等科食堂でこういった料理については慣れてきたと思ったのに全然ダメじゃないか。


 そう絶望を感じている傍ら、隣のビルギット先輩の呟きが聞こえる。 


 「へえ、マッシュポテトの牧童パイがあるなら、これにしましょうか。……珍しいわね」



 そりゃあビルギット先輩は分かっていますよね。となれば、後の可能性に賭ける。


「ラウラ先輩? 何を頼むか決まりました?」


 食堂車で夕ご飯を食べるといったときに駅で難色を示したラウラ先輩。彼女は庶民出身だったから、きっと私の感じている苦悩を分かち合えるはずだろう。


「あー、そうだなー。ビルギットは『牧童パイ』ねえ。だったら、ウチもホルモン繋がりで『トリップの香草煮』にでもするかな。いやあ、ホルモンは久しぶりだし、ここその系統のメニュー多いな」


 ……メニュー読める読めないは家の裕福さは関係ないのですね。

 となると、一般的な家庭料理もそうした私の認知できない名前で呼ばれている可能性があるのか。まあ、それは後で良い。今は目先の自身のメニューを決定することに注力せねば。


 そしてラウラ先輩が一瞬興味深いことを言っていた。曰くホルモン系統が多い、と。つまり、何も考えずにランダムで選んだ場合、ホルモンを選択する可能性が高いというわけだ。いや、まあホルモンが苦手ってわけではないんだけど、名前からどんな料理か全く連想できない状態でホルモン料理はちょっとばかしリスクが高い。


 というか、もうしばらく前にはなるけれどもお母さんとご飯を食べに行ったときにホルモンが流行になりつつあるとか言っていた覚えがあるな。何年前だ、あれ。……経過した時間を鑑みればブームの全盛期が来たか、あるいは既に流行が過ぎ去った後くらいか。でも、この食堂車で沢山メニューがあるってことは時代が今ようやくお母さんに追いついたってことになるのかな。



 まずビルギット先輩の頼んだ『マッシュポテトの牧童パイ』、そしてラウラ先輩の『トリップの香草煮』。この2つはホルモン確定なので除外する。

 そうしたときに改めて上からメニューを眺めていく。肉料理・魚料理といった区分すらないので完全に決め打ちするしか……って、ん?


 『アントルコートステーキ』……? 名称の前半部のアントルコートはまるで分からないが、でもステーキと書かれている。ステーキなら外すことは少ないはず!


「ラウラが『トリップの香草煮』でビルギットが『マッシュポテトの牧童パイ』ですわね。それでは私は『リュバン・ブル』にするので……、ヴェレナさんは決まりました?」


「はい、『アントルコートステーキ』でお願いします」


 私達の注文を確認したオーディリア先輩は、お付きの人のメニューも聞いたうえで、食堂車の給仕の方へオーダーを伝達する。



 ――それから、食堂車にぽつぽつとお客さんが来て、ほとんどの席が埋まってきて多少混雑してきたな、と感じてきた頃合いに全員分の料理が届けられる。


 さあて、ご飯だ。ご飯だ。


 私の目の前に置かれた大皿には、その迫力で押し負けそうなでかでかと大きな赤身の牛肉のステーキが鎮座なされていた。しかも、お肉は丁字型の骨付きで、もう食べる前から視覚的に食欲をそそるタイプのワイルドな見た目をしている。

 また上にはきのことドロドロになるまで煮込まれたタマネギのステーキソースがかけられている。そのステーキソースからは食欲を誘うニンニクの香りが私の呼気へと侵略し、食欲という名のアラートを鳴らしている。


 そして、このステーキを切り分けるためにナイフを入れると肉厚なのにも関わらず驚くほどナイフがあっさりと入り、食べる前から柔らかく上質なお肉であることが推察できる。更にはそのナイフと皿を肉汁がしとしとと濡らす。多分お肉の質もさながら調理方法にも工夫があるんだろうな、これ。


 一口大に切り分けて、そのまま自身の口の中へとフォークを使って運び入れる。

 ――刹那。赤身のしっかりとしていてそれでいて柔らかいお肉が絶妙な口当たりでもって、私の空腹を潤しにかかってきた。ステーキソースはタマネギの甘さが牛肉をさらにまろやかにしている。思わず目を閉じて味を噛みしめてしまう程に……美味しい。


「前々からずっと言っておりますけれども、ヴェレナさんは何も言わなくても美味しそうに食べますわよね」


 オーディリア先輩の若干揶揄した口ぶりはその言葉節の反面柔らかい。


「たしかに。寄宿舎でも、ご飯おいしそうに食べていますもんね」


「……あー、ホルモン久しぶりで、懐かしいな。って、オーディリアとビルギットどうした?」


 若干一名全く話を聞いていない人が居ますが。というかラウラ先輩は何でホルモンに感慨深くなっているんだよ。この方も大概、謎に包まれているよな、オーディリア先輩やビルギット先輩とはまた違った方向で。




 *


 そして再び12号車の12-6室。私達の客室へ戻ってくる。


 車窓から外を見てみると、陽は落ち切っていて、そこには住宅街の夜景が広がっていた。


「今……どの辺りなんでしょう?」


 私がそう聞くと、少し考える素振りを見せてオーディリア先輩が答える。


「そうですね、まだ出発してそれほど立っていないので王都のある『ガルフィンガング特別州』の隣にある『ゲーノーメフルス州』だと思います。王都の人口増加が著しく周辺州にもその人口流入の影響を受けており、この州もまた急速に発展している最中ではありますね」


 それはすなわち、前の世界で言うところのニュータウンとか副都心とかそういった類のものだろうか。わざわざ大都市に出なくても地方の都市とかで、ショッピングやちょっと遊ぶ場所ならいくらでもあった。今のところ王都以外の地域をあまり知らないが、あれだけ便利なら人口も増えるだろうとは想像はつく。


「我が国が統一を行うきっかけとなった出来事、他国の冒険者が未知の森を東から踏破して我が国にやってきたとき、最初に降り立った地としても有名です」


 ビルギット先輩が補足説明を行う。どうやら我が国の国土は簡単に言えば北と西は瘴気の森、南と東は未知の森に囲まれている。西側については、これからこの寝台列車で行く『ラルゴフィーラ』のように街道の民と連結している部分もあるが、その主要街道を逸れてしまえば瘴気の森が広がっている。


 まあ、未知の森がずっと広がっている東側から突然王都近傍の場所に他国の人間がやってきたとなれば恐怖が先行するよなあ。



「ってか、まだ王都の隣ってことは全然時間あるなー……。外の景色見るにも代わり映えしないし、何か暇つぶしになるもの持ってきてないのか?」


 そりゃあ明日の午前8時着なのだから時間はまだまだあるわけで。そしてまだ寝るのにも、あるいは隣の車両にあるお金を入れるタイプのシャワー装置を使って身体の汗を流すのにも時間が早い。


「ああ、それなら……、これ(・・)を持ってきましたわ」


 そう言ってビルギット先輩が自身の鞄の中に手を入れて何かを探す。


 一拍置いて鞄の中から取り出したものをテーブルの上に置いた。丁度メモ帳や小さな手帳といったほどの大きさの小さな紙箱。

 その中を開けると、中から大量のカードが出てきた。


 出てきたカードを見つめ、すかさずオーディリア先輩が声を上げる。


「へぇ? 『恋歌帖れんかちょう』を持ってきたのねビルギット。……あら、ヴェレナさんはもしかして『恋歌帖』をご存知ないですか」


 あー、全く聞き覚えがないね、はい。幸いカードゲームであることは推察がつくけれど。


 カードをぱらぱらと見てみると、絵柄は基本的に四季折々の景色だったり風景だ。

 そして、何となしに手に取った『雪山と茅葺かやぶきの家』のカードの隅の方には『1月の第2週』と書かれている。


「見て分かる通り、このカードには暦の『1月』から『12月』の12種類、そしてそれぞれの月で『第1週』から『第4週』まで、つまり合計48枚のカードがございます。遊び方色々ありますが……まあ、見てもらった方が早いですね」


「ねえ、オーディリア? 『月詠みの歌』でいいんじゃないかしら? 一番よくある遊び方だと思うのだけれども」


 そうビルギット先輩に言われたオーディリア先輩は、そうね、と短く言いカードをシャッフルして、テーブルの上に並べる。……心なしかラウラ先輩も私と一緒にルール覚える側に居るのが気になるんだけど。


 そうして18枚のカードがテーブルの上に規則正しく並べられる。縦に3枚、横に6枚並べられており一番上の行の6枚は表になっている。


「『月詠みの歌』では暦の『月』の番号のみ用います。縦の3枚が1組になっていて、合計6つの組がありますね? そこからどれでもよろしいので1つ選んでください」


 そう言われ好きなものを選ぶように促されたので、一番左上の『7月第2週』のカードを指差す。


 すると、そのすぐ下のカードをめくるように言われたので指示通り表にすると、一番左の列の2番目のカードは『1月第2週』……先ほどの雪山と茅葺の家のカードが出てきた。


「それで、『月詠みの歌』ではこのカードの月の数を足し上げるのです。今回であれば『7月』と『1月』のカードなので『8』ですね。

 それでこの数を一番大きくした方の勝利となります。ただし、カードの『月』の数も合計の数も1桁しか読みません。ですので……」


 オーディリア先輩はそう言いながら一番左の列の一番下のカードをめくる、『12月の第3週』のカードだ。


「この場合、合計は『20』なので勝負するときの数は『0』になりますわね。ですので、『9』に近いほど強く、『0』が一番弱いと言うことですね。


 ――そして大事な決まり事がもう1つ。今回は3枚のカード全てを開きましたが、2枚開いた段階で打ち止めにするか、3枚開くかはご自身で選択することができます」



 お、おう……思ったよりも戦略性がありそうだぞ。この『恋歌帖』で遊ぶ『月詠みの歌』というゲームとやらは。


 まあ、やってみますか。




 *


「『10月第3週』――収穫祭と麦畑のカードに、『9月第1週』――彼岸花と暗殺者のカード。……合計『19』ですので、勝負値は『9』。私の勝ちですね」


「オーディリア、初手で数の無い10を選ぶとは大胆なのね……」


 ――ってか彼岸花と暗殺者ってなんですか!? 『恋歌帖』って名前にしては風情もへったくれもねえな!


 *


「あら? 合計『31』だから『1』ですね……」


「何だオーディリア珍しいなー、じゃあ私も3枚目をっと。……げっ。

 『10月第2週』だから合計『20』でそのまま変わらずに『0』か……」


「じゃあ、私が行くしかないですね、ここは、『4月の第4週』に『7月の第1週』なので、『11』。さて……、ああ……『1月の第3週』……ということは『2』になります……」



「ふふ、それじゃあ『5月第2週』の修道者の祈りと女性司祭のカードと、『8月第2週』の入道雲と水桶のカードの私の勝ちですね」



 何故、勝負値『3』で引かない選択ができるんだ……ビルギット先輩。彼女の中の期待値は一体どうなっているんだよ。


 *


「よし……、『5月第3週』に『3月第1週』で『8』……。ふふふ、これなら勝てるでしょう、ストップですね、もうカードを引きません」


「小癪だな、ヴェレナ。

 『11月第4週』に『7月第3週』で『8』。このままなら引き分けだが、ウチは敢えて引かせてもらうぜ!」


「なっ! そこで勝負をしにいく必要は無いじゃないですか、ラウラ先輩! 引き分けで充分じゃないですか!」


「……『1月第1週』。これで『9』だな! ウチの勝ちだぜ、どうだヴェレナ!」




 マジですか……先輩たち強すぎて私の1人負け状態じゃないですか……。

 何だこれ、イカサマでもしてるのかな……。いや私が弱い? 多少駆け引きはあるけど、ほとんどカード運じゃんこのゲーム。



 それなのに、どうして――

 どうしてこんなに、負けに負けが重なるの!? 納得できない! 



「はじめてやったけど、この『月詠み歌』って楽しいな!」



 そりゃあ、そんなに勝てれば楽しいでしょうよ! ちくしょう……。

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