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4-10


 我が国の西部で栄えているという国際貿易都市・ラルゴフィーラ。

 ラウラ先輩から今年の夏休みに泊りがけの旅行に誘われた。寄宿舎の面子でと言っていたので、オーディリア先輩とビルギット先輩も含めた合計4人ということになる。


 一応、その日のうちに魔力通信装置で念の為両親にお伺いを立てたら「オーディリア先輩が居るんでしょ?なら大丈夫だろう?」という感じの伝言が帰ってきていた。一度お父さんは会って話をしているし、お母さんも面談中にこそ居合わせてはいなかったものの、そのとき家に居たしその後詳細は聞いているから、この信頼度である。


 じゃあ、とりあえず日程的にも問題はないので参加ということで先輩らにお願いをする。何やら長期休暇時の申請書類等もあるみたいなので、その団体外泊申請の届け出はお任せする。1ヶ月前とはいえ、そのくらいに申請しておかないとあまり事務側でいい顔されないみたい、まあ学生が泊まりでどこかに行くとなると早めに把握しておきたいんだろうね。

 そして、後日色々気になったことを寄宿舎での生活中に聞いてみる。


 あるときは、ダイニングで皆で食事をしているときに……


「そういえば旅行の件なんですけど、泊まりの旅行に中学生女子だけで行くのって、いくら私達が魔法使いを目指す学生だからとは言っても治安的に危なくないですか? ……うわっ、この麦粥、甘くて美味しい!?」


 ちなみに、麦粥の中には、何故か焼かれたバナナが縦に半分に割かれて入っていた。そしてほのかに漂うアーモンドの香ばしさ。


「ああ、その麦粥はウチの自信作だからなー、ヴェレナ。

 それと旅行に関してだが、ビルギットの家の者が保護者というか従者というかそんな感じで来るから正確には4人じゃないぞ」


「ラウラは果物絡むと、料理スキル段違いになるものね。まあ、私の家の者に関しては体の良い護衛だと思っていただければいいですわ。邪魔は致しませんし、大人が必要なときには頼りになるので楽ですわよ」


 ……ラウラ先輩が料理できるようになったとは聞いていたが全くできない状態から1年でここまで仕上げてきたとは意外だ。

 そして護衛と言い切ったビルギット先輩、でもその付いてくる人って分家の人ですよね? しかも年上の。いやまあ深くは考えないようにはしよう……。



 ――また、別の日。


「あー……やっぱ、教練の後のお風呂は染みる……。

 そうだ。そういえばオーディリア先輩。旅行の泊まり先って既に決まっているんですか? 私も両親に予算の見積もりを言わなきゃいけないんで……」


「あら? 言っておりませんでしたっけ。

 宿に関しては私の方で見繕いましたので、初日にちょっとだけお手伝い頂ければ、旅行期間中は無償で保養地と言いますか、1軒の丸木の別荘を私達に貸し出してくれるそうなので、そこを拠点にして回るつもりです」


 この人のコネは一体どうなっているんだよ……。



 更に別の休日。


「そういえば、行き先のラルゴフィーラって何があるのだろう……って、あれ? オーディリア先輩お出かけですか? ルシアからの通信で今日は午後から雨が降るって言っていたので傘持って行った方がいいですよ」


「あら、そうでしたか。ありがとうございます。……ってルシアさんとの情報交換で天気のことまでやり取りしているのですね」


「それが……ルシアから来る通信なんですけど、最近定時連絡と天気のことばかりなんですよね。忙しいのですかね」


「…………へえ、そうなのですか。……それならルシアさんにラルゴフィーラの観光地について伺ってみてはいかがでしょうか?」


 オーディリア先輩は私の一連の言葉で何やら考えが繋がった様子だけれども、全然私には伝わってこないし見えてこない。まあ、でも言う通りにしてみるか。


 すると後日、ルシアから封筒でラルゴフィーラ関係の雑誌とおすすめの観光スポットの書かれた手紙が送られてきた。案の定ルシアの直筆ではないし、そもそも「おすすめ」というのもルシアが押している場所ではないんだろう。ルシア自身がラルゴフィーラに行ったとかは聞いたことが無かったし、彼女は憶測で自分の意見を書くくらいなら、詳しい人間に丸投げするはずだ。リベオール総合商会自体がかなり大きいし、探せば地元出身者や旅行趣味の人のいずれかくらいは居るだろう。

 そして、そのルシアの郵便もまた、封が開いた状態で私の下に届いたのである。危険物が入っていないかどうかの確認とはいえ、勝手に自分宛ての郵便が開けられているというのは慣れない。


 ……まあ、でもこれでどこを見に行くか選定できるぞ。予習しておかなきゃ。



 *


  『乗馬』の特別教育が直進を速歩はやあしで進むことから、方向転換を織り交ぜるようになった頃、あるいは『登攀とはん教練』が梯子はしごからロープへと切り替わり、ロープを使ってそそり立つ壁を足で蹴りながら腕の力で昇って行く教練へと替わって全く登れずにクラスメイトらと共に絶望を感じている頃、座学の学科教育の期末試験が終了し、夏休みへと突入した。


 ちなみに学科教育は多少力を入れている分野があるくらいの違いで、今のところ他は一般の中学校とほとんど一緒だ。

 同じものというのは、言語・算術・宗教・魔錬学・社会科・芸術といった小学校からの持ち上がり科目。内容も小学校からの延長線や深化といった趣きである。


 一方で、一般中学校には存在しないこの学院独自のカリキュラムが2つ存在し、それは礼法と、1年の後期からスタートする――魔法学・・・である。

 ただ、礼法は試験科目ではないので今回の試験に限っては本当に馴染みのある科目だけの試験であったので、それ程苦戦はしなかった。まあ、それはクラスメイトらもそうだったみたいで平均点も大分高かったのですけれどもね。



 そんな試験を終え、夏休みに入り夏期講座やら特別教育の集中週間などの日程を消化し、本当の意味で休みに入った初日から、私達は旅行へと旅立つことになる。




 *


 ラルゴフィーラへの旅行日程は最終的に2泊5日となっている。


 なんだその変則日程? と思ったが、移動手段の問題である。私達の住む王都と我が国西部の大都市・ラルゴフィーラは距離的には相当離れており、特急列車を利用しても10時間はかかってしまう。それでは朝の8時に出発しても到着は夕方の6時、移動だけで日中が終わる。


 ということで、先輩らから提案されたのは寝台特急。移動時間は伸びるものの、夕方に駅を出て寝ている間に移動して翌日の朝には現地に到着、という算段だ。

 そして寝台特急もまた路面列車のように等級分けがあり、今回は2等車を選択。路面列車のときは2等車はお金持ちしか乗らないとソーディスさんにかつて指摘を受けたが、これが特急列車、しかも寝台特急ともなれば話が変わる。


 3等車だとゆったりとはしていて背もたれも倒せるものの座席であることには違いない。そして座席なので、全員が完全に寝落ちしてしまうと荷物の盗難もあり得る。

 つまり誰かしらが起きていて荷物を見張るしかない。……まあ、ビルギット先輩のお付きの人に不寝番ねずのばんを任せるという鬼畜な方法があると言えばあるんだけど。


 まあ、後はお付きの人として付いてくるのは2名らしいけれども、私達にプレッシャーを与えないようにとどちらも女性の方を連れてくるらしく、結果的に大人の女性2名、中学生女子4名と結局全員女性なのである。まあ、一応お付きの人は護身術に長けているとかいう話は聞いたけど、やっぱり自ら危険に飛び込むことはないので、2等車を選択した。


 何とこの2等車個室があり、2段ベッドになっているのだ。そして内鍵がかけられる。2名1室は勿論のこと、ファミリー利用も考慮して複数部屋をぶち抜いて作られた4名1室、6名1室、更には8名1室部屋まで存在する。


 そこで私達は4名1室の部屋を取り、お付きの人は隣の2名1室の部屋に入ることとなる。



 寝台特急列車の発車時刻は午後の6時なのだが、始発駅である『ガルフィンガング中央駅』までは、この魔法青少年学院から路面列車で30分ほどかかる。宿への宿泊は2泊だが、寝台特急往復宿泊2日分を考えれば荷物は相応の量になる。

 なので、ビルギット先輩のお付きの人には学院前まで来て頂き、4時頃から移動を始める。


 時間に大分余裕を持たせているのは、鉄道路線に乗るときのお約束の……うん、あれである。


「お待ちしておりました。ガルフィンガング魔法青少年学院の御学生を含む6名様ですね。ラルゴフィーラまでの寝台特急列車のご予約は既に承っております。では荷物検査を行いますので、こちらへお進みください」


 州を越えての移動になるので、駅のホームでの簡易検査だけではなく、大がかりな魔石探査装置の中を荷物が通る。そして私自身も魔石装置の探知ゲートを通過する。

 大きい荷物は実家にあったアタッシュケースを持ってきてもらった。5日分なので、今まで使用していたものよりも更に大きい鞄でこれを持ち歩くのは中々骨が折れる。

 ……けど5日分の着替えやタオルがパンパンに詰まったアタッシュケースをキツいとはいいながらも片手で持っているんだから、魔法学院通い始めてから腕に筋肉付いたな……。前世だったら絶対持ち歩くなんて考えられないわ、こんなん。

 そして、ゲート通過後には手荷物の中身チェックも行われる。今回はそっちはマリンボーダー柄のリュックにしたから結構大きくて中の確認作業にいつも以上に時間がかかる。いや、早めに出てきて良かった。



そして駅の改札内に入ると、3階吹き抜けのかなり広々とした空間が広がる。さすが、『ガルフィンガング中央駅』と王都の名前と中央を名乗る程のことはある。


「それで……午後の6時出発ってことですが、夕ご飯どうします? 明日の朝まで乗ってることを考えると構内で何か買っておいた方が良くないでしょうか?」


 私がそう告げると、ビルギット先輩が「寝台特急列車の中に食堂車がありますから、そちらで頂けばいいでしょう」と言う。

 ああ、列車の1車両が丸々レストランのようになっているっていうあれか! 前世含めて一度は気になっていたんだけど行く機会無かったから、思わずテンションが上がってしまい、「是非そうしましょう!」と答える。


「……こいつらと居ると、金銭感覚おかしくなるよなー、本当に……」


 ラウラ先輩がそう言うのも、まあ何となく分かる。ラウラ先輩除けば元従士家系2人に町医者の娘だもんな、元従士ってのがどれだけスゴいことなのかはいまいちピンと来ていないけど、それでも平民の平均レベルは大幅に超えているだろうってことは判断がつくだけに、思わず苦笑いするしかない。


 そして1泊分も乗るだけに列車中にちょっとした軽食や飲み物を売る売り子なんかも居るらしい。まあ、この辺は昔の世界の新幹線でもあったしね。




 *


 それから、スーツケースなどの大きな荷物を貨物室車両に載せるように預けて駅構内で時間を潰していたら、アナウンスが流れて私達の乗る寝台列車が到着したと伝えられる。


 その言葉を聞いてから、ホームに降りるとかなり長い車両の一風変わった列車が止まっていた。これが寝台特急ねえ……。見た目から普通の列車とも特急列車とも違う印象は受ける。

 そして、私達の乗る列車には白と青いラインカラーが入っている。青色は二等列車の印。私が幼少期の頃に再三騙された列車の色。

 ちなみに、もう1つの白色は鉄道路線名を示すものらしい。つまり列車の外装を見るだけで、どの路線の何等級の列車なのかが一目瞭然とのことで。


 再度入り口前荷物チェックの列に並んでいる隙に、改めて切符互換となる乗車証明の書類に目を通す。


 ――12号車の12-5室が2名で12-6室が4名用の部屋。つまり私達は12-6に向かえばいいと。そして18時発で、到着は朝の7時頃予定で、13時間の旅路。やっぱり夜走行だから普通の特急列車よりも遅い。

 そして料金が1人当たり5200ゼニー。金額は今見ても高いのか安いのか判断つかないわ。


 1号車から10号車までが3等車、11号車から15号車までが2等車、そして残りの客室が1等車というつくりになっているようなので、私達の部屋は丁度2等車の中央くらいになる。


 そして食堂車は16号車。1等車と2等車の中間にあるとのこと。また食堂車の利用は2等車以上を利用する乗客限定ということになっている。……というか3等車と2等車の間は行き来出来ないようになっているので必然的に3等車のお客さんは食堂車を使うことができない。運賃が違うからサービスも全然違うんだね3等車。



 ふと気が付けば私達の荷物検査の番が来ていたので慌てて荷物を開ける。勿論持ち込んだ水筒の飲み物を駅員さんの見ている目の前で口に含むのも忘れない。

 流石に列車乗車前荷物検査も何度も経験してきたが故に、私自身が段々と手馴れてきた感はある。


 難なく検査を通過し、列車内に乗り込む。そしてそのまま私達の部屋である12-6室に直行し扉を開ける。


 そこには個室とは言え、歩き回れる程のスペースがあり、4人程ならゆったりと過ごせる、おおよそ列車内の個室とは思えない空間が広がっていた。

 2段ベッドは進行方向垂直となるように、部屋の前方側と後方側に設置されており、その間のスペースには机付きで一般の座席が設置されている。……寝るだけを想定していない部屋作り、いいね。




 ――さあ、ここから私達の2泊5日の楽しい楽しい旅行のはじまりだ。



「おーいヴェレナー。隣の車両に魔石装置のシャワーがあるぞー、お金入れれば動くってさー」


「マジですか!? 列車の中にシャワーあるんですか、凄いですねラウラ先輩!?」


 ……いやー、全く締まらないな、私。

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