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3-14


「――文化祭に参加するのは、別にクラスで出る必要はないんじゃない」


 初等科4年次からクラスで出し物参加が可能になることばかりに目が行ってしまい、ずっとクラスで出ることに何故か固執していた。……文化祭で出し物を行うのは別にクラス単位で行う必要はなく『団体参加』という手法があることを思い出した。確か1年のときにクレティから製紙事業計画を揶揄されたときに、その手口があることを聞いていたのだ。

 団体参加には特にこれといった条件は複数人での参加という部分のみで、児童会役員部の承認を取り付けた後に、初等科から大学科までの全ての役員部が揃う全学役員会において確認し特に問題がなければ参加は確約される。2回承認制なのは賄賂等の影響をある程度防止し、文化祭の質を保つ意図があるとのことだ。 


 クラス参加よりもハードルは上がるものの、例年部活動やサークルなどの出店やイベントはこの審査を通過している。

 そしてルシア、クレティが思ったよりも文化祭そのものには乗り気であることを鑑みれば1つの可能性に至った。


 それは、すなわち『勉強会』として文化祭に参加することである。


「……確かに『勉強会』という形であればクラスをまとめる必要もなく、私達だけで参加できますね。勿論クレメンティー先輩とワーガヴァントさんの意志と動向を伺う必要はありますが」


 オーディリア先輩と、ソーディスさんか。ぶっちゃけ2人とも読めないな。後者のソーディスさんは文化祭そのものに興味があるか否かという段階で疑問が生じてくるし、オーディリア先輩の方は5年1組の動向、並びに初等科役員部がどれだけ忙しいかにかかっている。

 この両者の動きの読めなさに困惑しつつもルシアはこう続けた。


「まあ聞かないと分かりませんわねそれは。問題は、文化祭に仮に参加すると仮定しても、何をするかじゃない? その答えをある程度こちらで用意しておかないと、お2人も困るのではないかしら」


 そのルシアの提言に対して、クレティは反論する。


「まずは参加の意志があるか聞く方が先決だと思うのだけれども。こちらで草案とは言え勝手につくるのはよろしくないのではないでしょうか。それに時期的に文化祭で何をするかはそろそろ固め出す頃合いですので、早めに聞いた方がオーディリア先輩のスケジュール調整がしやすいかと」



 ……おおっと、意見が真っ向から対立したな。

 とりあえず、私の提案である『勉強会』のメンバーで文化祭に参加する、という構想について2人は賛成ということでいいのかな。

 ただし、オーディリア先輩とソーディスさんの勧誘方法に差異があると。


 うーん、2人で意見が異なってしまったか……どうしようか。間を取るか。


「じゃあ、折衷案でなるべく早くに聞きに行くということは確定で、ある程度内容を詰めてそこから先はオーディリア先輩とソーディスさんに選んでもらおうかな」


「却下。それだったらクレティの案で行きましょう。今から2人に聞きに行くわよ」


「あら、悪いですわねルシアさん。ということで行きますわよヴェレナさん」


 ……折衷案を口にした途端、ルシアが意見を取り下げクレティに同調した。我ながら2人の案の両者取りをしていていいと思ったんだけどな。

 まあ、手間が少なくなったからいいか。



 私達3人は急いで初等科食堂を後にして、オーディリア先輩とソーディスさんの2人を見つけ、初等科向かいにある3号館のミーティングルームを借りて5人揃って話をする。一応機密性を判断してのことだ。

 そして4年1組の現状と『勉強会』での文化祭参加の是非について2人に意見を問う。まず口を開いたのはオーディリア先輩であった。


「危なかったですわね、丁度午後から私達のクラスでもそのことについて話そうと思っていたところでした。ひとまず5年1組の方で私が主導して何かを行うか一旦保留にするようにお伝えしておきますわ」


 クレティの読みが当たった形となった。……それにしても、オーディリア先輩は自分のクラスのことを随分あっさりと棚上げにしたな。そんなに簡単に放り投げて大丈夫なのかな。


「心配せずとも『クラス』として文化祭で力を見せることは既に去年私達の学年が参加解禁になった際にやっておりますし。今年は役員部の実行委員としてのお仕事に注力していこうか考えていたところなので問題ありませんわ。

 ……何より、ヴェレナさんらが考えることには、非常に興味がありますし。内容はまだ決まっていないようですが、他のことを少し待って貰っていても優先する価値があるとは思っていますもの」


 私の疑問をぶつけたら、こんな言葉が返ってきた。何というか卒がない。

 そしてそういやこの人出会ったときから、『私がこの学園でどう立ち回るのか』を楽しみにしていた人だった。それは権力的な意味でだけど。そりゃあ、こっちを多少優先したりはしますよね。



 一方で、ソーディスさんはどうか。


「……うん、『クラス』でやらない感じ、だったから、『勉強会』でやるのは、ありだと、思う。……けれど、一体何をする……の?

 私達全員が、満足する水準で、今から計画を立てるので、間に合う……かな?」


 彼女の困惑は、ルシアの懸念が当たる形となり、期せずしてクレティ、ルシアの手法どちらも有効であったことが判明した。ソーディスさんは私達と同じクラスであることから、既に4年1組での参加を私達3人が諦めつつある現状も鑑みて、勉強会での文化祭参加構想にシフトしていると見てよい。

 だからこそ彼女が気にするのは、内容とタイムリミット。すなわちオーディリア先輩のクラスであったり、全員の家族などの関係者、あるいは現状初等科最大派閥として見ている周囲に対しての『期待』に応えられるだけのクオリティと革新性のある出し物が行えるのか、そしてそれは今から準備を行って間に合うものなのかを心配している。


「そうですわね。私も自分のクラスを説得する際には『勉強会』の方で素晴らしい企画があったから、と断れれば最上ですわ」


「そういうことに打ってつけの人材が1人いるわね。安心しなさい、ワーガヴァントさん。謎の発想力を持つ我らがリーダーに任せましょう」


「そもそもこのメンバーで文化祭やりたい、とおっしゃったのは誰でしたかしら? ねえ、ヴェレナさん」



 言いだしっぺの法則は異世界でも通用するんかい! マジかよ……全部放任された……。




 *


 ……さて。どうしよう。


 文化祭の定番と言えば食べ物系かな。模擬店とか喫茶店みたいなやつ。あるいはお化け屋敷だとかクイズとか迷路だよね。

 ただ今回はクラスではなく『勉強会』で行うことを考慮しなければならない。準備やお手伝いとして人員を借りることはあっても、基本的には5人で完結するものを考えないと。


 そうすると定番のものって結構人海戦術というか、人の頭数が重要になる。5人で回すことを考えると常に誰かしら常駐していなければならないお店系は私達の負担が大きすぎる。


 そう考えると出来ることは大分限られてしまうが、準備段階であれば人の手を借りるのはこの学園では認められている。……というか、むしろ推奨される。だってコネを作るための学校なんだし。


 学園から与えられる予算は役員部の承認の下振り分けられるが、ここにも抜け道が複数ある。というのも、別に学園から与えられる予算が決まっているだけであって個々人のポケットマネーで不足分を補填するのは認められている。加えて、予算の振り分けについては全学役員部の自由裁量権にあたる。つまり、これってあれだね、生徒個々人の采配能力を養うと同時に『家』としての動きも文化祭の完成度に影響するってことだ。


 しかし、この制度は『勉強会』として参加すればオーディリア先輩、ルシア、クレティからの援護・援助が期待できることからむしろ予算や準備については、企画段階で憂慮しなくても済む。特に初等科児童会役員部所属のオーディリア先輩の力はここでも絶大だ。


 反面彼女らの援護射撃を全面的に利用する場合、派閥としての『色』が急速に強化されるという点は注意すべきだ。つまり大々的に資金を注入すると出来ることが広がる反面、人員を融通する際にはそれがデメリットにも働きかねない。集めた人員が派閥構成員と勘違いされる可能性はあるし、野心があり私達に近付こうとしている人物ならむしろ我々の派閥の傘下に居ると意図的に周囲に対して誤解させにくるだろう。そうした私達の『ネームバリュー』に乗りたがる子、あるいは上級生が現れる可能性は鑑みざるを得ない。

 これは多分クレティがクラスでの学園祭参加の意志を聞いたときのクラスメイトに対しての否定的な意見からも、少なくともクレティがそういった類の人物を警戒していることは伺える。


 ……まあ、正直全部オーディリア先輩に丸投げすれば解決する気もするけど。後は準備に要する人手は学園外から持ってくるなんてパターンもありだ。その場合であればルシア、クレティの2人がキーパーソンとなるね。



 大分考えが散らかってしまったが、まとめれば準備に人手やお金を使うことは可能だが、反面文化祭当日表に出るのは私達5人に限定したい、というわけだ。仮に本番にもヘルプの人員を入れるとしても、明確に私達5人とは区別化しないと派閥力学的に色々と面倒なことになる。



 では、実際に何をするか。その前にもう1つ留意しなければいけないことがある。それは、異世界と前世世界の娯楽に対する価値観の差異だ。

 ルシアは私の『謎の発想力』に期待して私に企画立案を丸投げしたが、その発想力というのはつまり単なる前世知識に過ぎない。それをこちらの世界に適応させる場合には、受け入れられる土壌があるかどうか考えなければ『製紙事業』の二の舞になるわけだ。


 周囲の期待に応えられるだけの真新しさ、という意味では新規性を練り込む必要はあれど、一方でこちらの世界視点であまりにも尖り過ぎるものは受け入れられないと思う。故に真新しいだけでなく、こちらの世界でもある程度馴染みのある題材を取り入れる必要がある。……やべえ、どんどん付帯条件が増えるばかりで難しくなってきたぞ。


 今まで触れてきた中で一番娯楽面で違いがあると感じたものはテレビとインターネット、そして携帯電話の有無かな。3者に共通するのは映像媒体と手軽さ。情報通信という一点は、前世と隔絶しているが故に映像を手軽に楽しめない。

 だが一方で、映画は存在するので全く映像が利用できないわけではないし、映画の中身自体もそう前世とかけ離れたストーリーというわけでもなかった。映像作品を文化祭内で発表するのは困難が伴うかもしれない反面、前世に存在したそういった作品のストーリーラインそのものは流用できるということになる。


 ストーリーと言えば重要なのが『ノスタルジック・クロック』。もう5年も昔の小学校入学前のことになるが『青苧あおその儀』で大聖堂を訪れた際に、大聖堂前の広場にて見た演劇だ。

 まず、あの演劇の演出手法の1つに魔道具や魔石装置が利用されていたこと。つまり、映像効果やCGの類はそれで代用……というか、舞台上の照明を用いた演出のように使える点はこの世界独自の強みだろう。


 そして物語そのものの中身は元ネタは小説であったらしいが、『異世界』という概念が物語上の表現技法として一般大衆に受け入れられていること、これは1つの指標となる。


 更に、1年生のときにソーディスさんと一緒に見に行った映画。青春系の部活モノだ。部員を集めて合唱部を立ち上げ、練習やライバル強豪校との関わりを通して徐々に強くなっていくという王道ストーリーだ。これが異世界であるこちらでも通用している。


 別の視点からも考察を深める。

 ――この国での教会音楽はポップスが主流であり、聖歌隊はアイドルユニットやアーティストとして活躍する者も居る芸能事務所としての側面を持つ。

 また習い事や『芸術』の授業で学んでいる通り、楽器や基礎的な音楽理論もほぼ同一。絵画技術なんてものも前世世界で聞いたことのあるものばかりだ。……この辺は前世でも基礎的なものしか知らないから完璧な比較はできていないと思うが。


 何より、スポーツの存在。サッカーやソフトテニスが存在し、ルールもさほど変わらない。


 ここまでくれば、この世界の基となっているゲームたる『黒の魔王と白き聖女Ⅴ』の製作者、すなわち前世世界の現代時間を前提として娯楽が構成されているとみて良いのではないだろうか。


 となれば、逆説的に前世で存在した娯楽は受け入れられる土壌・下地はあるのでは? いや画一化は危険か。少なくとも私が見聞きした分野限定でなら成り立つ可能性は高いとは思うけど。


 ということは方針は決まった。見聞きした情報を統合する。その組み合わせ方で前世でも通用していたものを流用する形で新規性を演出すれば良い。



 となると、一番有力候補は『演劇』か。これも文化祭ではありがちと言えばありがちかも。

 そして主役を私達5人に据えれば良い。だが、反面新規性はおそらく薄いだろう。

 ……そういえば、女性だけの劇団があるってニュースをどこかで聞いたな。それに憧れて、という形でならこの世界の文化祭でもそこそこありがちなのかもしれない。


 なので、演劇という題材だけでは新規性が出ないのは重々承知だ。故にここに組み合わせる必要がある。


 ただし、組み合わせる際に注意しなければならないのは、私達が演じるということ。そもそも演劇すら素人なのだ。例えばそこに剣舞あるいは殺陣・・などの戦闘シーンみたいなものを盛り込むには絶対的に時間が足りない。


 となると、ストーリーにも私達が演じやすい配役になるものにした方が……って、そうか。演じなければいいんだ。別に私達は演劇部になるつもりはないんだし、1作品だけ出来ればいいから、『自分』を演じればいいんだ。そうなれば方向性は1本。


 権力闘争物。



 だが、それだけでは演劇の題目として決して新しくはないだろう。権力争いを風刺した演劇なんてそれこそ腐るほどあるだろう。

 故にもう1つエッセンスを加える。この際に考えなければいけないのは私の運動神経。多分肉体(ヴェレナ)的には問題ないけれどもインドア派だった精神()に引っ張られるのであまりやったことのない動きに対応するのには時間がかかってしまう可能性があるので、それは企画段階から除外した方が良いだろう。

 私が既にやったことがあって、演劇に織り込むことが可能で、この世界で見たことのある娯楽――。


 ……うん、1つだけあるね。テニスだ。



 大まかな背景ストーリーは権力闘争の解決手法としてテニスが用いられる世界。……負けたら、廃校なんて部活モノがあるくらいだし。テニスをしながら学園の権力者に挑んでいく主人公、面白いかも。


 そして別に完全にテニスのルールを踏襲する必要もない。演劇なんだし。ボールは照明なり音響なり魔道具・魔石装置なりで誤魔化す形にしてしまえば、見栄えよくラケットを振ることに特化すればよい。もっともそれが難しいのだけれども、でも演劇という場において長物ながものを振れるのは大きいね。表現の幅が広がる。


 また部活モノ自体は既にこの世界に存在しているのもプラスに働く。あの映画は合唱部だったとはいえ、中身はスポ根にほど近いジャンルであった。それは、テニスバトルを演劇として昇華すること自体は可能であることと、客受けへの担保にもつながっている。


 うん、初期案としてこんなものでいけるはずだ。


 ――権力テニスバトル演劇。



 パワーワード極まりないが、一度この路線で4人に提案してみようか。

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