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2-2


 これから学園内でパートナーになるらしいオーディリア先輩。

 どうやら権力の上昇気流著しく、上へ上へと行きたがる性質なのかな。何故、権力掌握に固執しているかは気になったものの、まだ初対面だからそんなことを聞くわけにはいかない。

 まあ1年間はずっとパートナーなんだ、追々聞けるだろう。


 オーディリア先輩に連れられて、入学式での席へと向かう。どうやらパートナーは入学式では隣に座るらしく、先にこうして出会ったことから私の先導もしてくれるようだ。

 なので一般の新入生も着席するタイミングでパートナーが誰だかを把握できるので、先ほどの挨拶は本当に少しでも早く私とコンタクトを取りたかっただけ……なのかも?


 そこまで考えながら入学式会場に向かっていたら、オーディリア先輩が話しかけてくる。


「ああ、そうだ、フリサスフィスさん。……いえ、あなたのお父さんと被るからヴェレナさん、と呼ばせてもらうわね。

 では改めて、ヴェレナさん。あなたであれば大丈夫だと思ったからあらかじめ伝えておきますけれども、パートナーは生活指導も兼ねていますので入学式中にもし居眠りしたりすると、評価に響きますので注意してくださいね?」


 茶目っ気たっぷりに言われた言葉は、それなりに恐ろしいものであった。


「えっと……それって新入生側に伝えていいことなのでしょうか……」


「ヴェレナさんがあまり公言なさらないと判断して教えたので、あまり同級生の方にはこのことを話すのは慎むようにお願いね?」


「じゃあ何で私に教えたんですか、そんなこと」


 いきなりパートナーは支援者の他に監視者も兼ねているよって情報を何故監視される側に言うのか。出会ったばかりのオーディリア先輩がいくら私のお父さん会いたさの点数稼ぎにとはいえ、そこまでしてくれるとは思えないのだが……


「……あら? もしかしてヴェレナさんは両親から聞いていなかったのかしら」


 ――この学園の評価制度のことを。


 続いた言葉には頷いて説明を求める他なかった。



「あら、まさか知らずに入ってくる子が居たとはね……。

 これも一応はパートナーのお仕事に入りそうだから説明しますけども。この学校は基本的に成績順でクラス分けが決まります。そして1年ごとに成績の良し悪しで『クラス替え』が行われます。

 ただし、この『成績』というものが厄介で『ペーパーテストの成績』だけではなく、それこそ普段の生活素行も含めたあらゆる行動によって加点も減点もされるわ」


 なるほどね。テストの成績だけでは判断しない、ということか。結果だけではなくその経過も見るという意味では決して悪い制度ではないように思えるけれども……


「主に評価される項目は3つ。

 1つは『個人評価』。これは分かりやすいものよ。勉学の成績や授業態度、運動や芸術方面の入賞・表彰経験、あるいは学内活動での貢献度合いなどもここには入るわね、その人自身の行動によって得られた一般的な評価全般のことを指すわ。


 2つ目は『社会的成果』。これは在学中に起こした行動によって社会に対して利益、技術革新、あるいは政策決定など、何らかの社会発展に寄与した場合に送られる評価よ。当たり前だけど子供の私達が直接的にそういったことに関与することは少ないから、初等科でよくあるケースで言えば異なる分野で活躍していらっしゃる保護者同士が仲良くなって、新しいものが生み出された、などの場合ね。

 学校を通じて家同士の付き合いが新しく生まれ社会に貢献した、という場合には私達への評価に加算されるわ。でもこの評価を得る人は稀よ。


 3つ目が一番重要なのだけども『人脈形成潜在能力』。実際に学校内でどういった交友関係を築いているかを評価するものね。自分と自身の友人が将来どれだけ相互に利益を与えられる存在になるかを判断する力を養うための基準よ。

 なので搾取関係は減点対象になるわ。むやみやたらに数だけ増やしてもそれがお互いに意味の薄い関係であれば評価はされないわ。まあ利害の無い純粋な親友関係とかもこの評価においてはプラスにもマイナスにも働かないってわけね。逆に必要があってのことなら誰かの傘下に入ったり従属することも相互利益が確約されていれば加点に働くわ。

 また注意すべきなのは『潜在能力』ってところで、別に現時点でそうした交友関係を築けていなくても、人脈的に価値のある人間だと判断されている間は無条件に加点され続けるわ。事業が順風満帆で乗りに乗っている家の子供とかよ。

 あるいは実家にさしたる強みが無い場合でも、個人のキャラクターで加点されることもあるわね。仲裁能力に優れていたり、人間関係を円滑にする人当たりの良さだったり、あるいは単に優れた能力を持っていたりなどでも様々ですね。


 そうした『個人評価』・『社会的成果』・『人脈形成潜在能力』の3本柱で学内成績は確定するわ」



 ……うわあ。えげつない。

 これはえっとつまり、そうだよね、コネをつくる学校という認識で良いんだよね。


 これを踏まえるとパートナー制度そのものも、上級生が新入生に対して積極的なコネクションを築くツールとしての側面が見え隠れして全く違うものに見えてくる。


「さて、ヴェレナさん。あなたには今、新入生代表と次席と父親が魔法使いという3つのカードがあるわ。おそらくその3つどれもが、他の同級生は持ちえない武器にもなりうるものよ。……私はあなたがこのカードをどのように切ってこの学園で過ごしていくのかにも興味が出てきましたわ」


「……生粋の権力分析家ですね、オーディリア先輩」


「褒め言葉として受け取っておきますわ。私から1つだけ助言をさせていただきますと、あくまで学校がそういう場を整えているというだけであって、別に優秀な成績を取りつつ良い子でやっているだけでも6年間1組に居続けることはできるとは思いますわよ。ヴェレナさんは現時点で次席なのだから結果を残すことはできるタイプなのだし。

 しかしそれだと私の楽しみが減ってしまいますので色々動き回って欲しいところですが」


 心配しているのか煽っているのかいまいち分かりにくい人だな。でもまあ悪い人ではないのかな、いや権力志向が高すぎるという意味では悪い人か。





 入学式をとり行う大ホールに並べられた所定の椅子に、そんなオーディリア先輩と隣り合って座っていると、続々と新入生が入ってくる。規模が大きいから入場は先に済ませてしまうのだ。


 この記念ホールのキャパシティは1500人。後ろの方は保護者席で、小中高の新入生にパートナーが付いて着席すると、その収容人数を埋めかねないほどになってくる。

 ……まあ、代表挨拶のため壇上に近い前方の席に座っているから、周囲のざわめき具合で知るしかないのだけれども。



 そうこうしているうちに、どうやら開会時間になったようで、中等科生徒会長の開会の言葉で、合同入学式が始まった。


 基本的な流れ自体は前世の学校と似たようなもので粛々と進んでいく。合同だから小中高の全部の校長先生が話すのかな、と一瞬戦慄としていたが、理事長挨拶と言う形で丸く収まっていた。これは入学後のイベントで初等科校長のお話があるな……。


 その後来賓祝辞と紹介が行われたが、やっぱり合同というだけあって来賓の方の数も多かった、狸の置物みたいな人の良さそうなおじさんたちが大層な肩書き引っさげてやってくる。

 ただ、ちょっと意外だったのはオーディリア先輩だったり特に上級生を中心に周りの人間が割と真剣に話を聞いていることだ。


 ああ、そうか。この学校の考え方に沿えば『成功者』にあたるのか、来賓の方々。つまり私が前の世界で感じていた何かよく分からない知らない年配の方々だったものが、モデルケースとして実感のある方々になる。いや、それ以前に家同士での繋がりがあったりもするのかな。


 まあそうしたメインイベント的な風潮が形成されてしまっている分、割かれる時間も長い、長い! 前世ではこういうのは退屈なのが前提だったから、下手に知識を持っているのがマイナスに作用してしまってるねえ……。


 ただ、退屈ではあるんだけれども、それと同時に段々緊張のが増してきて感覚が麻痺してきてる。


 ……そうか。これだけの人数の前で話をする経験って前世では無かったからなあ、それをまさか小学1年生の段階ですることになるとは。


 だって1500人ですよ1500人。売れているバンドとかでもそんなハコ(・・)抑えることなんて早々ない……ってこれはちょっと例としておかしいか。

 そう考え出したら何食わぬ顔で長々と壇上で話せる理事長さんとか前世の校長先生とかっていきなり偉大に見えてくるね。


 そうそう、今壇上に居る来賓の方もすご……い……?

 ふと思考の底から意識を戻し、顔を上げると同時にアナウンスが聴こえてくる。



 ――続いては、新入生代表挨拶です。初等科・中等科・高等科の新入生代表の方は壇上にお上がりください。


 あれ? ……ってもう私の出番じゃん! まずいまずいまずい、いつの間にそんなに時間が経っていたの……。


 若干上ずった調子ではい、と答えて内心の動揺具合を悟られないように前へと進んでいく。緊張で足取りがふわふわして気持ち悪い。落ち着かない心持ちが浮遊感として伝わってくる。


 ああ、一番初めに話すのは私だったね。……階段を昇りステージに上がりそのまま演台へと向かう。頭がぼやっとする。だがその反面熱を出したかのように身体が熱い。そしてその対比を漠然と脳で感じながら、演台を挟み向かい合う形になったので視点がいまいちピンとこない視覚が客席側へと向く。


 ステージを照らすライトが明るく、席の様子は照明が落とされているため詳しくは伺い知ることはできない。……ただ、私の目の前には1500人が居るんだ、というその言葉のみが反響している。


 ――そこからは何を話したのか覚えていなかった。





 ふと、気が付くと私はステージの上で一礼して元のあの権力家の先輩が居る席に戻っているところだった。


 席に着席して、オーディリア先輩から軽く肩を叩かれて、やっと現実感を取り戻す。――私、はじめて、こんな大勢の人の前で喋った。


 ようやく気持ちが落ち着いてきて、はじめて心拍数の高さに気が付いた。……極度の緊張を超えると周りはおろか自分すら見失うものだと感じ、その気持ちは転生した直後の極度のパニック状態と似ていたことに思い至った。


 そうした浮遊感と高揚感と非現実感の中で、私は最後に拍手を頂いていたことを思い出し、隣の先輩から「良かったよ」と言われたことで、はじめて自分が手ひどい失敗をせずに代表者挨拶を終わらせることができていたことに理解が及び、ここに至りようやく安堵の情で胸が一杯となった。


 そして私が先ほど上がっていたステージを見つめあげると、そこには堂々たる姿で新入生である私達に歓迎の言葉を述べている在校生の代表者の存在があった。

 自分の出番が終わったからこそ、何事もなくこなしている所を見るとそれだけで尊敬の念が湧いてくる。


 当たり前だと思っていたことを、普通にこなすことってこんなに難しいことなんだなあ、と実感。当事者でないと分からないことってのは多い。今までにこんな大舞台で話したことがなかったからこその感覚だね。



 そうした在校生挨拶が終わると、入学式もいよいよ閉会となる。

 人数が人数なので、まずは来賓と保護者から移動を開始し、その後はステージ前列から順番にパートナーが付き添う形で教室まで連れて行かれる。


 パートナーは教室までの先導役であり、記念ホールを出て、初等科校舎までの案内はオーディリア先輩に付き添ってもらった。


 また、後日詳しく説明するとは言われたが、先輩から簡単に初等科校舎の説明を受ける。

 曰くL字型になっている校舎だが、1つは教室や食堂・職員室などがある毎日使うものが整っている棟と、調理室や被服室、音楽室といった特定授業で使われる様々な専門的な部屋を集めた棟の2つに分かれているとのこと。


 とはいえどちらも3階建てで、全ての階で渡り廊下で繋がっていることから実質的には1つの建物として捉えてしまって問題ないようだ。

 ちなみに教室は2階、3階にあり、3年生までは2階、4年生から3階ということになっている。つまりオーディリア先輩とは同じ階になるわけだね。


 先輩と別れて1年1組の教室に入ると、既にそこには数人の子供と先生がおり、先生は名前を聞いて席に誘導していた。

 やっぱり前の方の席に居たから全然人来てないね。とりあえず指定された席に座り、机に置いてあったプリント類を見つめながら暇を潰しつつ全員揃うのを待った。



 全員揃うと、先生から今日は事務連絡とクラスの顔合わせだけだから、これが終われば帰宅して良いと伝達される。

 基本的には机に置いてあったプリント類の事項の確認と、とりあえず明日必要なものだけは確実に覚えておくように、と言われた。当面の日程は全部プリントに書かれているが、しばらくはその都度次の日に必要なものは伝える、と教えられる。気楽で良い。


 その後全員簡単に自己紹介することになった。こういうのは前に自己紹介した人の内容を真似すればいいよね。

 と思って聞いていたら、どうやら様子がおかしい。みんな家業の話や父親の職業などと絡めて自己紹介をしている。そして、それを小学1年生ながらある程度聞いている側も理解しているという異常事態だ。


 例えば油問屋の娘です、と自己紹介をした人に対して、周囲のリアクションが大きく変わった。その子のことを尊敬の眼差しで見ている者も居る。

 これは何故かというと油は火気厳禁で取り扱いが難しいことから、この国では古来、それこそ国家統一前より許可制になっているという背景があり、油を取り扱っているお店というのは基本的にはその許可を得ている老舗しかあり得ない。つまり古くから代々伝わり領主とも関わりのある由緒正しい商人の家系である、ということを示している。


 ここで何よりも恐ろしいのは、そうした背景を同級生の多くは把握しているからこそ自己紹介に含まれた『油問屋』という一単語だけで尊敬の念を向けられているということだ。再三繰り返すが小学1年生だぞ、そんな馬鹿な。



 また、別の子では『リベオール総合商会』で繊維業を営む父の話をした子に対しても驚きの声が上がる。

 こちらもその商会はこの国随一の様々な事業をとり行う大規模な商会であること、加えてこの国――森の民における最大の産業が綿花と養蚕であることから、それらを取り扱う繊維産業、というのは無条件で安泰な職業と認められているためだ。


 ……まあ、個人的にはナイロンみたいな化学繊維が洋服の主流になった世界を知ってしまっているので何とも言えないが。


 また、特にそういった『家業自慢』をしない子も居て、これは自慢するものがないのか、準備不足か、はたまた戦略的な行動か読み取れない。あまり社交的でない子とかも当然居ると思うしね。



 そうした中で私の手番が回ってきた。まあ、キーワードは入れておくか。


「新入生代表を務めさせて頂きました、初等科次席入学のヴェレナ・フリサスフィスです。皆さん、これからどうぞよろしくお願いいたします」


 オーディリア先輩の件もあったので魔法使いの話はひとまずしないで、成績面のみを強調して話す。一瞬の沈黙の後にぱらぱらと拍手が起きたのでそのまま礼をして、着席。


 まあ無難と言えば無難だったか。沈黙はどう判断すればいいのかな、家業について何も語らなかった部分が怪しいと捉えられたのか、あるいはこいつには取り入る価値はないと判断されたのか……。


 とにかく、この学校の小学生は、私の想定している小学生像をそのまま持ち込んでしまうと絶対にいけない、ということは段々と分かってきたので警戒するに越したことはない。


 人脈形成評価など狙わずとも魔法使い学校進学までの6年間無難にこなせればよいのだ、私はね。

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