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prologue-3


 『取り替え子』という想像だにしなかった魔物の存在に動揺してしまった私であったが、一度ここで小休止をとる。


 思ったよりも話し込んでいたのか壁掛けの時計の短針が、小会議室に入ったときから1周しようとしていた。


 部屋に持ち込んでいた麦茶ポットも半分くらい飲み干してしまっていたので、お父さんが新しいのを取りに行くと外に出た。


 ……結構話し込んだね。しかしお父さんから得た新たな情報はどれも私を驚かすに足るものであった。

 考えてみれば2年間、当たり障りのないようにと自分の中では心掛けて情報収集を控えていたのに対して、お父さんは手を講じていた。この差は大きい。


 これが全て『私』を守るために取られた打ち筋であったからこそ問題なかったが、仮に両親に比肩する敵対者と相対した場合、今のままの私では何も対応策を講ぜずに踊らされてしまう。


 私は、敗戦・断罪というシナリオから逃れるためには、今のままただ守られるだけでは……ううん、それだけじゃない。

 たとえ何もせず、何も為さないのであっても、両親に守られっぱなしというのはね。個人としても、娘としても……ねえ。


 おっと、お父さんが戻ってきた。秘書さんも一緒に連れてきている。お父さんは相変わらず麦茶のポットを持ち出してきた。冷蔵庫に入っていた予備のものと交換はしたらしいけど、同じ容器だしねえ。


 一方で秘書さんは、温かい紅茶とお菓子を持ってきてくれた。どうやら自分の娘とはいえ、幼い子供を麦茶だけで長時間拘束しているのに苦言を呈したらしい。確かに傍から見たら狂気の沙汰だ。……そりゃあ、怒られるよ。


 お父さん的には私の中身を知っているため、ほとんど自分の学生と同じような対応をしていたが、周りから見たらどう見えるかまで気が回っていなかったようだ。


 私からお父さんの擁護をしても逆効果だと思ったので、素直に秘書さんにお礼を言ってお菓子とティーカップを受け取った。

 そして秘書さんは再度お父さんに注意してからこの部屋を出て行った。……あっ、このお菓子直方体ブロックのカロリー補給目的のスナックバーみたいな見た目をしているけど、これバタークッキーだ。食べてみるとサクサクっと軽快な音がしてバターの香りが口いっぱいに広がる。

 そして風味だけでなく甘みも広がるので、そうした後味をまとめて紅茶を口に含めば、お互いの良さが引き出され見事に共鳴する。


「……ヴェレナ、満足か? 本題が残っているので話を続けるぞ」


 紅茶とお菓子は私の分だけだったからね。幼い子供の拘束に対してお父さんに、無言の圧力をかけてくる秘書さんは流石にやり手である。





 必要な情報ではあったが取り替え子のことで少々脱線してしまったので、本題の何故女性では魔法使いになれないのかということと、『黒の魔王と白き聖女Ⅴ』のゲームシナリオの話に戻していく。


「そういえば、魔法使いが男性しかなれないってのは何故?」


 基本に立ち戻って質問をする。


「ああ、それは簡単だ。魔法使いとはすなわち『魔法爵位』持ちの者だということは既に話したよな? その『魔法爵位』の取得方法についてだが、『魔法爵育成学院』を卒業する必要がある。


 しかし、この『魔法爵育成学院』は男子入学しか認めていない。早い話が男子校だ」


 そして『魔法爵育成学院』は高等学校課程相当らしい。


「その……、魔法爵育成学院? を卒業する以外に『魔法爵位』を得る方法は無いの?」


 当然出る疑問はこれだ。だが……


「魔法使い内で昇進や戦功、あるいは国家に多大な貢献をすれば、より上位の魔法爵を得ることは可能だが……。これは既に魔法爵持ちでないと意味がない。


 まあ魔法系の学校が出来る以前の森の民統一直後などであれば、色々と抜け道はあったようだが、今は無理だな」


 森の民が国家として統一した直後はそもそも画一的な学校制度が整っていなかったため、統一前の各領主や氏族レベルで登用されていた魔法を使える者を寄せ集めた集団が魔法使いであったらしい。

 その頃であれば才さえあれば成り上がりも可能であったが、そもそも部族で魔法が使えるというのは戦争や抗争に駆り出されることと同義であったため、部族社会時代でも女性の魔法使いというのはほとんど登場しないし、統一後の魔法使い組織には女性は居なかった。


 うーん……単純な力では鍛えた男性には不利な女性にこそ、魔法のような腕力に頼らない自衛能力は必要だと思うんだけどな。それに生まれながらに高い魔力を持っているのは別に男女関係ないから女性の高魔力持ちを放置するのは過去の話とはいえどうなのだろうね。


 と思ったが女性で高い魔力を持っている場合は、そうした昔でも教会に預けられての女性司祭ルートが開かれていた、とのことで。


 そしてかつては、魔力理論の未発達から高い魔力を持った人間しか魔法使いとして世に出ることはなかったが、今では別に先天的な魔力保有量に関わらず魔法使いとなれる時代になった。だから広く人材を募集するために魔法系の学校ができた。


「……あれ? それなら魔法系の女子校なり、共学校が出てくるはずじゃないかな。広く人材集めているのに女性はダメって何か矛盾してるような」


 そうした私の疑問にお父さんは返す。


「その認識は正しいが、一方で見落としている点もある。


 森の民……この国が統一したのはわずか40年前の話だ。そして、魔法系の学院卒業者が魔法使いとして認められるようになったのは前回の魔王侵攻時……たった15年前のことに過ぎない。

 それこそ学校に通って素質や素養を身に付けた者よりも、昔から自分の部族で独学で実績をあげていった者のが評価されていたからな」


 お父さんの話を総合すると、学校を卒業した魔法使いが上層部に評価されたのすらここ15年程度の出来事。過去の実績というか、とにかく昔の魔法使いほど良いとか偉いって風潮を打破したのがそれだけ最近だ。


 なので、女性をどうするかまで単純に手が回っていなかっただけというか組織を変革するまでの時間が不足しているというわけか。


 というか、統一が40年前ならまだその当時の立役者とかも現役だ、これ。ずっと昔から魔法使いは男性だけだ! と考えている層が退場しない限りは変えるのは無理じゃない……?


 ああ、だからお父さんの疑問に繋がるわけだ。ヴェレナ(・・・・)は一体どうやって魔法使いになるのか。


 ようやく私自身がお父さんの疑問の真意を理解できた。では今度は私が答える番だ。





「商業都市国家群への侵略、ヴェレナ自身が過激派率いての王家との婚約、そして聖女の国との戦争、50年経たずしての再度の魔王侵攻、そして敗戦に戦争犯罪人か……。

 いや嘘をつくにはあまりにも突飛すぎる故、逆に真実味が出てくるな。ただ、正直信じられないことばかりだ」


 一通り『黒の魔王と白き聖女Ⅴ』でプレイした概要を話しお父さんが漏らした感想がこれだ。


 各々の出来事は私が魔法使いになること以上にあり得ぬことらしい。


「簡単に触れていこう。

 まず、商業都市国家についてだが間には街道の民という緩衝地帯があり両者の権益が入り混じっていることでそこまで関係性は悪くない。

 いや我が国との外交関係云々よりも、戦争程度で商業都市国家の連中が団結する方が考えられない。都市1つ1つが独立した国みたいなものだからな、あそこは。戦争するにしても、どれだけ我々が下手を打てば向こうが一致団結するようなことになるのか検討もつかん。


 次に王家との婚約だが、王族が平民と婚約を結ぶのは法的に不可能だ。少なくとも貴族院に登院できるほどの家格が必要だぞ。私の持っている『魔法伯爵』など、王家との婚約では全く意味を為さない。そもそも『魔法爵位』は爵位と名前に付いているが貴族でも何でもないからな。


 聖女の国との戦争も問題がある。我が国と聖女の国はそもそも国境を接しておらず獣道でも接続していない程だ。未知の森が広がっているからな。百歩譲って戦争するとしても舞台は未知の森だ。おそらく戦死者よりも病死や行方不明者のが多くなるだろうよ。まだ航空機と飛竜だけで戦うと言われた方が現実味がある。


 また魔王侵攻だが、100年に1度あるかないかと言われているのが魔王侵攻だ。もっとも数百年の間一切魔王が出てこない場合もあれば、わずかではあるが数十年で連続侵攻が発生した場合がないわけではない。100年に1度というのはあくまで平均値、というわけだな。

 既に15年前にあったばかり故、可能性としては極めて低く見積らざるを得ないがそれでも前例はある分、他の事柄よりはまだ一考の価値はあるかもしれない。あくまで相対的にだが。


 敗戦後戦争犯罪人として婚約破棄、これも判断に難しい。

 聖女の国の文字通り『聖女』が誕生したのであれば、講和条約に1文捻じ込む程度の独断専行は造作もないだろうが『聖女』の称号を持つ方は有史以来1人だけだぞ。しかも実質的にその1人は聖女の国の建国者だ。

 女神教がそれを許すか些か疑問だな」


 ……思ったよりも酷評を受けた。そしてそれら全てがこれから30年以内に発生する出来事と捉えるのは無理があるようだ。たとえ素人のフィクション作家でもここまで馬鹿げた話は作らないだろう、と。


 だがそれが逆に、今の誰もが想像だにしない出来事の連続を転生者である私が話すことでかえって信憑性が生まれている。この世界の人からの伝聞や誰かからの口伝えではこんな話は出来る訳がないというわけだ。


「……一応、信じよう。ただ他の人に喋らないように。気狂いだと思われるぞこれは。

 結果的にディエダ……お母さんに話さなかったのは正解かもな。大爆笑されてそれで終わりだったかもしれないな」


 まあお父さんのことだ。何かしら調査は行うだろう。だから善意で私は助言をする。


「その未来の『聖女』の名はアンジェリーカ・グラジーニャ。あ、でも今は子供か。グラジーニャ姓を持つ聖女の国の魔石商人を探すことはできないかな、お父さん」


「……ヴェレナが知らないようだから教えておくが、『魔石商人』というのは山師やまし……まあペテン師のようなものだ。他国であることも差し加えて、まずその名で調べて見つかることはないだろう」


 魔石というのは基本的には未知の森の中にある鉱石だ。ごく稀に未知の森の中に住む原住民集落のごく近くにある場合だけ魔石の採掘は可能となる。――集落の併合と周辺の未知の森を焦土化することにより。


 なので、魔石を取り扱う商人は危険と隣り合わせだ。だから本当に魔石を取り扱っているか否かに関わらずペテン師呼ばわりされるのが市井の魔石商人だ。

 そもそも採掘まで行けば国家事業だし、流通も基本は国家が運営するから、そこから逸脱して民間で『合法的に』魔石を取り扱うのは、それこそ魔石鉱脈を探し自分の命をベットに賭ける無謀な投機家と同義なのである。


 ということで、現時点でアンジェリーカ本人そのものを探すのは不可能と言うべきだ。他国の人間だし。そもそも元はランダム生成キャラであったから存在するのかどうかすら判断に悩む。


 しかし……


「ヴェレナが秘密にしていたことを話して貰っていて申し訳ないが、結局女性が魔法使いになれる手段は分からずじまいだな……」


 そうなのだ。結局肝心な部分が分からず振り出しに戻ってしまっている。


「将来的に森の民の中で制度が変わるのではないかな」


 結局この辺りに落ち着くしかない。


「そうだな。『魔法爵育成学院』の入学までなら9年、その前段階の『魔法青少年学院』でもまだ6年以上の時間がある。

 加えて女神教も女性活動に盛んに動いている。我々が考えているよりも早く体制が変わる可能性はあるかもな。


 ……いや、あるいは古典派の似非魔法使いの狸共が肥大化し過ぎた学院卒業者による派閥、学閥に杭を打てるとみてむしろ派閥争いの道具として、女性運動の流れを利用するかもしれぬ」


 なんとも後ろ向きな未来予測ではあるけれども、まあ結果的に女性にもその門戸が開かれるのであれば、あまりとやかく言うべきではないのかもしれない。所詮は未来の話だ。


 そしてお父さんは話を続ける。


「ひとまず、女性にも魔法使いへの道が開かれたとして……、ヴェレナは魔法使いになる意志があるかどうか知りたい」


 魔法使いになりたいか否か。確かに重要だ。それはシナリオを踏襲するかどうかにも直結する。魔法使いにならなければ必然シナリオからも外れるはず……



 ……ん? 待てよ。

 先ほど6年以上時間があると言ったはずなのに、お父さんはどうして決断を迫ってきた? 明らかに矛盾がある。今その進路を決める必要はないはずだ。


 ……何か欠落している情報があるな。


「お父さん、何故魔法使いになることを、『今』決める必要があるの? 何を焦っているの?」


 お父さんはしばらく沈黙してしまった。

 ――これが最後の正念場だ。まだ重要な『何か』未知の情報が存在する。


 お父さんは静かに口を開いた。



「……これは隠しておくつもりだったのだが、そうだな。ヴェレナ、お前を子供扱いしないと言ったのは私であったな。であればヴェレナの今後の進退に影響のある部分を隠し立てするわけにもいくまい。


 自分の娘が取り替え子――『人外』の魔物かもしれない、と疑いをもったとき、親がどういう行動を取り、どういうことを考えるか。

 そしてそれを踏まえた時、何か大きな違和を感じないかい」



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