表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/174

7-2


「――あっ。あれ……ヴェレナさんじゃないですか?

 やはり女子制服は目立ちますわ」


「あんなに遠くに居るのによく見えるなビルギット。おお、でも本当だ。

 来た来た。おーいヴェレナ!! こっち――」


「まあ、お待ちなさいな。

 ここは第一声は譲ってくださる?」



 先輩3人方が待っているようで、急いで駆けて近寄り待たせたことを謝罪する。

 すると、オーディリア先輩が声をあげる。


「いえ、構いませんよ。私達が待ち伏せしていただけですし。

 それよりも。――こほん。

 ――魔法爵育成学院2年、首席、オーディリア・クレメンティーです。入学おめでとうございます。学院でのことで分からないことがあったら、私に聞いてくださいね。

 これから、よろしくね? フリサスフィスさん」


「オーディリア先輩……それ入学するとき毎回やる感じですか?」


 王都・ガルフィンガングでも王城がすぐ近傍に見える一等地――マルタールピアーノには、盛り土と鉄柵で囲われた土地がある。幹線道路に面した部分には重厚な正門が構えられており、常時警護兵が駐屯している。

 警護兵は魔法使いの制服を身に纏い、ネクタイの色は白色。魔法使い内部で『白』は簡易階級色で魔法準男爵を示す。すなわち、警備兵すらも元々はこの魔法爵育成学院で正規の教育を受けた現役魔法使いである。……軍事指揮教育を受けた兵の指揮統率を出来る人間を警備に就かせるのってちょっとどうなの、とは思うけれどもまあ、それはそれ。


 そしてそのような過剰ともいえる警備体制を敷いているこの場所こそが。

 魔法使いになるために必要な『魔法爵位』を叙爵するこの国唯一の道である高校課程教育を受けられる教育機関――魔法爵育成学院なのである。


 そして私は例のごとく女子寄宿舎引っ越し準備で入学式前にこの学院を訪れることになった。事前に先輩方に連絡も通していたので、正門前で落ち合うことになっていたのである。

 そうしたら、オーディリア先輩が3年越しに初対面のときの挨拶を踏襲してきた。もしかして私の入学毎にやるつもりなのか。でも、3年に1回だから恒例と思うほどには馴染まないなこれ。


 更に、もう1つだけ。先輩ずっと首席維持してるのか……半端ないな。そりゃあ、中学校課程の魔法青少年学院だって倍率20倍のハイレベルな学校ではあったけれども。そんな私達魔法青少年学院生がエスカレーター式で上がれる学校に中途で入学する一般入試勢も居る訳で、そんな厳しく狭き門をクリアした高校段階から魔法使いを目指す上位偏差値ランカー勢を打ち倒して首席の座に座り続けるのは、最早意味が分からない。


 しかも魔法青少年学院のときは、1クラスしかなくて生徒数も30名そこそこだったのに対して、ここ、魔法爵育成学院は1学年の定員300名で、私達の属する『兵部』に限って言っても150人くらいは普通に居る。その選ばれし150人の中でトップを維持し続けるのだから勉学能力だけでもずば抜けている。

 しかもオーディリア先輩の真骨頂は別に勉強が出来ることではないし、ねえ?


「なあ……門前で立ち話もあれだし、早く行こうぜー」


「……うん。流石に制服で門の外に4人で立っていると目立ちますわね」


 ラウラ先輩が急かして、ビルギット先輩が周囲の様子を窺いつつ発言する。

 言われて周りをそれとなく見てみれば、確かにちらほらと通行人が私達の様子を伺うかのような視線を送っているのが何となく分かった。


 まあ、着ている制服は魔法青少年学院から引き続きの黒っぽい赤紫の軍服ワンピースなので、そりゃあ目立つわな。

 デザインはこの服がそのまま魔法使いとして正式な服装となるため進学しても変わらないが、サイズが合わなくなったので新調はした。相変わらず夏場には不向きな絶望的な通気性だ。



 そして入校手続きを正門の詰所にいる守衛さんに話しかけ行い、門前に一歩踏み入れて一言。


「……すごい坂ですね、これ」


「ああ、これね。周囲から見ても高台に施設を建てたので、正門からの道は学外に出る時は良いのですけれども学内に戻るときは苦行以外の何物でもないのよね」


 そのビルギット先輩の言の通り、急勾配な坂が途中でU字のカーブを挟んで上の方まで続いている。防犯や軍事上の観点から高台にしたのかもしれないけれども、もっと普段使いのことを考えて欲しい立地である。


 そんな坂を慣れたように昇る三人と、初挑戦で戸惑いを覚える私。それでも道なりに歩いているとオーディリア先輩が話しかけてくる。


「まあ、この坂を除けば。魔法爵育成学院は、概ね設備としては魔法青少年学院にあったものの規模が大きくなったと考えて頂ければ問題ないと思います。

 ……ああ、兵部など部ごとに分かれたので違う部の生徒は別の棟で普段生活しますね。この辺りはヴェレナさん的にはアプランツァイト学園の大学科のように建物が別れているといった方が分かりやすいでしょうか」


 魔法青少年学院であった馬場や、飛竜厩舎などはこちらでもあるみたい。更に規模を多くして。……まあその辺の施設はアプランツァイト学園にもあったけど。


 そして部は兵部以外に通信部・衛生部・獣医部・経理部・憲兵部・法務部・軍楽部・技術部と合計8部ある。またクラス編成は基本各部1クラスだが、兵部だけは1つの部で5クラスあるので、1学年13クラス編成となる。流石定員300人。学院全体で1000名近くが生活することもあり、マンモス校といった様相である。


 なので少数先鋭の1クラスだけしか存在しなかった魔法青少年学院とは打って変わった学院生活が待っているに違いない! そんなことを考えているとビルギット先輩が補足する。


「男子寄宿舎なんて1号館から10号館までありますからね、ちょっとした集合住宅ですよあれは」


 ほらほら、今までと全然違う。

 1000人近い集団生活というのは最早想像すらつかない。


「……まあ、女子寄宿舎は例のごとく管理人不在だけどな」



 ……あれ?




 *


 坂を登りきると、赤レンガをアクセントにした白磁の洋風豪邸が眼前を埋め尽くす。


 聞くとあれは、学院の本部らしい。事務員とかが詰めていたり各種手続きやら相談の窓口などがある建物とのこと。


「まあ、場所の把握のために軽く回りますけれども、魔法青少年学院には無かったところを中心に回りますね」


 そこら辺は分からないから任せますよ、本当に。



「ここが救護棟ですね。怪我や体調不良の際には基本的な手当はこちらで受けられます。一応魔法病院に区分されますね」


 学内に病院ごとあるのか! 感覚的には大学病院みたいな感じかな。いや、大学課程では無いけれど。そういえばこの学院卒業すれば魔法爵位貰えるけど、衛生部とかの場合、実質高校卒業と同時に医療機関に従事して良いのだろうか。



「目の前にあるのが第一大講堂兼体育館ですね。

 武道場・弓道場・剣道場も複数ありますよ」


 あれ、魔法青少年学院にもそれはあったような……、と思ったがビルギット先輩の話は続く。


「――で、こちらがテニスコートと屋外バスケットコートになります。敷地外になりますが、少し離れた場所に野球場とサッカー練習場もありますよ。そちらは機会があればまた後日案内かな」


 スポーツ系の施設めっちゃ充実しているじゃん! と思ったが、そっか魔法青少年学院は生徒数少なすぎて無かっただけか。

 それにサッカーのときに、さらっと『公務員チーム』があると言われてたし。ってことは普通に考えればあるよなあ『魔法使いチーム』が。その学生版と思えば、別段スポーツに力を入れているのは違和感はない。

 前は少数先鋭だっただけに、そうした部活関係も他の地域にある魔法青少年学院系列校と合同でチーム編成していたらしいし。



「で、少し僻地になりますが、あの奥にありますのが教会ですね。

 正確には司教区から外れるのですが、教区司祭様がいらっしゃいます。特例ですね」


 学内に教会併設ね。それで教会陣営も人員には力を入れているのだろうか。



「――で、食堂が男子寄宿舎以外に、兵部の本棟にもある。

 しかも昼だけではなく朝から夜まで営業しているから、毎日料理作る必要が無くなったぞ、ヴェレナ!」


 ……あっ、これ地味に一番有難いやつじゃん。



「――で、ここが女子寄宿舎ですか」


 何となく見た目は前のと似ている。外にやっぱり守衛さんが立っていて不審者が居ないか見張っているのも一緒。


 そして入口から中に入るとすぐ左側にはダイニングキッチンが……。


「――あれ?」


「学院の手違いなのか手抜きか分かりませんが、大まかな寄宿舎の構造は魔法青少年学院のときとほとんど一緒なようですね。

 まあ女性入学を認めてから急に建てられた同時期の新築物件ですし、設計書の流用でもしたのでしょうね」


 あー……、そういう見えないところの地味な経費削減は結構やってたな魔法教育機関。制服は有名デザイナーに作らせたのに、戦闘服兼体育服のデザインは男子のものをそのまま借用してるしなあ。これもそうした一環か。

 でも真新しさは無かれど、使い慣れた動線になるからまあいっか。


「……となると、お風呂や共同洗濯機置き場なども?」


「そうだな、風呂も過剰設備のままだし」


 ああ、大浴場のままなんですね。

 そしてラウラ先輩の言に疑問が生じたので聞いてみる。



「――って過剰、ということは先輩方の他に女子生徒は居ないのですか?」


 もっと早く聞くことだね、これ。

 門前で待っていて3人揃っていたから何も違和感無く受け入れていたけど、まず真っ先に他に同性の先輩が居るかは聞いておくべきだよなあ。でも今までの流れを考えるとそう大量に居る、ってことは無さそう。



「ああ、居るな。――とは言っても1人だけだけど。

 オーディリアと同じ部屋だよ」


 あ、最悪誰も居ないことすら考慮していたけど、1人居るのね。成程。


「……というか、ルームメイト居るんですね」


「あら? 言ってませんでしたか。

 魔法青少年学院の寄宿舎と数少ない相違点として、個室の部屋は大分広く感じると思いますよ。

 ただ、2名1室です。男子の寄宿舎に合わせる形ですね」


「部屋は余ってるのにね」


 詳しく説明を聞くと、オーディリア先輩と知らない未知の2年生が同室で、ビルギット先輩とラウラ先輩が同室とのこと。部屋は余っているのに、この2部屋しか個室は使っていないみたい。

 余っているならいいじゃん1人1室でもと思わないでもないが、男子側の制度と歩調を合わせている模様。


 そして、魔法青少年学院では生徒側で自由に決めていた部屋決めも、一応学院側から使う個室の指定もされている模様。……まあ、流石に管理人不在とも言えど、生徒数的に自由裁量権は減るか。

 そして私の部屋も事前に決められていて何と寄宿舎2階。その階段を上がって奥の角部屋である。また角部屋なのは嬉しい。

 ただ、先輩方はいずれも1階であったので、今のところ唯一の2階部屋ということになるみたい。


 指定された209室の鍵を受け取り、事前に届けてもらった荷物もその部屋内や近くに置いてもらっているとのこと。

 ということで、折角なら部屋の確認と荷物整理を早めにやっておきたいので先輩3人衆との再会もそこそこに、新しい自室へと向かう。

 しかし、新しい先輩が1人居るのか。どんな人なんだろう。タイプが違うと言われたけれども、まあ逆に考えれば三者三様で結構癖があるというか他には中々居ないキャラクターだからそりゃあ被りはしないだろうよ、という思いも内心あったり。


 だけど、その新先輩・・・は今日は用事があるようで、初顔合わせはまた後日になるみたい。


 うーん、気になるけれども一応学院も春休みだししょうがないか。



 そんな詮なき事を考えていたら、209室の部屋前に到着した。……うん、確かに部屋の外に、私が先に送った荷物の段ボールが一部積んであるな。


 そして部屋の扉を開ける。


「あっ――広くなった……」


 まず真っ先に感じたのは部屋の広さ。今まで、ほとんど寝るスペース以外にほとんどプライベートな空間が無かったけれども、新しいこちらの寄宿舎の個室は、まず部屋を入ると反対側の壁際に2つ窓があり、机が2つそれぞれ両隅に置いてある。まあ、原則2名1室利用だしね。

 そして、一方の壁側には2段ベッドが。反対側には洗面台とトイレの扉、まあここは前の寄宿舎と似た感じだけれども、でも洗面台も心なしかワンサイズ大きくなり、姿見も置かれている。それと何といっても嬉しいのが、今回のお部屋。クローゼットがある。


 うん、やっぱり広い。いやー、これまでのお部屋はちょっとでも荷物を入れたらすぐに空きスペースが無くなっていたからな。広くなったこともさながら収納スペースが確保されているのも大きいね。


 そんな新設備クローゼットの中に潜るようにクローゼットの有難さを噛み締めていると、入口の扉が開く音がした。

 もしかしてオーディリア先輩辺りが片付け手伝いに来てくれたのかも。



「――オーディリア先輩ですかー? 何かありましたか?」


 少し大きめに声を張ってドアの向こう側へ話しかける。しかし、返答が返ってこなかった。

 おかしいな。ドアの開いた音は確かにしたのだけれども。


 そう思いながらクローゼットを出てドア前に向かうと、その瞬間。

 いきなり声を掛けられた。


「ぁ、あの! ……中央校・・・出身の……ぇ、えっと、ヴェレナ・フリサスフィスさんですよね、すみません! 私みたいな地方校・・・出身の田舎者と一緒のお部屋なんて嫌ですよね……ごめんなさい、これから3年間ごめんなさい!」



 ――この瞬間が。魔法爵育成学院に入ったことで、今までずっと居なかった待望の。

 魔法使いの女子同級生――ローザ・エルミンヒルトさんとの出会いであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この世界観で学院に兵部以外あるのが少し不思議です。 憲兵部を兵部と分けている理由とかガソリンエンジンのこと考えたら逆に技術部とまでいかなくともこれだけ細分化されて幅広い進路があったのだから兵…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ