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叶わぬ星〜動き出す時間〜  作者: しおごはん
3/7

サシェーナ・ハルバート

時間が少し遡ります。




ほうっと息を吐くと白い煙となって夜空に消えていった。冬の外は冷えるが今の自分の気持ちには心地よい。

見上げれば今日は満月に近い大きめの月が出ているため幾分星が減っているがそれでも充分の星が瞬いている。


その空の星が近く、手を伸ばせば星が掴むことができるのではないか思い、昔から手を伸ばすが未だに掴めたことはない。


今も手を伸ばしてみるが手は空を切った。


こんなに近くに見えるのに決して掴むことは出来ない。



「カイル…」


口から零れる名は義弟の名。



「ねえ…カイル。私は姉をきちんと演じることが出来た…?」


絶対に口に出すことはなかったけれど、誰も回りにいない、今だけは、今だけは縛り付けた想いを溢してもいいだろうか。


「気づいていた…?あのね…私、あなたのことがずっと好きだったの…一生懸命姉であることを演じていたのよ…?ふふっ、なかなか名演技だったでしょ?」



今この場にいない人に語りかける。



カイルはサシェにとって一目惚れで初恋の相手であり、ずっと想い続けていた相手だった。初めて彼と会った日、大好きな星座の話しに出てくるジャイロの王子が降りてきたのかと思った。彼は本の中に出てくる特徴である漆黒の髪と青空のような瞳の色をして非常に整った顔だちをしていた少年だったから。

幼いながらなんとなくいけないとはわかっていた。彼は弟で家族だ。好きになってはいけない、両親も弟も望んでいない。そう言い聞かせていた。

それでも彼は接していれば優しく、小さい頃は自分が落ち込んだとき必ず部屋に訪れて慰めてくれたり気を紛れるようにしてくれた。そんな彼に子どもながらどんどん惹かれている自分がいた。



その後、自分がエルリック王子の婚約者となったことでその恋心はより理性に縛り付けなければいけなくなった。


家同士の結び付きの為の婚姻だ。自分の身分を考えると充分あることだし父にも常々貴族とはと説かれていた。そこに己の感情を入れてはいけない。その時からカイルへの恋心を必死に抑えた。彼女はよき姉としてよき婚約者として一生懸命振る舞った。


周りから見ればよい姉であり、婚約者だったと思う。




最初はクロージュ嬢を友人だと紹介された。しかし自分に話しかけてくる男爵令嬢の話す内容は不快極まりなかった。遠回しに婚約者にも弟にも言ったがまさか、と信じてもらえなかった。その後彼らに避けられたり、謂れの無い出来事を注意されるようになり、おかしい、と思った。父にお願いしクロージュ男爵令嬢の調査した結果、内容を見て怒りに身を任せたくなるのを抑え、王子とカイル、王子の友人たちにも話しをしようと声をかけた。が、その頃にはすでに聞く耳を持たれなくなっていた。聞く耳をもつ友人はすでに王子たちの輪から外れていた。それでも、それでも彼らは聡い、いつか気づいてくれると信じていたのだ。


しかし今日、サシェは婚約者であるエルリックから婚約破棄を言い渡された。平民へ落とされ、国外追放される。サシェはパーティー会場からそのまま城で手続きし、家で荷造りをして都を出てきた。


荷物はほとんど残してきた。平民となった自分にはもう必要ないだろうから。



でも、とワンピースのポケットを探って目の前に出したのは小鳥が彫られたブローチ。


それは不恰好な形ながら木を掘って作られた鳥のブローチだった。


これだけは手放せなくて持ってきてしまった。



このブローチはカイルから初めてもらったプレゼントだったから




よく触ったせいか表面がつるつるしている。


もうもらって10年以上経っていた。


これはカイルがこの家にきて最初の1年にあったサシェの誕生日プレゼントでくれたのだ。まだきて間もなかった為お金もねだれなかったのだろう。彼がいっぱい考えた結果のものだった。彼は手先が器用であったことから自ら木を削り作りブローチとしてサシェにくれたのだ。



その時嬉しくたまらなかった。

大好きな人からまさかの自分を想いながら作ってもらったものだったから。




「きっとこうなったのは…神様からバチが当たったのね…」



どんなに理性で縛っても好きでいることが止められないのに、この国を将来治める王子と結婚する。結果的に二人の男性の間で中途半端な気持ちでいて、恋心と権力の両方を手に入れるという欲深いことをしようとしていたから。バチが当たって二人に嫌われてしまったのだ。




「私ね…こうなってどこかでよかったと思ってるのよ…」



だってもう、王妃にならなくても、いつか誰かのものになるあなたを近くで見なくてもいいのだもの。それに、自分の感情を嘘で塗り固めなくてもいい。

サシェの胸はどこかつっかえがとれたように、肩の荷が降りてすっきりしていた。




サシェがエルリック王子と婚姻するということは、いつかカイルも他の人と婚姻するということだ。それを近くで見ることを想像するだけで蓋をした恋心が溢れだし胸が張り裂けそうで耐えられなかった。ミーナと仲睦まじい姿を見ているだけで叫びだしそうになり、泣きそうになる自分の姿を誰にも見られたくなくて必死に抑え、扇で顔を隠した。



もう近くにいられないということはそれを見なくてもいいということだ。





「ねぇ、エルリック様…私はちゃんと婚約者でいられたかしら…?」


愛していた元婚約者を思い浮かべる。エルリック王子とは親同士で決められた婚約だ。しかも相手は一国の主になるかもしれない人。自分の想いだけで解消することなどできなかった。彼には恋をすることにはならなかったけれど、お互い支え合える大事な家族だった。故に彼を家族として愛していた。


彼には愛しい人を作って欲しかった。私という存在がいても添い遂げられるように助力するつもりだったのだ。でもその想いはついぞ届かなかった。






「…サシェーナ様。そろそろお宿にお戻りくださいませ。風邪を引いてしまいます」



後ろから護衛役のジョージが声をかけてきた。

外で星がみたい、という我が儘に付き合ってくれて離れたところで待機してくれていた。



彼は父から手配された人だ。



「わかったわ。こちらこそ我が儘で外に連れ出してもらってありがとう。」



自分はこれからこの国から離れた小国に嫁いだ母の姉の所に行き、職を手配してもらう手筈になっている。



父は切り捨てると言いながらちゃんと手配してくれていた。叔母の所に行くまでに使う馬車と護衛、平民となった自分ができる仕事の斡旋も口の固い母の姉に頼んでくれていた。


両親の愛を感じて自分の家族を想う。



私を愛してくれている人はいたのだ。

そう思える人たちがいてくれたことを嬉しく思う。



エルリックに誓ったのだ。家族として愛すると。民をより繁栄に導こうと。カイルに誓ったのだ。自分を守ると言ってくれたときに自分もカイルを守ると。家族が見放そうとしているのを知った。自分は最後まで彼らを見棄てたくなかった。

それをサシェーナは守り続けた。裏切られても自分の誓いを、信念を曲げたくなかった。意地もあったのかもしれない。それでも自分が今まで育んできた想いを最後まで自分だけは否定したくなかった。だから父や国王にわがままなお願いをした。自分自身を最後にかけたのだ。



また、


王妃教育として色々な人と触れあい、笑顔を向けられたとき、民が愛しくなった。この国がもっと繁栄すればいいと心から思えた。だが私よりも彼らのほうが繁栄させる能力を持っているのだ。あの人たちが好きだから。この国の人たちが大好きだから。私の幸せよりもこの国を幸せにしてほしい。




だからこの策がどうか上手くいきますように。





上手く行くかはこれからのこの国が繁栄するかどうかでわかるのだろう。





私はもう側にいることは出来ないけれど。




「幸せを、祈っているわ。




さようなら…私の愛しい人たち」




白い煙と共に言葉は星空に消えていった。

異世界(恋愛)です。

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[気になる点] >は切り捨てると言いながらちゃんと手配してくれていた。叔母の所に行くまでに使う馬車と護衛、平民となった自分ができる仕事の斡旋も口の固い母の姉に頼んでくれていた。 ×叔母 ○伯母 叔…
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