54-7司
「…大丈夫ですか?司。」
「ん?大丈夫だよ闇ちゃん、これくらいの怪我は自然に治るから。」
「…」
「そんなに俺が心配?」
「…アビスに行ったんですか?」
「わかるの?」
「はい。あなたの傷口から闇属性の力を感じます。今取り除くのでじっとしていてください。」
「わかったよ…ねぇ、闇ちゃんはアビスに行った事ないよね?何で俺がアビスに行ったってわかるの?」
「僕の存在自体が闇そのものですから、性質が似ている物には見分けがつきやすいんです。だからこれが環境による傷だって事もわかります。闇属性の濃い環境なんて、この世界にはアビスしかないと本に書いてありました。」
「そっか…闇ちゃん本好きだもんね。」
「あまり心配させないでください。」
「…闇ちゃんは俺の事憎くないの?」
「母が殺された事は辛いし、名前がないままなのも不安です。でも、あなたにも考えがあって、覚悟を持ってメディカ達と僕の為にリスクや犠牲を払って来たのもわかっています。憎いまでにはいきませんが文句はあるといった所です。」
「文句?……あはは!あるならちゃんと言いなよ!」
「さっきから言ってるじゃないですか…あまり心配させないでくださいって…」
「あ、それって文句だったの?」
「はい。止めても無駄だと知っていますし、振り回されている気もするので。文句は言っても無駄かもしれませんが、それでも言いたいのが文句なんです。」
「…闇ちゃんもう反抗期?」
「誰のせいでグレていると思ってるんですか?」
「ごめんごめん!でもね闇ちゃん、文句は相手も文句だってわからないと文句にならないんだよ?」
「じゃあわかってください。」
「はいはい。今わかりましたよーだ!」
「次何処かに行くなら僕も連れて行ってください。逃げないから。」
「駄目だよ。闇ちゃんの存在は秘密なんだから。」
「あなたが死んだら残されたスクナビコナと僕はどうするんですか?」
「大丈夫だよ、二人の為にも何としても生き残るから。」
「…あなたは抱え過ぎています。言っても無駄なら無理にでもついて行きますよ。」
「その翼を出したまま出歩くなんて怪し過ぎるよ。」
「こうすればいいです。」
黒い翼が消えて、闇ちゃんは白鎖を絡ませた黒い執事服を着た子供になった…怪しいのに変わりはない。
「…鎖はどうにもならないの?」
「こっちの方が闇の力が抑えられるから。」
「そう…本当についてくる気?」
「はい。スクナビコナのステータスも見ていて不安になるし、僕が出来る限り二人を守ります。」
「もういいや…好きにしなよ。」
「ありがとう。」
闇ちゃんは本当に強かった…ちょっと引くぐらい。でも本当に危ない時と頼んだ時しか動かない。白い鎖を服の隙間から出し、僕達を守りながら複数の神族相手にも戦えた。でもやっぱり日の光は苦手らしく、朝は僕の影に隠れている。
「聖剣?あぁ、あの光属性の剣の事か?昔は退魔の剣とか、勇者の剣とか言われていたけど…今じゃ誰も抜けなくてな、そこで観光名物になってるぜ?」
「どういう条件で抜けるとか、ヒントはないの?」
「選ばれし勇者しか抜けないらしいぞ?ほら、そこで洗濯物干されている石碑に書いてあるだろ?」
「へぇ…本当だ。ありがとうおじさん!」
「いやいや…あ、待て思い出した!近づくのはやめとけ坊主!」
「なんで?」
「最近聖剣は自分が抜くから他の奴らに触らせないつって暴走している奴がいるんだよ。だからあの聖剣には洗濯物がかかってないだろ?」
「…洗濯物で判断しろと言われても…」
「ま、とにかく危ない奴が狙っているから関わらない方がいいって話だ。」
「うーん…じゃああいつがいない今見てみた方がいいよね?」
「え?いや、それは…」
「いこ!闇ちゃん!スクナビコナ!」
「うん!」
「わかりました。」
「さっきの話聞いてなかったのかテメー!」
「あれ?そんな所で隠れて何してんの君?」
「うるせー!オレは朝監視して夜誰も見ていない時にその聖剣抜くんだ!」
「それを毎日してんの?」
「勿論だ!」
「でも誰にでもチャンスはあるよね?俺達がその聖剣を調べても文句は言えない筈だよ?」
「…一回だ。」
「ん?」
「一回だけ試して聖剣を抜けなかったらもう諦めろ!」
「いいですよ。」
「え?闇ちゃん?」
闇ちゃんはそう言って片手で軽々聖剣を抜いた…
「持っているのでゆっくり調べてください。終わったら戻しますので。」
「…闇ちゃん何者?」
「勇者です。」
「…それ持ってると冗談に聞こえないんだけど。」
「冗談かどうかなんてどうでもいいですよ。相性的に長時間持っていられないので早目に調べてください。」
「わかったよ…でも本当に驚いたな、闇ちゃんこの剣を持っていれば色んな人を騙せるんじゃない?」
「持ち出しはこの人が怒りますよ?」
「え?…オレっすか?」
「はい。それに、この聖剣はあくまで人造物、僕が使ったらすぐに壊れます…だから丁度いいです。これを調べ終わったらあなたにあげます。」
「オレに?」
「はい。この剣の質は悪くないのであなたの様な人に丁度いいです。それに、こうした方が後で色々上手くいきます。この恩はちゃんと返してくださいね?」
「あ…姉貴…」
「僕の心は男寄りだしあなたより年下なのですが…司もそれでいいかな?」
「闇ちゃんが何企んでいるのか気になるけど…いいよそれで。」
「ありがとうございます。」
司が聖剣を調べ終わって、その剣を欲しがっていた子にあげた。
「不肖シンキ!この恩はちゃんと返しますよ姉貴ー!」
「じゃあね、その剣はまだ君には重いと思うから、ちゃんと鍛えるんだよ?」
「アイアイサー!」




