54-4司
神族の伝手を持ってよかった。モンドに会った時は結構綱渡りだったけど、お陰で社会の裏で組織を築く以外にも表の方で王子としての権力と人脈を手に入れた。そしてそろそろ凛が転生して来る頃だ。凛にエルフの王女を務めさせるのは世界の混乱に繋がりそうだ、どうにかして凛をエルフの国から追い出す必要がある。その点エルフの王室に清水家の被害者だった転生者がいる事は確認済みだ。手を汚さず、証拠も残らない方法なら既に考えてある。スクナビコナと王子の信用で更に計画が上手くいきそうだ。
「兄さん、今度のエルフの国の王女誕生祭、俺が行っていいかな?」
「孤児のお前に兄さんと言われる筋合いはない!でもまぁ…興味ないなら行って来てもいいぜ?」
「俺は美味しい物一杯食べたいし行こうかな。それに…司も何か考えがあるみたいだしね。」
「あれ?スクナビコナ…俺の思考は常に隠蔽してるんだよな?」
「勿論だ!ちゃんとわからなくしているぞ!」
「良からぬ事を考えているのは表情見ればわかるよ…記憶を無くしても一応人間の神様だからね。」
「あはは!怖いなー!でも、ただエルフの王女をどうやって丸め込むか考えているだけだよ。ほら、俺って愛国心強いからこういう所で張り切っちゃうんだ。」
「ふーん。かなり怪しいね。」
「俺ってそんなに信用ないのかな…そうだ!じゃあ約束するよ!誕生パーティー中は何もしない。モンドがご馳走食べている間に騒ぎを起こす様な間抜けな行動は絶対に取らないよ!俺はただパーティー中に敵情視察しているだけだから!俺って愛国心の塊だもん!絶対戦争で役立つ情報を引き出して来るよ!」
「ご馳走を食べる間邪魔しないなら別にどうでもいいけどさ…本当に君は何度喋っても胡散臭さの塊だよね?」
「酷いよ…俺はただモンドと国のに認めて欲しくて頑張っているだけなのに…うぅ…」
「つ…司!大丈夫か!おい!モンド!言い過ぎじゃないか!」
「嘘泣きだよ?それ。」
「あ、バレた?」
「あれ?司泣いてないの?」
「うん。モンドが言った通りただの嘘泣きだよ。」
「し…心配したんだからな!」
「ありがとう、スクナビコナ。でもスクナビコナはもっと人を疑った方がいいと思うよ?」
「それだけは同意かな…」
「な、なんだ二人共寄ってたかって!私だってちゃんと疑おうと思えば疑えるぞ!」
「じゃあスクナビコナ、明日の準備をするよ。」
「わ、私も行くのか?」
「当たり前じゃん。美味しいご馳走一杯用意されるから、楽しみにしていてよ。」
「よ…よし!仕方ないな!私もついて行ってやろう!」
まず、パーティーが始まる前に凛に会いに行って見られたら不味い情報を全部隠蔽しよう。モンドが凛を見て間接的に俺の過去を知る事になるのも避けたい。何より凛は前世で人類を絶滅させていると聞いた、闇属性は絶対につくだろう。エルフの王女に闇属性が付いたら絶対に大騒ぎになってパーティーどころじゃない。そっちも隠蔽しておかないとな。
「だーかーらー!俺達はエルフの王女が生まれてくる所を見たいんだって
!」
「いや…しかし…」
「俺は帝国の王子なんだぞ!いいじゃないか!生まれるのを見ているだけなんだから!」
「いいじゃない、この子の誕生を喜んでくれる子が一人でも多くいるだけでこの子もきっと喜ぶわ。」
「…わかりました。」
「ありがとね!ティターニア!」
「いえいえ…」
また凛の家族を殺す事になるのか…でもこうしないと更に大勢の人が苦しむ事になるんだ、仕方ないとは言えないけど、犠牲にして来た人やこれから犠牲にしていく人の為にも足を止める訳にはいかない。
「アマデウスマジシャンか…これはメディカのステータスだけ弄っても怪しいとバレるな…スクナビコナ、闇属性とアマデウスマジシャンの概念を世間から隠蔽してくれる?」
「え?」
「アマデウスマジシャンの概念は今日が終わったらもう隠蔽しなくていい。でも闇属性の概念は俺がいいと言うまでずっと隠蔽していてくれ。」
「う…うん。」
「二人でなーにしてんのかなー?」
「「…」」
モンドにバレて部屋から連れ出された。聞かれたか…?いや、何を隠蔽したかは記憶の中から単語ごと消える筈だ…大丈夫だと信じたい。
「これ、エルフの太后が落としたんだけど…届けてあげてくれるかな?」
「うん!」
適当にエルフの子供に手紙を届けさせる。これでパーティー中に凛を暗殺する事を決めるだろう。これで後はパーティーの後に名乗り出ればいい。
「清水…転生して来ても…こんな異世界まで来ても…振り払えないのか…」
「どうも、手紙の差出人です。」
「お前か…清水家の奴が本当に転生して来たのか!」
「そうだよ。君をいらない人間だと判断して処分した清水凛本人が転生して来た。今なら本人の意思もしっかりと宿ってない。大勢のエルフが選別を行われる前に…争いが起きる前に殺した方がいいと思わないかい?」
「殺しなんて…」
「エルフの生活や思想に慣れ過ぎてしまっているようだね…君は忘れてしまったのかい?選別される理不尽を…当然のように物として扱われる辛さも…人間としてではなく、いらないゴミとして捨てられた絶望を…」
「やめてくれ!ひょっとしたら改心していい奴になっているかもしれないだろ?」
「それでも自分を否定した子を許せるの?愛せるの?」
「…」
「あいつは最後に人類を死滅させて来たんだよ?改心なんてしてると思う?」
「じゃあどうすればいい!」
「そう喚かないでよ。大丈夫、殺す準備は出来ているから、報酬をくれればちゃんと凛だけ殺してあげるよ。子供はまた生み直せばいいじゃないか。大丈夫、この悪夢が終わればまたいつもの幸せな生活が待っているさ。」
「…もういい…もう…まかせる…」
「じゃあこの書類にサインして、お金は後で貰いに行くから。」
そして外で待機させていたスクナビコナにも手伝ってもらう。
「何の話をしていたんだ?」
「パーティー中に挨拶し忘れていたから帰る前に挨拶しておいたんだよ。そうそう、俺に関する情報はこの一週間太后の記憶から隠蔽しておいてね。」
「司…」
暗殺計画は上手くいき、何とかティターニアを目的地まで追い込んで止めを刺す事に成功した。闇の精霊は脅したら出てきてくれたのでそのまま攫った。凛は部下に見張らせておく。太后が暗殺計画を実行したと告発して、死刑で死んだ。これでもう事実は掘り返せない。
「黒雲があるから監視は無理?」
「はい…危なくて誰も行きたがりません。ただ、先日黒雲がドラゴンを一体喰い散ったそうで、素材を欲しがるドワーフなら或いは行くかもしれません。」
「うーん…今から言う数人のドワーフにさり気なくその情報を流してくれる?」
「はい。」
凛が研究好きなのは前世から知っている。ドラゴンの死体が落ちて来たら絶対に拾って研究しようとするだろう。ドラゴンの死体を目印にドワーフが近づけばもしかしたら凛と鉢合わせになって助け出そうとするかもしれない。
「王国のドワーフのダンゾーが探しに行きましたけど、既にドラゴンの死体は持ち出された後だったそうです。」
「…そう。確かダンゾーは瞬間移動のスキルを持つ子供がいたよね?」
「はい。」
「念の為にマークしておいて。」
「わかりました。」




