54-2キラー
モンドに空間移動の魔法を使われて全員でボロボロな小屋の前まで移動した。ここに一国の王子が住んでんのかよ…ドアを開けたらメディカと知らない人間と謎の堕天使がお茶を飲んで休んでいた。俺達を見ても三人共特に驚く素振りは見せていない。
「うわーん!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「…何?どうしたの?」
「あれ?スクナビコナ…友達連れて来たの?」
「モンドに怪しいとバレちゃって…隠蔽していた事は殆どはかされちゃったの。」
「あはは…相変わらず役立たずだなースクナビコナは。」
友達がこんなんなって泣いているのに…想像以上に酷い奴だな。
「うぅ…」
「嘘だよ。目的はギリギリ間に合ったから。お手柄だよ、ありがとう、スクナビコナ。」
「へぇ?何の目的なのか聞いていいかな?」
緊迫している場面にも関わらずメディカと堕天使は静かにお茶を飲んでいた。場慣れし過ぎだろお前ら…
「予めメディカの精霊を攫って、エルフの国に全ての国との条約を切って、帝国の傘下に加わるように頼んだんだ。今迄忘れて来た精霊を助ける為ならそれくらい訳ないよね?」
…あまりの言葉に周りの皆は言葉を失った。メディカと堕天使はこんな状況でも無視してクッキーを貪っている。
「う…嘘だろ…司…私はお前がいい奴だと信じて…」
「嘘じゃないよ?俺の王子としての交渉能力の高さを利用すればこの通りすぐに条約を結んでくれたよ。ね?メディカ。」
「そうだね。司の話す内容は七割は嘘だと知っていたけど、ここまで目の前でスラスラさっきまでと違う内容を話して同意を求めて来るなんていっそ清々しいね。」
「そ…そんな……ってあれ?噓なの?」
「スクナビコナ…あなたももう少し学んだらどうですか?司がどれだけ気軽に嘘をついて来たか…忘れちゃったんですか?」
「や…闇ちゃん…」
…もの凄く混乱してきたけどこの堕天使がメディカの攫われた精霊らしい…姿も色々突っ込みがいがあるがそれよりも何故等身大なのかが気になる…
「さっき名前ができました。アキシオンです。シオンと呼んでください。皆さんもよろしくお願いします。」
「え?あ…えっと…よろしく?なぁ…さっきのあいつの言葉って…」
「本当の事も少しは混ざっていたけど…条約の件は間違いなく嘘だから大丈夫です。」
……噓だったのかよ!そしてそれを無視していたのかよ!こいつもメディカも大概だな。
「じゃあ、メディカは何の為にここに一人で来たんだ?」
「司は前世では私の先輩だったからね、ヒエン達にはあまり聞かれたくない昔話をしていたの。」
「前世での先輩?」
「うん。隠蔽されていてさっきまで忘れていたけど組織に入ったばかりの無垢な私を騙しまくった思い出すだけでもイラっと来る先輩だよ。」
「騙せたのは一回だけだけどね。」
「その一回がどうしても思い出せないんだ...」
「あれ?隠蔽した内容は全部元に戻したんじゃないの?」
「司がどうしても隠蔽して欲しいと言った内容は隠蔽したままだよ...隠蔽した内容はもう私も思い出せないようにしたからわからないけど...」
「...ありがとね、スクナビコナ。」
「うん...」
そういえば一部は隠蔽したままだって言ってたな。
「で、皆何でこんな所に来たの?」
「スクナビコナにとんでもない事を頼んだ元凶がいると聞いて。」
「あ、闇属性を隠蔽させた事?いいじゃん、8年なんて神族にとっては瞬きする程短い時間なんだから。」
笑顔で認めた。認めた上で全然反省していない…メディカの先輩も本当に碌な奴じゃないな。
「全然反省する気なさそうだな…」
「スクナビコナを泣かせたから反省はしている、でも後悔はしていない。」
「流石大先輩、悪の鏡ですね。」
「お、褒められた。」
「司...バカ!心配したんだぞ!この大馬鹿者!」
「スクナビコナも少しは人の言葉を疑うんだよ?」
「スクナビコナは司と友達なの?」
「う…うん。」
「じゃあ私とも友達になってくれるかな?あ、自己紹介まだだったね、私の名前はメディカ、よろしくね。」
「いいの?」
「何が?」
「私隠蔽の神様なのに…友達になっていいの?」
「勿論いいよ?私の友達にはね?後ろから心臓を抜き取るのを挨拶にしている人や人類を滅ぼそうとして封印されていた人や子供に無理難題押し付けて来た人がいるんだよ?今更ただ能力が隠蔽なだけで避けたりしないよ。」
今凄く聞き捨てならない事が山の様にあったんだが…
「あ、メディカ…俺達の悪口を目の前で言うなんていい度胸してるじゃん。」
「でも事実だし。」
「メディカ…お前、心臓抜かれたのか?」
「うん。痛かった。帝国流挨拶だって聞いたのに帝国に来ても誰もこんな挨拶してないから軽く詐欺に会った気がした。」
「気を付けるんだよ?こっちの世界でも詐欺師は多いんだから。」
「うん。司に言われると説得力が違うね。所で…司が王子ってマジ?」
「本当だよ。」
「……シオン、マジなのか?」
司の言葉はシオンに確認を取る程信用無いらしい。
「本当みたいだよ?正確には帝国の第二王子。今迄帝国の第二王子の情報を隠蔽して世間にはスクナビコナの遊び相手とだけ憶えて貰うようにしていたから...今頃帝国王室では大変な事になってるだろうね…どうしたの?」
「…ちょっと森で隠居してようかな。」
「どうして俺が王子にだったら隠居する話になるの?」
「だって色々めんど…大変な事になりそうだし。」
「大丈夫だよ。そろそろクーデターでも起こそうか考えていたけど、帝国も王国と仲直りする大事な時期だし、もう少しだけ様子を見ているから。」
「あれ?それだけ?」
クーデターがそれだけって…
「勿論それだけじゃないよ!冒険者ギルドでも作ろうと思うんだ、メディカも参加してよ。」
「あんたの部下になる気はないんだけど。」
「うーん…配下が一番良かったけど…じゃあパーティーメンバーで。」
「いいよ。」
「ちょ!待った!そいつはお前の親を殺した犯人かもしれないからな!」
「かもしれないじゃなくて確定だけど、その辺の事情が色々面倒なんだよ。私の母を殺したのは私を助ける為でもあったから。」
「え?そうなのか?」
「どうなの?スクナビコナ。」
「わ…わからん!司!一から説明してくれ!」
「嘘でいいなら説明するけど?」
「メ、メディカ…」
「面倒だからパス。」
スクナビコナの扱い酷いな…
「シ…シオーン!」
「…わかりました。僕が知る範囲で説明します。」
「君は…メディカの闇属性の精霊だっけ?」
「はい。改めまして、僕はメディカの闇の精霊アキシオンです、シオンと呼んでください。」
「知ってると思うけどモンドだよ。よろしくね、シオン。」
「よろしくお願いします。まず、司がメディカの母を殺し、闇属性の隠蔽を行い、僕を攫った理由からですね。」
「その三つは繋がってるの?」
「はい。まず、メディカは前世で大罪を犯し、エルフの王女として転生するのを司は事前に知っていました。司はメディカがエルフの王女として活動し続けたら世界が混乱する事を予想していたんです。」
「それでメディカを殺そうとしたのか?」
「逆です。メディカの考えを変えて、改心させて配下に付かせるのが司の目的です。」
「へ?司は一言もそんな事言ってないぞ?エルフの王女が知り合いだった事も…大罪を犯した事も…改心させようとした事も…どうやってわかるんだ?」
「司がいない間にこっそり家に隠してあるメモを見たり、言動の目的を考えたり、事実の段片を合わせてみたりしたんです。」
「そんな事をしていたのか?」
「はい。では、話の続きをします。司はメディカを王女という立場から命の危険に会いそうな環境に落として、闇属性以外の精霊達に頼る立ち位置に引き込んだんだ。」
「改心させる為にか?」
「そうです。大罪を犯して反省していないメディカにそのまま権力を持たせると碌な事にならない。闇属性以外の精霊達は一緒にいるだけで心にプラスの影響を与える。逆に闇属性の精霊と一緒にいれば何時まで経っても改心しないと思ったんでしょう。」
「メディカのステータスの闇属性だけ隠蔽して、精霊を攫えばよかったのでは?」
「メディカはアマデウスマジシャンですから…闇属性の存在を知られた時点でおかしいと気付いてしまうんです。」
「だから闇属性を丸ごと隠蔽したのか?」
「はい。」
「はぁ…それで、メディカの母を暗殺したのは?」
「エルフの国にメディカを探そうとする余裕を無くす程の事態にさせる為と、母が生きている状態でメディカを攫うのは無理だと判断したんでしょう。」
「確かにバリアが外れればそれどころじゃなかっただろうね…俺に観光に行くならエルフの国がいいなんて言ったのも混乱を誘う為だったんだね…」
「メディカを探させない為にモンドにエルフの国を襲わせたのか…呆れる程にとんでもない奴だな…」
「そんな理由でヤガミの両親とメディカの母が死んだのか?」
「そうみたいだな。」
「そこまでしてメディカに権利を与えたくなかったのか?」
「いえ、そこまでの犠牲を出してでもメディカには改心して世界の為に動いて欲しかったんだと思います。」
「…」
「メディカが前世でどんな奴だったかは置いといて...どうしてそれがメディカを助けた事になるんだ?」
「エルフの国の太后は前世メディカに殺されたんです。だから太后がメディカの前世を知ったら間違いなくメディカを殺すと知ってたんでしょう。その太后を裏で利用して、先にメディカの前世をばらしメディカの暗殺計画を買い出て、契約書の証拠だけ残した後に太后の記憶に残った自分の情報を隠蔽した後告発して死刑で殺す。結果としてはメディカを助けた事になります。」
「…あの時のは…そういう事だったのか…?」
「はい。僕が攫う時に司が見ていたメモに作戦がしっかり書かれていました。」
「シオン…信じてくれ!司は悪い奴じゃない!」
「はい。知ってます。司は悪い人ではありません。本当に悪い人だったらとっくに逃げていますし、助けずに見捨てていますし、仕事の手伝いもしません。」
「…それはそれでちょっと怖いんだが…」
「単純にいい人で終わらせる事は出来ませんが…スクナビコナも司も根は優しいのはわかります。」
「シオン…」
「二人は闇の精霊の僕を嫌わずに接してくれました。だから皆には司が悪い人だと決めつけないで接してあげて欲しいです。」
「嫌わずに接していたというならシオン、お前の翼に縫い付けられている鎖はなんだ?」
「自分で縫い付けた物です。僕の闇の力が二人に悪い影響を与えるかもしれなかったので。」
「自分で縫い付けたのか…また無茶な真似をする奴だな…」
「確かに少し痛かったけど…でも、お陰で二人に悪影響を与えなくて良かったと安心してます。」
「馬鹿者!少しは自分の心配をしろ!」
「似たような事を司にも何度も言われました。でも、皆が思っている以上に僕の力は強いので、その分しっかりしないといけません。」
「はぁ…お前本当に闇の精霊か?」
「それは聞き飽きる程言われました。攫い間違えたとか、光の鎖せいで闇ちゃんが闇ちゃんじゃないとか、自堕落できない闇ちゃんは闇の精霊の落ちこぼれとか…主に司に言いたい放題言われました。」
「それは酷いな…」
「それは闇ちゃ…シオンが怒らないからだよ。」
「スクナビコナからは見た目がドジっ子と言われました。」
「だって事実じゃん。」
「スクナビコナからそんな風に言われたのか…私だったら立ち直れないな。」
「見た目がドジっ子だけど、凄く可愛いよ?」
「…ありがとうございます。」
「そこは感謝しちゃだめだろ。」
「ここでの生活はどうだった?」
「最初は攫われた後にここで不貞寝していればいいと言われて困惑しました。」
「うん。」
「その後家事を手伝ったりして頑張って。偶に変装して護衛になったり、怪我の手当てを任されたりしました。」
「う…ん?」
「そして何故か大量の仕事を頼まれ出して、自分の部下の世話を任されたり、最終的には参謀にされました。」
「…」
「文句は言わなかったのか?」
「いえ、特に。」
…呆れたな。こいつの何処に闇の精霊要素があるんだ?
「説明はこれでいいですか?」
「あぁ。」
そしたらシオンは司とメディカの下へ戻った。この後少し話していてわかった事は司が胡散臭さの塊だという事とシオンが滅茶苦茶強いのかもしれないという事だ。




