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「…参ったね、まだ君に返す気はないんだけど。」

「だろうね、帝国の学園で魔王を名乗った私に闇の精霊なんて返したら後が怖い。」

「人を雇って学校に忍び込ませてたの知ってたんだ。」

「心が読めるからね。エルフの王女なんて立場だから色んな奴らから狙われている自覚はあったけど、まさかその中に前世の知り合いに監視目的で雇われている人がいるとは思わなかったよ。」

「凛がピュアな精霊達に囲まれても世界を壊した事に微塵も反省しないのは俺も思わなかったよ。」

「これでも少しは反省しているんだよ?闇の精霊は一緒にいるだけでエルフの心の悪い感情を増幅させるんだっけ?」

「そう。逆に火、水、風、雷属性の精霊はいい感情を増幅させたり、心の支えになってくれたりするんだ。四匹も精霊がいればとんでも思想の凛ももう少しはまともになるかなーと思っていたけど…まぁ少し反省出来る程度には頑張ってくれたし、無意味でもないのかもね。」

「闇属性なんて単語少し前まで一度も聞いた事ないし、研究してても見つける事が出来なかったけど。」

「当たり前じゃん。俺が友達に頼んで世界から闇属性の存在そのものを隠蔽して貰ったもん。他にも色々隠蔽して貰ったけど、なんで凛が隠蔽している筈の闇の精霊について知ってるのかな?」

「ノーコメント。」

「あのさー、人がちゃんと質問に答えてあげてるのにそれはないんじゃないかなー?」

「わかったよ。じゃあ帝国で聞いたとだけは言っておく。」

「ふーん…それって神族だったりする?」

「モンド以外の誰か。」

「…俺の心はもう読めないんだよね?」

「司が帝国でモンド以外に警戒する奴がいるとは思えないな。」

「あぁ、そう。」

「で、そろそろ闇の精霊を返して欲しいんだけど。」

「わかったよ。でも、条件がある。」

「知ってるよ。闇の精霊を攫ったのは私が暴れる心配以外にもあるんでしょ?」

「そうそう。俺を改造してくれよ。」


やっぱりか…


「前世に一度やり過ぎた事があったんだ。今は反省期間でね、本質を歪める程の改造は出来ないが、禁忌を破る一線手前までなら改造してやってもいいぞ?」

「禁忌って…ちゃんと並みの神族と戦えるレベルまで強化してくれるの?」

「流石に旧神相手には戦えないが、並みの神族以上には改造してやる。」

「じゃあ任せるよ。」


今未来予知で知ったけど、後数分でモンド達が干渉しに来る…急がねば。


「…早くしないとモンド達が君の友人を連れて来ると思う。急がないと…闇の精霊はどこ?」

「その扉の向こうで寝てるよ。ってちょ!」


片手で司の手を引っ張ってもう片方の手で扉を開けた。開けた瞬間に固まった…アルの報告内容の二つ目の問題点は{闇の精霊について}としか書かれてなかった。何故それしか書かなかったのか少しわかった気がする。


「ア…」


髪色も髪の長さも身長も違う。黒い翼だって生えてなかったし、鎖に巻かれてなんていなかったけど…顔立ちと雰囲気からして間違いなくアルカナムだ…でも驚いている暇はない。私は寝ている闇の精霊の手を取って司と一緒に異空間の研究室に移動した。


「あの…これは一体どういう状況ですか?」

「俺が聞きたいね…まさかこんな禍々しい物が大量に置かれている部屋で改造されるなんて。」

「今この空間の時間の流れの速さを変えておいたよ。だから存分に話せるし改造できる。」

「状況が全然追いつかないのですが。」

「モンドが来ると言われて俺もなんでこうなったのか…」

「大丈夫。私もだから。」

「「「…」」」

「いや、あなたが連れて来たんじゃないですか…状況が追いつかない理由は何ですか?」

「あんただよ。」

「へ?僕が悪いの?」

「あ、わかった!闇ちゃんの見た目が悪いんだ!」

「え?僕の見た目そんなに酷いんですか?」

「そうだよ!凛を混乱させる程にはね!」

「え?え?」

「そうでしょ!凛!闇ちゃんの見た目のせいで驚いたんだよね!」

「…まぁ。」


寝ている間に突然引っ張り出された闇の精霊が今にも泣きそうだ…揶揄うのはここまでにしておこう。


「闇ちゃん…だっけ?見た目が昔の知り合いにそっくりだったからつい驚いちゃっただけなんだ。説明不足でごめんね?」

「闇ちゃん忘れちゃったの?闇の精霊は持ち主のエルフの心の奥底に眠るトラウマや深い闇に影響されるって。凛は転生者だから、見た目が凛の知り合いの誰かに似ている事もあるかもってスクナビコナが言ってたじゃん。」

「あ…」

「ねぇ今なんて思ったの?見た目で驚くなんてそれくらいの理由しか思い当たらないよね?詳しくなんて言われたのかと思ったか聞いていいかな?」

「うぅ…」

「まぁまぁ…それ以上闇ちゃんに意地悪しなくていいじゃん。」

「僕の名前は闇ちゃんじゃないよ…」

「え?違うの?」

「まだ名前がないけど、どう呼ぶかわからないからあだ名として無理矢理そう呼ばれているんです。許可した覚えはありません。」

「あれ?ヒエン達は全員名前があるのに何で君だけ名前がないの?」

「君達は生まれた時にティターニアに名前を付けて貰ってたんだけど僕だけは生まれた時点で存在を隠蔽されていたから名前がまだないんです。」

「こればかりは俺も悪い事したなって思ったけどさ、闇ちゃんって名前も可愛くていいじゃん。」

「僕の心は一応男性寄りなんですが…それに、精霊の名前は産んだエルフか一緒に生まれたエルフが決めるのが決まりなんですよ?僕だってちゃんとした名前が欲しいです。」

「うーん…じゃあここで決めちゃうよ。ずっと隠蔽されてきた闇属性…ダークマター…いや、アキシオンなんてどう?」

「じゃあそれで。」

「長いからシオンでいいよね?」

「え?」

「そうだね。よろしくね、シオン。」

「…はぁ、わかりましたよ。よろしくお願いします、メディカ。」


さてと…鑑定…あれ?できない。


「隠蔽されていますからね。」

「そういえばそうか…それにしても私の目まで欺けるなんてね…」

「あいつ隠蔽の能力だけは一流だからな。」

「でも司の能力は鑑定しないとちゃんと改造できないから、何とかしないと...」

「え?司を改造するの?」

「うん。頼んだんだ。」

「…育ててくれた恩もあるので、手伝える事があるなら無茶せずにちゃんと言ってくださいね?」

「相変わらず闇属性の精霊とは思えない程優しい子だね。大丈夫だよ、いつも通り遊んでいるだけだから。」

「…メディカ。」

「何?」

「司を…お願いします。」

「わかったよ。」


不思議と言ってて不安になった。前世の司に関する記憶も何故か上手く思い出せないでいる…ひょっとしたらそれも隠蔽されているのかもしれない。私はひょっとしたら今世だけでなく前世でも司の掌で遊ばれていたかもしれない。シオンとこんなやり取りをしている間でも司はずっと感情の読めない笑顔で様子を見ているだけだった。うーん、ムカつく…あれ?でも何故か今は鑑定出来るようになってるぞ?...司の友達の身に何かあったのかもな...急いで終わらせないと。


名称:司

種族:鬼人

年齢:14歳

状態異常:なし

HP:5000/5000

MP:2000/2000

攻撃力:5000

魔力:2000

防御力:5000

素早さ:4000

魔法:火属性、闇属性

スキル:鑑定、鬼化、スキルコピー、高速演算、根性、カリスマ、危機察知

称号:王子、冒険者、詐欺師、嘘つき、改造人間、モルモット、裏切り者、種族変異者、狂人、修羅場潜り、神族の友達。


「え?充分強そうじゃん。」

「全然足りないんだよ…そもそももっと強くならないとまともな神族に当たった時点でほぼゲームオーバーなんだ。」

「そんなに神族と戦いたいの?」

「戦う必要はほぼないけどね、邪魔だと思われて攻撃して来たら困るじゃん。この前の神族は上手く嵌めて同士討ちさせたけどそう何度も上手く行くかわからないし、不意打ちや問答無用で襲い掛かる奴がいたら交渉する余地もないよ。せめて不意打ちを防いだり、逃げ切る事が出来る様にならないと話にならないよ。」

「うーん…まぁ、人間から鬼人にされて、種族変異が起きている時点でもう眷属から外れていい宣言をされている様なものだし…たぶん大丈夫だろ。」

「うん。許可もばっちり取ったから問題ないよ。」

「…どうやって許可を取ったのか気になるけど。改造を始めるよ、シオンも手伝って。」

「わかった。」


名称:司

種族:鬼

年齢:14歳

状態異常:なし

HP:1000/1000

MP:800/800

攻撃力:500

魔力:600

防御力:1500

素早さ:1000

魔法:火属性、水属性、雷属性、闇属性

スキル:鑑定、高速演算、根性、カリスマ、危機察知、超回復、魔眼、痛覚耐性、精神強化、気絶耐性、瞬間移動、恐怖具現、帝王覇気、ラファエルの加護、弱者詐欺、遠隔通信、身体強化、確率操作、大食い、強欲、不老。

称号:王子、冒険者、詐欺師、嘘つき、改造人間、モルモット、裏切り者、種族変異者、狂人、修羅場潜り、神族の友達。


スキルの量に比べてステータスが悲しく見える?違うんだよな…スキルの弱者詐欺は見せているステータスを常に5000倍減らしているんだよ…本当に無茶苦茶に思えるけど司がモンドやカンナカムイ相手に突っかからないとは言い切れないからこれでもかなり不安な方だ…狂化まで使わないといいけど…


「ねぇ、凛…」

「もう転生したんだし、メディカって呼んでくれない?」

「メディカ…色々突っ込みたい事があるんだけど、とりあえず弱者詐欺って何?」

「スキルをよく見ない奴によく効くスキルだよ。あんたにピッタリだと思って付けたの。」

「どれくらい差があるの?」

「5000倍。」

「…」

「それでも身体強化を使わないとまともに戦えない相手はいるよ?モンドとかのレベルだと、身体強化を使っても逃げきれないかも。」

「注意点とかある?」

「今のままじゃ身体強化は十分間以上続けられない。確率操作もクロノア…私が前世で作った人工知能なんだけど…その子が扱うよりも効果が薄いし、魔眼も魔人じゃないから効果は薄め、瞬間移動も慣れが必要だし…まぁ、鍛える必要があるって事。」

「強欲と大食いは?」

「強欲は自分の部下、ある程度自分より弱い者、同意を得た場合のみ自分より強い者からスキルをコピーできるスキルだよ。大食いは許容量を超えない限り自分の周りのエネルギーを自分の力に変換できるスキルだ。許容量は鍛えれば増えるからとにかく頑張れ。」

「…不老って何?」

「そのままの意味だよ。でも不死ではないから気を付けてね。」

「これって本当に禁忌の一線超えてないという判定でいいの?」

「当たり前じゃん。前世で司に会う前に作ったサイボーグ…いや、元人間だった子に辛い思いをさせた時以来ちゃんと気を付けているの。」

「禁忌を破ろうとして失敗したの?」

「......成功し過ぎたんだよ。取り返しがつかない程にね。」

「今の俺ってそのやり過ぎた子より弱いの?」

「だろうね…その子はもう強い弱いの次元の話じゃないから。」

「…前世でエントロピーの概念を覆す理論を発表していたよね?それと関係していたりする?」

「その概念も利用しようとしたけど、結果もっととんでもない事になったの。どんな結果になってしまったのかは言えないけど、これ以上はやめようと思うには充分な結果だったよ。」

「つまり抑えた状態でも世界を壊してしまったと。」

「まぁね。当時の私にとってもうあの世界がどうなろうがどうでもよかったし、夢を叶える為にクロナ程度が多少暴れてた程度で壊れても仕方ないかなーと思えたかな。」

「クロナ程度って…」

「最後の作品と言っても私にとってはまだ開発初歩の段階で出来た試作品だからね。最高傑作には程遠かったし、今は長時間の学習で確率操作の精度が上がり、シロナと合わさってそれなりに強くなったが、まだまだ満足できる作品ではない。私の事ばかり思って来たせいで彼女はクロノアになった今も尚未熟のままだ。」

「…」

「心配しなくてもこの世界を壊そうとか、試しに殺し回ってみようとかもう思わないから...一応自分に対する戒めみたいな物があるんだ。」


そして司にオカリナを見せた。


「これが戒め?」

「そうだよ。奪われ続けたエルフがそれでも平和を望んでいるっていう証拠だよ。まぁ、あいつの気が変わったら私の気も変わるかもしれないけどね。」

「…そんな物、なんで持ち続けてるの?」

「思い出せないけど前世で似たような考えの奴を慕っていたような気がするんだ…あぁ、もしかしてお前の事だったか?隠蔽されていたら思い出せないからな。」

「メディカ…モンド達が家の前まで来てしまった。早く外に出ないと...この異空間まで感知されてしまったら後で何かあった時に逃げ辛くなると思う。」

「ありがとう、そうさせて貰うよ。という事で二人共外に出るよ。」

「はーい。」

「うん。」


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