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アルから貰った資料を見て頭が痛くなった。クロノアは私が思っていた以上にやらかしていたらしい。私がこの世界に転生した事で二つ大きな問題が出た。一つ目、地獄行きだった筈の私の魂が輪廻の輪からクロノアに無理矢理掬い出され、この世界の転生システムに入れられた。私の魂が輪廻の輪から掬い出された際周りにいた前世で私に深い関わりがあった者も一緒にこの世界に転生してきてしまった訳だ。一応アルが巻き込まれた人達をリストにしてくれたけど…厄介だな…


「兄はともかく司とネセサリウスの奴らまで一緒に来たのか…」


ネセサリウスとは構成員の全員が一人で世界中の人間を混乱に陥れる事ができる世界の巨悪を集めた様な組織だ。お互い監視し合って一人でも度が過ぎた動きをした人がいれば残りの全員が敵に回るというシステムでお互いこの組織に入った目的は違えどまともな奴はいなかったな。そんな一人でも世界を混乱させる事が出来る連中が全員揃ってここに来ちゃった訳だ。アマテラスが知ったらどうなる事やら…絶対に秘密にしよう。


「司の奴転生しても名前一緒なんだな。」


司は転生前はネセサリウスの構成員だった。十四歳でマフィアのボスまで上り詰め、各国の政府まで意のままに操っているとんでも人物。結構な嘘つきでネセサリウスの構成員の中でも世界に対する影響力がでかい方だったと書いてある。


そういやそうだったなと思う反面、何でこんな印象深い奴をアルに言われるまで忘れていたんだろうと疑問に思う。今も資料に書いてある以上の内容を思い出せない。司が裏で何かしたのか?


「まぁいいや、まずは司に会いに行こう。」

「昨日から時間があったら白紙をずっと見ていて何をしてるんだ?」

「あれ?ヒエン…ご飯の準備はできたの?」

「できたから呼びに来たんだ。」

「そう?明日知り合いに会いに行くの、魔法陣で私の分身を出したいんだけど手伝ってくれる?」

「普通に学校休めばいいんじゃないか?」

「私がその知り合いに会いに行った事を出来れば知られたくないんだ。」

「そうか…で、俺の質問にはまだ答えてないけど。」

「これ?古い知り合いから貰ったんだ。ほら、エルフの王女は転生者って言われているでしょ?私も転生者なんだよ。前世の知り合いから貰ったんだ。」

「いままで全然言わなかったのに突然転生者だと言われてもな…まぁ、俺達も推測でなんとなくそうじゃないかとは思っていたけど。」

「ごめんごめん、言ったら混乱すると思ってね。それで、その知り合いから貰ったんだよ。内容は誰にも言えないけどね。」

「何か書いてあるのか?」

「書いてあるよ。私にしか見えないようにされているけどね。」

「で、それが明日会う知り合いと関係していると?」

「ノーコメント。」

「何かあったらちゃんと言うんだぞ?」

「ごめんね、でもこれは流石に私一人の問題じゃないんだ。」

「大変なのか?」

「それもノーコメントかな。ただ…ヒエン達にはこの後も手伝って欲しい事があるんだ。」

「なんだ?」

「この交換留学が終わったら私、カンナカムイの所で修行したいと思うんだ…修行、付き合ってくれる?」


ヒエンの顔が一気に蒼ざめた。暫く考えてやっと口を開いた。


「…わかった。皆にも言ってくるよ。」

「ありがとう。」



帝国下町の散策。一目見るだけならのどかそうだけど権力者はそのまま店の物取っていくし路地裏には捨て子やホームレスがウロウロしている。攫われる人がいても皆見て見ぬ振りしてるし、貴族の家の前は見せしめにされた人が生きたまま干されている。弱肉強食っていうのがよくわかる光景だな。


あ、あいつの特徴...あいつが司か。心の声が聞こえないし鑑定も防がれてる、サリエルの目を使っても全然情報が入って来ない。思っていた以上にヤバい奴かも。



「あ、いたいた。司だよね?」

「ん?君は昨日サッカーで大けがした…」

「違う違う、私は凛だよ。偶然だね、こんな所で。ここは人目が多いから家まで案内してよ。あんたの事だから結構稼いでんでしょ?」

「あれ?バレちゃった?ちぇー…わかったよ。」


そのまま隠れ家の様な所に連れてこられた。流石にそんな簡単に信用してくれないよね。


「ようこそ我が城へー!」

「歓迎してくれて有難いよ。早速だけどさ、私は人の心を読むスキル持ってるんだけど、何故か司の心は読めないんだよね...」

「え?そんなチートスキルあるの?ずるくない?ま、防げているなら別にいいか。」


表情がコロコロ変わるけど本心がわからない。敵に回したくないタイプだな。


「うん、初期スキルで既にあるんだ。だから昨日司に服を作ろうと思ってさ、魔法とスキルで糸を作ったんだ。この糸で作った服を着るだけで自分に害をなすスキルや魔法をある程度防げるし結構防御力も上がるよ。まぁ、簡単に言うと挨拶代わりでプレゼントでも作ろうと思ったんだ。待っててね、今作るから。」


そう言ってすぐにマント付きの海賊服を作った。早速着替えて貰った。うん、これが司の印象に一番合っている。


「何でいきなり会いに来てこんな物を?」

「挑戦状だよ。司の心はスキル抜きで読んでみせる宣言だったんだけど...元からいらなかったみたいだね。」

「随分と舐められたものだね。でも可愛い後輩からのプレゼントだし有難く貰っておくよ。」

「でも感謝はしているんだよ?転生した私を助けてくれたんだよね?」

「一応俺達この世界では初対面だろ?何を訳のわからない事を言ってるんだ?」

「私の祖母が誰かを雇って私達を殺そうとしていたのは知っていたんだろ?だから暗殺計画に協力して人を雇って私だけでも見逃すように命令した。」

「…ふーん、知ってたんだ。でもそれはあくまで子供の命までは奪おうとしなかっただけだよ。ほら、俺って優しいから。その子供が凛だったなんてわからなかったけどね。」

「いや、君は祖母が暗殺を仕向ける動機を知ったから、私が凛の転生者だって事も知っていた筈だ。もし知らなかったら祖母を告発して口封じをした後、行方不明だった子供を見つけたと言ってエルフの国に連れ帰っていれば更に報酬が貰える。それをしなかったのは私が凛だと知っていたからだ。」

「でも本当に雇った人達が君達を見失ったから、連れ帰れなかっただけなんだって。もう少し腕の立つ連中を雇えばよかったと後悔しているよ。」

「母が追っ手を本当に振り払えたと確信出来て、自分が力尽きて死ぬと分かっていたならメッセージなり子供が生き残る手段なり残していそうだけどね。同じ転生者だ、英語も知っていたみたいだし転生者にだけ読めるメッセージを残すのは簡単だろう。それをしなかったのは追っ手を振り払う事が出来なかったからだ。」

「仕方ないな…認めるよ。凛にはもう一回親を亡くした悲しみを知ってほしくてティターニアを殺しました。」

「ダウト。」

「わかったわかった…今回の噓はちょっと分かり易過ぎたね。じゃあ今度こそ嘘はつかないよ。本当の事はあんまり言う気が起きないから一度しか言わないよ。よーく聞いてね。」

「うん。」

「凛には生き地獄を味わって欲しかったからエルフの国に連れ戻さずに、かと言って一思いで殺さずに森の中で放置プレイをしてもらう事にしました。」

「ダウト。」

「え?今のは本心からだよ?」

「本当は私の生活を監視する気だったでしょ?」

「なんで?俺は凛のストーカーする程つまんない趣味は持ってないよ?」

「私をエルフの国に連れ戻さなかった理由は前世で世界を破壊し尽くした元凶の私がエルフの女王になったらとんでもない事になると知っていたからでしょ?変に連れ帰って誰かの奴隷になんてしてもすぐに成り上がってあんたの存在が私にばれるし、人を雇って遠くから監視しておいた方がいいと思ったんじゃないの?」

「そんな事しないよ。」

「出来なくなったんでしょ?」

「…」

「黒雲が来たせいで誰も森に近づこうとしなくなった。だからあなたは別の手段を取った。黒雲がドラゴンを捕食したのをダンゾーという王国のドワーフに知らせ、ドラゴンのついでに私が見つかれば一緒に連れ帰って貰う様に仕組んだ。」

「あはは、本当に全部知ってんだね………でも、それってどこから聞いた情報だい?」

「教える気はないし、まだ全部じゃないよ。むしろここからが本題だ。」

「え?まだなんかあったっけ?」

「あるよ。闇の精霊返せ。」

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