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印象操作で周囲の人が私に対する印象を酷く曖昧な物にして魔王覇気で周りを気絶させない程度に威圧する。アルトとクロノア以外の者から見て私は禍々しくもはっきりと姿形を思い出せない何かとなった。


「皆は私の特徴をどれくらい憶えているのか聞いてきた?」

「はい。交換留学生の一人で魔王を名乗っている事と禍々しく、とても強い何かだとしか。」

「話した内容は殆ど憶えているけど姿をどうしても思い出せないとも言っていたな。」

「私の名前は?」

「「…」」


忘れてるみたいだな。そこはちゃんと憶えていて貰わないと。


「忘れてたならちゃんと伝えてあげてくれる?教師や校長とか忘れていたら帰りずらいから。」

「そうですね。伝えておきます。」

「了解しました。えっと…あと…俺達を傷付けるのに成功した人が現れました…どうしますか?」

「…ふーん。」


クロノアの確率操作を突破した奴が本当にいるのか…


「何人?」

「一人です…」


一人?凄いな…どこの化け物だ?


「あなたにだけは言われたくはありませんね。」

「おまっ…いつの間に…」

「この人ですよ。メディカ。」

「……君か……申し訳ないんだけど二人共先に帰ってくれるかな?」

「「え?」」

「ヒエン達にも聞かれたくないんだ。旧友と少し昔話でも話したいんだ、いいかな?」

「はぁ…」


…皆外でこっそり壁に張り付いているけど盗み聞きはさせん。ラファエルの守りで外界から隔離する壁を作った。すると目の前の子供は少年の姿に戻った。本当に懐かしいな…


「学校では言えなかったけど久しぶりだね。オリジナル。」

「本当に久しぶりだな…この世界で最初に会った時は驚いたよ。まぁ、君の能力を考えれば何ら不思議ではないんだけどね。」


目の前の少年は私と対照にずっと優しい笑顔のままだった。ただ自分の感情を表に出さないという考えは私と同じだな。


「僕の人格はあなたのコピーですよ。オリジナル。それを化け物なんて酷いじゃないですか。それに僕を作ったのは誰なのか…転生したついでに忘れていたりはしないよね?」

「君を作る途中でアクシデントがあってね…君は完璧で強すぎた。私の作品と見做すのは勿体ない。そう思わないかい?センリツ…いや、君は正式な名前を持っていなかったね。」

「あなたが名前を付けないからじゃないですか。自立させるとか自由にさせるなんて聞こえはいいけど勝手に作っておいて捨てるなんてやられた方はたまったもんじゃないよ。」

「私を恨んでいるなら殺せばいい。」

「いやいや…それじゃ解決になってないじゃん。」


少年は少し困った様な笑顔で手をひらひらさせてみせた。


「ではお前は私に何を望む?」

「最初は…普通に我が子としてではなくともある程度自分の作品として愛して…いや、受け入れて欲しかったよ。失敗作になって捨てられないように…毎日祈っていた…周りの兄弟達が廃棄処分で死んでいく中…試験管の中で祈り続けてた…でも…君は僕を自分の敵として作っていた。どうやっても僕は誰からも愛されない、受け入れてもらえない事を知った。」

「君は私を倒す勇者として仕立て上げようとしていたからね。」

「それを知った後、君に愛して貰えなくても与えられた役目は果たそうと思っていたよ。」

「だけどお前の力は強すぎた。だからお前を私の作品と見做さずに逃がしてやろうと思った。」

「ある日君が僕を見る目は…恐怖に染まっていた。あの時どうしてかわからないけど僕はずっと泣いていた。そして君に解放されて研究所から出たその日…もう何もわからなくなっていた。」

「そして私もそれから勇者を自分で作ろうなんて事は考えなくなった。」

「君から離れる前に『気が向いたら戻って来てくれても構わない』と言われたから自殺はやめて生き続けた。気が変わったらまた僕の事を必要としてくれるかもしれないと思ったから。」

「その後君は何度か帰って来た事があったな。今も私に必要として貰う事を祈っているのか?」

「わかりませんね…僕は君と違って叶えたい夢も立てている目標もない。唯々あちこちの世界を漂って見て回っていただけなんだ。自分の存在理由すらまだ分かってないよ。でもあえて何を望むか聞かれたら…そうだね、この世界を壊さないでくれるかな?」

「それはどういう事だ?」

「君は君が前いた世界を壊したじゃないか。君が死ぬ前にクロナに出した命令のお陰で僕以外の人間は全員絶望の中で死んでいったよ。少しは止めようとしたんだけどね…言う事聞かなくて庇いきれなかったんだよ。」

「?…何で人間を庇ったんだ?お前は何事にも干渉しない奴だと思っていたが…」

「苦しんでいる人をずっと見殺しにするのも嫌になってきたんだよ。でも…助けようとした人間も僕の事を不気味がって裏切って…それで僕もどうでもよくなってその世界を離れたんだ。」

「じゃあ何故この世界まで庇う気になったんだ?」

「いつも着く場所着く場所壊されてばっかは僕だって願い下げだよ。それにあなたのせいで何度も繰り返し苦しんだりするのは嫌だからね。で、どうなの?魔王になる夢はここまでで妥協して貰えないかな?それともやっぱり世界を壊さないと気が済まない?」

「いや、夢はこれで叶った事にするよ。私もこれ以上夢を追うのにヒエン達を巻き込む訳にはいかないからね。」

「そうですか。その子達と司に感謝しないとね。あなたに暴れられたらクロナ以上に厄介だ…失礼、今はクロノアだったね。」

「司が転生して来てるのか?」

「心配しなくてもすぐにわかるよ。それより、君は助手君の存在に気付いたみたいだね。」

「まぁね。」

「ずいぶんと気が強い子になったね。以前と似た所があれば…そうだね、無知で真っ直ぐな所かな。結構強いスキルとステータスを持っているけどその性格のせいで一番早くに死にそうなタイプだ。」

「まぁ…見ていて不安になるがキラは非常に鋭い所もあるよ。」

「みたいだね。ところでさ…同級生として君を観察して思ったんだけど性格がずいぶんと丸くなったね…笑顔や行動が演技だとしてもそこまでする必要はないよね?」

「私は前世で助手に刺された後思ったんだよ。次があったら少し生き方を変えてみようとね。」

「そうですか…この後センリツとカナは君以外の者の記憶から消える、僕はこれから名前を変えて帝国で静かに暮らしてるよ。さっきまでの事はなかった事になるから。適当に周りに合わせておいてね。」

「じゃあそろそろ君が見てきた世界の話を聞かせてくれ。」

「またですか…ではこの前行った生物が虹の上に暮らす場所の話でもしましょうか…」


二人で地面に隣り合わせで座った。少年は子守歌を聞かせる様に静かに笑って色んな世界の事を話した。私の性格をコピーした物とは思えない程優しい子だ。私のせいで沢山辛い思いをして来たのに我儘をちゃんと聞いてくれる。


「また会いに来てくれるかい?君とはもう少しゆっくり話したい。」

「本当は駄目なのですが…今はそうも言ってられない事になっているんですよね。」

「何か問題があるのか?」

「詳しくは書いておきましたよ。僕が帰った後なるべく早く見ておいてください。僕を呼ぶ時は人がいない時に念じてくださいね。時間を止めた後亜空間まで連れて行きます。」

「今のままじゃ呼びにくいからね、君のあだ名も考えておかないと。」

「名前よりも先にあだ名ですか?」

「そうだよ。君の名前は自分で付けるか気に入った人に付けて貰えばいい。」

「…はぁ。」

「不満か?」

「はい。とても。」

「わかったよ…今名前を付けてやる。」

「え…今ですか?」

「そうだよ。何か重大事が起きているんだろう?私の魂ごと消されてしまう事があったらお前は永遠に名前を持てなくなるかもしれない。何かが起きる前に付けておいた方がいいだろう。」

「…心配しなくてもあなたはそんなにすぐに死んだりしませんよ。」

「そうだったとしてもだ、先に名前を付ける事で君の行動も私に縛られる事はなくなる。私に何かあった時、血迷って助けるなんて行動を取らなくて済む。」

「…わかりましたよ。じゃあ、僕の名前はなんですか?」

「アルカナム。」

「今ちゃんと考えましたか?」

「ちゃんと考えたさ、うん。でも長いからアルと呼ばせてもらうよ。」

「...わかりました。それはそれとして、僕はオリジナルの事をどう呼んだらいいですか?」

「君の好きにしたらいい。」

「じゃあやっぱりオリジナルでいいですか?言い慣れました。」

「わかったよ。」

「ではこれで…名前ありがとうございます。」

「あぁ、またね。」


目の前にいたアルは景色に溶け込んで消えていった。


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