表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/80

48

夢を見た。無愛想な女の子の夢。全ての事に興味を持ち、全ての事を完璧にこなしていた女の子…前世の私の夢。全てをこなしていた私にも最もなりたい者があった。


「大魔王はその絶大の力で全ての者を恐怖で支配した。かっこいい…」

「凛!もう寝る時間だよ!」

「はーい!」


魔王を倒す勇者、陰から全てを操る黒幕、陰から勇者を支える強い人…皆が皆それぞれ憧れるポジションがある。私は大魔王に憧れた。大魔王は全てが常人を遥かに超えていた。大魔王に憧れた私も努力を惜しまずに全ての事を完璧にこなした。そんなある日、私の両親が交通事故で死んでしまった。もう誰も私の夢を止めようとする奴はいない。学校をやめて両親が残した莫大な財産を使って私は本格的に夢を追った…そんなある日。


「助けて…助けて…」

「へぇ、本当に生き残りがいるとはね。」


小さな男の子に出会った。5歳年下かな…悪役を目指しているからまずこういう場合は助けないんだけど…


「死にたくない…助けて…」


うーん…どうしたものか…そうだ!魔王の部下として使おう。


「坊や使えそうだな。ちょうど雑用が欲しかったんだ。私の助手になるのなら助けてやる。」

「いいの?」

「あぁ、名は?」

「憶えてない。」

「じゃあ助手で。」

「…はい。」


拾って来た子供に大した期待はしていない。掃除してくれるだけでも儲けもんだ。一応機材の片付け方だけはちゃんと教えておく。


「片付け終わりました。」

「ご苦労。」


偶に私がしている事が気になっているみたいだが字も読めないんじゃ仕方ない。捨てられたくないのか死にたくないのか頼んだ事は一度も断られた事がない。呼び方に対する文句だって一度もした事がない。私が怖いのか無知なだけなのか…どうでもいいか。


「今度はAIを作ろうと思う。」

「この機械に字を打つだけでいいの?」


お前はその字さえも打てないだろうが。


「あぁ。片付けもしなくていいし簡単だろ?」

「…はい!」


かなり嬉しそうだ。余程今迄押し付けた仕事が面倒だったんだろう。


「凛博士!凛博士!機械が喋った!」


前見たアンドロイドも機械だっただろ?いや…こいつ知らなかったんだな。


「あぁ、この機械は私のプログラムで話せるだけでなく思考もできる。頭の良さならすぐにお前を追い抜くだろう。」

「博士凄い!本当に凄い!」

「どうしたんだ突然…これくらい当たり前だろ?」


助手の奴今日は本当に騒がしいな。まだ情報もまともに入れていないAIになにはしゃいでいるんだ?


「クロナ、はしゃいでいる助手の面倒を見てやれ。」

「はい。マスター。」

「凛博士…この子の名前はクロナっていうの?」

「あぁ。」

「…よろしくね、クロナ。」


少しテンションが戻ったな…そういえばこいつにまともな名前付ける前にAIの方にもっとしっかりした名前を付けてしまったか…気になるなら一言でも文句を言えばいいのに、またすぐに元の笑顔で笑った。意思の弱い奴だな。


「凛博士…この箱は何ですか?」

「テレビという物だ、色んな映像を見せる事ができる機械で、今は世界各地で起きている事件を映している。」

「人工知能クロナって…博士が作った機械と同じ名前…」


今更何か勘付いたか。でもこいつにはどうせ何も出来ない。そうだな…日本の次はフランスにしてみるか。


「そうだよ。クロナ!次は世界中で稼働している飛行機のエンジンを切れ。」

「はい。マスター。」


助手が隣で固まっている。


「凛博士…皆泣いてるよ?」

「あぁ、そうだな。」

「やめようよ…」


…初めて自分の意見を言ったな。


「なぜ?」

「誰かを悲しませるのはよくない事だよ…」


ずいぶんとありふれた答えである。それに物事の良し悪しを決めるのは自分だ。初めて私に意見をして来たというのがそんな理由だとはな。仕方ない。


「それはただの固定観念だ。それに私には叶えたい夢がある。」

「夢?」

「世界をこの手で壊す夢だ。」

「どういう事?」

「人々を諦めさせ、絶望させ、己の無力さに狂わせ、誰もが私を恨み、嫉妬し、恐怖し、怒る。それで私に刃向かう人間を全て返り討ちにするんだ。」


大魔王になりたいなんて言ってもわからないと思うからもっと分かり易く説明する。助手の目から段々光が失われていく。


「そんな…なんで…」

「理由はない。ただ、それが私の夢なんだ。」


震える助手は両手で私の裾を引っ張りだした。初めて助手が涙を見せた。


「やめようよ…」

「無理だな。」

「やめようよやめようよやめようよやめようよやめようよやめようよやめようよ…」


助手が狂いだした。この子にもこんなに感情があったのか…


「お前に何ができる?」

「今すぐやめてください。」


助手はテーブルに置かれたグラスを握り潰し粉々に割れたガラスの欠片を血塗れになった手で強く握りそれを真っ直ぐ私に向けた。その姿はまるでバカにしていた勇者が諦めずに魔王に立ち向かっていく佇まいだった。魔王の手下として扱っていたつもりが勇者だったらしい。


「ほう。その結論に至ったか。」

「!…マスター!」

「いいんだよ、クロナ。助手…君の覚悟を…決意を私に示してみろ。」

「今すぐクロナを止めてください。」


勇者が魔王と話し合いで済ませていい訳がないだろう。


「何年私の傍にいた?私は話し合いで止まるような奴に見えたのかい?」


こんなに辛そうにしている助手は初めて見る。もしかしたらまだ話して解決できると思っているんだろうか?そんな覚悟の決まらない勇者はいらんぞ?


「覚悟は決まったんだろう?それともやはり私が怖いか?それか傷付けるのに抵抗があるのかい?」

「これ以上やるなら本当に殺しますよ?」

「さっきから待ってあげているではないか。試してみろ。」


助手は両手でガラスの破片をぎゅっと握って狂うように走って来た。だが間抜けな事に施設のコードに足を引っかけられて盛大に転んだ。戸棚にぶつかり上から機材が落下した。私は考える前に動いていた。


「私もこんな憶病なガキに情が湧くなんてな。」


助手は最後までガラスの破片を両手でしっかり握っていた。どんな形にせよその刃は私の心臓に刺さった。勇者の覚悟は本物だった。


「マスター?マスター…平気ですか?」

「なんで……?」


勇者がそんな顔をしないで欲しい。私を…魔王を止めたかったんだろう?


「知らんな。生きてゆっくり考えろ。」

「凛博士…」


こいつも本当にこんなに泣いてまで何がしたかったんだろうな。


「死ぬ前に一つ聞かせてくれ。何がお前を突き動かしたんだ?」

「俺を助けてくれた凛博士が…誰かに悪い人だと思われたくなかったから…」


無知な子供らしいバカで純粋な考えだった。


「なんだ…そんな事…」

「ゔう…」


この子は今迄私の事をどんな風に見ていたか…根本的に誤解していたのかもな…私も…この子も…


「本当にバカなんだな…お前も…私…も…」


最後にこいつの本音と向き合えてよかった。友達の話を聞いてあげられてよかった。私には勿体ない最後だな。


「マスター?返事してください…マスター!」

「クロナ…私の夢を頼んだ…」

「…はい。マスター。」


静かに深い深い闇の奥に沈んでいく感覚…これが…死か………………もし…次があったら…もう近しい人は作らないでおこう……そうすれば今度こそ世界を狂わす大魔王になれる……


「たぶん私の第二の人生で合ってるよね?」


前の人生で最後に誰かをかばって死んだのを覚えている。そうしてみると目の前の光景は結構感慨深いな。いいスタートとはいまいち思えんが何はともあれ新たな人生の幕上げだ。気張っていこう。


「俺たちはお前の精霊だ。」

「あ、男だったの?」

「そこから突っ込むか…精霊に性別はない。エルフと共に生まれてお互い支えあう存在だから子供を必要としないんだ。」


私と共に生まれて支えあう存在か…私の魔王になりたい夢を押し付けてはいけないな…仕方ない。今回は諦めるか。



夢が覚めた。懐かしいな…私にもそんな夢に燃えた時期があった。でも今はヒエン達がいる。夢を置いて守ってあげなくてはいけない。別の人生の楽しみ方をゆっくり考えていこうと思っていた...この交換留学の件を聞きつけるまでは。


第一部完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ