47-2キラー
夢を見た。どこか懐かしいような…不思議な夢。子供は死体の山の中に紛れ込んで倒れていた所に女の人が通った。俺は自然とその子供が俺だとわかってしまった。
「助けて…助けて…」
「へぇ、本当に生き残りがいるとはね。」
「死にたくない…助けて…」
「坊や使えそうだな。ちょうど雑用が欲しかったんだ。私の助手になるのなら助けてやる。」
「...助けてくれるの?」
「あぁ、名は?」
「憶えてない。」
「じゃあ助手で。」
「…はい。」
それから俺は彼女の助手として働く事になった。なんの研究しているかわからないけど掃除や研究道具の片付け方を学んで助けてくれた彼女に気に入られるように頑張った。
「片付け終わりました。」
「ご苦労。」
「…なんの実験をしているんですか?」
「爆薬を作ってるんだ。」
「爆薬?」
「あぁ、お前は知らなくていい。」
ちらりとデスクの上の書類を見てみた。うん…そもそも俺は字が読めないんだった。
「さっきの人達は誰?」
「私が作ったアンドロイドだ。失敗作だから処分した。片付けを頼むよ。」
「?はい。」
失敗作…?処分?難しくてわからない言葉がいっぱいだったけど片付けを頼まれたのだけはよくわかった。少しでも役に立たないと…
「あの黒白の服着た人達は誰?外の世界ではそんな服が流行しているの?」
「流行っているとは面白い見解だね。そいつらはサイボーグを作るための材料だよ。」
「材…料…?」
段々…段々尊敬している人が怖くなっていった。不安になっていった。
「さっきの悲鳴はなに?」
「ん?あぁ、ちょっとした調整ミスだ。それよりも掃除は終わったか?」
わからなく…なっていった…
「今度はAIを作ろうと思う。」
「この機械に字を打つだけでいいの?」
「あぁ。片付けもしなくていいし簡単だろ?」
「…はい!」
やっぱり彼女は人を傷付けるような人じゃない。ただの勘違いだ。
「凛博士!凛博士!機械が喋った!」
「あぁ、この機械は私のプログラムで話せるだけでなく自分で考える事もできる。頭の良さならすぐにお前を追い抜くだろう。」
「博士凄い!本当に凄い!」
「どうしたんだ突然…これくらい当たり前だろ?」
嬉しかった時間は長くは続かなかった。
「凛博士…この箱は何ですか?」
「テレビという物だ、色んな映像を見せる事ができる機械で、今は世界各地で起きている事件を映している。」
「人工知能クロナって…博士が作った機械と同じ名前…」
「そうだよ。クロナ!次は世界中で稼働している飛行機のエンジンを切れ。」
「はい。マスター。」
「凛博士…皆泣いてるよ?」
「あぁ、そうだな。」
「やめようよ…」
「なぜ?」
「誰かを悲しませるのはよくない事だよ…」
「それはただの固定観念だ。それに私には叶えたい夢がある。」
「夢?」
「世界をこの手で壊す夢だ。」
「どういう事?」
「人々を諦めさせ、絶望させ、己の無力さに狂わせ、誰もが私を恨み、嫉妬し、恐怖し、怒る。それで私に刃向かう人間を全て返り討ちにするんだ。」
「そんな…なんで…」
「理由はない。ただ、それが私の夢なんだ。」
俺はいつの間にか彼女の裾を引っ張っていた。
「やめようよ…」
「無理だな。」
「やめようよやめようよやめようよやめようよやめようよやめようよやめようよ…」
「お前に何ができる?」
彼女が人を傷付ける所は見たくない。誰かが彼女を恨むのも嫌だ。俺のただ一人の憧れで…恩人で…
「今すぐやめてください。」
テーブルに置かれたグラスを握り潰し粉々に割れたガラスの欠片を血塗れになった手で取り彼女に向ける。何としても彼女を止めたい。
「ほう。その結論に至ったか。」
初めて彼女に興味深そうに見られた。
「!…マスター!」
「いいんだよ、クロナ。助手…君の覚悟を…決意を私に示してみろ。」
「今すぐクロナを止めてください。」
「何年私の傍にいた?私は話し合いで止まるような奴に見えたのかい?」
俺は知っている…彼女を止めるのは…脅しじゃ駄目なんだ…お願いしてもきっと聞いてくれない…そんな簡単に止まる人じゃない。でも…でもどうすれば…
「覚悟は決まったんだろう?それともやはり私が怖いか?それか傷付けるのに抵抗があるのかい?」
彼女は一度も興味を持ったことのない俺を試している…でも…なんでこんなに辛いんだろう…俺はやっぱり…彼女がこんな事するのを放って置けない…
「これ以上やるなら本当に殺しますよ?」
「さっきから待ってあげているではないか。試してみろ。」
これで本当に死ぬとは思えない。でも俺はそれどころじゃなかった。両手でガラスの破片をぎゅっと握って走った。両手の掌から血が溢れかえり痛みが俺を狂わせる。俺は施設のコードに足を引っかけられて盛大に転んだ。戸棚にぶつかり上から何かが落ちて来た。咄嗟に目を閉じた。でもなんの衝撃も感じられなかった代わりに何かに包まれた感触がした。何故かこの時…目を開けるのが怖くなった。
「私もこんな憶病なガキに情が湧くなんてな。」
目を開けたら庇われていた。持っていたガラスの破片もしっかりと彼女の胸に刺さっていた。
「マスター?マスター…平気ですか?」
「なんで……?」
「知らんな。生きてゆっくり考えろ。」
「凛博士…」
「死ぬ前に一つ聞かせてくれ。何がお前を突き動かしたんだ?」
「俺を助けてくれた凛博士が…誰かに悪い人だと思われたくなかったから…」
「なんだ…そんな事…」
「ゔう…」
「本当にバカなんだな…お前も…私…も…」
「マスター?返事してください…マスター!」
「クロナ…私の夢を頼んだ…」
「…はい。マスター。」
ここで目を覚ました。前世の記憶なんて今迄信じてこなかったけど…そういえばローテが転生者とかなんとか言っていた。メディカの妹のクロノアは何となく前世のクロナと似た感じだったし。メディカの雰囲気もあの人とそっくりだった。そうか…メディカは凛博士だったのか…




