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21-2ヤガミ

21-2ヤガミ


小さい頃、俺は純粋に争いのない世界を信じていた。女王様の言う通りに知的生物として話し合いをして協力し合って譲り合ってわかり合えば争わずに済むと、本当に争いは生まれないと信じていた。


ある日憧れていた女王様がご懐妊なされた、王女様がもうすぐ生まれるらしい、工匠だった父に頼んで二人で楽器を作ってお祝いに贈ろうとした。でも王女様が生まれたその日、暗殺によって女王様も王女様も行方不明になってしまった。女王様の防御網が消えて外から来た者が同族を殺したり攫ったりし始めた。それでもみんな平和を信じていた、女王の帰還を信じていた。俺の父さんは外敵から母さんを逃がすために死に、母さんは俺を逃がすために死んだ。俺達は誰も反撃しなかった、話し合いで済ませようとした。今となってはその判断が本当によかったのかどうかわからない。平和を信じていいのだろうかももうわからない。


孤児になった俺を父さんの人間の友人が引き取ってくれた。ハンサムという名前らしいがもう老人だから全然ハンサムじゃない。おじさんをハンサムと呼びたくないからこれからはおじさんと呼ぶ。幼い俺はただひたすらおじさんに泣きついてあの時どうすればよかったのか問いかけた。おじさんは最初こそ自分で考えろと言って俺を突き放したが、後から徐々に俺に情が湧いたみたいでちゃんと応答してくれた。


「話し合いじゃどうにもならない事ってあると思う?」

「俺らの国では話し合いなんてものは存在しなかったぜ、弱肉強食の世界だ!強者は何もかも奪い、弱者は奪われるばかりだ、話し合いだけで済まそうとする奴はたぶん一番の弱者だろうな。あそこで話し合いは間違いなく通じないぜ?」

「一番の弱者…」

「おまえ達の考えをばかにしてる訳じゃないが…人が持てる考え方も方法も常に一つだけじゃないからな?俺も初めてここに来た時はかなりのカルチャーショックを受けたもんな…」

「あの時反撃すればよかったのかな?」

「そんなの俺に聞くなって言っただろ?自分で考えろ。」

「でも…攻撃したら平和になれないよ?」

「そういえば世界平和がお前らの夢なんだっけ?俺は戦うのも頭もあまりよくないから国から逃げ出しただけだが超スゲー工匠になるって夢は諦めてないぜ?国から逃げたら確かに武器の注文も減って材料を買う金すら無くなったが、他に色んな方法を使って夢を追ってるんだ。夢を叶える手段は常に一つではない!俺はお前より年下だがそれだけはわかるぜ?」

「え…年下?」

「何驚いてんだ?お前100歳以上はあるだろ?お前の父さんから聞いてんだぞ?」

「えっと…おじさん何歳?」

「おじさんじゃねー!24歳だけどまだ結婚してないし!将来絶対結婚するし!」


まじ?1800歳くらいの老人に見えるよ?


「に…じゅう..よ.ん?」

「やめろばか!なんだその目!俺とエルフ比べるなよ!ばか!ほんとやめて!そんな目で見ないで!」


年下だったらしい、ハンサムと呼んであげよう。その後やけ酒を飲んだハンサムに人間とエルフの違いについてレクチャーしてもらう。


「エルフは何歳まで生きれるかわかるか?」

「長く生きたエルフが20000歳まで生きた事があるけど。2000歳が平均ですよね。」

「人間はなー…60か70辺りで死ぬんだよ!健康に気を使う貴族や王族は100辺りまでいけるけど…」

「本当にすぐ死ぬんですね…あれ?でもハンサムそれでも半分いってないじゃ…」

「だから!俺は!若いんだって!エルフは12歳までは人間と同じ成長速度だがそれ以降は時間が止まってるかの様に遅い!人間の容姿で30歳辺りに寿命が尽きる!その上元から美男美女だからさらに若く見える!だからヤガミ!それを知らなかったお前は今まで俺を何歳だと…うっうっう..」

「…ごめんなさい、ハンサム。」


あれ?じゃあ今までおじさんと呼んでも反応しなかったのって…やめておこう。


「俺より年下なのに俺を引き取ったんですか?」

「うるせーな…お前はまだエルフのガキだろ?俺は独り立ちした若い人間の兄さんだ!わかったらハンサム兄さんと呼べ!」

「年下なんですよね?ハンサム兄さんどころが俺にさん付けで呼んでくれても…」

「チクショー!誰だ!この悪ガキの親は!って俺か!」

「ハンサムはやっぱりばかなんですね。」

「うるせー…くそ!これがダンゾーさんの味わった苦しみか…」

「ダンゾー?」

「俺の師匠だよ。くそ!リア充め!俺より先に結婚しやがって!」

「はぁ。」


数日後道端で女王様と瓜二つの子供エルフが王子と共にいたのを見かけた。家から楽器を取りに戻った後急いで追いかけようとしたところでオークと人間が攻めてきた。国にはなぜか障壁が張られていて連中は入って来ないがいつ障壁がもたなくなるかわからない、俺はとにかく王女様を探す事にした。


王女様を探す途中に大人達が手を合わせて祈ってた、こんな状態になっても戦いたくないのかな、親を失った子供達が戦ってた、俺と同じように悩んだ結果、戦う結論に至ったらしい。俺は今でも戦うべきかわからない、今ハンサムがどこでなにをしているのかもわからない。ただ手に持ってる物を渡したい、守りたい…それだけだった。


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