16キラー
目が覚めたらゼラとメディカが戦っていた。メディカはゼラのスキルをじっくり観察していて俺が目覚めたことに気付いていない。俺は何か考える前に体が動いた。心の声が聞こえなかったのか知らないけどメディカに攻撃を与える事ができた。
「な!?」
「…ほう。」
「え。」
「あ。」
切り下した右足はすぐに治ってしまったがメディカが驚いている今が一番のチャンスだ。このまま畳み掛ける。あと九回…
「がっ!ぐえ!」
メディカに腹パンくらった後蹴り飛ばされた。起き上がったらメディカは非常に腹ただしいという目をしていた。無表情である事に変わりはないが青かった目が徐々に赤く染まっていき、体から真っ赤なオーラが溢れ出した。
「そのスキルは使うなよ?」
「な!なぜですか?」
理事長は一つため息をついて言った。
「どう考えても危険すぎるからだ。そして今回の特別授業はこれまでとする。」
メディカが元の状態に戻って理事長に聞いた。
「え?なんで?」
「今のメディカの精神状態は安定していない。手加減を間違えて君達を殺しかねない。」
「…わかりました。」
「ゼラ、キラー、アルト!お前達は自分達より強い奴と戦う経験が少ないからな。今日はお前達より強い奴と戦わせてみた。今回の事を忘れずに高みを目指しなさい。そしてメディカ!自分より強い奴ばかり戦ってきたお前は逆に自分より弱い奴と戦う経験が少なかった。戦う相手が自分より弱くても油断したら痛い目を見る事がわかっただろう?」
「はい…」
「今日はここで解散。」
「「「「ありがとうございました!」」」」
落ちた右足から靴と靴下を取って履き直しているメディカと目が合った。不貞腐れてそっぽを向かれた。よほど不満だったらしい。えっと…
「なにか食べに行く?奢るよ。」
「いや、私がごはん作る。」
「え!?メディカごはん作れるの!?」
「当たり前じゃん。」
「まぁメディカがかなり珍しくデレてるんだからご飯ぐらい食べてやれよ。」
「そうだそうだ!うまいぞ!」
メディカの精霊達が話しかけてきた。あ、この黒髪の方ってもしかして…
「置手紙残してくれたのはおまえだよな?ありがと!あれなかったら結構焦ってたぜ。」
「あぁ、やっぱ読んだのか、描いた甲斐があったな。」
「なんの話?」
「いや、こっちの話だ。」
「そう…」
「僕達もついていっていいかな?」
「いいよ、適当に作るから。」
「ほんとにツンデレだな。」
「素直になれよ。」
「ヒエンもシデンも黙ってて。」
一分もしないうちっていうか理事長の庭の中に昔森で見たメディカの小屋が建っていた。
「え?この家って可動式だったの?」
「ちがうよ?家ごと引っ越して来ただけ。」
「そ、そうなんだ…」
俺達はつっこむのを諦めて小屋の中に入った。
「メディカ!おかえりー!ごはんごはん!あれ?キラ君以外は誰?」
「おかえりなさいメディカ。あら?お客さん?珍しい事もあるものね。」
「あれ?メディカは精霊二体しか連れてないんじゃ?」
「こんなに精霊がいると幻想的だな。」
「そういや最初にメディカに会った時四体いたな。」
「へっへーん!メディカは全属性の精霊と魔法を使いこなせる所謂伝説のアマデウスマジシャンなんだよ!誰だか知らないが客人よ!もっと褒めるがいい!」
「褒めてもいないしアクアは関係ないだろ?」
「ご飯の用意するから手伝ってくれる?」
「「「「はーい!」」」」
「僕達は?」
「座って待ってて。」
三人で座りながら周りに置いてあるグラスを鑑定してみる。
「あっちのは…エルフの血?」
「あれは…ドラゴンの血?」
「目の前の巨大グラスに入っているのは赤い雨みたいだね。」
「「「…」」」
途端に後で来るご飯が怖くなってしまった。
「いや、周りのグラスはあくまで実験材料だからね?」
メディカがご飯を持ってきながら言った。そうだよな…めし作るのに使うわけないよな…俺も男だ!食ってやる!
「「「!」」」
滅茶苦茶おいしかった。え?マジで?俺達は目を合わせてうなずいた。
「すごくおいしいよ!なんの毒薬入れたの?」
「殴るよ?」
「ごめん。」
「これでも何でも研究するんだからおいしくて当たり前だよ。」
「俺お前に勉強うまく教えられるか不安になってきたよ。」
「今更か?諦めが肝心だぞ。」
「うん…わかったよ。」
これ食って無理だとわかったよ。
「「「「「「「「ごちそうさまでした。」」」」」」」」
「ゼラ、一つ聞きたい事があるんだけど。」
「え?なに?」
「昔森で採った賭けてみ梨と毒々しいたけがある。貴族の間で高く売れたりするか?」
「一応売れるけど…もしかして食べたことあったりする?」
「まぁね、耐性を得るために毎日食べてたわ。耐性を得てからも梨の方を食べ続けようとしたんだけどこの子達に止められちゃって…」
ゼラとアルトの顔が一気に青ざめた。精霊達もどこか顔色が悪い。なんだ?その二つが問題か?鑑定してみよう。
名称:毒々しいたけ
詳細: 毒薬を作る時によく使われるしいたけ。食べるとやはり毒状態になる。一時期自分が如何に美しくも毒々しい女なのかを知らせるためバレンタインのチョコに入れて相手に送り付けるのがブームになった事がある。
毒薬の作り方:粉になるまで練ってから水を入れる。
名称:賭けてみ梨
詳細:世界でも数少ない梨。主に黒雲が出てきた地方に育ち赤い雨が降る日に枯れる、貴族の間で人気な拷問用果物。食べた人によって手足が弾けたり内蔵が破裂したり下半身が消し飛び死に掛けるが死ぬ前に回復すれば基本的に無事でいられる。10%の確率でステータスが上がる。
「冗談だろ?毎日食ったのか?」
「うん。治癒するMPが切れるまで。」
「そこまでする必要あったのか?」
「当たり前だね、食べなかったら明日死ぬかもしれないんだよ?でもおかげで耐性以外に超回復と根性を得たからな...万々歳だね。」
「辛かっただろ?」
「そんな事はない。皆がいてくれたしね。」
「メディカは弱気の表情や言葉がいままでひとつとしてなかったから今でも凄く心配してるんだぞ?」
「そういえば目が覚めてから一度も弱気になった事なかったわね。だいじょうぶなの?メディカ。」
「それは私のお願いを一度も断った事がないあなた達にも言えるけど...大丈夫なのか?」
「そりゃあ嫌な時もあるけどさ、基本的にそういう時はどうしようもない時だしな。」
黒髪の精霊の言葉に他の精霊も頷く。色々あったんだろうな…
「メディカ、そろそろ遅くなってきたし僕達も帰るよ。ごちそうさま。また明日ね。」
「じゃあな、メディカ!おいしかった!また明日な!」
「メディカサンキュー!うまかったぜ!じゃあな!」
「うん。さよなら。」




