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095 激戦の予感

明けましておめでとうございます!

年が明けて実家に帰り、麻雀をしていたら今日になっていました。なんてこった。

 ザシュッ。


 腕を前に突き出されただけで、目の前にいた男の首が飛んだ。


 それを見て、首を切り離された者の隣にいた男が、ぶるりと体を震わせる。


「無能め。僕の言ったことがわからなかったのかい?」


「し、しかし、警戒が強く、近付くことさえ簡単には……」


「そんなことはわかってるんだよ! だから探って来いって言ってるんだ!」


 理不尽な命令に、男は青い顔をしながら唇を噛んで押し殺すように声を上げる。


「……もう少しだけお時間をください」


「いつまでも待てないよ」


 そう言われると、男は一礼をしてすぐさま部屋を後にした。


 部屋に残った男―――エドは苛立たしげに椅子に腰を下ろすと、別の部下を呼んで死体の処理をさせる。


 エドの脳裏に先日の記憶が蘇る。


 エドよりも遥かにステータスの劣るあの女。その相手に敗北した記憶。それも完膚無きまでに。何か別の要因が一つでもあればと、希望を残すこともできないほどの完全な敗北。


 絶対に勝てない。


 心の底に深くそう刻まれた。


 捕食者のような眼光。余裕のある態度。


 思い返してエドの体がぶるりと震え、右目と左腕が疼きだす。


 ファライヤから『転移』によって逃げ切ったエドは、『万能の霊薬』という希少なポーションによって傷を癒した。


 切り離された腕も、抉られた瞳も、潰された内臓も既に元通りに回復している。


 だが、刻まれた記憶が、エドの体にあるはずのない痛みを感じさせていた。


 疼きは消えない。逃げ切ったあの時からずっと。


 命からがら逃げ切った後、エドは死の恐怖に震えた。


 無いはずの痛みに目を覚まし、死にかけたあの一幕が何度も脳裏に蘇って来た。


 己を苦しめる恐怖心。その原因であるあの女を殺さない限り、安心して眠ることさえ叶わない。


 屈辱的な敗北と、植えつけられた恐怖心に怒りを覚え、憎しみを胸にエドは動き出した。


 幾人もの部下を送り込み、あの女の素性と秘密を調べさせた。しかし、近付こうとした者は消息を立ち、その経歴も何もが未だに謎のまま知れない。


「あの女を殺さなくちゃ、この痛みは消えない」


 誰もいなくなった部屋の中で、エドは忌々(いまいま)しげに呟いた。


「……負けたらしいな?」


 不意に部屋の入り口付近から声が鳴った。


 エドが睨み付けるような視線を向けると、そこにはガッシリとした体つきの男が扉に背をもたれて立っていた。


「まだ、負けてないっ!」


「尻尾を巻いて逃げ帰って来てか?」


「うるさいっ! 戦略的撤退だ! 現にあいつは僕を殺し切ることは出来なかった!」


「ふんっ、まあいい。俺たちバン・ドルイドは死なない限り実質的な敗北ではない。お前の言わんとしていることもわからんでもない」


「何をしに来た! まさか嫌味を言いに来たわけじゃないだろうね」


「はっ、そんな面倒なことをするか。ボスからの伝言だ」


 鼻で笑って、男はエドへと封筒を投げ付けた。


 鋭く回転しながら投げ付けられた封筒を、エドは二本の指で挟んで受け取る。


 そして、封を切って中身を取り出し、その内容を見て薄っすらと目を細めた。


「これは本当なのかい?」


「知らねえよ。何が書いてあるのかも俺は知らねえ」


 そんな男をひと睨みすると、エドはふんっと鼻を鳴らして再び手元の紙へと視線を戻す。


「くくっ、これが本当なら、僕はあの女に勝てるぞ!」


 やや興奮を隠せない様子のエドに対して、男は助言を述べた。


「お前の相手にした女―――ファライヤには油断するな。あの女は魔国から生きて帰って来た女だ」


「なんだい? 君の知り合いなのかい?」


「……古い馴染みだ」


「なら、君の知っている情報を出しなよ。僕はあの女を絶対に許さない!」


「俺の情報など役に立たんさ。あいつが異常な強さを身に付けたのは、魔国に行ったあとだ」


「魔国に行けば、あの女の秘密がわかると?」


「さあ? 生きて帰って来られればわかるかもな」


「チッ、役に立たないな。まあ、良いさ。どちらにせよあの女の底はもう知れたよ。僕にはアイツのステータスもスキルも見えている。もう僕に負けはない!」


 自信ありげなエドの様子に、男は肩を竦めてみせた。


「まあ、せいぜい頑張りな。ああ、そうそう。あまり無意味に部下を殺すなとボスが言っていた。やり過ぎてボスの怒りを買っても知らんぞ」


「ああ、肝に命じておくとしよう」


 エドがそう言うと、男は踵を返して部屋を後にした。


「馬鹿め」


 男が退出して直ぐ、エドは毒突いた。


 素直に応じてみせたが、エドにとってはボスの存在もバン・ドルイドという組織も利用する為の存在でしかない。


 自分が神の領域へと足を踏み入れる為に、必要な情報を得る為の道具だ。そうとしか考えていない。


 そして、必要な情報は今手に入った。


 ボスから送られて来た情報。魔法へ至る為の技術。


 エドはもう一度、手元の紙へと視線を落とすと、悪意に満ちた表情を浮かべて笑った。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 クラン、デバイスレインに所属する冒険者の一部、ガナックが率いる集団はボルドの街へとやって来ていた。


 メンバーはガナック、ジーダ、ベルガム、シトセイ、ラック、メイの六名。デバイスレインの中枢を担う彼らは、リーダーであるローレンの制止を振り切り、キリエ村に呪いを振り撒いた原因である魔族を倒す為に動いていた。


 先日の話し合いでカインたちから得た情報を元に、魔族の戦力を分析したところ、どう転んでも自分たちだけでは対処出来ないという結論に至った。


 魔族討伐に向けて騎士五百名の精鋭と、Sクラスの冒険者三名が動き、その結果約三百名とSクラスの冒険者の命が失われたというのだ。今現在も回復しきっていないとはいえ、それほどの相手をデバイスレインの面子だけで対処することは難しいだろう。


 故に、一先ずは魔族討伐に参加できる冒険者を集める為、コルネリア領の三大都市の一つ、城塞都市ボルドへとやって来たのだ。


 ボルドへ到着した彼らは、冒険者ギルドへと向かいギルド長へと取り次いでもらう。クランとしてはBランクに位置するデバイススレインではあるが、もともとコルネリア領に大きな冒険者クランは多くない。この地域一帯では、彼らの発言力は意外と高いのである。


 パーティー用の会議室に通され暫しの間待つと、ギルド長が一人で入室して来た。


「待たせたな」


 そう言って、挨拶もそこそこにギルド長が席に着くと、鋭い眼光でデバイスレインのメンバーを見渡し声を発した。


「ローレンはどうした?」


「ローレンは、今回の件には関わってない。これから話す内容は、俺たちが主導で動いている」


 ギルド長は僅かに眉を顰めて、ガナックを見た。


「お前がか? リーダーの指示をあおがないとは……身内のゴタゴタにギルドを巻き込むのは勘弁してくれよ」


「そういうのじゃねえ。意見の相違ってやつだ。クランの連中の半数以上が俺たちの意見に賛成している。だから、賛成派の俺たちが纏まって反対派とは別に動いてるだけだ」


「それをゴタゴタって言うんじゃねえのか?」


「身内同士で争ってるわけじゃねえよ。反対派は何もしねえ。賛成派は動く。それだけのことだ」


「ふん。まあ、それなら良いが……で? どんな内容だ」


 ガナックは、必要な部分だけをかい摘んでギルド長へと話をした。Sクラスの冒険者が命を落としたことや、騎士団の精鋭五百名が壊走したことは話さなかった。


 あくまでも、呪いの原因である魔族の存在と、その魔族が弱っていることだけを伝える。


「……魔族か。弱っているとしても、ちと厄介だな」


「戦力は集められないのか?」


「できるが、直ぐには難しいな。最低でもAクラスの冒険者が十や二十は欲しい。ついでにSクラスもな。というか、魔族が関わってくる問題だとすると領主にお伺いを立てる必要も出てくる」


「領主にも話をしに行くさ、だが、先ずは冒険者をどの程度集められるかが知りたかった」


「期間は?」


「ひと月でどうだ?」


「それならAクラスで二十名ほどいける。Sクラスは報酬次第だな」


「魔族討伐に対して、ギルドから報酬は出るのか?」


「馬鹿野郎、お前らが持ってきた問題だろうが。ギルドが出せるのは精々が名誉と昇級資格ぐらいだ。まあ、魔族討伐となりゃ喜んで金を出してくれる連中はいるにはいるがな!」


「なるほど。なら、領主と交渉して報酬の話を一旦纏めてくる。それまでに、なるべく人数を抑えておいて欲しい。ついでに喜んで金を出してくれる連中にも声を掛けておいてくれ」


「チッ、俺の仕事が増えんだろうがよ」


「その分、美味い汁をすすれば良いだろう? 俺たちは儲けよりも、魔族が討伐できればそれで良い。采配はそちらに任せる」


「ふんっ。大事になるぞ?」


「望むところだ」


そう言って、ガナックはニヤリと笑った。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 薄暗い執務室の中で、ヴァルキュリアの一人、セイナ・シンシアは伝話機により報告を受けていた。


「バン・ドルイドの幹部を容易く退けた者がいます。全体の戦力もそれなりに高く、魔法の技術へ至る者も徐々に増えており、危険かと」


「戦力などどうでもいい。問題なのは、カインという男が、マークレウスを名乗るに相応しい男なのかどうかということだ」


「それについては、未だ判断しかねます」


「判断できないだと?」


 そう言うと、セイナは眉を顰めた。


 マークレウスを名乗るに相応しい男など、この世界にはいない。それが、セイナの中にある答えである。報告などさせてはいるがそれはあくまで建前であり、その結論は報告者も直ぐ行き着く答えだと考えていた。


 しかし、判断できないということはどういうことだ。


 余程のことでなければ、マークレウスを名乗るに相応しいと判断できる材料とは成り得ない。


 大英雄の片鱗を報告者はカインという男に見たのだろうか?


「現在、マリアンズ一行は、魔族と直接対峙しております。そして、彼らは魔族との和解を試みている最中であります」


「……魔族と?」


「はい。その結果次第では、認めざるを得ないかと考えますが……」


「魔族と和解した程度で認められるほど、大英雄はあまくはないぞ!」


「理解しております。ですが、既にレーヴェン様が動かれており、結果次第ではお認めになると仰っておりましたので……」


「レーヴェンが……勝手なことを」


「故に、こちらの件が終結するまでは結論を控えるべきかと思い、判断を保留にしている状態です」


「わかった。それが片付いたら、もう一度報告しろ。レーヴェンに好き勝手させるな! 沙汰を下すのはこの私だ!」


「はっ!」


 そう言って報告者は通信を切った。


 椅子にもたれ掛かって、虚空を見つめるセイナの瞳が揺らぐ。


 ヴァルキュリア・レーヴェン。何を考えている。


 自分と同じヴァルキュリアが既に動き出している。その事実に僅かな苛立ちを覚え、セイナの眉間に皺が寄った。

読んで頂きありがとう御座います。

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