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084 意外な伏兵

 ケルナドにある宿の一室で、カインは眉をしかめていた。


 口をへの字に曲げた険しい表情。


 足を組んで椅子に腰掛け、組まれた腕の指先がトントンとリズムを刻んでいることから、随分と苛々(いらいら)している様子であった。


 カインの目の前では、マリアンが正座させられており、不満げな表情を向けている。


 その後ろにはニマニマと笑みを漏らしたファライヤが腕を組んでたたずみ、ベッドの上では行儀良く正座したミズシゲがズズズと茶をすすっていた。


「そろそろ足が痛いんですけど!」


「俺の命令なんて無視して、自由にすれば良いだろう?」


「カインがやれって言ったんでしょう!」


「だから、俺の命令なんて聞かずに、自由にすれば良いと言っているだろ? だが、俺の命令は変わらん。そのまま正座していろ」


「むう、なんでそんなに意地悪するのよ!」


「自分の胸に手を当てて聞いてみろ」


 そう言われてマリアンは、自分の胸を揉みしだいてから、何やら納得するように言った。


「とっても柔らかいです!」


 カインの額にビキリと青筋が立った。


「マリアン駄目よ。その返しは前に私がやったわ」


「えー。でも、効果は抜群のようだけど」


「反省の色がないな!」


「だってわたし悪いことしてないもん」


 カインは溜め息を吐いた。

 別にカインは本気で怒っているわけではない。これは、いわば確認である。


 カインはマリアンが神秘を無効化するギフト『神滅』を持つことを、ヴィレイナがもたらした情報で知った。


 そんな馬鹿なとは思ったものの、思い当たる出来事が脳裏をよぎりその情報の信憑性を高めていったのだ。


 例えば、ボルドの街の道具屋で、小型収納棚を壊した時。確かマリアンが服を戻そうとした際に、小型収納棚に掛かる魔術が切れて中の棚が飛び出て来たのである。


 マリアンの手が棚の内部に差し掛かった際、棚の中で機能していた魔術が無効化されたと考えれば納得が行く。


 その後も、マリアンが衣類を仕舞う際に、わざわざピンセットを使うなどというおかしな真似をしていたことも頷ける。


 それ以外でも、馬車の手綱に魔術を流し、魔術操作の訓練をしていた時のことだ。ミーアが動揺して手綱を暴走させてしまった際、制御しようとしたカインの魔力も安定しなかった。


 あの時は確か、振り落とされないようにマリアンをしっかりと抱き留めていたような気がする。


 他にもカインの細かな命令に反論したり、無視したりする素振りを考えると、神秘の力を無効化するギフトに納得もいったりした。


 つまり、今カインが何を問題視しているかというと、所有権の効果についてである。


 所有権が機能していなかったとなると、マリアンは何を目的としているのか。何処まで言うことを聞くのかが不明となる。


 それを確認する為に自発的に命令違反をさせようと試みたわけではあるが、マリアンは不満そうにしながらもカインの言うことはしっかりと守ろうとするものだからもうよくわからない。


 カインは諦めて、マリアンに直接問うことにした。


「ギフトのことをなんで黙ってた!」


「えー。だって教える必要ないでしょ? わたし体張るつもりなんてなかったし」


「所有権が機能してないなんて前代未聞だろうが! あの天使は嘘しかついてないぞ!」


「それに関しては嘘でもないんだなあ。だってわたし、カインの言うことしか聞かないし」


「言っている意味がわからん」


「まあ、説明すると長くなるんだけどね。要約すると、カイン以外について行くと色々妨害が入ることになってるのよ」


「なんだ妨害って?」


「うーん。よくわかんないけど、神々がなんかするみたい。わたしが天界に戻されちゃうとかかな?」


「神秘を無効化出来るお前をどうやって天界に連れてくんだ?」


「無効化するって言っても、わたしに触れなければ良いだけだしやり方は色々あるみたいよ。空間を丸々飛ばすとか。実際、ミリアム大聖堂に来た時と転移させられた時はそのやり方だったみたいだし」


「もう何がなんだかわからなくなって来た」


 カインが頭を抱えた。


「頑張ってカイン!」


「うるせえ! お前の所為で頭を抱えてるんだろうが!」


「つまりは、所有権を持つ者以外について回ると、神が直接妨害してくるから、マリアンはカインに捨てられないように言うことを聞いているのでしょう? 直接所有権で縛れないから、間接的な制約を作っているわけね」


「ファライヤかしこい! 正解!」


「ああ、理解した。つまり今後は盾としても機能するってわけだな」


「なんでそうなるの! 神秘以外にぶつかったらわたし死んじゃうんですけど!」


 マリアンとカインがギャーギャー喧嘩を始めると、ミズシゲが静かに言った。


「……私は何故この場に呼ばれたのでしょうか?」


 マリアンの頰をつねっていたカインが、その手を放しミズシゲへと向き直る。


「すまん。こいつのことはついでだったんだが、つい熱くなってしまった」


「そうですか。では、そろそろ本題をお願いします」


「ああ。見識の広いお前らに魔族に対抗する為にはどうしたらいいのか、その意見が聞きたかった」


「戦うつもりなので?」


「いや、説得するつもりだ。だが、相手が本気で抵抗してくる可能性も含めて、対抗する手段も必要だ」


 ミズシゲがふむとうなる。


「先ずは、魔眼をかわせるようになることが必要でしょうか」


「そもそも魔眼はかわせるものなのか?」


かわせますよ。魔眼と言わず、魔力を扱う技術は全てかわすことが出来ます。現に私は、カインがかばってくれるまでの間、魔眼の影響を受けていなかったでしょう?」


「どうやったらそれが出来るようになる?」


「それは今後ファライヤが教えてくれるでしょう」


 そう言ってミズシゲはファライヤへと顔を向ける。


「ええ。そのつもりよ。概念なんて技を持ち出す輩が出て来てしまった以上、早急に叩き込むつもりだから安心なさい」


「お前にそう言われると、嫌な予感しかしないが、まあいい。よろしく頼む」


「魔眼をかわす以前に、もっと基礎値を上げないと一撃で殺されてしまうかもしれないわよ」


「そんなにヤバイのか?」


「竜が一撃で絶命する程だと思った方が良いわ。少なくとも、私が出会った魔族はそうだったというだけだけれど」


「どの位の期間でそのレベルになれる?」


「EXスキルを十種と、私の身体強化を六つ目まで扱えれば大丈夫でしょう。期間はあなた次第ね」


「努力しよう。マリアンを盾に魔眼を防ぐ作戦は使えるか?」


「やめておきなさい。魔眼以外、そうね。石でも投げ付けられたらお終いよ。危険過ぎるわ」


「自力でかわせるようになるしかないか」


「ちょっと、危ないこと考えないで欲しいんですけど」


 マリアンの抗議の声には応えず、カインは腕を組んでうなった。


「なら、ミズシゲ。刀の技について相談なんだが、お前のお家の秘伝を俺に伝授してくれないか? 対価としてお前の知らない技術をマリアンが提供する」


「ちょっと、人任せは良くないとおもうけど!」


「なら、お前を道端に捨てる」


「横暴なんですけど!」


 ミズシゲは顎に手を当て、ふむとうなっていた。


「条件として見合わないか?」


「いえ、とても魅力的な提案なのですが、お家に関わることは私の一存では決められないのです。まあ、ですが一つだけ手がありますね」


「なんだ?」


「カインが私の婿になることです」


「は?」


 その場の時が一瞬止まった。


「な、何を言ってるんだ!」


 予想外の言葉にカインが動揺をみせ、マリアンがワクワクしたような瞳を向ける。そして、ファライヤは悪意に満ちた表情でニマニマ笑った。


「婿養子に入ると誓い、婚約さえして頂ければあなたもお家の人間です。異例ではありますが、その辺りは曖昧ですので、仕来しきたりには反していないことになります」


「ねえねえ! ミズシゲ、カインのこと好きだったの!?」


 期待に満ちた表情でマリアンが声を上げた。

 それに対してもミズシゲは動揺した様子も見せず、ふむと唸って暫し黙考したのち口を開いた。


「好意の有る無しで言えば有りますよ。しかしそれ以前に、私の婿となる方には色々と厳しい条件がありまして」


「あら、それをカインは全て満たしているということかしら?」


「正確には、満たしている殿方など存在しないのですよ。問題はお家を納得させられるかどうかという点です。そういった意味では、現状カインぐらいしか私の周りにはいないのですよ」


「ねえねえ。ミズシゲってさ。もしかして、婿探しの旅とかしてる感じなの?」


「全くもってその通りです。実は、危うく良く分からない男をあてがわれそうになりましたので、自分で探すと言ってお家を飛び出して来たのです」


「きゃー、なんか面白くなって来たー!」


「あら、これは意外な伏兵ね」


 マリアンは期待に満ちた瞳を、ファライヤは悪意に満ちた瞳を輝かせた。


 そんな二人を見てカインは大きく溜め息を吐く。


「カイン、いかがでしょうか?」


「いや、保留で。考えさせてくれ」


「むむ、男らしくありませんね」


「そんなこと突然決められるか!」


 三人の女性から期待の眼差しを受けて、カインは自分の提案を大きく後悔するのであった。

読んで頂きありがとう御座います。

明日以降、更新頻度が下がります。

単純にストックが切れたので、毎日は上げられなくなりそうです。

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