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083 分かり合えない想い

 カインたちは疲れ切った様子でキリエ村まで戻って来た。


 カインとルクスがバッカーを支えながら孤児院の手前に建てられた施設へ踏み入れると、中で患者の世話をしていたヴィレイナが直ぐに気が付き、カインへと駆け寄る。


「カイン! 無事で―――その姿は!」


 カインの頰や腕が所々石化しているのを見て、ヴィレイナは驚きの表情を浮かべた。


「す、直ぐに浄化を!」


 慌ててカインに浄化をほどこそうとするヴィレイナを手で制し、カインはバッカーへ視線を向けて言った。


「俺は後でいい。先ずはバッカーの解毒を頼む」


 ルクスの肩を借り、青白い顔で浅い呼吸を繰り返すバッカー。それを見て、ヴィレイナは再度驚いた顔をみせる。


「いったい何が……いえ、バッカーさん。一先ず横になってください」


 ヴィレイナに言われて、ルクスの手を借りながらバッカーは素直にベッドへと横になる。その傍らに寄り添い、ヴィレイナが神気を集めて解毒を施していく。淡い神聖な光がバッカーを包み込むと、青白かった顔が徐々に赤みを帯びていった。


 ダンジョンの最深部から撤退をしたカインたちは、寝る間も惜しんで走り、丸一日と半を掛けてキリエ村へと戻って来た。


 魔族のいた広間を飛び出し、石化で動き辛くなった体を酷使しながらなんとか巨大ヘビを倒し、バッカーを交互に背負ってひたすらに駆けたのだ。


 飛び掛かる魔物をミズシゲが一太刀に捌いてくれなければ、カインたちも今頃大きな負傷を負っていたかもしれない。


 バッカーの解毒を終えるとヴィレイナが息を吐いた。


「へへっ、すまねえなヴィレイナちゃん」


「いいえ。私にはこれぐらいしか出来ませんから。それよりも何があったんですか?」


「大量の蛇に襲われて、このざまだぜ。カインの方は……まあ、なんつうか、あれも蛇か?」


「魔族に出会った。これは、魔眼の影響だ」


「魔族! よく無事で……いえ、少しおかしな言い方でしたね」


「いや、良いんだ。普通の連中からすればその反応は間違ってない」


「よくありません。私はカインの味方になると決めたんです。世間の常識など関係なく、あなたが信じるものを信じると決めているんです!」


「そ、そうか」


「はい!」


 ヴィレイナの勢いにカインがたじろいで頰を掻くと、ヴィレイナは花が咲いたような笑顔を向ける。


「つーかよ。俺様を挟んでイチャつくのはやめて欲しいぜ」


 その言葉に、ヴィレイナは顔を真っ赤にして動揺を見せた。


「い、イチャついてなんていません! そ、そんなことよりカインも浄化を」


「すまない」


 そう言ってカインはヴィレイナの浄化を受ける。


「こっちに襲撃があった件はどうなった? みんなは無事か?」


「村の方が五名。デバイスレインの方が一名亡くなってます。私たちは無事でしたが、ミーアさんの怪我が深刻で……」


「ミーアが!? あいつは何処にいる?」


 カインの体に触れ浄化を施しているヴィレイナに、カインはぐいっと顔を近づけて言った。


 それに対して、ヴィレイナの顔が赤く染まる。


「し、心配はないです! た、ただ他の方と違って傷が深く、血を流し過ぎたせいで安静にしているだけですから」


 そう言って、ヴィレイナは施設の端に視線を向ける。


「あそこで横になってますよ」


 つられて視線を向けるカインたち。


 その視線の先には、包帯でぐるぐる巻きにされてミイラのようになっている何者かがいた。


「おいおい。あれがミーアちゃんかよ。痛々しくて見てられないぜ」


「女にあそこまでひでえことするたあな。相手は人間かよ」


「そ、そこまで酷くはないんです。ただ、マリアンさんとファライヤさんが面白がって……」


「あの阿呆共は……」


 怪我をしていない顔にまで包帯を巻かれ、抵抗する気力もなく項垂れているミーア。


 口元だけ露わになっているが、その目元が濡れているようにも見える。


「他の連中と阿呆二人は何処にいる?」


「孤児院の中にいると思いますよ。治療にエラー教の神官なども呼びつけてますから、そちらの相手をしているのかと……」




 その後。


 ヴィレイナの浄化により、石化から回復したカイン。より詳しい状況の説明を聞く為に外で待機していたミズシゲたちを呼び、ヴィレイナから話を聞いた。

 そして、やることは多くありそうではあったが、取り急ぎ動く程でもないと判断し、一先ずは休息をとる為、施設の一角を借りて好き好きに休むことにしたのだった。


 それから、数日後のことである。


 ケルナドの街にあるデバイスレインの本部で、一同が勢揃いしていた。


 カインたちマリアンズからは十四名。デバイスレインからは、ローレン、ラック、メイ、カデナ。そして、戦闘を得意とする主力、ジーダ、ガナック、ベルガム、シトセイの八名。エラー教会から、ネイロフとミローネの二名。


 総勢二十四名により長机を囲む。


 沈黙する一同。


 その中で、先ずはカインが口を開いた。


「ここ数日で色々とあったが、情報の共有を行いたいと思う」


 一同の視線が集まり、各々が真剣な表情で頷く。


「村を襲撃した男は犯罪組織『バン・ドルイド』の手の者であることがわかっている。奴らは、ベンズマスト領でやられた仲間の報復に動いているのだろう。今回は退けることが出来たが、今後も奴らが俺たちマリアンズにちょっかいを出してくる可能性は高い」


「つまりは、あんたらが来なければ、村の連中もアンサンも死なずに済んだってわけだよな」


 デバイスレインのガナックという男が言った。


「やめろ! それを言ったらきりがない。そもそもカインたちに呪いの浄化を頼んだのは俺たちだ」


 ローレンが強い口調で言うとガナックは、肩を竦めて不機嫌そうに黙った。


「無責任で悪いが、責任の所在を追求されても困る。俺はお前らに謝罪するために、この場を設けてるわけじゃないからな」


 そう言われてガナックはギッとカインを睨みつけた。


「ファライヤ。取り逃がした相手が再び襲ってくる可能性はあるな?」


「ええ、あるわ。転移者っていうのはね。自尊心ばかりが膨れ上がった中身が子供な連中なのよ。この世界を遊び場か何かだと勘違いしている。私の力は見せてあげたから、攻略法を携えて仕返しにやって来るでしょうね」


「とんでもない技を持っていたんだろう? 何か対策は打てるのか?」


「対応する為の技術は、直ぐにでも貴方達に叩き込むわ。けれど、あいつに関しては私に全て任せて無視しなさい。今後何もさせないし、必ず息の根を止めると約束しましょう」


「わかった。お前に任せる。なら次は呪いの原因についてだが、今回の呪いには魔族が関わっていたことは聴いているな?」


 一同を見渡すとそれぞれが困惑しながらも頷いた。


「相手はメドゥーサ。石化の魔眼を持つ蛇の魔族だ」


「少々気になるのですが、何故魔族の名をご存知なのですか? 我々も魔族に関しては、それなりの知識は有りますが、メドゥーサなどという魔族の名は聞いたことがありません」


 そうネイロフが発言した。


「種族名らしいからな。実際に名前なのかはわからん。だが、俺の知り合いの魔族が教えてくれた種族名と姿が想像通りに同じだった。それだけだ」


「ま、魔族にお知り合いがいらっしゃるので?」


「昔の話だ。暫く生活を共にしていたことがある」


 初めてその内容を聞いた者たちは、カインの台詞に驚愕の表情を浮かべた。


「ま、魔族と共に生活を……さすがは我等が英雄様ですな」


 引き気味に賛辞を述べるネイロフ。だが、カインもそんな反応には慣れたもので気にもしない。


「俺の昔話はどうでも良い。問題はその魔族の目的だ」


「マークレウス様。マリアンたんには既にお伝えしておりますが、シュヴァイツ大司教より魔族と騎士団の諍いについて報告が上がっております。その件について後ほどご報告に伺います」


 そう言ったのはミローネ。


「ここで話せ」


「し、しかし、あまり大人数に知られては不味い内容となりますが……」


「なんの為に全員を揃えていると思っている。関係者にはっきりとした状況を知らせる為だ。いいから話せ」


「……畏まりました。二年前の騒動ですが、騎士団と魔族が争ったことは間違いありません。ですが、討伐したという内容が誤りであるようです」


「まあ、そうだろうな。実際に俺たちが出会っているわけだしな」


「……はい。事実は手傷を負わせて取り逃がしたということのようです」


「何故、領主はそれを隠した? 取り逃がしたとなれば応援を呼ぶか、追跡を行うのが普通だろう?」


「はい。被害の規模が余りにも大きかった為であるようです。魔族の討伐に向かったのは騎士団から選りすぐりの精鋭が五百名。それにSクラスの冒険者を三名雇い入れて行ったとのことです。そして、その争いで騎士団の半数以上、約三百名とSクラスの冒険者三名が命を落としております」


「大した被害だな。領主は失敗を隠したかったのか?」


「それもあるでしょう。それと英雄クラスの冒険者三名をギルドに無断で借り入れていた為、責任追求を逃れたかったのだと思われます。更には自前の精鋭が三百名も亡くなったとあれば、コルネリア領での影響力に関わって来ます」


「なるほど。領主が何を考えていたのかは概ねわかった。それと魔族の目的もはっきりとしたな」


「目的……ですか」


「ああ。あいつは傷を癒し、失った魔力を回復しようとしているんだ。その為に呪いを撒いた。そして、僅かながらに漏れ出る魔力を集め、ダンジョンに引きこもっている」


「二年もの間ですか?」


「あいつらの魔力量は想像を絶する。ダンジョンの最深部に核となる物は見当たらなかったから、恐らくはダンジョンの核は既に喰らい尽くしたんだろうな」


「それで足りない分を、人から集めていたと?」


「人からだけじゃないかもしれないがな」


 ミローネは顔を顰めてなるほどと唸った。


「カイン。結局はその魔族をどうにかしないと、呪いの根本的な解決にはならないということだな?」


 そう言ったのはローレン。


「……まあ、そうなるな」


「なら、どうやって倒す?」


 ガナックが再び声を上げた。


「魔力を欲してるってことは、まだ完全な状態ではないということだろ? 領主に報告して再び騎士団を派遣して貰うのはどうだ?」


 こちらはシトセイ。


「呪いの原因がその魔族なら、家族の仇ということになる。俺たちでなんとか出来ないだろうか?」


 ラットが言った。


「未だ手負いとは言え、魔族相手に俺たちだけでどうにか出来るのか?」


「ギフト持ちの英雄さんたちがいんだからなんとかなんだろう?」


「何とかならなかったから、撤退して来たんじゃないのか?」


「準備次第だろ? エラー教の協力もあるみたいだしな」


 デバイスレインの面々が、勝手に話を進めて行くが、カインたちは沈黙したままその話には加わらなかった。


 ローレンもその話を聞きながら、苦い顔をする。


「で? 英雄さんたちは何も言わねえけど、勝算はあるのか?」


 ガナックに問われ、沈黙していたカインはゆっくりと口を開いた。


「勝算はない。それどころか、前提が間違っている」


 その言葉にガナックは顔を顰める。


「俺はその魔族を討伐するつもりは無い」


「あ”あ”? それじゃあ呪いはどうすんだ? やっぱり手に負えませんでした。ってイモ引く気かよ!」


「ガナック! 口が悪いぞ。俺たちは協力してもらっている立場なんだ」


 シトセイがたしなめる。


「そんなこたあわかってんだよ。偉そうに仕切ってる癖に、魔族如きにビビってるのが気に入らねえだけだ!」


 ガナックがカインを睨みつける。だが、カインは何も言わない。


「へっ、何も言い返せねえのかよ。おいっローレン! 俺たちだけでやるぞ!」


「いや、だめだ。俺たちが動くべきじゃない。危険過ぎる」


「ふざけんな! 家族の仇だろうが! 危険だとかそういう問題じゃねえだろうが! どうしちまったんだローレン!」


「犠牲を出さずとも、カインが何とかする。そうだろうカイン?」


「……保証なんてものは無いがな。取り敢えずは説得から入るつもりだ」


 その言葉を聞いて、カインの事情を知らない面々は、明らかな不信感を表情に出した。


「はっ! 説得だ? 魔族相手にか? 頭でも湧いちまったのかよ。魔族には悪意しかねえ。説得なんて不可能に決まってるだろうが!」


 ガナックの言葉にデバイスレインの面々は頷く。しかし、マリアンズの面々は黙ったまま何も言わない。


 それに対してガナックは苛立ちを強めた。


「そっちの連中は何も言わねえけどよ。魔族相手に説得なんて出来ると思ってんのか?」


 マリアンズの面々に睨みを利かせながら、ガナックが言った。


 その問い掛けに、頭の後ろで手を組んだバッカーが呑気な声を上げる。


「できんじゃねえの? カインが言ってんだぜ? つか、魔族と生活してたんなら俺様たちよりわかってんだろ?」


「その男は出会った時からずっと馬鹿げたこと言ってるから、今更って感じだけど?」


 次いでウルスナ。


「カインがやると言うのなら異論はありません」


 ヴィレイナ。


「マークレウスの名を語っているのだ。その程度はやってもらわなくては困る」


 ゲンゴウ。


 それらの言葉にマリアンズの面々は無言で頷く。


 その予想外の反応に、ガナックは困惑した。


「お、お前らが馬鹿げたことを言ってんならこっちはこっちで動く。さすがに付き合ってられねえぜ」


 そう言ってガナックは席を立った。


「おいっ、ガナック!」


 ローレンが慌てて引き止めるが、ガナックは耳を貸さない。


「ローレン、止めんのかよ。ビビってんならリーダーは俺が代わりにやってやるよ。お前ら行くぞ!」


 ガナックがそう言うと、デバイスレインの面々はそれに続いて席を立った。


「おいっ、ジェド。それにミーア。お前らも家族の仇を討たねえで説得なんて言葉に同意すんのかよ?」


 その問いに、ジェドは何も言わない。


 代わりにミーアが答えた。


「ガナック。カインさんならきっと、争わずになんとかしてくれますよ」


「はっ! おめでたいこった。お前らもそいつらに毒されちまったみたいだな」


 そう言って、ローレンを残してデバイスレインの面々は退出して行った。


「カイン。どうするつもりだ?」


「言葉の通り説得するつもりだ。ローレン、出来ればあいつらに無茶をさせるな。あいつらの気持ちもわからなくは無いが、魔族に挑んでも十中八九死ぬだけだからな」


「ああ、こっちはなんとかする。だが、カイン。本当に説得なんて出来ると思ってるのか?」


「さあな。話してみなきゃ何もわからん。だが、前にも言った通りだ。もし、あの魔族が困っているなら、助けを必要としているのなら。俺はただ、手を差し伸べるだけだ」


 そう言ったカインの瞳には、今までにない程に強い決意の色が浮かんでいた。

読んで頂きありがとう御座います。

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