080 前門の蛇、後門にも蛇
ダンジョン攻略を開始してから三日目。
ミーアからの救援を受けて、ファライヤを送り出した翌日である。
カインたちは現在、十二階層へと辿り着いていた。
平均的なダンジョンの深さから考えても、そろそろ最深部に到達してもおかしくはない。
順調であった攻略も十一階層へ到達してからは、それなりに苦戦を強いられるようになっている。
ヒューマ・タイラントという魔物が出現するようになり、カインたちの隊列を崩して来るのだ。
この魔物は土壁を纏った人型で、中身は液状のスライムに近い生物が入っている。
壁に染み込み、その壁の鉱石を纏って突如壁から出現する為に、対応が遅れることがままあるのだ。
おまけに纏っている鉱石が良質なのかやたらと硬く、力も強い。
一体なら問題は無いが、それが数体同時に現れると流石に処理に時間が掛かる。
加えて、十一階層からは拳程の横穴が多く散見され、そこからは多種多様な蛇の魔物が発生するようになったのだ。
レイジ・マム。スノー・マム。スリープ・マムと様々な毒性を持った蛇の魔物が、ヒューマ・タイラントとの戦闘中にも大量に湧いて来るのである。
大量に湧いた蛇は魔晶石で抑え込み、ウルスナの魔術で一掃する。倒し切れなかった蛇はルクスに任せ、バッカー、ゲンゴウ、ミズシゲが高火力でヒューマ・タイラントを始末していく。
カインは全体を見て指示を出し、ウルスナとルクスのフォローに回る。
そんなことを繰り返しながら、一同はなんとか十二階層へと辿り着いたのだった。
「少し休憩にしよう。ウルスナが魔術を使い過ぎている」
カインの提案に、一同が頷く。
基本的にダンジョン内部で、安全地帯となる場所は無い。
休憩や睡眠を取る際には、周辺に魔物避けの杭を打ち込み、固まって休息をとるのである。
あくまで魔物を避けるだけのものである為、突然襲われることもあるし、興奮している魔物には効かないのだ。
ゲンゴウと未だ元気いっぱいなバッカーが見張りに立ち、中央に固まりそれぞれが椅子を出したり、敷物を敷いて腰を下ろした。
手に持った水袋を飲み干して、一息つくとルクスが口を開いた。
「そろそろ最深部だと思うぜ。この階層か、次かその次ぐらいだ」
「俺もそう思う。魔物の密度が高くなっているからな」
「蛇共が厄介だな。種類が多過ぎて噛まれたら、手持ちの解毒薬で対処できるかわからねえ」
「確かにそうだな。魔晶石はケチらず使って行った方が良さそうだな」
「カイン。そろそろ私の腰袋がいっぱいになりそうです」
「あー。私もだわ。鉱石とかはもう入んないかも」
「俺のは、もうちょい余裕があるが整理してえな。魔晶石を取り出すときに引っ掛かる」
「俺も余裕がなくなって来たな。さすが未踏のダンジョンは、回収する物が多い」
「魔物がちょっと多過ぎるのよ」
「まあ、誰も倒していない状態ですからね」
「これ以上の回収は一旦止めよう。切りが無くなりそうだ」
「もったいないけど、賢明な判断ね」
そんな会話をしながら軽食をとり、見張りの交代をしながら暫しの休息をとる。
そして、一同は十二階層の攻略に再び乗り出した。
相変わらず横穴から湧いて来る蛇の魔物と、壁から突然現れるヒューマ・タイラントをなんとか退け、ややペースを落としながらも慎重に進んでいると。突然、壁から五体のヒューマ・タイラントが現れた。
透かさず、ミズシゲとゲンゴウが対応するが、今までのヒューマ・タイラントよりも纏う鉱石の質も高く量も多い。
一回り大きなそれを、すぐさま倒し切るのは難しかった。
それと同時に、図ったかのようなタイミングで大量の蛇の魔物が横穴から湧き出す。
対処しきれない!
そう即断したカインが指示を飛ばす。
「バッカー、ゲンゴウ! 道を作れ! 突っ切るぞ!」
バッカーの対応は早い。普段は馬鹿な男ではあるが、持ち前の真っ直ぐな心が躊躇うという感情を抱かせない。
緊急事態では非常に役に立つ男である。
バッカーが雄叫びを上げて、ヒューマ・タイラントへ突っ込む。
当然相手も黙って立ってはいない。
突進するバッカーに向かって、硬質な拳を繰り出した。
しかし、バッカーはそれすらも気にせず、全力で相手を拳ごと全体重を乗せて殴りつけた。
勢いのままに殴りつけた一体をよろめかせて、そこに追加で蹴りを入れる。
見事に仰向けに倒れ込んだ一体は、後ろの二体を巻き込んでその進行を阻んだ。
それに追従するようにゲンゴウも雄叫びを上げながら、残りの二体に強烈な蹴りを入れてなぎ倒す。
「走れ!」
カインが詠唱に入ったウルスナの手を引き、駆けた。
後ろから迫る蛇の群れに『爆風』の魔晶石を投げつけながら、ルクスがそれに続いた。
ミズシゲが全体のフォローをしながら最後尾に回り、一同はカインを先頭に駆ける。
ダンジョンの本道を駆けていると、通路の横に大きな横穴がぽっかりと口を開けているのが目に入った。
そして、そのまま通過しようと決めて全員が速度を上げた時、それは顔を出した。
シュルシュルと太い舌を出して、ギョロリと大きな瞳をした巨大なヘビ。
四階層で戦った巨大ヘビが、大きな横穴から顔を出したのだ。
「ウルスナ!」
カインに言われた時、ウルスナは既に魔術を放っていた。
蛇の魔物を一掃する為に編まれた『火鞭』。
熱風が吹き荒び、螺旋を描きながら巨大ヘビに炎の鞭が迫った。
『火鞭』に打たれた巨大ヘビが怯む。
そこにカインは刀を抜いて全力で迫った。
『細部連動強化』を用いた全力の疾走。振り抜かれた剣筋はミズシゲやゲンゴウ程滑らかではない。
だが、数日前よりも格段に良くなった剣技が、怯んだ巨大ヘビを捉える。
黒く輝く黒曜鉄の刀が閃き、巨大ヘビの鱗を削りながら強烈な一撃が叩き込まれた。
大きく仰け反った巨大ヘビ。
「ゲンゴウ! バッカー! ウルスナをフォローしながら先頭を行け!」
巨大な横穴まで迫っていた二人に指示を飛ばし、カインは体制を崩した巨大ヘビに追撃を放つ。
そして、ルクスとミズシゲが通過するのを確認して、そのあとを追った。
目まぐるしく隊列を入れ替えて、逃走するカインたち。
ヒューマ・タイラントや蛇の魔物は引き離すことに成功したが、カインの後ろからはズルズルと這うような音が迫って来ていた。
『土壁』や『爆風』の魔晶石を放りながら逃走を続けるが、巨大ヘビはそれらを容易く砕き、飲み込みカインたちへと迫った。
巨大ヘビの動きは速い。カインたちは徐々にその差を詰められる。
「カイン! 私が一度崩します!」
ミズシゲがそう言って足を止める。
ふうと息を吐き、目を閉じたまま腰の刀に手を添えるミズシゲ。
そのミズシゲに巨大ヘビは大口を開けて迫った。
『曲水流転』。
バクリと巨大ヘビの口が閉じられる。
しかし、その口内にミズシゲを捉えることは出来ていなかった。
四階層の階層主との一戦でも見せた、ミズシゲ独特の動き。
進むのか下がるのか、曲がるのか止まるのか。無拍子で行われるその動きは捉え難い。
右に動いたと思えば左に移動しており、止まっていたかと思えば前に出ている。
そして、次の瞬間には刀が閃き、相手へと迫っているのである。
巨大ヘビを一太刀にできるほどの威力は無いが、突然相手が消えて意識の外から攻撃を加えてくれば、生物ならば動揺の一つも見せる。
巨大ヘビも例に漏れず、喰らったと思った相手から予想外の攻撃を受けて、驚いた様子で硬直した。
その隙を突いて、カインが飛び込むように刀を振るった。
上段から大きく振り下ろされた一撃は、巨大ヘビの眉間を強烈に打ち付け、巨大ヘビはたまらず地面に倒れ込み、悶えるようにのたうち回った。
「行きましょう」
ミズシゲの掛け声と共に二人は、仲間を追ってその場を後にする。
速度を上げて仲間を追い、程なくしてその背中を捉えたカイン。
だが、仲間たちに追いついたところで、カインは嫌そうな顔を見せた。
見れば、通路の突き当たりに空いた穴から、またもや巨大ヘビが顔を覗かせていたのだ。
足を止めて仲間たちがそれと対峙している。
不用意に動くことができず、僅かな時ではあったが足を止めて睨み合いをしていると、カインたちの後ろからズルズルと這う音が聞こえてきた。
「おいおい。お前ら倒して来たんじゃねえのかよ!」
「馬鹿野郎! あんな短時間で倒せるか!」
言い合いをしながらも、カインとルクスは背を向けながら互いの眼前に目を向ける。
前と後ろ。
二体の巨大ヘビがシュルシュルと舌を鳴らしながら、カインたちの前に立ちはだかった。
読んで頂きありがとう御座います。
明日はお休みします。
次回投稿は明後日……たぶん!




