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078 隠された切り札

タイトルにサブタイトルを付け足しました。

本タイトルを変更するつもりはありませんが、試験的にサブタイトルを追加して人目に付くか試してます。

それっぽくしただけなのであまり効果はないかもしれませんが……。

 ダンジョンの攻略を開始して丸一日が経過していた。


 カインたちは今、九階層の広間に居る。


 ダンジョンの内部が予想よりも広くなかった為、昨晩の内に七階層目を攻略することが出来たカインたち。途中でバッカーが突っ走りファライヤにお灸をえられたことはあったが、それ以外は順調なものであった。


 本日は朝早くから八階層の攻略を進めていたのであるが、八階層以降には希少な素材と魔物が発見された為、その回収に幾分かの時間を取られた。


 四階層の階層主を倒してからは階層主と出くわすこともなく、魔物の強さもそれほどではない為、苦戦を強いられることもなくダンジョン攻略を進めている。


 しかし、九階層の最奥で、またしても階層主と出くわすことになった。


 相手はシールド・ゴーレム。


 全身にみがいた盾の様な鉱石をまとい、魔術の耐性も物理攻撃の耐性も高い厄介な相手だ。


 カインたちの三倍はある巨体から繰り出される拳。


 そんなものを受けたらひとたまりもない。


 現在はその攻撃を対処出来る二人。ゲンゴウとミズシゲが前衛に回り、流れる様な剣技で攻撃をいなしてくれている。


 そして、隙をついてカイン、バッカー、ルクスが、ゴーレムから鉱石を剥がそうと四苦八苦しているところだ。


 魔術士であるウルスナは、術式を編んで鉱石が剥がれるのをじっと待ち、ファライヤはその側で暇そうに髪をもてあそんでいた。


「あら、枝毛があったわ」


「冒険者なら枝毛の一本ぐらいあると思うけど?」


「私は今までなかったわ」


 あーそうですか。とウルスナは呆れ顔をした。


 冒険者といえば野営をすることが多く、今回の様に数日に渡りダンジョンにもぐっていることも珍しくない。


 何着かの着替えと、匂い消し。水場で洗濯できるように洗剤なども持ち歩いてはいるが、基本は汗を拭う程度で長時間着のままでいなければならないことの方が多いのだ。


 『洗浄』などという魔術も有るにはあるが、魔術書も安くはないのでAクラスの冒険者といえども習得している者は多くなかった。


 だというのに、手入れも満足に出来ない家業に身をやつしていながらも、枝毛の一本もないとはどういうことなのか。


 顔立ちも整っていてスタイルも良い。おまけに強いと来たら文句のつけようもない。


 これで性格が良かったら、男など引く手数多であっただろう。


 まあ、その性格の所為で全てが帳消しになっている様な気もしなくもないわけだが。


「ファライヤは戦わないわけ?」


「戦っても良いのだけれど、彼らの実戦を積む機会を減らしたくはないわね」


「今回は急ぎの攻略でしょう?」


「私も急ぎで貴方たちを教育しているわ」


 そう言われてウルスナは嫌そうな顔をした。


 そんな話をしていると、カインがゴーレムの鉱石をようやく一部剥がすことに成功した。


 それを見て、ウルスナは顔を引き締めて集中する。


 ミズシゲが攻撃をいなし、バッカーが強烈な一撃でゴーレムをよろめかせる。


 鉱石の剥げた部分がウルスナの正面を向いた瞬間、ウルスナが声を上げた。


「下がって!」


 ウルスナの発声で、全員がゴーレムから距離を取る。その様子を確認してからウルスナの魔術が発動した。


 『水斬』。


 圧縮した水を刃の様に一点に向ける魔術である。


 器用に操られた『水斬』は、ゴーレムの鉱石が剥がれた部分に直撃し、内側を抉って右腕を破壊した。


「よしっ! 追撃だ!」


 カインが声を上げ、一同が再びゴーレムへと向かう。


 そして、カインも追撃に移ろうとした時だった。


「(カインさん! 敵一てきいち! S! 鐘半、死傷ゼロ、犠牲者が八人出てます! 敵一てきいち! S! 鐘半! 死傷ゼロです! 私たちでは手に負えません)」


 カインの脳裏にミーアの声が響いた。


 『伝意』の魔術は、言葉を相手に直接送ることが出来る。だがその情報量には限りがあり、文字数にすると約二百文字程度の内容しか送り届けることが出来ない。


 その為、内容は必要最低限に簡略化されることが多い。


 ミーアが送った内容は、敵が一名、その危険度がSクラス、持ちこたえられる時間が鐘半分ほど。そして、現在の味方の死傷者の数を表している。


 危険度S。そして、持ちこたえられる時間が僅か鐘半分ほどという情報にカインは、眉をひそめる。


「カイン! 動きが止まってますよ!」


 思わず立ち止まったカインをミズシゲが指摘する。


「すまん! 緊急事態だ! ファライヤ、手伝え!」


 カインの焦る様な態度に、ファライヤは目を細めながらも頷いた。


 ファライヤが攻撃に参加し始め、ミズシゲとゲンゴウも攻撃を受け流した際に無理矢理一撃をねじ込む様になり、程なくしてシールド・ゴーレムはその動きを停止させた。


「何かあったのかしら?」


 早々に戦闘を終わらせ、ファライヤがカインに問い掛けた。


「ミーアから連絡があった。あっちに敵襲だ。敵は一人、危険度はS! あいつらだけじゃ手に負えないようだ。あと、ミーアが鐘半分しか持たないと判断している。早急に救援へ向かわなくちゃならん」


「鐘半分? ここまで来るのに半日以上掛かってるぜ? 流石に俺様が全力で走っても間に合わないな」


「ファライヤ、お前ならどうだ?」


「無理ね。鐘半分ではさすがに戻れないわ。せめて鐘一つか二つは時間が欲しいわね」


「ミズシゲ、お前は?」


「いえ、身軽とは言ってもさすがに無理ですね」


「ファライヤとミズシゲに先行してもらって、全力で戻るしかないか……」


「おいおい、魔物を一掃してるわけじゃねえんだぜ? そんなことして不意打ち食らっちまったら、こっちがお陀仏じゃねえか?」


「わかっている! だが、他に手が……」


 そこで、カインは今倒したシールド・ゴーレムへと目を向ける。


「こいつの盾みたいな鉱石は、魔術の耐性が高いんだよな?」


「ええ、そうね。それがどうしたのかしら?」


「こいつに全力で魔術をぶつけてひとっ飛びってのはどうだ?」


「おいおいカイン。そんなことしても、壁にぶつかってお終いだろ? 俺様でもそのくらいのことはわかるぜ」


「違う。飛ばすのは、ダンジョンを出てからだ。鐘半分で間に合うかはわからないが、外に出てからだいぶ時間が短縮出来る筈だ」


「打ち上げられた高さによっちゃ、そいつがお陀仏になる可能性がたけえけどな」


「打ち上げるんじゃなく、流すんだ。ダンジョンの入り口は、キリエ村よりも高い位置にある。そこから『水災』の魔術を使って押し流す」


「んじゃあ、よっぽどバランス感覚のたけえ奴じゃねえと無理だろ。下手したら、そのまま『水災』に巻き込まれる」


「やれそうな奴に任せるしかないだろう」


 そう言ってカインは、ミズシゲとファライヤに視線を向けた。


「ふむ。女性の扱い方に関しては疑問が残りますが、緊急事態です。お任せください」


「私も別に構わないわ。けれど、その鉱石はどの程度の魔術に耐えられるのかしら?」


「軍用で扱われる大楯に使用されているのを見たことがある。一発ぐらいならなんとかなるだろう」


「そう。ならそれでいきましょう」


「すまない。『水災』の魔術はウルスナの魔術を魔晶石に込めて……」


 言い掛けてカインは、ウルスナが何かを悩んでいる様な仕草をしたことに気が付いた。


 ほんのわずかに発言しようとして、言葉を飲み込む姿。


 それに気付いてしまったら、黙ってはいられない。


 カインがつかつかとウルスナに近付くと、ウルスナは慌てる様に後退った。


「ちょちょ、なによ! なんなの!」


 後ろに下がるウルスナは終には壁側まで追い込まれ、カインに壁ドンされると頰を赤らめる。


「ウルスナ。何か他の手段があるんだな?」


「ちょ、離れて! 顔ちかっ!」


 照れながらも、何かを誤魔化そうとするウルスナに対して、カインは真剣な顔を向けてウルスナの手を握る。


「頼む。何か手段があるなら教えてくれ。ウルスナ!」


「あ、あるわけないでしょう! なんで勝手に手を握ってるのよあんたは!」


 尚も誤魔化そうとするウルスナに対して、カインはその瞳を見つめたまま、顔を近付けていく。


「えっ、ちょ、本当に近いって!」


 そして、互いの吐息が感じられる距離になって、ウルスナが折れた。


「わ、わかった! 話すから離れて! お願いよ」


 サッとウルスナから手を離し、距離を取るカイン。


「よし、さっさと話せ」


 カインは淡白たんぱくにそう言った。


 荒い呼吸を繰り返しながらウルスナの目が点になる。


「早くしろ」


「あんたねえ。わざとやってたわけ!」


「この状況でお前が隠し事をしようとするからだ。わかってるのか? お前の大好きなマリアンもピンチなんだぞ?」


「わかってるわよ! でもこれは、私のとっておきなんだから易々と人に話せないのよ!」


「話すぐらい出来るだろう」


「話をしたら、以降それありきになるでしょ! 断ったら嫌な顔されて気不味くなるし。言っとくけどね。これは私の切り札なの! 魔力だって半分以上持ってかれるんだから。当たり前のように当てにされると私にはリスクしかなくなるのよ!」


「お前の言う通りだな。なら以降その手段を当てにしないと約束する。だからお願いだ今回だけ力を貸してくれ」


 カインの真摯しんしな願いに、ウルスナは溜め息を吐いた。


「……転移魔術が使えるわ」


「本当か!」


「ええ。けど、条件があって一人しか飛ばせないし、転移先の印は一度しか使えない。だから、これは何が起こるかわからないダンジョンで最悪の状況に陥った際に備えて、潜る前に毎回準備してるの」


「転移先はキリエ村か? 何かコソコソやっていたな」


「そうよ。低い場所から高いところへ釣り上げるような術式だから平面じゃ使えないけど、キリエ村はここの三層よりも下なら高い位置になるから丁度良かったのよ」


「なるほど。一人は確実に送り届けられるんだな?」


「ええ、一人だけならね。あんたが行くわけ?」


「使ってくれるのか?」


「話した時点で、使わないなんて言ったら私が悪者になるでしょうが!」


「悪いな。今度何かで借りを返そう」


 そう言われてウルスナは溜め息を吐いた。


「期待しないでおくわ。そこに立って」


 そう言われてカインはわずかに沈黙した。


「……いや、行くのは俺じゃない」


 カインはそう言うとファライヤに視線を向ける。


「お前なら確実だ。頼めるか?」


 ファライヤがニヤリと口元を歪めた。


「冷静な判断ね。任せなさい。ただし、あちらのことは全て私に任せて、貴方たちはこのまま攻略を続けること」


 ファライヤの言葉にカインは頷く。


「頼む。あいつらを守ってくれ」


 カインがそう告げるとファライヤはウルスナの前に立つ。


「ファライヤ、転移先はキリエ村の西側にある小屋の中よ。転移後は暫く視界が暗転したままになるけど、待っていれば戻るから焦らないで」


 ウルスナの言葉にファライヤは無言で頷いた。


「私の切り札を使うんだから、絶対にマリアンちゃんを守るのよ!」


 そう言って、ウルスナが術式を編み『転移』を発動させると、ファライヤの身体が光に包まれ消えた。


 あとはもう出来ることはない。


 だが、ファライヤが全て任せろと言ったのだ。


 もう、心配する必要はないだろう。


 僅かにくすぶる気持ちを切り替えて、カインたちはファライヤに言われた通り、ダンジョンの攻略を再開するのであった。

読んで頂きありがとう御座います。

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