表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/174

075 圧倒する力

 ステータスの値。


 その値を口に出されたとしても、アーマードには今一つ想像が出来ない。


 だが、ファライヤにEXスキルの説明を受けた際、『豪腕』のスキルは筋力に百を加算させるものだと聞いた。


 強力だと言われた『豪腕』で得られる値が百なのである。


 それを目の前の男は、優に超える数値で口にした。


 ステータスの数値にうといアーマードであったとしても、一万五千という値が異常な数値であることは理解できる。


 からかうように笑う男。


 その男が常人には理解出来ない筈の、ステータスという数値を用いてまで嘘をつくとも考えられない。


 現に目の前の男はアーマードの全力の突撃を受けても無傷であり、巨大なつちを拳一つで砕いてみせたのだ。


「おや? 怖気付いてしまったかな? 君には面白い術式を教わったからね。実力差を理解して大人しくしているなら、見逃してあげるさ。僕は慈悲深いからね」


 ケラケラと笑いながら、エドはアーマードに背を向けた。


 その足が向かう先はマリアンのところだろう。


 そのことを理解していながら、アーマードという男が黙って立ち尽くしている筈もなかった。


 例えどんなにもステータスに差があろうとも。実力が己よりも勝る相手であったとしても。


 アーマードはマリアンの盾なのである。


「お兄ちゃん」


 マリアンに初めてそう呼ばれたあの時。


 胸の内にくすぶる感情が溢れ出したあの時から、アーマードは生涯を掛けてマリアンの盾となることを誓ったのだから。


「うおおおおおお!」


 雄叫びを上げながら、エドに向かって拳を振るうアーマード。その拳をエドは腰を落として迎え撃った。


 繰り出される拳に合わせるように、エドは拳を放つ。


 そして、二つの拳が衝突してゴツリと音を鳴らした。


 一拍の後、アーマードの手甲が砕けその腕が裂けるように血飛沫を上げる。


「ぐうぬぅ」


 アーマードが苦悶くもんの声を漏らすが、エドは飄々(ひょうひょう)とした様子を崩さない。


「折角見逃してあげようと思ったのに。馬鹿な男だね君は」


 そう言って、苦しげにうめくアーマードに対して再び拳を振ろうとした時。


 黒い影がエドの背後へと躍り出た。


 瞬きする程の刹那せつな


 その刹那せつなの間でエドの背後を取り、揺らめくように短剣を振るう男、ジェド。


 不意打ちとしてはこれ以上ないタイミング。


 躊躇うことなく振られた短剣は、エドの首筋を捉え。


 そして、敢え無く空を切った。


 いつの間にかジェドの背後に立ち、エドは薄っすらと笑う。


 『水追』。


 そんなエドに対して、水の刃が襲いかかる。


 ひらりとジェドから離れたエドを追尾するように、水の刃は軌道を変えて向かって行く。


 その『水追』の魔術に向かってエドは手をかざすと、『爆風』とボソリと呟いた。


 一瞬の間に術式が構築され、エドから『爆風』の魔術が放たれ『水追』を相殺する。


「無詠唱!」


 『水追』を放ったミーアが驚きの表情を浮かべた。


 筆跡を用いずに、術式を構築する術など聞いたこともない。


 カインのように、魔力を無駄にした無茶苦茶なやり方はともかく、エドの放った魔術は無駄のない滑らかなものであった。


 それこそ、ファライヤの言う、より実践向きな術として高められた技術。魔法と呼ばれるものであるかのように。


「……まさか、魔法!」


 ミーアの呟きにエドが反応した。


「魔法? はは、今のはただの魔術さ。魔法なんて僕ですら見たこともないよ。……というかさ、もしかして知ってるのかい? 魔法について」


 エドにめ付けるような視線を浴びせられながらも、ミーアはキッとにらみ返した。


「知っていたとしても、あなたには教えません!」


 力強い視線にエドはぶるりと体を震わせる。


「おやおや。モブだと思っていた子が良い目をするじゃないか。僕は好きだよ。君みたいな子が屈服する姿を見るのはね」


 体を仰け反らせ、抑えきれなくなった喜びを出し切るように高笑いをするエド。


 そんなエドに向かってミーアは呟く。


「……下衆め」


「ミーア! カインに連絡をしろっ!」


「もう、してます!」


 アーマードの叫びにミーアが応える。


 アーマードがエドを室外へ吹き飛ばして直ぐ、ケロリと立ち上がるエドの姿を見てミーアは即断していた。


 その判断は間違っていなかったと、ミーアは確信している。


 アーマードの槌を砕き、真っ向から拳を打ち合い力で勝る。背後から迫ったジェドの速度を上回る動きを見せつけた。そして、ミーアの魔術を無詠唱で放った魔術で相殺させた。


 そんな相手に、今のミーアたちでは太刀打ちできない。


 せめてこの場にカインやファライヤがいてくれれば、状況も違ったかもしれない。


 『伝意』の魔晶石を用いて、既に連絡はした。


 だが、カインたちは昨日の昼頃には、ダンジョンへ潜っている筈である。


 現在どの位の階層まで進んでいるかは知らないが、急いで戻って来たとしても半日……いや、ファライヤであればミーアの想像よりも早く到着するかもしれない。


 しかし、どんなに早くても鐘八つ分の時間は必要だろう。カインたちの状況によってはそれ以上だ。


 それだけの時間、この強敵を相手に無事でいることができるのだろうか。


 ……不可能だ。


 それでも―――やるしかない。


 ミーアは覚悟を決める。


 それと同時だった。


 ミーアの視界からエドの姿が消えた。


 まずい!


 そう思った時には遅かった。


 気付いた時には腹を打たれ、ミーアの体が宙を舞う。


 自分が何をされたのかもわからない。


 けれど、呼吸もままならないその衝撃が、自身に受けた攻撃であるということだけは理解出来た。


 地面を転がりながらミーアがあえぐ。


 それを見たジェドは、怒りに任せて駆けていた。


 低い姿勢で、勢いを加速させエドへと肉薄する。


 しかし、嘲笑うかのようにエドの姿が視界から消え失せる。


 そして、撫でるように顎を打たれ、ジェドは地面に突っ伏した。


 地面に倒れ込んだ衝撃で、いっときではあるが意識を手放していた事に気が付く。だが、意識を取り戻せたのはいいが、頭が揺れて立ち上がることができない。


 そんなジェドに対してエドが追撃を放とうとすると、アーマードの投げた魔晶石から『水槍』の魔術が飛び出してエドへとせまった。


 それも、無詠唱で『爆風』を放たれ容易く対処されてしまう。


 だが、アーマードも手を緩めない。裂けた腕の痛みを気にも止めずに魔晶石を投げながら突進する。


 『水槍』、『風斬』、『爆風』、『土棘』。


 これでもかと投げ付けられた魔晶石。そのことごとくをエドは容易に対処して見せた。


 エドはアーマードの突進をふわりと避けて、横合いからその体に蹴りを放とうとする。すると、一本の矢が二人の間を通過した。


 エドが攻撃を中断してチラリと視線を向けると、聖騎士の鎧をまとったトリティが二本目の矢をつがえて構えていた。


 エドが面倒臭そうにトリティに手を向け、無詠唱の魔術を放とうとすると、『水追』の魔術がエドを襲った。


 間一髪その事に気が付き、エドは状態を反らしてそれを躱すと、トリティに向けていた手を『水追』に向け直し『爆風』で相殺する。


 そこに追撃をかけるべく、アーマードが血のしたたる腕を全力で振り抜く。


 さすがに躱しきれなかったのか、エドはその攻撃を左腕で受け、大きく吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされた状態でも、エドは体をひねり華麗に着地してみせる。


 ダメージを負った様子はまるでない。


 エドがチラリと視線を巡らせると、空のポーションを握りしめて立ち上がるミーアの姿があった。


 トリティのかたわらでヴィレイナも弓を構え、マリアンがジェドとアーマードに駆け寄りポーションを渡す。


 エドに向けられる敵意の眼差し。誰一人として、絶望に顔を歪ませる者などいない。


 その眼差しを受けて、エドは笑った。


「君たち面白いね。これだけの力を見せつけられて、誰も心が折れた様子がない。そっちの……ヴィレイナちゃんって言うのかな? 君も良いね。戦ったこともなさそうなほど低レベルなのに、そんな目が出来るなんて……本当に壊し甲斐がありそうだなあ」


「私の力が足りないことは理解してます。ですが、何もせず努力をおこたった者には、救いの手は差し伸べられないんです」


「なんだい? 神様の教えか何かかい? でも残念なことにあいつらは気まぐれだからね。努力したところで、救っちゃくれないのさ」


「いいえ! 私が信じるのは、神ではなく英雄です!」


「ははっ! それこそ信じるに足りないね! あいつらは僕と一緒だよ。自分の力に酔っているだけさ。あいつらは自分の為に力を振るっているに過ぎないのさ!」


「あなたの言う通りかもしれませんね。ですが、私の英雄は自分の為に力を振るい、誰かに手を差し伸べてくれる人です」


 ヴィレイナの優しげな微笑みに、エドが苛立ちの表情を浮かべた。


「ふうん。そうかい。なら、無力な英雄にすがって絶望するといい」


 そう言ってエドがヴィレイナに向かって、『爆風』を放った。すかさずヴィレイナの前に出たトリティが『守護』の魔晶石を使う。


 しかし、本来防げる筈の『爆風』が『守護』の守りを破り二人に襲い掛かる。


「そんなっ!」


 トリティが驚きに声を上げた時には二人を炎が取り囲み、包み込むように燃え上がった。


「トリティ、ヴィレイナ!」


 ミーアが一も二もなく二人に駆け寄り、アーマードとジェドが動いた。


 アーマードとジェドは考える。


 実力差が歴然であるこの状況で、今までと同じことをしていたとしても勝てはしないと。


 ならばどうするのか?


 その答えは一つしかない。


 彼らは知っているのだ。より高みへと至る手段を。磨き上げた先にある魔法という技術の存在を。


 『六つ身体強化』の先にある、七つ目の身体強化。『操術』へと至る手段を。


 ファライヤは言った。


 術式を簡略化し、最終的には魔力そのものを扱うのが魔法だと。想像で現象を創造する。それこそが魔法という技術なのだと。


 そのすべを二人はまだ会得していない。


 だが、至る為の手段は既に二人の中にあるのだ。


 今二人が扱えるのは四つ目の『細部連動強化』までだ。


 型を用いて扱っているそれに、反射を加えて魔力の流れを加速させるのが『細部連動反射強化』。そして、出来上がる流れをほぼ反動と反射のみで流動させるのが『流動反射強化』。その動きを術式を用いずに完成させるのが『操術』である。


 そんな繊細な技術を即座に扱えるわけもない。至れる筈もない。


 だが、カインはそれを強引に引き出していた。


 己の魔力を全て当てて、流れも何も関係なく使用する、魔法には程遠い不完全な技。


 カインが名付けた『半魔法』という名の強引な技術。


 それであれば。何度か目にしたその技術を思い描くことは出来る。


 術式など関係ない。全ての魔力を巡らせ肉体を強化するイメージだけでいい。


 つちかった技術は必要ない。それは先に至る為の手段に過ぎないのだから。


 目を向けるのは魔法。描くのは強化。


 立ち込める魔力が一つの想いに染まった時、全身を覆う魔力が二人を格段に強化させた。

読んで頂きありがとう御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ