073 階層に巣食う魔物
岩山と岩山の間に隠れるように、ポッカリと大きな口を開けて待ち構える洞窟。
独特な雰囲気を醸し出すその場所―――ダンジョンの入り口の前にカインたちはやって来ていた。
メンバーは、カイン、ルクス、ミズシゲ、ゲンゴウ、ウルスナ、バッカー。天秤の塔の攻略組にファライヤを加えた七名である。
カインたちは昨晩から準備を行い、昼前に一度キリエ村へと立ち寄った。
キリエ村にやって来ていたローレンたちへ事情を説明するとともに、何日掛かるとも知れないダンジョン攻略の為の食料を譲り受け、呪いに掛かる者たちの容態も見て回っておく。
攻略時には頼もしい仲間たちではあるが、キリエ村へ到着するとファライヤとミズシゲは何処ぞへフラフラといなくなり、ルクスは村娘にちょっかいをかけ始め、ウルスナはコソコソと動き回り、バッカーは寝溜めをすると言って地べたに横になった。
唯一、忙しく村を回るカインに付いて回ったゲンゴウであったが、その眼光は鋭くまるで監視でもしているかのようで、カインを落ち着かない気持ちにさせた。
マリアンズに加わった時に、ミズシゲがカインを見定めるのだと言ったことを意識しているのだろうが、少々やり過ぎである。
とはいえ、自由奔放な仲間たちを取りまとめ、カインはなんとかダンジョンの入り口までやって来たのだ。
この連中を指揮するのは本当に疲れる。
カインは攻略に乗り出す前から、若干の疲れをみせていた。
「カイン、一層にはシャープ・ウルフが巣食っています。二層までは道案内出来ますが、それ以降は不明なのでご注意を」
「わかってる。一層はミズシゲが先行して案内してくれ。二層からはルクスが先行して、罠の確認を頼む。配置はルクス、バッカー、ゲンゴウが前衛。中央にウルスナとミズシゲ、後ろに俺とファライヤで行く。後ろはファライヤがいるから気にしなくて良い。危ない時は俺が注意を促す。ウルスナとミズシゲは全体のフォロー。バッカー、一人で暴れ過ぎるなよ!」
カインの細かな指示に全員が頷く。
自分勝手な連中ではあるが、節度はわきまえているらしい。真面目な場面になれば、素直に指示に従ってくれることはカインとしてもありがたかった。
「呪いの影響をいつ受けるかわからない。魔力の消費量には注意しろ。行くぞ!」
そう言ってカインたちはダンジョン攻略へと乗り出した。
一層は何事もなく攻略できた。
目新しい素材や、魔力量の高い魔石も見当たらなかった為、特に回収する物もない。
二層へと続く階段の前には拓けた空洞があったが、特に何かが待ち構えていることもなく、カインたちはすんなりと二層へと至ることができた。
下の階層へと繋がる場所には、拓けた空間が出来る。その場所には、その階層を縄張りとする強力な魔物が巣食っていることが多い。
階層主と呼ばれるその魔物は、階下から立ち込める魔力が充満するその部屋を好む傾向が強いのだ。
何故そのような空間が出来るのかはわかっていない。
しかし、ダンジョンは成長するものである。
ダンジョンを構築する核たる魔物や鉱石が存在する最深部。その場所が必ず拓けた場所となっている為、階層が下へと伸びる際に元々最深部だった場所が、そのままの広さを残して構築されるのだとも言われている。
実際にその現場を目にした者はいない為、あくまでも噂の域を出ない内容ではあるが。
そして、一行が二層、三層も問題なく進み四層目の奥地に辿り着いた時である。
先行して、魔物や罠の確認を行っていたルクスから悪い知らせが届いた。
「どうやら、この階層にはいるみたいだぜ」
「階層主か?」
「ああ。もぞもぞ這うような音しか聞いてねえが、結構な大型だ」
「殴っちまえば、でかいのも小さいのも関係ねえぜ!」
「馬鹿やろう! 大いに関係あるわ!」
「おいおいおい。ルクスいい加減にしてくれよ。俺様の名前は―――」
「うるせえ! てめえがいい加減にしろ! カインもコイツになんとか言ってやってくれよ!」
「まあ、兎に角だ。どちらにせよやるしかないわけだが」
「おいカインてめえ! ナチュラルに俺をスルーすんな!」
「ちょっとうるさいわよルクス」
ファライヤに注意されてあっさりと静かになるルクス。その様子を隣でバッカーが大笑いして煽った。
だが、そんなバッカーには注意も促さず、ファライヤは無言で石を投げつる。
顔面に直撃したバッカーは、悶えながら地面を転がり回った。
「断定は出来ないが、体を引きずるような動きは爬虫類系の魔物に多い」
「大型の尻尾でなければ良いわね」
「それこそ竜種ってことになるだろうが。まあ、どちらにせよこのダンジョンに竜種がいる可能性は低い。あいつらはもっと古いダンジョンを好むからな。だが、注意するとなると……」
「呪いの原因ね」
「そうだ。原因となるくらいなら、相応に特殊な魔物である可能性は高い。だが、バジリスクなんかの厄介な魔物である可能性も十分にあるから注意してくれよ」
「前衛で危なげなくやれそうなら、そのまま行く。ヤバそうなら、ファライヤとスイッチして火力を補う。ウルスナ、先制は土系統で行く」
「わかったわ」
四層の奥地でそれぞれが準備を完了したことを確認すると、カインが『光陣』の魔晶石を投げ入れた。
「行くぞ!」
カインの合図と共に、一同が拓けた空間へと雪崩れ込む。ルクスとバッカーが先行し、その後ろから既に術式を編んでいたウルスナが続き、敵を確認すると魔術を放った。
「さすが! カインあんたやっぱ読みが良いわ!」
ウルスナが放った魔術は『土崩』。B級の魔術ではあるが、土砂を撒き散らし放った相手に纏わりつくと、一時的ではあるが相手の動きを封じる効果もある。
ウルスナはA級の魔術も扱うことは出来る。だが、広範囲に影響を及ぼすA級の魔術をダンジョン内で使用することは御法度だ。
仲間を巻き込む可能性が高いこともあるが、それよりも効果によってはダンジョンが崩落する可能性があるからだ。
そして、ウルスナの使用出来る魔術の中で、カインが選んだものは今回の相手には非常に効果のあるものであった。
カインたちの目の前に現れた魔物。それは、一体の巨大なヘビであった。
広間を囲うように陣取った巨大ヘビ。最早前衛も後衛も関係なく、ヘビがぐるりと体を締め上げれば全員が巻き込まれていたであろう。
しかし、ウルスナの放った魔術がヘビの体の一部を縫い付けるように固定した為、巨大ヘビは思うようには動けない。
「頭を狙え! ウルスナ! 動き出す前にもう一撃、間に合わせろ!」
カインの指示に従い、ウルスナが詠唱を始めバッカーが踊り出た。
「だぁああああありゃっしゃああああ!」
バッカーの拳が巨大ヘビの眉間に突き刺さり、巨大ヘビは大きく怯んで見せた。
続けざまバッカーが巨大ヘビの頭部目掛けて突進すると、巨大ヘビは悶えながらも大きく口を開く。
人間など一飲みにできてしまうであろう巨大な口。
直線的なバッカーの攻撃ではヘビの口内に一直線である。
「だあああ止まれねええええ! こうなったら腹の中から蹂躙してやんぜ!」
雄叫びを上げながら突進するバッカーを、横合いから飛び込んで来たミズシゲが蹴り上げて軌道を変える。
「馬鹿なことを言ってないで、真面目にやってください」
間一髪、バクリと閉じられた巨大ヘビの口に突進することを避けられたバッカーは、蹴り上げられた方向でクルリと回ると、巨大ヘビの背に強烈な蹴りを放って着地した。
巨大ヘビがバッカーへ顔を向けると、視界の外からルクスがヘビの瞳に向かって短剣を振るう。
しかし、瞳に被さる硬質な膜でその刃は弾かれてしまった。
「うっそだろ」
ルクスが驚きに声を上げた。
「ヘビには瞼がありません。つまり、剥き出しでも大丈夫なようにできている為、弱点にならないこともあります」
ミズシゲ先生のうんちくを聞きながら、体制を崩したルクスに巨大ヘビは口を開いて顔を向ける。
「どわはっ!」
ミズシゲが慌てるルクスの襟首を掴んで放ると、巨大ヘビは口を開いたままミズシゲへと突進した。
丁度その時、『土崩』で固定されていた体の一部が自由となり、巨大ヘビの勢いは加速する。
バクリ!
ミズシゲを喰らうように閉じられた巨大ヘビの口。
だが。
ミズシゲはすり抜けたかのように、巨大ヘビの顔横で涼しげに立っていた。
「遅れたわ『土崩』!」
ウルスナが再度魔術を発動する。
今度は巨大ヘビの首元にである。
首を固定された巨大ヘビ。
それにより、巨大ヘビは頭をもがくようにして、体全体を暴れさせた。
極太の鞭のように空間を畝る巨大ヘビの体を、カインとファライヤが『土壁』の魔晶石を投げ入れその動きを押さえ込む。
そして。
全身の筋肉を強張らせ力を蓄えたゲンゴウが、長い刀を身動きの取れない巨大ヘビの首元へ全力で振り下ろした。
音の鳴らない美しいとさえ感じる一太刀。
その一刀のもとに巨大ヘビは敢え無く首を断ち切られ、暴れまわる体が徐々にその勢いをなくしていった。
程なくして巨大ヘビは絶命した。
「くっそ! またゲンゴウに美味しいところを持ってかれちまったぜ!」
「あんたミズシゲがいなかったら、ヘビに喰われてたでしょうが!」
「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれないだろう!」
「そうじゃないって何よ!」
バッカーとウルスナが言い争いを始める。
「出番がなかったわね」
「ミズシゲがフォローに回ってると、大体こんな感じだ」
「なるほど、なかなか良いパーティーじゃない」
ファライヤが楽しげに笑う。
とそこに、ミズシゲがちょこちょことやって来て言った。
「ファライヤ。毎度のことなのですが、お馬鹿とルクスがちょくちょくミスをやらかします。私が言っても直らないので、今後ミスをしたらあなたから二人に指導をしてもらえると助かります」
そう言われてファライヤは、薄っすらと目を細めニマニマと笑う。
「仕方ないわね。そう言われてしまっては、やらざるを得ないかしら」
その言葉を聞いていた二人の表情が青ざめる。
「いや、ミズシゲ! てめえはなんてこと言うんだ!」
「さすがに姉さんの手を煩わせるのもよくないぜ!」
「あら、遠慮しなくて良いのよ。ミスをしなければ良いのだから困る事でもないでしょうし」
そう言って笑うファライヤの姿に、ルクスとバッカーはガタガタと震えた。
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