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071 攻略に向けて

 カーン。


 カーン。


 カツーン。


 規則正しく金属を打ち鳴らす音が響いた。


 工房の一角を借り受け、額に汗をにじませながらつちを打ち鳴らしている男はカインである。


 カインたちが総出でファライヤに挑み、返り討ちにあってから二日後のことである。カインは鍛治に精を出していた。


 何故俺がこんなことを。


 込み上げる文句を口にしたいところではあったが、理由は既に知れている。


 スキルレベルの合計値が百に到達したカインは、EXスキル『才能』を得ることができた。それにより、スキルの熟練度が通常の何倍もの速度で上昇する今。これまで見送っていたEXスキルの取得に向かってはげむこととなったのだ。


 EXスキルはそのほとんどが、特定のスキルの組み合わせと、そのスキルのレベルを一定値まで上げることにより取得出来る。


 取り急ぎカインが目指しているのは、EXスキル『豪腕』である。ステータスの基礎値に百を加算させるこのスキルは、単純な膂力りょりょくを高めることができる為、戦闘能力を大きく上昇させることができるのだ。


 『酒豪』、『斧術』、『鍛治』。これらのスキルをレベル五まで到達させることが『豪腕』の取得条件となり、これらを日常的に扱っているドワーフという種族は、自然と『豪腕』に至る者がほとんどで、人間と比べると非常に力が強い。


 自身で鍛治を行い、振るうのも大変な斧を武器に選ぶ者も少ない為、このEXスキルを自然と取得している人間は少ないのだ。


 カインもファライヤの教育がなければ、おそらく鍛治をすることも斧を扱うことも生涯を通してなかっただろう。


 酒も浴びるほど飲んだ。二日前から腕が上がらなくなる程斧も振った。この二つが既にスキルレベル五に到達しているのであれば、今行なっている鍛治が五に上がれば、筋力が増すはずなのだ。


 徐々に重たい槌を渡されるカインの腕は、既に限界に達しようとしていた。


 早く五になれ! そう願いながらまだかまだかと槌を振るう。


 ヤケクソになりながらも、カインが槌を振り下ろしていくと終に変化が訪れた。


 カーン。


 カーン。


 ガッ!


「あっ」


「おいおい、何やってんだ! ダメになっちまったじゃねえか!」


 ガタイの良い工房の主人が声を上げる。


 見れば先ほどまでカインが叩いていた鉄が、中央から大きくくぼんでしまっていた。


 いやいや、熱した鉄とはいえここまで急激に歪むわけもない。


 カインは感触を確かめる様に手に持った槌を振ってみる。


 ブンッ、ブンッ。


 なるほど分からん。


 次いで周囲を見渡し、手頃そうな大剣が壁に立て掛けてあるのを発見すると、カインはそれを手に持ち一息に振ってみた。


 ブオンッと音を鳴らして振られた大剣は、腰の半ばまで振り下ろされてピタリと静止する。


 うむ、間違いないな。


 おそらく『豪腕』のスキル効果によるものだろう。大剣がレイピアを振った時のように軽い。


「親父。世話になった」


 『豪腕』さえ手に入れてしまえば、もうこんな所に用はない。


 カインは、別れの台詞を述べて工房を後にする。筈だった。


 ガシッと工房の主人に肩を掴まれた。


「何処へ行く?」


「いや、帰るんだが?」


「俺はあの女に鍛治の練習が終わったら、き使って良いって約束でこの場を提供しているんだが?」


「そんな話は聞いてない。文句があるならあの女とやらに直接言えば良いだろう」


「そっちの事情なんて知るか! いいから手伝え!」


 そう言ってカインを組み伏せようとした主人の手を、カインはガッと掴み返して牽制した。


 互いの手を掴み無言の力比べが始まった。


 カインの予想外に強い力に主人はうなる。


「俺はキリエ村に様子を見に行かなきゃいけないんだよ」


 カインがグググッと力を込める。


「んなこたあわかってる。だが、聖女様がいれば事足りるだろうが」


 主人もグググッと同じだけ返してくる。


「呪いの原因を突き止めなきゃなんねえんだよ!」


「お前さんには、暇そうにしてるお仲間がいただろうが! そいつらに調べさせろ!」


「あいつらはあいつらで、色々訓練してんだよ!」


「そんな事情は俺には関係ねえ!」


 力を込め合いながら、言い合いをする二人。


 その拮抗きっこうした力で意地を張り合い、二人の静かな争いはしばらく続いた。



 結局、工房の主人に解放されたのは、日が落ちた後になってしまった。


 カインが疲れ切った様子で宿に戻った時、マリアンズの面々は既に食卓を囲み夕食をとっていた。


 カインも工房の主人から預かった荷物を部屋に置き、汗を流した後に食堂へと向かう。


 他の面々に一足遅れて食事を済ませたあと、ようやく一息つくことができた。


「お疲れ様です」


 ヴィレイナがお茶をれ、カインへと差し出す。


 カインが礼を言って口を付けると、爽やかな香りが鼻を抜けていった。


「ヴィレイナ様。その様なことは私にお任せ下さい」


 ヴィレイナがカインの隣に腰をおろし、お茶を一口(すす)ったところでトリティが言った。


「いいんですよ。私がやりたくてやっていることですから」


 ハッキリと返されては、トリティもそれ以上は言えない。


「失礼しました。ですが、ヴィレイナ様は聖女なのですから、もう少し従者を使ってください」


「お願いするべきことはしていますよ。ですが、自分で出来ることを任せてばかりでは、私はいつまでも成長できなくなってしまいます」


 そう言って微笑むヴィレイナではあるが、日中は村人の為に浄化を行い、神気も残りわずかな状態であることは間違いない。そんな彼女が疲れていないわけがないのだ。


 それでも気丈に振る舞い、カインの世話を焼こうとするヴィレイナを見て。トリティはモヤモヤとした気持ちを抱きながらも、頷く他なかった。


「ヴィレイナ、すまないな。浄化をお前に任せっきりにしてしまって」


「いいえ。こう言ってはなんですが、浄化は私にしか行えませんから私がおもむけばことは足りてますよ」


「俺がお前を頼ったんだ。役に立たなくても側で立ち合うのが筋ってもんだろ」


「カインには、やらなければならないことが沢山あるじゃないですか」


 そう言い放つヴィレイナに対して、カインは思わず笑い声を漏らした。


「お前が頑固だったことを忘れていたよ」


「そうですよ。私は頑固なんです。でも、カインも負けてないと思いますけどね」


 そう言ってヴィレイナは笑顔を向け、二人は笑いあった。




「それで? 村の状況はどうなってる?」


「はい。後は軽症の方だけなので、明日一日で全員完治すると思います」


「そうか、助かる。呪いの原因については探らせてる状況だから、もうしばらくはこの街に滞在することになると思うが」


「はい。私も経過が見れてその方が安心できます」


 カインとヴィレイナがそんな話をしていた時だ。


 ミズシゲがファライヤを連れて、カインの前までやって来た。


「少し、よろしいですか」


「どうした? 珍しい組み合わせで」


 カインがファライヤへと視線を向けると、彼女は肩をすくめてみせた。どうやらファライヤも内容は聞かされていないらしい。


「実は、呪いの原因を突き止めました」


「なんだと!?」


 ミズシゲの言葉にカインたちは驚きの声を上げた。


「いえ、少々大げさな言い方をしてしまいましたね。正確には、呪いの原因となり得ている場所を見つけたというのが正しいでしょう」


 そう言ってミズシゲは、瞳を閉じたまま話し始めた。


 ミズシゲは数日前から、散歩に出掛けると言って時折姿を消していた。


 どうやらそれは、呪いにおかされていた者たちから発せられる微弱な魔力を辿り、呪いの原因を探っていたらしい。


 そして、魔力の流れが導く先で、一つのダンジョンを発見したとのことであった。


「先駆けて、浅い階層の様子を見て来ましたが、我々の戦力で十分攻略可能でしょう。別の道筋も辿りましたが巡り合わせのダンジョンでも無く、制限も掛かっていないようです。どうしますか?」


「ただの未踏のダンジョンということで良いのかしら?」


「ええ。人が足を踏み入れた形跡はありませんでしたし、ギルドの情報にも上がっていなかったので間違いないでしょう」


 ダンジョンには三つのタイプが存在している。

 一つは、極々一般的なダンジョン。このタイプは常にそこに在り、いつ何時でも人を受け入れる。


 もう一つが、制限型ダンジョン。このタイプは、様々なものが制限される。魔力の使用が制限されたり、物理攻撃が無効になったり、出現する期間が限定されたりとまちまちだ。


 カインたちが攻略した天秤の塔も、出現場所と期間が定まっていない制限型ダンジョンに当たる。


 そして最後が巡り合わせと呼ばれるタイプである。このタイプのダンジョンは、別段制限が掛かっているわけではない。しかし、定まった道筋や定まった条件を満たさなくては、決して辿り着くことができないのだ。


 ミズシゲはダンジョンを発見したのち、数日の時を掛けてこれらのタイプと内部の状況を確認していたようである。


「呪いの原因がその場に有るとするならば、攻略は必須ね」


「はい。なので、ファライヤのお力を借りるのが適切かと思い意見を聞きたいのです」


「と言うと?」


「時間を掛けて攻略に乗り出すので有れば、天秤の塔の攻略組でも問題はないでしょう。ですが、資金が不足しているという事情や訓練の経過、呪いへの影響をかんがみるに、高戦力で一息に攻略するのが良いと私は考えました」


「そうね。あまり時間をかけない方が良いかもしれないわね。私は賛成よ」


「……問題は呪いに対する影響か」


 カインがそう呟いた。


「原因がそのダンジョンにあるというのであれば、我々が呪いに侵される可能性もあるでしょう」


「なら、私が同行すれば良いのでは?」


「それは賛成しかねます。ヴィレイナにはまだ早いと思いますよ」


「私が付いてあげるからそこは問題ないのだけれど、急ぐとなると少し危険ね」


「ヴィレイナには村の人たちを浄化する仕事がある。神気が回復するまでに時間も掛かるだろうし、今回は連れて回れないだろうな」


「呪い対策はどうしますか?」


「魔力を切らさないことで何とかしよう。確かキリエ村の連中が掛かっている呪いは、魔力が切れた部分を石化させる呪いだったな? 同じものなら、魔力さえ切らさなければ余程のことにはならないだろう」


 カインの言葉に、ファライヤとミズシゲは納得する。ヴィレイナは少々不満そうではあったが、与えられた役割を放棄するつもりもなく、カインの言葉にしっかりと頷いた。


「明日準備を行って、一度潜ろう。行けそうならそのまま最深部まで向かう。ヤバそうなら無理せず撤退。メンバーは、俺、ファライヤ、ミズシゲ、ゲンゴウ、バッカー、ウルスナ、ルクスで行く」


 カインの決定に三人は、静かに頷いた。

読んで頂きありがとう御座います。

眠すぎてやっつけになってしまったかもしれない。

いや、いつもやっつけだった気もしなくもない。

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