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061 金がないなら龍を狩ればいい

「まあ訓練の話は、実地を兼ねて教えていくとしてだ。今後の方針だが……」


「えー。キリエ村に行くんじゃないの?」


 カインの言葉の途中で、マリアンが声を上げた。


「そうだが、呪いを解くにはヴィレイナに頑張って貰うしかないし、その後のことも決めておかなくちゃいけないんだよ」


「具体的には何かあるのかしら?」


 とファライヤ。


「先ず意見を募りたいんだが、ぶっちゃけ金がない。資金集めの方法について何か案がないか?」


「我々エラー教に申し付けて頂ければ、ご用意いたしますが?」


「ミ、ミリアム教もです。ご入用なだけご用意する準備はあります!」


 リンドーとトリティがすかさず答える。


「有難い話だが、そればかりに頼りたくない。当面は当てにさせてもらうが、自分たちでも収益を得なければ後々(のちのち)首を絞める事になりかねない」


「ていうか、荒事以外で稼ぐ方法なんてあったら、私ら冒険者なんてやってないと思うんだけど?」


 そう言ったのはウルスナだ。


「確かにその通りかもしれんが、今後の訓練によって人並み外れた技術が手に入ると仮定して欲しい」


 そう言って、カインは一同の顔を見回した。あまり意見もないのか、目をそらしたり肩をすくめて見せたりしている。


 やはり、自分の考えを提案するしかないか。カインがそう思っているとミズシゲが手を上げた。


「その前提ならば、冒険者らしく狩りを行えば良いのではないですか」


 暝目めいもくしたままミズシゲが言った。


「何を狩るつもりだ?」


 ミズシゲは顎に手を添えてふむ、と考え込む。


「……そうですね。当初の目的通り、災害指定でも狩れば良いのでは? 大型ですし、素材も希少ですから余すところなくさばけるでしょう」


 ミズシゲの発言にガタンッと音を立ててウルスナが立ち上がった。


「あ、あんた! 馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! 狩るどころかこっちが狩られて終わりでしょうが!」


 ウルスナの発言には、ルクス、リンドー、トリティの三名がうんうんと頷き賛同の意を示す。


 あれ? 意外と少なくない?

 周りの反応を見てウルスナはそう思った。


 元々マリアンズのメンバーであった、アーマード、ファライヤ、ミーア、ジェド、そしてカインを含む五名は難しい顔をしつつもその意見を直ぐに否定しようとしない。


 マリアンは興味深そうに聞いているだけで、ゲンゴウはミズシゲの発言に反論があれば既に口にしているだろう。馬鹿は馬鹿なので参考にならない。

 ヴィレイナに関しては戦闘経験が無い為、どれほど困難なことか理解が追い付いていないのだと思われた。


「ウルスナ。直ぐにというわけではありませんよ。カインは人並み外れた技術が手に入る前提だと言っています。私はそれを、この場にいる全員が闘千や英雄ほどの実力を有したと仮定し、意見しているのです」


「……た、確かに、全員がそれだけの実力者だったらそれも可能かもしれないわね。元はカインが最強のギフトを手に入れてやるつもりでもあったわけだし。というか、真面目な顔して考え込んでるあんたらは、出来るとでも思ってるわけ?」


 ウルスナが自分の発言に賛同しなかった者たちへ、ジト目を向けながら言った。


「え? 今は無理だと思いますが、いずれはいけるんじゃないですか? ファライヤさんも居ますし」


 とミーア。


「……ああ。真髄しんずいに届けば可能だろう。なにせファライヤがいる」


 そうジェドが言い。


「……うむ」


 とアーマードは頷いた。


「まあ、そうだな。ファライヤを当てにしたくはないが、やれそうな気がするから恐ろしいな」


 カインまでもがそんな事を言い始め、予想外の返答にウルスナは絶句した。


 この連中は何を思ってそんな事が言えるのだろうか?


 災害指定というのは、文字通り災害に指定された魔物の事を指し示す。


 現存する英雄や闘千をってしても、討伐困難と判断され放置されている強力な魔物の事だ。


 その魔物を討伐するという事はすなわち、国に匹敵する戦力を有することに等しい。


 カインたちの言う魔法の技術(しか)り、大英雄の強さの秘密が有れば、それすらも可能だと言うのだろうか?


 そして何より、各人にそう思わせる程の実力をこのファライヤという女性は持ち合わせていると言うのか。


 ウルスナは困惑したまま、再び口を開く。


「ファ、ファライヤ……さんは、何者なのよ?」


「別に、何者というほどの者ではないのだけれど」


 ファライヤはいつものニマ顔をせずに、何やら考え事をしていたのか、ふざけた様子もなく答えた。


 そんなわけあるか! とウルスナは思った。


 魔術士とはいえ、ウルスナもAクラスの冒険者だ。いや、魔術士だからこそわかるのかもしれない。


 ファライヤから漏れ出る、禍々(まがまが)しい気配。そこに見え隠れする濃密で桁外れの魔力量に。


 尚もツッコミを入れたかったウルスナであったが、ファライヤの魔力にあてられ、それ以上追求する勇気が湧かず押し黙った。


 ファライヤはそんなウルスナを尻目に、ミズシゲへと視線を向けた。


「ミズシゲ。あなた中々良い事を言うわね」


 ファライヤがいつものニマついた顔をすると、カインたち一同はなんだか嫌な予感がして眉をしかめた。


「災害指定は流石に早いけれど、龍種を狩りに行きましょうか。訓練にもなって丁度良さそうだし、素材を売れば資金集めにもなるわ」


「手頃な場所を何処かご存知なのですか?」


「そうね。テンペストに向かうのが良いと思ってるわ」


「テンペストの龍種は大分上へ登らないと出会えないと聞きますよ? 圧縮の魔術を用いたとしても、獲物を運ぶのが手間ではありませんか?」


「それなら問題ないわ。テンペストには未踏のダンジョンがあるもの。その中の浅い階層に居たわ。うじゃうじゃと」


「お前っ! 中に入ってたのか!?」


 カインが突然大声を上げた。


 テンペストというのは、セト王国にある天を突く山々が連なる山岳地帯を指す。


 そして、その未踏のダンジョンとは、カインが初めてファライヤと出会った時に、情報交換で教えられた場所のことだろう。


 カインも一応、冒険者ギルドに情報が上がって来ないか確認してはいたのだが、今のところ情報が知れ渡っている様子はなかった。


 だが、ファライヤの言葉を聞いてそれはそうなるだろうと思った。


 龍種は魔物の中でも極めて高い討伐難易度を誇る。


 Aクラス程度の冒険者では、ソロはおろかパーティーを組んでも狩ることが難しいほどに。


 そんな龍種が(うごめ)くダンジョンなど、見つけたとしても容易に攻略出来るものではない。


 ただ、攻略出来ないからと言って、ファライヤのように、未踏のダンジョンの情報を軽々しく教える(やから)も少ないだろう。


 というか、そんな危険なダンジョンに誘っていたのかと、カインは改めてファライヤの性格の悪さを痛感した。


「お前はそんな場所へ俺を誘い込もうとしていたのか!」


「そうだけれど、何か問題でもあったかしら? あの時点ではギフト持ちと一緒ならなんとかなりそうと思っただけよ」


 そうであった。


 性格の良し悪し以前に、ファライヤはカインのギフトに興味があって近付いてきたのであった。


 実際にはカインの持つギフトなど戦闘で役に立つモノではない為、あの時点で龍種の巣喰うダンジョンなど、攻略出来る筈もなかったのだが。


 カインは反論できず、うぬぅと(うめ)き声を上げて押し黙った。


「あの。龍種を相手にするとなると、私では力になれないと思いますが」


 ヴィレイナが手を上げて発言した。


「あら? そんな事はないわ。真面目に頑張っていれば、いずれは一人でも倒せるようになるでしょうね」


「ちょちょっ! 龍種をソロ討伐する聖女なんて聞いた事ないわよ!」


「あら。それもそうね。良かったわねヴィレイナ。あなたが龍よりも強い聖女第一号になれるわ」


「……そ、そうですか。頑張ります!」


 両拳を握りしめて、ファライヤの言を疑うことなく聞き入れ気合いを入れるヴィレイナ。


 その様子を見て、ファライヤから優し気な笑みが漏れた。


 ファライヤは最初、ヴィレイナの事をあまり好いてはいなかったように思えた。


 ヴィレイナは自身の思い込みで、カインに理不尽な行為を働いたこともあり、その時の行為がファライヤの琴線(きんせん)に触れたのだろう。


 しかし、カインに救われてからのヴィレイナは、ただひたすらにひたむきだった。


 カインたちでさえ嫌な顔をする訓練を率先してこなし、文句の一つも述べない。どんなに疲弊していても、ファライヤがやれと言えば身体に鞭を打ってでもこなそうとした。


 そんな彼女の姿勢はファライヤにも響いたのだろう。

 次第にヴィレイナへ対しての態度が柔らかくなり、今では愛弟子のように可愛がっている節も見受けられる。


 まあ、ファライヤに好かれると言う事は、必ずしも良いことであるわけではないが……。


「つか、良いのかよ! テンペストはセト王国内だぞ!」


 ルクスが声を上げた。


「何か問題でも?」


「いや、だからよ。間諜(かんちょう)の俺がさっき言っただろ! セト王国はマリアンちゃんを狙ってんだよ。俺が折角教えてやってるのに、わざわざ敵地に飛び込むとかどうなんだよ!」


「あなたはバレて自白しただけでしょう? 自分から情報を提供したようにすり替えないで頂戴」


「なっ! あ、いや、そうなんだが。なんか俺に冷たくねえか?」


「当然よ。カインが寛容でなければ今頃(ひね)り殺しているわ」


 ファライヤに蛇のような視線を向けられ、ルクスは睨まれたカエルのように小さくなった。


「……はい……その……すみませんでした」


「そのくらいで勘弁してやれ。それにルクスの言ってる事も(もっと)もだ。意見を聞いておいてなんだが、キリエ村の浄化が終わるまでにどうするか考えておく事にする」


「他にも何か方法があったのかしら?」


「まあ、そうだな。興行や商売でもしようかと考えていたが、ファライヤの言う通り龍種が狩れるのであれば、その方が訓練にもなりそうだし、実入りも良さそうだと思っただけだ」


「興行?」


「ああ、審査会でのマリアンが予想以上に良かったからな。エラー教やミリアム教も協力的だし、不本意ではあるが知名度も上がって来てしまった。それならいっそ、マリアンを全面に押し出しても良いかと思っただけだ」


「歌でも歌わせるのかしら?」


「さあな。細かくは決めてないな。何をやらせても、上手くいきそうな気はする」


「えー。なんか面倒くさそうなんですけど」


「お前も少しは働け!」


「だからわたしはニートなんだってば! 働いたら負けなの」


「都合のいい時だけ、エラー教徒になるんじゃねえ」


 マリアンが口を(とが)らせて、カインに抗議した。


「マリアンちゃんのアイドル活動か……」


 バッカーが(おもむ)ろにそう発言した。


 その言葉に、アーマード、ウルスナ、リンドーはピクリと反応する。


「……ありだな」


「……ありね」


「……ありですな」


 三者三様ではあるが、それぞれが妄想を膨らませだらしない顔を見せる。


「あの、カインさん。出来れば竜種を狩りましょう。なんだか、三人の顔が気持ち悪いです」


「ミーア。俺も今そう思っていたところだ。興行の話は聞かなかったことにしてくれ」


 ミーアに毒を吐かれ、カインにバッサリ切り捨てられ、三人は驚愕の表情で口をパクパクさせるのだった。


 そんな会話を繰り返し、横道に()れながらも何とか話は(まと)まりをみせ、最終的にはカインの決断に委ねられることとなった。


 そして、その翌日の朝。一先ずは呪いを解決する為、一行はキリエ村へと移動を開始した。

読んで頂きありがとう御座います。

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