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052 強者の思惑

 草葉の陰に這う様な姿勢でファライヤは身を潜めていた。


 目視だけではなく、自身から発せられる魔力を糸のように絞り、探るように伸ばして周囲の様子を伺う。


 ファライヤの行なっている技術は、魔力を直接操る魔法の技術を用いたものであった。


 魔力を伸ばして、そこに触れたモノを直接感じ取る探知の技術。これにより、ファライヤは目で見ること以上の情報を得ることが出来る。


 自分の付近であれば、幾重にも伸ばした探知の糸に掛かり易い為に精度も上がるが、遠方になると伸ばせる探知の糸の数が減る為にその精度が下がる。


 追跡中の相手を探るのに時間を要したのは相手との距離も有ったが、何よりも数の少ない探知の糸に中々相手が掛からなかったという理由があった。


 それでも、数キロ先を移動している相手の情報を正確に把握するなど、並の人間では到底出来ることではないのだが。


 そして、ファライヤは自身の目に魔力の膜を張ることにより、その魔力の動きを目視することができる。


 今現在、視線の先にある一団。その一団の中からファライヤの放つ探知の糸と同様のものが、周囲を警戒するように伸びていた。


 ファライヤの潜む位置までは到底届かないが、それなりの範囲に渡って伸びている。

 その事実に、ファライヤは僅かに眉を顰めた。


 精度の高い魔力操作。そして、魔法の技術に触れなくてはこの探知方法には至れない。

 相当な手練れがいるのか?

 そう警戒の色を強めたファライヤであったが、直ぐにその考えを改めた。


 一団の周囲を覆う探知の糸が、規則的な動きをしていたからだ。

 この動きは人為的な技術ではない。


 探知の糸はその技術が向上すればするほど、滑らかで不規則な動きを見せる。

 未熟な者であれば、ぎこちない動きになる為、同じ場所をなぞるような一定の動きは出来ない筈だ。


 であれば、この動きはなんなのか。


 その答えは、恐らくアーティファクトによるモノだと推測出来る。


 探知のアーティファクト。


 装備者の位置を探る為に重宝される物だが、魔力の扱いに長けた者であれば、周囲を探知することもできる。


 相手の一団の中にその装備者がいるだけで、この探知の糸は技術を用いたものではない。

 ファライヤはそう結論付けた。そして考える。


 探知の糸を扱える者がいるのでなければ、連中を一掃するのに自分の力は必要ないだろう。


 カインやミーアには、最低限の技術は叩き込んだ。本人たちは気が付いてないかもしれないが、そのステータス量は一般のそれよりも格段に高くなっている筈である。


 それでも、外にいる連中は七人。加えて、冒険者でいうところのBクラスやAクラスの実力者たちが揃っている。


 最悪、死んでしまうかもしれない。


 だが、それも良いだろう。


 そう考えて、ファライヤは口元を緩める。


 自分に恐れをなすことなく突っかかることの出来るカインの存在は少し惜しいが、この程度の戦闘で命を落としてしまうのであれば仕方がない。


 この先、数多の強敵を打ち倒し、自身の超えられなかった領域へと至らせる為には、ここで甘い顔は出来ないからだ。


 死線を越えた先に見える技術や経験。それが人を強くする。叩き込める技術には限界がある。その技術をも上回るのは、最終的には死に際の技術であり、経験であり、そして心なのだ。


 カインは既に持っている。人並みならぬ心の強さを。ならば、あとは経験を積み、技を鍛え、技術を磨く。それが叶うのであれば、きっと至るだろう。大英雄と同じ土俵に。


 だからこそ、期待させる。だからこそ、厳しく当たろうと思わせる。


 強くなり過ぎた自分の心を、震わせる男にする為に。


 ファライヤの瞳が怪しく光る。


 そして、焚き火を囲う男たちとは別に、馬車の中から出てこない人物を探る。


 相手は二人。

 外の連中とは明らかに違う空気を纏っている。


 この二人が『バン・ドルイド』のメンバーなのだろう。

 その傍らにある神気の気配。


 ファライヤはスッと目を細める。


 外の連中と馬車の中の二人。それら全員を相手にすることは、今の二人では厳しいだろう。


 なら、予定通り自分は神子の妹を確保し、余計な二人を排除する。それできっとこの戦のバランスは保たれる。


 そう思い、ファライヤは自身がなすことを決めた。




 ファライヤが身を潜めて暫くすると、カインたちが『水霧』を張って動き出した。


 そちらに意識を向けるも、馬車の周囲から離れない男たち。だが、


「馬鹿が! 相手は二人だ! 霧はただの囮だ、無駄打ちしてんじゃねえ!」


 探知のアーティファクトを装備しているであろう男の声を聞いて、馬車を囲うように警戒していた男たちも、カインたちの方へと駆けて行ってしまった。


 男の探知能力を信頼しているのだろうが、それは少し考えが甘い。


 男たちが、その場を離れるとファライヤは直ぐに闇に紛れて地を駆けた。


 探知の範囲に突入しても、探知の糸を目視で見極め躱していく。故に、相手はファライヤの存在には一向に気が付かない。


 そして、ある程度距離が詰まったところでファライヤは大きく跳躍した。


 夜空に浮かぶ二つの月に、影が射すほどの高さ。その高さから一直線に馬車の中へと突入する。


 天井を突き破り、豪快な音を立てて着地するファライヤに、中に居た二人。それと、布で口元を覆われ、手足を鎖で拘束されたユミナは、驚きの表情を浮かべた。


 ファライヤはチラリとユミナの様子を確認すると、壁に繋がれた鎖を腕力で強引に引き抜き、ユミナを抱き上げて穴の空いた天井から外へと脱出した。


 そのまま取り逃がしてしまいそうになるほど、大胆で鮮やかな略奪。


 だが、男たち二人の反応も早かった。


 一人が直ぐ馬車の壁を蹴り破って外へと向かい、もう一人が腰から何かを取り外し投げるように穴の空いた天井へと放った。


 天高く跳躍するファライヤ。


 その足首に何かが絡み付く感触がした。


 グッと引き寄せられユミナを庇うように地に着地すると、ファライヤの前後には既に男たちの姿があった。


「なかなか大胆なことをすると思ったら、ご同業者じゃねえか」


 男の一人が言うと、ファライヤは薄っすらと目を細める。


「違うわ。あなたたちと違って、私には美学があるもの。同じにしないでもらえる? ジーサス」


「モノは言いようだな。罪の無い連中を何人も殺しておいて、美学とは恐れいったぜ首切りの悪魔」


「私に向かって刃を振るった時点で、罪しかないのよ。それは、元Aクラス冒険者パーティー、『千年華』も同じよ」


 そう言われて、ジーサスは憎しみに顔を歪めた。


「お前さえ居なければ、俺たちは順調に功績を伸ばせた! 仲間の仇を取らせてもらうぞ!」


「犯罪組織に身をやつしておいて、今更仲間? ちょっと笑わせないでちょうだい」


「……てめぇ。その余裕の面を直ぐに歪ませてやる。あの時の俺と同じだと思うなよ」


「三流の台詞ね。というか、折角見逃してあげたのだから、もう少し私の事を広めてくれれば良かったのに……。使えない男ね」


「この気狂いが! ルイ! 油断するなよ。この女は強い。全力でやるぞ」


 その合図で二人が動き出した。


 ジーサスが手にした武器を振るうと、鞭のようにしなりながらファライヤを襲う。


 刃は取り付けられていないが、殴打されればそれなりの負傷はするだろう。

 何より不規則な軌道を描くそれを、受けるのは難しい。


 同時に、ルイと呼ばれた男も同様の武器を用いていた。ただ、ジーサスの扱うそれとは僅かに異なり、その先端と腹には等間隔に刃が取り付けられている。


 相手もユミナを必要としている為か、魔晶石による範囲攻撃は行ってこない。


 しかし、前後から不規則に絡み付く攻撃を、受けきるのは不可能である。


 そう。それが常人であれば。


 ファライヤは前後に目でも付いているかのように、最小限の動きをもって、その攻撃を躱していく。


 腕の中でユミナが悲鳴を上げるが、口元を覆われており声にはならなかった。


 自分たちの攻撃が通用しないと判断したのか、ジーサスは空いている左手でもう一つ同じ武器を取り出した。ルイもジーサスの動きに合わせるように、二つの武器を手にするとそれを振るった。


 計四本になる武器が、唸りを上げて前後左右からファライヤを襲う。両腕にユミナを抱えたままでは、さすがのファライヤでも躱し切るのは難しいのか、その頰に僅かな傷を残した。


 そして、しなる武器の一つが、遂にファライヤの片足を絡め捕った。


 大きくバランスを崩したファライヤを見て、ニヤリと笑みをこぼすジーサス。


 その両腕に力が込められる。


 宙吊りにするようにファライヤの体を引き上げ、無防備なそこへ三本の武器が殺到する。


 やったか!


 そう思えるほどの一撃。だが、現実は甘くない。


 彼らが相手にしているのは、あの、ファライヤなのだから。


 その事を彼らはまだ理解しきれていなかった。


 ファライヤは腕に抱えたユミナを器用に上空へと放る。え? とユミナが思った時は既にユミナは天高く舞い上がっていた。


「―――!? んーーー!!!」


 今まで見たこともない景色に、ユミナが声のない悲鳴を上げた。


 しかし、そんなユミナをファライヤは気にする事なく腰の短刀を抜き放つと、宙吊りの状態で全ての攻撃を打ち返した。


 相手を捉えたと思った瞬間、打ち返される攻撃に二人は目を剥く。


 慌てて回避行動を取って警戒するが、追撃はない。

 見れば、華麗な着地を見せたファライヤが、空から降ってくるユミナを受け止め、地に放り投げるところであった。


 再び声のない悲鳴を上げるユミナ。

 だが、ファライヤは相変わらず、ユミナの様子を気に留める事なく、二人へと視線を向ける。


 恐ろしいまでの身体能力を見せつけるファライヤに対して、二人は息を飲んだ。


 ユミナを庇うように悠然と佇むその姿に、ジーサスはギリッと歯ぎしりをする。


 強い。だが、闘える。『千年華』のリーダーとして数年前に挑んだ時は、手も足も出なかった。それが、今では少女を抱えながらとは言え、その圧倒的な動きを抑え込むことができているのだ。


 自分と同様の実力を持つルイがいれば、勝つ事も可能だ。


 そう考え、ジーサスは再び武器を振るった。


 その攻撃に合わせて、ルイも再び武器を振るう。


 蛇のように唸る武器がファライヤに殺到すると、ファライヤはユミナを背にその場から動く事なくそれらの攻撃を弾き返す。


 相変わらず自分たちの攻撃は通用しない。しかし、ジーサスは思う。


 少女を庇っている以上、相手は反撃ができないのだと。そして、この状態が続けば自分たちが有利だと。


 ジーサスの油断ないその表情に、ニヤリと笑みが浮かんだ。

読んで頂きありがとう御座います。

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