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045 攫われた少女の行方

 館の廊下をカインは足早に進んだ。

 その後ろには追従するように、ニマニマと笑みを溢すファライヤ。そして、目を赤く泣き腫らしたままのヴィレイナの姿があった。


 状況の確認を取る為に、カインは速度を緩めずヴィレイナへと言葉を向けた。


「ヴィレイナ。トーレス伯爵が何故ユミナを攫ったと思っている? 俺の情報ではトーレス伯爵は、神気を扱える者を目的としているように思えたが?」


 カインに問われ、ヴィレイナは躊躇いがちに言葉を選ぶ。


「……その、今までも未遂のようなことがあって」


 ヴィレイナは、ユミナが神気を扱えること、その事実をトーレス伯爵が知ってしまった出来事。そして、その日を境にユミナを攫おうとする動きが幾度となくあったことを包み隠さず話した。


「なるほど。なら主犯として動いたのはその男で間違いないだろうな」


「主犯として、というのは?」


 ヴィレイナの問いに、今度はカインが今までの出来事を語った。

 マリアンの主人が自分であること。エラー教がマリアンを取り込みたいと思っていること。その為にカインの存在が邪魔だと思っていることを簡潔に話した。


「今回はトーレス伯爵とエラー教の目的が一致したのだろう。俺を犯罪者に仕立て上げ、神気を持つユミナを手に入れる。……すまなかったな。俺たちが街にやって来た所為でお前たちを巻き込んでしまった」


「そんな! そんなことはありません。何れはトーレス伯爵も動きをみせたと思います。事が起きたのがこの機会でなければ、私は既に絶望していました」


 カインの謝罪に、逆にヴィレイナの方が申し訳なさそうな態度をとる。


「そうか。なら、そのことについて考えるのはやめよう。どの道、現状は起きてしまったことをなんとかするしかない」


 カインがそう言うと、ヴィレイナは力強く頷いた。

 未だに泣いた後が残るその瞳であったが、ヴィレイナの瞳にはもう、不安や迷いの色は一切見えなかった。


「ヴィレイナ。馬車と馬を教会から用意できるか?」


「はい。私の権限内でも一台。それとは別に馬も二頭までなら手続きなく用意できます」


「なら直ぐに準備してくれ。御者は俺がやるから必要ない。ファライヤ、馬は扱えるか?」


「ええ。問題ないわ。けれど、どうするつもりなのかしら?」


「ユミナを攫った連中を追う」


「どうやって? 当てはあるのかしら?」


「ある! だが、お前の力が必要だ。手を貸して貰うぞ」


 ハッキリと言葉にされ、何が嬉しいのかファライヤはクスクスと笑みを漏らした。



 カインの囚われていた館は、聖騎士たちが拠点としている場所であった。

 教会との距離はそれほど離れていない。


 直ぐに教会へと辿り着き、ヴィレイナの手引きにより馬車と馬を手に入れたカインたちは、マリアンたちと合流する為に動いた。


 その際ファライヤには指示を出し、カインは馬車と馬を二頭扱いながらヴィレイナと共に宿へと向かった。



 カインたちが宿へと到着するとジェドが出迎えた。


「ルクスという冒険者が客として来ている」


 ジェドが簡潔に述べると、カインは眉を顰めた。


 ルクスは天秤の塔を攻略する際にカインが契約した冒険者の一人だ。

 元々ボルドの街で落ち合う予定だったのだが、諸々の事情により集合場所で落ち合うことが出来なかった。冒険者ギルドのラインで連絡は取れていたのだが、まさかわざわざベンズマスト領まで追いかけて来るとは思わなかった。


 ラインでは、ペルシアで待っていろと伝えたはずだったのだが……。


 馬車と馬の管理をジェドに任せ、カインとヴィレイナはジェドから聞いた個室へと向かった。


 扉を開くとマリアン一同の姿が揃っていた。そして、カインの姿を最初に目に留めたルクスが、席を立ってカインに詰め寄って来た。


「おー。カイン。久し振りだなー。犯罪を犯して捕まってるって聞いてたが、大丈夫だったのか? なんならそのまま処刑されちまえば良かったのにな」


 短く切り揃えられた薄い色の金髪。壮年の顔付きと、頰には歴戦を思わせる傷跡がある。


 ルクスは口悪く罵りながら、カインの肩を叩いた。


「そんなことになったら、謝礼を払えなくなるからお前も困るだろう」


 カインも応えるように軽く肩を叩くと、二人は久方振りの再会に軽口を交わした。


「だいたいな。待ち合わせ場所をコロコロ変えやがって、最初の取り決めを守る気があるのかてめえは!」


「それについては謝るが、こっちにも事情があったんだ」


「かあ、知らねえ間に美少女連れ歩いて事情があっただ? 死んでしまえ今すぐ!」


 ルクスが文句を言いたい気持ちは分かるが、今は話し込んでいる時間はない。カインはすまんと言ってルクスを無視すると、マリアンの下へと向かう。


「おい! てめえ無視すんな!」


「悪いがルクス。今はお前にゆっくりと謝罪している時間はない」


 カインが真剣な表情で言うと、流石のルクスも切迫した状況だということを察したのか、顔を顰めながらも引いてくれた。


「マリアン。状況の説明を」


「先日知り合った大店の商人と仲良くなりました。浄化の魔術を使用できる人を紹介して貰えることになりました。審査会で女神に選ばれたマリアンちゃんは大人気です。以上です!」


 ビシッと敬礼しながらマリアンが答えた。

 とそこで、カインの後ろで申し訳なさそうに立っているヴィレイナの姿を見つける。


「えー。結局説得できちゃったかんじ?」


「いや。そうじゃない。ヴィレイナの妹を助ける為に行動することになった。時間がない。直ぐに移動するから準備をしろ」


 カインの言葉にいつになく真剣な顔をした一同が、コクリと頷くと一斉に宿を引き払う準備を始めた。


「俺も付いていくからな! 文句ねえよな!」


「当たり前だ。寧ろお前も手伝え」


「ああ!? 何様だてめえは! 追加料金はちゃんと払えよクソやろうが」


 汚い言葉を発しながらもルクスは、了承してくれるのだった。



 一行はその日の内にゲネードを出立した。

 カインが御者を務め、ファライヤとジェドが馬を並走させペリッドの街へと向かう。


「ねえ。なんでペリッドに向かってるの」


 御者台でカインの隣に腰掛けたマリアンが言葉を発した。


「そうだぜ。つーか、状況をいい加減説明しろ。あと、なんでてめーは美少女二人に挟まれてんだよ。今すぐ代われ! 俺と」


 荷台から顔を突き出してルクスが言った。

 カインの左隣りにマリアン。右隣りにヴィレイナが寄り添い、街の男どもから反感をくらいそうな配置であった。


「道すがら状況の確認もしたかったからだ。他意はない」


 チッと舌打ちをしたルクスを無視して、カインは今までの状況を説明する。ユミナが攫われたこと。恐らくはエラー教の策略でカインが捉えられたこと。そして、攫われたユミナを助け出そうとしていることである。


 話を聞こうと、荷台からアーマードとミーアも顔を出し、とてつもなく暑苦しい状況にはなっていた。


「それで? なんでペリッドに向かうことになるの」


「ユミナを攫った連中はペリッドに向かったからだ」


「なんでそんなことがわかるの? どうやって攫われたかもわからないんでしょう?」


「それはそんなに重要なことじゃない。大事なのは今何処にいるかだ」


「それがわかったら苦労しないと思うけど」


「普通はわからないだろうな。だが絞り込める状況が揃っている」


「えー。ちっともわからないけど」


 カインは順を追って一同に説明をした。

 

 まず、今回攫われたユミナは脅迫の材料として使われていない。つまり、ヴィレイナではなくユミナ本人を必要として行われた犯行であると思われた。

 ヴィレイナから聞いた話の内容でその確信は十分にとれる。


 神気を扱うことのできるユミナ。そのユミナの力を知り得てしまった貴族。そして、その後に起きた誘拐未遂事件。それだけの情報があれば、ユミナを欲して攫ったと考えることは、決して間違いではないだろう。


 脅迫の材料として扱わないのであれば、ゲネードの街中でいつまでも隠しておく必要はほぼなくなる。

 早々にユミナを知る人物がいない別の場所へと連れ去るのが妥当である。


 そうなると重要になってくるのが、いつどのようにして街を出たのかということになってくる。


 街は出入りを確認する為の検閲がある。

 通常、それなりに厳しく取り締まってはいるものの、袖の下を通せば融通も効く。

 そう考えれば、街を出ること自体は容易に行えるだろう。


 転移魔術を使用するという方法もなくはない。しかし、転移魔術には欠陥がある。生き物を必ず無事な状態で送れるとは限らないのだ。

 確実に転移を成功させる為には、貴重なアーティファクトである転移球を使用しなくてはならない。

 これは、国に厳しく管理されている物であり、容易に使用できるものではない。個人的な犯罪に利用されるとは考えにくいのだ。


 であるならば、ユミナは馬車などの乗り物に乗せられて、普通に街を出た可能性が一番高い。

 袖の下を渡したのであれば、検閲した兵士を問いただせば、そういった輩がいたかどうかの確認も取れる。


 だが、そんなことをするよりも簡単な方法がある。

 幻光巡りの一団が街を離れた時だ。この時ばかりは出入りが通常の何倍も増える為、検閲が行われなくなる。

 それに乗じて街を出ることが現状では一番目立ちにくい。


 犯行を幻光巡りに合わせて行ってきたことから、犯人もそれを見越していたのだろう。


 ゲネードを出たあと、犯人が向かった先は何処か?

 ペリッドの街へ祭りの一団と一緒に向かうのが普通だろう。一団に追従して馬車を走らせる商隊は多い。逆に言えば、一団と一緒にペリッドへ向かわない者はそれだけで目立つ。


 事実カインは街を出る際、門兵に銀貨を掴ませ祭りの一団と共に街を出た者たちの中で、ペリッドへ向かわなかった者がいたかを尋ねている。

 門兵の答えはいないであった。


 そして、教会を後にする際、ファライヤに反対側の門へ確認に行かせ、出立する時間いっぱいまでゲネードに潜伏している怪しい連中が居ないかを確認して貰った。

 確実とまではいかないが、ファライヤの探索能力は戦闘能力同様に人並外れている。


 囚われていたカインをあっさりと探し当てることが出来たことから、信用しても問題はないだろう。

 結果、街中で不審な者は見当たらず、カインは誘拐犯が既に街を出ている前提で予想ができるのだった。


 誘拐犯たちがペリッドへ向かったとなると、しばらくはペリッドに居座ることが予想される。

 ゲネードを離れ、その後も祭りの一団と行動を共にする理由はないからだ。


 誘拐犯たちは、追手が来る可能性も考慮して動いているはずである。

 祭りの一団といつまでも行動を共にしていては、目的地にも辿り着けないだろうし、追手があった場合、探し出す為の一つの根拠となってしまうからだ。


 祭りの一団と同時期に行動してしまうとペリッドの街でその行動が目立ってしまう。

 ならば、一団が街を発ったのち、しばしの間を置いてから街を出ることを考えるだろう。


 その後に何処へ向かうのかはわからない。

 しかし、その状況を考えるならば、ペリッドの門兵に検閲の履歴をみせて貰えば予測できる。

 ペリッドへ入街する際は祭りの一団と同時期になるわけだから、入街の履歴がなく、出街の履歴のみが残っている者。

 これがユミナを攫った犯人たちである可能性が高い。


 カインが予測できるのはここまでである。


 故に、これ以上の行動を許してしまうと、その先の行方が予測できなくなってしまう。


 幻光巡りの一団が街を立ったのが二日前。

 そして、ゲネードからペリッドまでは約二日間の行程である。

 カインたちが出立した日の夜半からは前夜祭が開始し、翌日に本祭が行われる。そしてその翌日の朝には一団は次の街へと発って行くだろう。


 つまり、現状でも幻光巡りの一団が出立する当日にはペリッドの街に到着できる計算である。


 これならば、ユミナを攫った連中に十分に追い付ける。


 それが、カインが推察して出した答えだった。


 カインの説明にマリアンがふんふんと頷いた。

 しかし、直ぐに口元に指を添えてなにやら思案すると言った。


「それってあくまでもカインの予想でしょう? もし間違ってたらどうするの?」


「問題ない。どの道トーレス伯爵を潰さなくてはこの話は終わらない」


「つまり、貴族にも喧嘩を売るってことね!」


 なにやら楽しそうに話すマリアンに呆れ顔を向けつつも、間違ったことを言っているわけではないので、カインは「そうだ」と答えて視線を前方へと向けた。


 日は傾き、間もなく夜が訪れる。


 差し込む夕日を映し出すその瞳は、強い意思が宿っていた。

読んで頂きましてありがとう御座いました。

昨晩は普段より多くの方に目を通して頂けたようで、感謝感激です。

感想なんかを頂けちゃったりすると、作者は泣いて喜びます。

批判でもダメ出しでも、何でも構いません。

拙い内容であることは理解してますので、罵ってくれても全然だいじょぶ問題無です。

容赦なくどうぞ。よろしくお願い致します。

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