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021性技の所在



 身体強化を施したカインの体は強い魔力を帯びていた。


 そんなカインを見て、ファライヤとミーアは呆れ顔でジト目を向けている。


 二人がどうしてそのような反応を示しているかはわからない。


 カインは言われた通りに身体強化の魔術を行い、それを成功させたに過ぎないのだから。


 ファライヤが溜め息を吐いた。


「……カイン。そのままかかって来なさい」


 右手を前に出してコイコイと挑発するファライヤに対して、僅かに眉を顰めるカイン。

 だが、直ぐに言われた通り構え、素手でファライヤに向かって駆けた。


 今までとは比較にならない動き。傍らで見ていたミーアは、自分では反応できない。そう思った。


 しかし、今まで以上の動き見せるカインに対しても、ファライヤは一切動じることなく対処した。

 繰り出された拳を最小限の動きで躱し、合わせるように腹部へ掌底のカウンターを放つ。

 ズシリと地を揺らす低い音が鳴ると、一拍の間を置いてカインの体が宙を舞った。


「がぁはっ」


 呻き声と共に吹き飛ばされたカインの体は、木々を三本へし折り、四本目の大木に受け止められて、ようやくその動きを止めた。


 間を置いて、へし折られた木々がメキメキと音を立てて地に倒れる。


 あわわわするミーアとは違い、ファライヤは掻いてもいない汗を拭う仕草をすると、実に満足そうな表情でふぅと息を漏らした。


「ななな、なにやってるんですか! 死んじゃいますよ!」


 大慌てのミーアに、ファライヤは顎をしゃくる。

 ばっと視線を向けると、そこには立ち上がって若干怒り気味の表情をしたカインがいた。


「てめ、ちょっとは加減しやがれ! 死ぬかと思ったわ!」


「アホね。死んでいないのだから問題ないでしょう」


「問題あるわ! 過程を無視すんな!」


 とそこで、騒いでいるカインたちの許へガチャガチャと音を立てて、商隊に雇われた冒険者数名が慌ただしくやって来た。


「どうした!? 何があった!」


 険しい表情の男たち。

 野営地の直ぐ近くで、突然地を揺らすような轟音が響いて来たのだ。警戒するのも当然だ。


 だが、緊張感のある冒険者たちに対して、ファライヤが緊張感のない様子で言葉を発した。


「あら、ごめんなさい。そこの男に手解きをしていただけだから気にしないでいいわ」


 ファライヤが妖艶に笑うと、冒険者の男は僅かに赤面した。そして、カインの方へと視線を移すと、直ぐに表情を青くさせた。


 無残にもなぎ倒された木々の前にやや怒り気味に立つ男。その男の後方では、幹を大きくへこませた大木があった。


 その光景だけで、今この場で何があったのかを察するには容易なことではあった。


「……あんたがやったのか?」


「そうよ。騒いでしまって悪かったわ。以後気を付けるから気にしないでちょうだい」


 恐る恐る聞いた言葉に、ファライヤが何でもないような気やすい返答を返して来た。


 騒いだぐらいでこんなことになるか!


 そう思った冒険者ではあったが、ニマニマと妖しく笑うファライヤを前に、喉元まで出掛かった言葉をぐっと飲み込んだ。そして、そうか。と一言いうと早々にその場から去っていった。


 冒険者の判断は正しい。


 全力を持ってすればその冒険者とて、木々の数本を薙ぎ倒すことは可能だろう。


 だが、訓練の為に行う組手でそこまでする者はそうはいない。

 常識的に考えればそうではるが、妖艶に笑うあの女は珍しくもないというように、当然のごとく振舞っていたのだ。


 つまり、あの女は頭がおかしい。


 冒険者はそう結論付けて、早々に関わるのをやめたのだった。


 そんな騒動を起こしている中。


 マリアンは何も気にすることなく話を続けていた。

 マリアンの話をうんうんと素直に聞いているアーマードとジェド。この二人もファライヤたちの方へ視線を向けることもなく、ニコやかに相槌を打っている。


 三者三様ではあったが、彼等が内心に思うことは一つであった。


 関わりたくない。


 そう思い、三人は何事もなかったように会話を続けるのであった。



「カイン。まず、あなたの間違いについてだけれど」


 打たれた腹部をさすりながら、腰を落ち着けたカインに対してファライヤが言った。


「その前になんで俺はお前に吹き飛ばされたのかを説明しろ! つか先ず謝れ!」


「アホね。訓練中の出来事に対して一々謝罪を求める者がいるのかしら? お遊戯ではないのよ」


「事故なら俺も突っかからねえよ! お前の場合は明らかに楽しんでやってるだろうが!」


「人聞きの悪いことを言うのね」


「惚けるな! 俺を殴り飛ばした後の満足そうな顔! 明らかにわざとやっただろうが!」


 そう言われて、ファライヤは感心したような表情をみせる。


 両腕を組んで胸元を寄せるようにすると、ペロリと舌なめずりをして妖しい視線を這わした。


「あの状況で良く見ていたわね。感心したわ。合格よ。花丸をあげましょう」


「あたかも試したのよ。みたいに内容をすり替えるんじゃねえ!」


「本当に小さい男ね。英雄になりたい男が細かいことをクドクドと」


「お前の悪意を見逃す器の大きさなんかいらねえよ!」


 そう言われると、ファライヤはやれやれと溜息を吐いたあと、両手を上げて降参の姿勢をみせた。


「わかったわ。私の負けよ。面白そうだから強めに殴ったことを認めるわ」


 そう言いながらも、相変わらずのニマニマ顔を止めようとしないファライヤ。


「先ずその笑い方を止めろ。反省しているようにみえねえ」


「こういう顔付きなのだから仕方ないでしょう。でもまあ、誠意をみせろというのなら……そうね。謝罪として、あなたが納得するまで私の体を好きにしていいわ」


 なに! と内心で強く興味を引かれたカインではあったが、感情に流される前に強く自制した。


 相手はファライヤである。

 豊満で引き締まった身体つきは非常に魅惑的ではあるが、手を出そうものなら今後なにを言われ、されるかわかったものではない。


 相手が許可を出したからといって、容易に食い付いていい話ではないのである。


「訓練中に因縁を付けて女を手篭めにする後の大英雄。……ふむ、なるほど。これは中々悪くないわね。さあ、思う存分抱きなさい!」


 なにやら自己完結して、胸を反らしながら仁王立ちするファライヤに対して、カインはジト目を向けた。


「あら、どうしたの? 怖気付いてしまったのかしら?」


「いや、もういい。お前になにを言っても無駄だと言うことにようやく気が付いた。さっさと話の続きをしてくれ」


 呆れ顔でそう言うと、ファライヤは口元へ指を当てて思案する。


「なるほど。マリアンの言っていた言葉は正しかったというわけね。カインはやはりホ――」


「ちげぇよ!」


「あらあら、ムキになるところが怪しいわね。と言うよりも、そもそも女の誘いに乗れないような根性無しの童貞野郎に、英雄なんてものが務まるのかしら?」


 この女言わせておけば。カインは青筋を立ててそう思った。


 ファライヤの挑発に乗る必要などない。

 この女の思惑は底が知れないし、思わぬ罠を仕掛けている可能性も否めない。

 危険を犯してまで手を出す必要などないのだが、ここまで挑発されて黙っていることもできなかった。


 決して勢いと怒りに任せて、心の中に燻る興味と下心を満たそうとしたわけではない!

 男の子は売られた喧嘩は買わないと廃れてしまうと誰かが言っていたのだ。

 それだけなのだ!


「上等だ! やってやるよ。白目剥かせてやるから覚悟しろよ!」


「あら、それは楽しみね」


 うっとりとした表情を浮かべるファライヤの手を引いて、人目のない場所へと連れて行こうとした時、ミーアが待ったを掛けた。


「ちょちょちょ、待ってください! カインさん。簡単に挑発に乗らないで下さい!」


 カインの腰に抱きつくようにして、カインの行動を止めようとするミーア。そんなミーアをズルズルと引きずるようにしてカインは歩き出す。


「止めるなミーア。男にはやらなきゃならない時があるんだ!」


「カッコ良く言ってますけど、ただエッチなことがしたいだけですよね!」


「違う! これは男の矜持を掛けた聖戦だ!」


「性戦の間違いじゃないですか!」


 何を馬鹿なことを! そう思ってカインは立ち止まると、キッとミーアを睨みつけた。

 そして、カインに手を引かれたファライヤが徐に言葉を発する。


「ミーア。何故あなたが突っかかって来るのかしら? もしかして、あなたがカインの相手をしたかったのかしら?」


 不意打ちのように言われた言葉にミーアの顔がみるみる赤く染まっていった。


「ななな、何言ってるんですか! 私はファライヤさんと違ってしっかりと貞操観念を持ってますよ!」


「嫌ね。私が誰にでも身体を許す軽い女だと思っているのかしら? 彼を誘うのにはちゃんと理由があるのよ」


 え? とミーアが硬直した。


 本日までの流れでファライヤが無茶なことを言い出す時は、必ずと言っていいほどスキルの取得に関わっていた。

 ということならば、その理由とやらもスキルに関係している可能性が高い。


 まさか。あるというのか。『性技』に関わるスキルが。


 そう考えミーアは戦慄した。


 ファライヤは判明している二百十一ものスキルを全て取得させると言っていた。

 そうなると、もし『性技』に関わるスキルがあった場合、いずれは自分もそれを取得させられる恐れがある。

 今までの傾向から言っても、ファライヤはミーアが嫌がったとしても強引な手法を用いてくるのだろう。


 強制的。問答無用。そして無慈悲。


 ミーアはファライヤによって無理矢理乙女を散らされる様を想像してブルリと身を震わせた。


「そそそ、そんなスキルはダメです! 必要ありません!」


 慌てるミーアの姿を見て、ファライヤがクスクスと笑い声を漏らした。


「可愛いわね。今すぐ茂みに連れ込んで苛めたくなってしまうわ」


「私は女ですよ!」


「私はどちらでもいけるわ」


 ひう。と声を上げてミーアは顔を引攣らせた。

 そんなミーアの態度を見て、カインもハッとファライヤの意図に気が付いた。


「なるほど。性技に関係するスキルがあるのか。それならば取得しないといけないな。仕方ないな」

 

 大義名分を得たカインは一人でうんうんと頷く。


「カインさん! あなたは英雄でもなんでもありません! ただの陰獣です!」


「言い掛かりはやめてくれ。俺は少しでも強くならなくちゃいけないんだ。その為に女を抱くことが必要だというのなら、仕方ない。そうだろうファライヤ」


 カインの言葉にファライヤは何を考えているのか、うーんと唸ってみせる。


 その表情は意地の悪いニマニマ顔である。


「なんだ? あるんだろう? 差し詰め『床上手』とかなんとか言うスキルが」


 カインの言葉にファライヤはニヤリと笑うと僅かに瞑目した。

 そして、微かに間を置いてから答える。


「いいえ。ないわ」


「「ないんかーい!」」


 カインとミーアの息ピッタリのツッコミが炸裂した。


 二人の様子にクスクスと笑いを漏らすファライヤ。


「じゃあ、なんなんですか! カインさんを挑発してまで誘惑する理由は!」


「え? だってその方が面白そうじゃない」


 あっけらかんと言われた台詞に、カインとミーアは疲れ切った顔になって、どんよりと沈んだ。

……好き勝手にキャラを動かしていると、話が進まないことに気が付いた今日この頃。

まあ、いっか。文字数制限ないわけだし。

読んで頂き、ありがとう御座います。

次話、明日投稿予定。

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