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020不得手な術式

遅くなりました。

他の作者様の作品を読みふけっていたら、時間が過ぎていました。

面白い作品も多いですよね(反省はしていない)

「……まあ、こんなものでしょう」


 商隊の馬車に同乗して四日目。


 チクチクと裁縫に勤しんでいたカインは、ファライヤからようやく合格を貰うことができた。


 未だに合格を貰えていないのは、巨大な体躯を小さく丸め、ゴーレムのように無表情で機械的にチクチクしているアーマードただ一人だった。

 ジェドとミーアに関しては既に、『彫刻』のスキルを獲得する為、カリカリと木材を削っている。


 狭い馬車の中で、木屑が舞うのが少々鬱陶しい。


「ファライヤ。スキル獲得における判断基準がわからないのだが?」


「そんなの私にもわからないわよ」


「なら、お前の合格基準はどうやって決めているんだ」


「そうね。気分かしら」


「…………」


「……冗談よ。ノリが悪いわね。判断基準は、明確に上達したと判るところに設けているわ。ただ、その基準がスキルレベル一なのか、それとも二なのか。はたまたそれ以上なのかは判断出来ないわね」


「ここまでやる必要はないかもしれないと?」


「そうね。スキルレベル一で良いのならば、もっと早く見切りを付けても良いかもしれないわね」


「スキルを百個、スキルレベル一で獲得する方が早くないか?」


「正確にスキルを獲得したことがわかれば、その方が良いのでしょうね。けれど、私たちにはそれがわからないのよ? スキルレベル二を基準で考えておけば、レベル二に至らなかったスキルもあれば、レベル三に到達しているスキルもあり、過不足を補って平均的にレベル二になると考えているのよ」


「基準値が曖昧だと、狙った平均が出せないだろう」


「そこは私の経験から来る匙加減かしら。あら。そう考えると私の気分次第というのも、あながち間違いではないみたいね」


 そう言って、ファライヤが楽しそうにニマニマと笑みを漏らす。


「普通は、どの程度なんだ?」


 スキルを幾つ獲得しているのが一般的なのか? そう思い至り、思わず口から出た言葉は曖昧な言い方であった。


 けれどファライヤは、カインの言わんとしている内容を正確に読み取り的確な解答を述べる。


「人それぞれという答えが正しいのだけれど、そうね。農夫や商人など一般的な職に付いている者で、スキルの個数は七から十。スキルレベルの合計値は十五から二十。兵士になると十から十五。合計値は三十前後。冒険者はもう少し高いかしら」


「……そうか」


「カイン。心配しなくても私の見立てでは、あなたのスキルレベルは五十を超えているわ。二十五個ほどスキルを獲得できれば百に届く想定よ」


「それでも先は思いやられるな」


 そう言ってカインは苦い顔をした。


 僅か四日ではあるが、現在ファライヤから合格を貰えたスキルは一つである。それをあと二十四も取得しなければならないことに辟易してくる。


 強くなる為にやらなくてはならないことはカインも理解している。

 しかし、スキルという未だ曖昧な存在。その効果のほどが後二十四もの苦行を越えなければ実感出来ないとなると、中々に厳しいものがあった。


 せめて何かしらの実感があれば。


 そう考えながらもカインはファライヤに渡された角材を手に取り、黙々と作業に没頭するのであった。





 日課となりつつあった夜狩りを終え、本日の獲物で腹を満たした一同が一時の休息を得ている中。


 カインはファライヤに向かって剣戟を繰り出していた。


 ギンという金属の弾ける音がリズムを刻むように周囲へと響き渡る。


 焚火を囲んで好き勝手に話を聞かせているマリアンから少し離れた場所。

 薄く影が差すその場所では、燭台に灯された明かりが小さく明滅を繰り返していた。


 僅かな明かりを頼りに、影に沈みそうなほど存在感を消したファライヤに向かって、幾度となく細剣を振るうカイン。


 その様子をミーアだけは膝を抱えて静かに眺めていた。


 カインの放つ一撃がファライヤの短刀に再び弾かれた際、ファライヤが声を上げた。


「不思議ね。カイン」


「……何がだ」


 息一つ乱していないファライヤとは違い、カインは肩で息をしながら答える。


 これも日課となりつつある立合いだが、やればやるほどカインとファライヤの力量差が浮き彫りになり、半ばムキになるようにカインは連日挑むようになっていった。


「あなたの技量がよ。型がめちゃくちゃで動きが読み難いのよ」


「その割に一撃も入れられないんだが?」


「型がめちゃくちゃだから、技として不完全な所為でしょうね。つまり下手くそということよ」


「お前に言われると無性に腹が立つんだが!」


「別に小馬鹿にしているわけではないわ。下手くそではあるけれど、相手の隙を誘う動きとしては悪くはないの。けれど、非常に効率が悪い。なのに一つの動作として成り立っている」


「つまり何が言いたいんだ?」


「無理な動きで一定の効果を生み出す為には、それなりの基礎値―――ステータスが必要になるわ。あなたの動きを支えているのは、ステータスの高さ。それも満遍なく高い基礎があってこそね」


「だから何が言いたいんだ!」


「カイン。あなた能力は魔力以外が一般的な値よりも遥かに高いのではないかしら? けれど、肝心の魔力が低い所為で決め手になるような技に至らないのでしょう」


 ファライヤの指摘にカインは眉を顰めた。


 ファライヤの言う通りであった。


 カインはこれまでに多くの技術を学ぼうと努力して来た。剣術を高みへと昇華させる為に、イセリアという剣士に弟子入りもした。


 しかし、カインには才能がなかったのである。


 カインが習って来た技術は、最終的に魔力を必要とする技へと至る。


 だが、その魔力を使用した技をカインは何一つ覚えることができなかった。


 自分のことをそれなりに器用な人間だとは思っていた。なにかをやれば常にそれなりの結果が付いてきた。それでも、魔力だけはダメだった。


 魔力を用いたものは、その殆どを苦手としていた。


 だから、魔晶石などのアイテムを用いてその苦手とする部分を補って来たのだ。


「型がめちゃくちゃなのは、師が悪かったのだろうな。そもそも、そいつの剣術にある型は、技にまで昇華された七つの型だけだ」


「その七つの型をあなたは全て扱えるのかしら?」


「いや、俺が使えるのはニノ型と四ノ型だけだ。しかも、この武器に頼り切った形だから、実質扱えるものはない」


「ローレンたちに対して扱っていたのが型の一つかしら?」


「そうだ」


 カインは頷く。


 その答えにファライヤは口元に指をあててなにやら思案するよう目を細めた。


「あなたの師は、あの技を魔術を用いずに使用することができるのかしら?」


「……? そうだが?」


 その答えを聞いてファライヤが納得するような表情を見せた。


「なるほど。大した師に巡り会えたようね」


「なにに納得したのかは知らないが、あいつはめちゃくちゃな奴だったぞ。少なくとも人格は破綻している」


「人柄についてはわからないけれど、あの技に関しては評価できるわ。それと、器用そうなあなたが型を習得できなかった訳にも納得がいったわ」


「どういう意味だ」


「魔術を行使せずに、剣に風を纏わせる技術。それは既に魔法の領域に達しているわ」


「―――! 俺の師が魔法を扱っていたというのか!?」


「さて、それはわからないわ。同等の現象を引き起こす為に、いくつかの方法が考えられるもの。あなたの持つ、レイピアに施された細工もその一つよ」


 カインは自分の手にしたレイピアをまじまじと見つめる。


「それはそうとカイン。あなたは何故身体強化の魔術を使用しないのかしら? 現時点でも身体強化を行えば、それなりに闘えるようになると思うのだけれど」


「使用する為には、発動するまでの時間も魔力も掛かり過ぎるだろうが。事前に準備してなくてはとてもじゃないが使用できない」


 その言葉を聞いて、ファライヤとミーアは疑問符を浮かべた。


「身体強化を自身に施すのに、時間も魔力量もそんなに掛かりませんよ?」


 ミーアの答えに今度はカインが疑問符を浮かべた。


「そんなことはないぞ。いや、というよりも一般的な時間よりも俺は掛かってしまうから使わないんだ」


 それほど難しいことでしょうか? とミーアは小首を傾げた。


「カイン。やはりあなたの見識はおかしいわ。一般的にもなにも、強化系魔術は実戦で扱える唯一無二の魔術よ。時間も掛からず、魔力消費も大きくない優れた技術なの」


「……そうなのか」


「そうよ。あなたは師に身体強化の魔術について教わらなかったのかしら?」


「……いや。教わった。だから、それが出来なくて困っていたのだが……」


 カインがそう言うと、ファライヤは大きなため息を吐いた。


「それでは、師に呆れられたでしょうに」


「いや、アイツは腹を抱えて笑ってただけだ。出来るようになるまで頑張れだとさ」


「なるほど。変わった人ね。まあ、いいわ。とりあえず何が悪いか見てあげるから使ってみなさい」


「俺は、お前の所為で一日を通して魔力切れの状態なのだが?」


「いいからやりなさい」


 ピシャリと言い放たれたファライヤの言葉に、カインは渋々ながらも従った。


 理不尽な内容が多いものの、ファライヤの言葉は意味あることが多い。短い付き合いながらもカインはそれを感じており、こと闘いに関しては無意識にもその言葉が正しいと思えてくる。


 手にしていたレイピアを鞘に戻し、気怠い身体に鞭を打って、カインは身体強化の魔術を行う為の詠唱に入った。


 魔術を使用する際、行使する現象を引き起こす為の術式―――魔方陣を正確に思い浮かべる必要性がある。


 その思い浮かべた魔方陣を空間に自身の魔力を用いて描き、完成した魔方陣に魔力を注ぐことで現象を引き起こす。


 この工程さえ覚え、空間に魔方陣を描く術さえ持っていれば魔術は誰にでも使用出来る。


 描く魔方陣によって、描く時間も消費する魔力量も変わる為、それなりの魔力総量と記憶力を有していないと使用することは難しいが。


 では、一般的な魔術士と呼ばれる者たちとそうでない者たちでは何が違うのかというと。


 それは術式の理解度という部分が大きいだろう。


 魔術は術式を描くことにより行使でき、その術式には当然のことではあるが意味がある。


 術式を深く理解し、不要なものを省き、威力を上げ、より効率的な内容に作り変えることを生業とする者たち。これが魔術士の本質なのである。


 実戦で使用出来る様にと独自の術式を編み出し、研鑽を重ねることにより、唯一無二の魔術を手にして初めて一人前と呼ばれる職業なのである。


 カインは残りカスとなった自身の魔力を掻き集め、頭の中に何度も刷り込んだ魔方陣を思い浮かべた。


 空間に描く魔方陣と行使する為の現象を強く想像し、捻り出した魔力を全て注ぎ込む。


 すると、空間に電撃の様に魔力が走り、一つの魔方陣が浮かび上がった。

 そして、その魔方陣は僅かに淡い光を放った直後、溶ける様に消えていった。


「あれ? あー、やっぱり魔力が足りなかったか」


 気怠い気分を振り払う様に軽い口調でカインが言った。


「………………」

「………………」


 しかし、ファライヤとミーアは無言だった。


 ふむ。と顎に手をやってなにやら考え込むように黙っているファライヤと、あわわわしながら目を白黒させているミーア。


 そんな二人の沈黙に、なんだか座りが悪くなってくる。


「……なんだよ」


 沈黙に耐えきれなくなったカインは、僅かな反抗をしてみた。


 そして、二人はズビシとカインを指差し言った。


「「おかしい!」」


 同時に指摘されてカインはうっと呻いてたじろいだ。


「カインさん! なんで身体強化の魔術なのに、魔方陣が浮かび上がるんですか!」


「はあ? 魔術なんだから魔方陣は必須だろう」


「そうですが、カインさんは今まで身体強化を目の前で扱われたことがないんですか!?」


「先日、お前がローレンとジェドに使っていただろう」


「あれは他者に付与する術式で、しかもパーティー全体に行う『全』の魔術ですよ。自身に付与する時とは違います。普通自分に付与を行う場合は、魔方陣は浮かび上がりませんよ!」


「それは知っている。肉体の内側に術式を構築するから、魔方陣は表に出て来ないのだろう? わかっているのだが、どうも表に出てきてしまうんだ」


 いや、それでも。そう言い掛けたミーアを制して、ファライヤが口を開いた。


「カイン。あなたのそのやり方で、身体強化は成功するのかしら?」


「一応はする。魔力の殆どを持って行かれるがな」


「では、もう一度やってみなさい」


 そう言ってファライヤは胸元の皮袋から、青色のポーションを取り出してカインへと渡した。


 青色のポーションは魔力を回復させる為の貴重なポーションである。なにかと魔力の需要が高いこの世界では、魔力の売買はそれなりに行われている。

 魔晶石に込めた魔力をそのまま売り買いするのだが、魔晶石に込められた魔力をそのまま自身に還元することはできない。


 その魔力を肉体に取り込める様に精製されたのが、青色のポーションであり、市場でも金貨一枚以上の値段がするのである。


 そんな貴重なポーションを使ってまで、カインに身体強化を行わせようとするファライヤの意図が今一理解出来ない。

 カインは訝しんでポーションを見るが、ファライヤの早く飲めという視線を受けて覚悟を決める。


 ポーションを一気に煽ると身体に魔力が満ち始め、身体の倦怠感が和らいでいった。


 身体の調子が戻ったことを確認すると、カインは再び詠唱の体勢に入った。


 先程と同様に魔方陣を正確に想像し、魔力を注ぎ込む。


 今度は上手くいった。そう確信出来る手応えを感じ、カインは手をかざす。


 すると、電撃のような魔力をほとばしらせた魔方陣が出現し、先程とは違い強い光を発してから弾けるように霧散した。


 霧散した光がカインへと降り注ぎ、カインは己の肉体から力が漲るのを感じた。

次話、明日投稿予定。

少し直したい箇所が今更出て来たので、修正が間に合わなければ明後日になります。

読んで頂き、ありがとう御座います。

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